円滑な事業承継のための経営者保証解除の実践ポイント

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
事業承継は、中小企業の経営者にとって避けては通れない非常に重要な課題です。
特に、前経営者の連帯保証をいかにスムーズに解除できるかは、事業承継後の新経営体制を円滑にスタートさせるためのカギを握るといえます。
本記事では、事業承継時の経営者保証解除に向けて押さえておきたい実践的なポイントを、次の4つに絞って詳しく解説します。
事業承継の際にどのような準備や対策が求められるのか、ぜひ参考にしてみてください。
所有と経営の分離の重要性
まず、事業承継を進める際に欠かせないのが、所有と経営の分離です。
これは、オーナー企業特有の「経営者個人の資産と会社の資産が混在している状態」を解消し、新たにバトンを受け取る経営者が会社を主導できる体制を確保するために重要なポイントとなります。
オーナー企業の中には、旧経営者が個人で保有していた資産が会社の資産と曖昧に扱われているケースや、個人と会社の資金管理が一体化しているケースがよく見られます。
しかし、次の世代へ事業を引き継ぐときには、旧経営者個人の財産と会社の財産を明確に区分し、新経営者が主体的に経営を行える環境を作り上げることが欠かせません。
所有と経営が明確に分離されることで、債権者や取引先にも「会社が独立して存続しうる体制」にあると示せるようになるのです。
所有と経営の分離を進めるにあたっては、以下のような点を確認するとスムーズでしょう。
- 旧経営者が一株でも株式を保有し続けないこと
旧経営者が株式を一部でも保有し続けていると、実質的に経営に影響力を残すとみなされがちです。
そのため、新経営者が株式を集中保有できる形に整え、旧経営者には株式を残さないよう注意することが大切です。 - 代表権の明確な移転
法人登記上の代表取締役をはじめ、銀行取引の署名権や各種契約の権限など、新経営者が実質的に権限を行使できる状態に速やかに移行しましょう。
ここが曖昧だと、金融機関の判断材料として「旧経営者が事業を支配しているのではないか」と疑念を抱かれる可能性があります。 - 新経営者への株式の集中
経営者保証を解除してもらうためには、新経営者が実質的に会社をコントロールしていると証明できる体制を作ることが重要です。
株式を分散していると、誰が経営権を握っているのかが不透明になりかねません。
これらのポイントを押さえることで、新経営体制の自律性を担保しやすくなり、金融機関や債権者からも「後継者が責任を持って経営していく意思と能力がある」とみなされやすくなります。
経理体制の明確化
次に、オーナー企業に多く見られるのが「会社の経理」と「経営者の個人会計」が一体化してしまっている状況です。
例えば、家族の生活費や個人の趣味にかかる経費を会社口座で支払っていたり、逆に会社の運転資金が足りなくなると、経営者の個人口座から随時資金を投入しているようなケースがこれに当たります。
事業承継を機に経営者保証を解除するためには、会社の会計と個人の会計をきっちり区分し、「会社は会社」「個人は個人」として資金管理を行うことが必須です。
これを実践することで、会社の財務状況を正しく示せるだけでなく、金融機関に対しても「財務の透明性が保たれている」ことを客観的にアピールできます。
経理体制の明確化に向けては、以下のような取り組みを進めると効果的です。
- 月次決算の実施
毎月の売上・経費・利益などを正確に把握することで、会社の財務状況を常に鮮度の高い情報として管理できます。
これにより、金融機関とのやり取りにおいても「リアルタイムで会社の収益状況を報告できる体制」がアピールポイントとなります。 - 資金繰り表の作成
月々の入出金予定を一覧化し、資金が不足するタイミングや余裕がある時期などを明確にすることで、経営計画を立てやすくなります。
資金繰り表を金融機関に提出することで、将来の見通しや返済計画の根拠を示すことも可能です。 - 社長借入金の解消
オーナー企業では、経営が苦しくなったときに経営者が私財を投入し、そのまま社長借入金として残っているケースが少なくありません。
これは会社と経営者の資金が混同されている証拠でもあるため、可能な限り早期に解消するか、借入金の正式な返済計画を立てるなどして整理を進めることが望ましいです。
このような取り組みにより、会社の財務状況がクリアになるだけでなく、現場レベルでも数字に基づいた経営判断が可能になります。
その結果、新経営者の指導力を示しやすくなり、金融機関に対しても「経営管理がしっかりできている企業」として評価を高められるでしょう。
財務情報の定期的な開示
事業承継の前後を通じて、金融機関やその他の債権者と良好な関係を築くために重要なのが、財務情報の定期的な開示です。
財務諸表(決算書)や資金繰り表を定期的に提出するとともに、目標に対する業績の進捗などを報告することで、企業としての信頼感を高められます。
金融機関は、融資先である企業の情報を常に把握したいと考えています。
特に、事業承継期の企業は組織体制の変化が大きいため、「後継者がきちんと経営を管理し、将来にわたって返済能力を確保できるか」を注視しているものです。
そのタイミングで経営者保証の解除を申し出るのであれば、なおさら日頃から財務情報をオープンにしておく姿勢が大切になります。
財務情報の開示をスムーズに行うためには、以下の点を意識するとよいでしょう。
- 決算書の定期的な提出(少なくとも年1回)
事業年度が終わったら速やかに決算を確定させ、金融機関への提出を行います。
決算書をただ提出するだけでなく、主要な指標や変動要因などを簡単に説明すると、相手にとっても情報を受け取りやすくなります。 - 資金繰り表の月次での提出
月次ベースでキャッシュフローを管理し、その情報を開示しておくことで、金融機関は「資金不足のリスク」や「返済能力」をより正確に把握できます。
これによって信頼感が高まり、保証解除に向けた協議もしやすくなります。 - 業績の定期的な報告(目標対実績)
新経営体制として掲げた経営計画と、実際の業績の比較を定期的に行います。
どういった要因で差異が生じているのかを説明すると、企業の将来性を理解してもらいやすくなります。
これらの開示を積極的に行うことで、金融機関との対話が深まり、いざ「経営者保証の解除」を申し出る際にも、スムーズに進めやすくなるはずです。
旧経営者の関与度合い
事業承継後、旧経営者が新体制を支える形で関わり続けるケースは多く見られます。
長年培った人脈や取引先との関係、業界特有の知見などをうまく活用できれば、新経営者にとっても大きなアドバンテージとなるためです。
一方で、旧経営者の関与が過度に及んでしまうと、新経営者が実質的な決定権を持たず「旧経営者の後ろ盾に頼っているのではないか」という印象を与えかねません。
経営者保証の解除を目指すならば、新経営者が独立した意思決定を行い、会社をリードしている状況を示す必要があります。
旧経営者の関与度合いを整理するうえで、以下の点に留意するとよいでしょう。
- 旧経営者の報酬は社会通念上適切な水準に抑える
顧問的な立場で会社を支える場合は、役員報酬や顧問料などを常識的な範囲に設定しましょう。
過剰な報酬は、旧経営者が依然として強い支配力を持っていると判断される要因になりかねません。 - 会社の資産を旧経営者が賃借する場合は適正家賃とする
旧経営者が所有する不動産を引き続き事業用物件として会社が利用する場合、賃料を相場に応じた適正水準で設定することが大切です。
いわゆる“身内価格”で過度に優遇していると、会社と旧経営者の間で資産が混在しているとみなされるリスクがあります。 - 旧経営者が株式の一部を保有する場合の議決権行使
やむを得ず旧経営者が一部株式を保持する際には、議決権の行使が新経営者の方針と対立しないよう調整が必要です。
合意書などであらかじめ議決権の制限や、一定の条件で信託などを行っておく方法も検討されます。
旧経営者の持つノウハウは貴重な財産ですから、必要最小限の関わり方で新経営者をサポートする形が理想的といえます。
バトンを受け取った後継者が、自らの裁量で会社を経営していると金融機関や取引先に示すことが、経営者保証の解除を確実に進める上でも大切なポイントです。
おわりに
事業承継時の経営者保証解除は、単なる手続きの一つではなく、新体制を安定させる上でとても重要なステップです。
所有と経営の分離を徹底し、経理体制を明確化して会社の財務状況を常に“見える化”しておく。
そして、財務情報を定期的に開示することで、金融機関や債権者との信頼関係を築き、新経営者が独立して事業を営んでいる姿を示すことが求められます。
また、旧経営者との関係においては、あくまで新経営者が主体となって経営を行い、過度な旧経営者の影響力を排除することが欠かせません。
旧経営者のノウハウを活かしつつも、最終的な判断は新経営者の責任で行うという姿勢を明確にすることで、銀行からも「保証解除に値する独立性」を認めてもらいやすくなります。
事業承継のタイミングは、経営者保証の解除を図る絶好の好機でもあります。
新経営体制のスタートを盤石なものにするためにも、ここで挙げたポイントを参考にしながら、自社の状況に合わせて戦略的に取り組んでみてください。
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