決算書の作り方:損益計算書で見せる『稼ぐ力』の証明方法

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
前回の記事では、「貸借対照表」を通じて会社の「忍耐力」をいかに示すかを解説しました。
貸借対照表が企業の財務バランスや安全性(いわば“体力”や“耐久力”)を示す指標だとすれば、損益計算書は企業が本業などを通じて「どれだけ稼ぐことができるか」を示す指標です。
銀行が融資判断において「貸借対照表」だけでなく「損益計算書」にもしっかり目を配るのは、企業の将来的な返済能力を測るために、その稼ぐ力がどれほど安定しているかを確認する必要があるからです。
本記事を通じて、「損益計算書のどこを見れば、銀行に自社の稼ぐ力を示すことができるのか」を理解し、実際の経営改善につなげていただければ幸いです。
銀行が注目する3つの利益
損益計算書には、売上総利益・営業利益・経常利益・当期純利益など、複数の「利益」が登場します。その中でも銀行が重視するのは、特に次の3つです。
下記の3つはいずれも「銀行が返済可能性を判断するうえで欠かせない指標」として認識されているため、融資を受ける際にはしっかりと押さえておく必要があります。
1. 営業利益
目標値:売上高営業利益率5%以上
まず銀行が重視するのは「営業利益」です。営業利益は、本業(コアビジネス)でどれだけ稼げているかを示す最も重要な指標といえます。
もし、営業利益が安定的にプラスになっているのであれば、本業に強みがあるとみなされるため、銀行からの信用力が高まります。
逆に、ここが大きな赤字になると「本業がうまくいっていない」と判断されがちです。
私自身の経験では、「2期連続で営業利益が赤字」になると、融資の継続が難しくなるケースが多く見受けられます。
ただし、もし営業利益が赤字でも、その要因が一時的なものであり、改善が見込めると判断される場合には、銀行は柔軟に対応することもあります。
たとえば以下のような状況は、今後の収益改善の可能性を示す事例として注目されやすいものです。
- 事業拡大に伴う一時的な人件費増加
新規事業や新店舗の立ち上げなどで、一時的に人件費が増えるケースがあります。これは長期的に見れば人材投資と考えられ、将来的に収益が伸びる見込みがあると銀行もポジティブに評価します。 - 新規設備導入に伴う減価償却負担の増加
生産効率やクオリティ向上を目指して新しい設備を導入すれば、減価償却費が一時的に膨らみます。しかし、営業利益が赤字になった背景がこうした設備投資である場合は、将来の利益拡大が期待できると判断されることがあります。
このように、営業利益に赤字が出た場合でも「長期的にプラスへ転じる可能性が高い」と銀行が判断すれば、融資に関しても前向きなスタンスを維持してもらえる可能性は十分にあります。
2. 経常利益
目標値:売上高経常利益率3%以上
次に、銀行が注目する利益として「経常利益」が挙げられます。
経常利益とは、営業利益に加えて営業外収益(受取利息や受取配当金など)や営業外費用(支払利息など)を差し引いた後の利益のことです。
実際の融資判断では、経常利益が企業の借入金返済原資とみなされやすいため、銀行にとっては重要な指標となります。
銀行は、経常利益から法人税等を差し引いた金額を返済原資と見なす傾向があります。
ここが連続で赤字になっていると、いわば「お金を返す当てがない」と判断され、追加融資だけでなく既存の融資の継続にも否定的な見解を持たれる可能性が高まります。
特に「2期連続の経常利益赤字」は、返済能力に疑問符がつくため、新規融資のハードルが一気に高くなる点に注意が必要です。
3. インタレストカバレッジレシオ(営業利益÷支払利息)
目標値:3倍以上
3つめは、銀行が独自によく見る指標として「インタレストカバレッジレシオ(Interest Coverage Ratio)」があります。
これは「本業からの利益(営業利益)で支払利息をどの程度カバーできるか」を示すもので、計算式は「営業利益 ÷ 支払利息」となります。
例えば、営業利益が3,000万円、支払利息が1,000万円であれば、インタレストカバレッジレシオは3倍です。
この数字が3倍以上あると、支払利息を差し引いてもなお税金や運転資金に回せる余力があるとみなされます。
銀行としては、本業の稼ぎが金利負担を十分に上回っているかどうかがリスク管理上重要になるため、この指標をしっかりチェックしているのです。
支払利息をまかなうだけの利益力を確保していれば、返済リスクが低いと判断されますが、もしも1倍を大きく下回るような場合は「収益の大半が金利に消えている」と見なされ、融資条件は厳しくなる可能性が高まります。
業界平均を超える利益率を作るには
ここまでは、銀行が決算書のなかで特に注目する3つの利益と、それらが融資判断にどのように影響するかを解説しました。
ここからは、実際にこれらの利益率を高める、もしくは安定させるためにはどんな取り組みが考えられるか、具体的な方法を紹介します。
私の経験上、業界平均を上回る利益率を実現している企業は、「売上総利益率」「販管費」「営業外収支」を意識的にコントロールしていることが多いです。
次に挙げるポイントを確認し、自社に当てはめて改善できる部分がないか検討してみてください。
1. 売上総利益率の改善
売上総利益率は、売上高から売上原価を引いた売上総利益が、売上高に対してどれくらいの割合を占めるかを示すものです。
これは「商品やサービスの付加価値の高さ」を如実に表す指標でもあります。
銀行にとっては、売上総利益率が業界平均を上回っている企業は「強みを持っている」と判断しやすく、評価が高まります。
もし業界平均より3〜5%高い売上総利益率を確保できているなら、それは銀行との交渉において大きなアピール材料になるでしょう。
売上総利益率を改善するためには、以下のような手段が考えられます。
ただし、それぞれを一度にすべて実行するのは難しいため、自社の現状を踏まえて取捨選択することが重要です。
- 仕入先の見直しによる原価低減
仕入価格を見直すことで、売上原価を下げるアプローチです。ただし、単純に安い仕入先へ乗り換えるだけでなく、品質・納期・取引条件など総合的に検討する必要があります。 - 高付加価値商品・サービスへのシフト
低価格帯の商品を中心にしている企業は、顧客単価を引き上げる施策として、価値の高い商品ラインナップへ移行することが有効です。価格競争から脱却し、利益率を上げるカギになります。 - 差別化による値下げ競争からの脱却
自社の独自性を打ち出し、顧客のニーズを的確に捉えることで、過度な値下げ競争に巻き込まれずに済みます。結果として売上総利益率の向上につながります。
2. 販管費の適正化
「売上総利益率が高くても、販管費が過度にかかっているため、最終的な営業利益が伸びない」というケースはよくあります。
ここでのポイントは、単純なコストカットではなく、必要経費と無駄な支出を峻別することです。
経費削減だけを優先すると、投資すべきところを削ってしまい、長期的には売上や利益の伸びを阻害する恐れがあります。
販管費を適正化するためには、以下のような点をチェックしてみてください。
- 固定費と変動費の明確な区分
固定費(家賃やリース代、固定給の人件費など)は売上に関係なく一定額が発生するため、長期的な視点で十分に検討する必要があります。変動費は売上に応じて増減する費用ですが、こちらも見直しできる項目がないか確認するだけで、利益率に大きく差が出ます。 - 経費項目ごとの予実管理の徹底
予算と実績を細かく管理し、ズレを早期に把握・修正することで、無駄遣いを防げます。特に販促費や交際費など、経営者の裁量が大きい項目については注意が必要です。 - 業務効率化による人件費の適正化
人件費は中小企業の販管費の中で大きな割合を占めることが多いです。業務フローを見直したり、ITツールを導入したりすることで、同じ成果を出しつつ労力を削減できれば、人件費を適正化することにつながります。
3. 営業外収支の改善
経常利益を伸ばすには、営業利益だけでなく「営業外収益」と「営業外費用」にも目を向ける必要があります。
特に中小企業の場合、営業外費用の大半を支払利息が占めるケースが多く、ここを見直すだけでも経常利益を底上げできる可能性があります。
また、遊休資産(使っていない不動産や設備など)を活用して収益を上げる方法も検討の余地があります。
次の例は、いずれも本業以外の部分で経常利益を高める具体的な取り組みです。
- 遊休資産の活用による賃貸収入
使われていない倉庫や事務所スペースを貸し出すことで、安定的な賃貸収入を得る方法です。本業に支障がない範囲であれば、有益な資金源になります。 - 支払利息の削減(借入金の借換え)
金利が高い時期に借りたローンを、金利の低いローンへ借り換えられれば、毎月の利息負担を軽減できます。支払利息の負担が大きいほど、この効果は高くなります。 - 取引先との条件見直しによる割引料の削減
手形取引や早期支払いによる割引料が大きい場合は、取引条件を交渉し、割引率を見直せないか検討してみると良いでしょう。
まとめ:シリーズを振り返って
これまでのシリーズ記事で、銀行が決算書を読む際に実際に注目しているポイントとして、以下の点をお話ししてきました。
- 貸借対照表で見る「会社の忍耐力」
自己資本比率や借入金の状況などを確認することで、会社がどれだけ財務的な余力や耐久力を持っているかを把握する。 - 損益計算書で見る「稼ぐ力」
営業利益・経常利益・インタレストカバレッジレシオなどを通じて、本業でどれだけ稼ぐ能力があるか、返済原資は十分かを判断する。
これらの指標はいずれも「経営の結果」を数値化したものであり、日々の経営判断や施策の積み重ねが最終的に決算書に反映されます。
銀行と対話する際にも、単に数字を並べるだけでなく、「どういう経営方針のもとに、どんな取り組みを続けてきた結果、この数字が生まれたのか」というストーリーを伝えることが重要です。
決算書は、客観的に会社の力を示す貴重なツールです。特に融資の場面では、銀行との間でお互いに前向きなやり取りをするための“共通言語”のような役割を果たします。
営業利益や経常利益を安定化させるには、売上総利益率の向上や販管費の適正化、営業外費用の削減といった取り組みを継続的に行うことが大切です。
ぜひ、本シリーズで学んだ視点を活かして、自社の決算書を今一度振り返ってみてください。
そして、「忍耐力(財務基盤)」と「稼ぐ力(収益力)」をバランスよく育てることで、銀行をはじめとした外部からの評価を高め、強固な経営基盤を築いていただければ幸いです。