令和6年4月からの税務調査は、税務代理権限証書の様式変更で何が変わる?

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
税務調査は、多くの中小企業や個人事業主にとって避けて通れない重要なイベントです。
とりわけ、令和6年4月から税務代理権限証書の様式が変更され、税務調査における手続きにも大きな変化が生じます。
これらの変更内容を理解し、税理士と連携した適切な体制を構築しておくことは、企業経営において大きなメリットをもたらします。
本記事では、税務調査の新制度についての概要や実務上の注意点、そして経営者に求められる具体的な対応策について、分かりやすく解説していきます。
税務代理権限証書とは何か
まず、税務代理権限証書の基礎知識を整理しましょう。
税務代理権限証書は、税理士が納税者に代わって税務署の調査官に対して主張や陳述を行う「代理権」を持っていることを証明する書面のことです。
税理士が納税者の代理人として調査立会いを行う際、税理士法によって提出が義務付けられています。
これは、税務調査で税理士が「納税者の代わりに受け答えをする」ための正式な証明書類となり、調査時の手続きをスムーズに進める役割を果たします。
税務代理権限証書がない場合、税理士は正式な代理権を証明できません。
その結果、調査官とのやり取りが納税者本人に直接行われ、経営者自身の負担が大きくなる恐れがあります。
経営者にとっては、税務代理権限証書を適切に整備し、税理士が正式に代理を行える状態にしておくことが重要です。
令和6年4月からの主要な変更点
令和6年4月からは、税務調査に関わる手続きがより簡素化・効率化されます。
ここでは、3つの大きな変更ポイントを解説します。
いずれのポイントも、経営者と税理士の双方にとってメリットがあるものですので、事前にしっかり把握しておきましょう。
1. 調査手続きの簡素化
これまでは、税務調査の「事前通知」を税理士が受け取ることについて、納税者の同意が必要でした。
しかし、新制度ではこれに加え、調査結果の説明も税理士が受け取れるようになります。
従来なら別途同意書を提出しなければならなかったため、経営者と税理士の間で書類作成や提出の手間がかかっていました。
新制度の導入により、
- 事前通知と調査結果の説明の両方を、税理士が一括して受領できる
- 納税者本人の手間が減少し、税理士による対応がスムーズになる
といった効果が期待できます。
したがって、経営者の皆様は「必要な書類がすべて税理士に届く」体制を整えることができ、調査対応の見落としや遅延を防ぐことに繋がります。
2. 書類の直接受領が可能に
新制度では、更正通知書や加算税の賦課決定通知書など、これまで納税者本人にしか送達できなかった重要書類を、税理士が直接受領できるようになります。
これにより、
- 重要な通知を経営者が不在の場合でもタイムリーに受け取れる
- 税理士が内容を即時に確認し、必要な対応をスピーディーに行える
といった利便性の向上が見込まれます。
とくに中小企業の経営者は日々の業務が多忙で、税務署からの通知を受け取るタイミングが遅れがちになることもあります。
書類を税理士が直接受領できることで、連絡ミスや対応の遅れによるトラブルを防止できる点は大きなメリットです。
3. 委任状の統合
さらに、新制度では、申告書の閲覧や納税証明書の発行など、これまで別個の委任状が必要だった手続きについても、税務代理権限証書で一括して対応できるようになります。
具体的には、
- 従来、複数の役所手続きごとに個別の委任状を用意していた
- 新制度では税務代理権限証書に包括的な権限を記載できる
という点が変わります。
手続きを一元化することで、
- 行政機関との手続きが簡略化され、事務作業の負担が軽減
- 複数手続きの同時進行が容易になり、時間的コストの削減
といった実務上のメリットが生まれます。
経営者にとっては、税理士に依頼する範囲を包括的に設定しやすくなり、今後の税務関連手続きがよりスムーズになります。
税務代理の法的根拠と意義
税理士法第2条第一号では、税理士による税務調査対応(税務代理)を次のように定義しています。
「当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること」
ここでいう「代理」とは、納税者本人に代わって主張や説明を行い、税務官公署(税務署など)との折衝を行うことを指します。
税理士が正式に代理権を持つことで、経営者は専門家の知見を活用しながら税務調査に対応できるため、以下のような利点があります。
- 間違った回答や不利な陳述を回避できる
- 税務調査の手続きをスムーズに進められる
- 税法や会計の専門知識をフル活用して、合法的・合理的な対策が可能となる
税務調査において経営者自身が誤った認識をもって回答してしまうと、余計な追徴税やペナルティが発生するリスクが高まります。
そのため、税理士と顧問契約を結び、税務代理権限証書をきちんと準備しておくことは非常に重要です。
経営者が知っておくべき実務上の注意点
税務調査において、税務署の調査官から経営者へ直接連絡が入ることがあります。
これは手続き違反ではありませんが、適切な対応が求められます。
以下では、具体的な対応方法とそのメリットについて解説します。
1. 直接連絡を受けた際の基本的な対応
調査官から連絡があった場合は、「すべて税理士に任せているので、今後のやり取りは税理士を通じてお願いします」と明確に伝えることが重要です。
この対応により、税務代理の仕組みを効果的に活用でき、調査がスムーズに進行します。
2. 税理士を通じた対応のメリット
- 専門知識に基づく適切な回答が可能になります
- 経営者の誤った回答や不用意な署名のリスクを防げます
- 調査内容や書類の授受を一元管理できます
- 税務上の見落としや勘違いを防止できます
- 経営者の時間的・心理的負担を軽減できます
3. 社内での準備と心構え
調査官からの直接連絡に備え、社内であらかじめ対応手順を共有しておくことが大切です。
「担当税理士におつなぎします」という基本的な応対を決めておけば、突然の問い合わせにも慌てることなく対応できます。
税務調査は企業経営における重要な局面であり、専門家である税理士との連携が不可欠です。
日頃から税理士とのコミュニケーションを密にし、明確な役割分担を決めておくことで、スムーズな調査対応が可能となります。
新設された顧問契約終了時の通知制度
今回の制度改正で注目すべき点の一つとして、顧問契約終了時の通知制度が新設されたことが挙げられます。
これは、税理士と顧問契約を結んでいた企業が、その契約を終了した場合に提出する通知書のことです。
この通知書を提出することにより、税務署は「すでにその税理士が顧問契約を終了している」事実を把握できるようになります。
その結果、
- 関与を終了した税理士に対して税務署から連絡がいくことを防止
- 納税者と連絡が必要な場合、税務署が直接納税者に照会できるようになる
- 契約終了後の責任範囲を明確化できる
といったメリットが得られます。
税理士側としても、顧問契約が切れているのに誤って問い合わせを受けるなどのトラブルを防ぎやすくなるため、管理上の負担が軽減されると期待されています。
経営者としての対応方針
令和6年4月からの税務調査制度の改正は、経営者や税理士にとって大きな転換点となります。
調査手続きの簡素化や重要書類の直接受領など、納税者の利便性や事務効率が大幅に向上する一方で、
税務署と税理士・納税者の関係がより明確化されることから、今後の対応には事前準備と正しい理解が求められます。
経営者が特に注意すべきポイント
以下では、今後の税務調査対策に向けて経営者の皆様が押さえておきたいポイントを、あらためて整理します。
これらの項目を踏まえ、社内で税理士との連携体制を整えておきましょう。
- 税理士との密接なコミュニケーション維持
新制度で手続きが簡素化されるからといって、すべてが自動的に進むわけではありません。税理士と常に情報共有を行い、最新の制度変更や手続きの流れを把握することが大切です。 - 調査官から直接連絡があった場合の対応方法を明確にする
万が一、税務署から会社や経営者個人宛に直接連絡が来ても、慌てず「税理士に連絡をお願いします」と伝えられるよう、社内マニュアルなどを整備しておくと安心です。従業員にも周知しておくと、突然の連絡にもスムーズに対処できます。 - 税務代理権限証書の内容と範囲の確認
税務代理権限証書には、税理士がどの範囲まで代理権を行使できるのかが明記されます。令和6年4月以降は、より広範囲の権限を包括的に記載できるようになるため、経営者としてどこまで委任するのかを事前に税理士と話し合いましょう。 - 顧問契約終了時の通知制度への対応
税理士を変更する場合や顧問契約を終了する場合、税理士との間で通知書の取り扱いをしっかり確認しておくことが大切です。税務署側にも正確に契約終了を伝えておくことで、不要な問い合わせや書類送付を避けることができます。
これらの注意点を踏まえることで、新制度のもとでも安心して税務調査に臨むことができるでしょう。
おわりに
税務調査は、企業経営の中でも非常に重要かつ繊細なテーマです。
令和6年4月からの税務代理権限証書の様式変更や調査手続きの見直しは、納税者にとってメリットが大きい一方、改正内容を十分に理解しないまま臨むとトラブルを招きかねません。
しかしながら、専門知識を持つ税理士と二人三脚で準備を進めることで、税務調査への不安やリスクを大幅に低減できます。
新設の通知制度や手続きの簡素化を活用しながら、効率的に税務対応を行うためにも、ぜひこの機会に自社の税務調査対策や税理士との連携体制を見直してみてください。
企業の信頼性や財務状況の透明性を高め、長期的な経営の安定を図るためにも、税務調査への正しい理解と万全の備えを整えることが不可欠です。
新制度の内容を踏まえて、今後の税務関連業務をよりスムーズに、そして安心して進めることができるように、ぜひ本記事を参考にしていただければ幸いです。