部下の成果にがっかりする前に!期待を成果に変える“伝わる指示”の技術

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週木曜日に、経営者なら知っておきたい「業務効率」についての知識を解説しています。
「よし、この仕事は部下に任せよう!」と指示を出したものの、提出された成果物が自分の想定と大きく異なっていて頭を抱えた…そんな経験はございませんか?
中小企業の経営者の皆様であれば、一度ならずこうした状況に直面し、業務効率や生産性の観点から課題を感じている方も少なくないでしょう。
「どうして期待通りにやってくれないんだ!」と、つい声を荒らげたくなる気持ちも分かります。
実際、私のクライアントからも「指示通りにやってもらえず、結局自分でやり直す羽目になった」「手戻りが多くて、かえって時間がかかってしまう」といったお悩みを頻繁に伺います。
しかし、ご安心ください。こうした問題は、実は「あるある」ではありますが、適切な対策を講じることで確実に減らしていくことができます。
本記事では、コンサルタントとして多くの企業の業務改善に携わってきた経験から、期待通りの成果物を引き出すための「的確な指示出し」のノウハウを、実践的かつ具体的にお伝えします。
この記事を読み終える頃には、部下とのコミュニケーションが円滑になり、組織全体の生産性向上への道筋が見えているはずです。
「あるある」では済まされない!指示が伝わらないことによる業務非効率
部下に仕事を指示した際、期待していたものと違う成果物が出てくることは、残念ながら多くの職場で起こりがちな現象です。
この「指示のズレ」は、単に個人の感情的な問題に留まりません。具体的には、以下のような業務非効率を引き起こします。
- 手戻りの発生と時間的ロス
成果物を修正するために、指示した側もされた側も余計な時間を費やすことになります。
最悪の場合、一からやり直しとなり、納期遅延の原因にもなりかねません。 - コストの増大
時間的ロスは人件費の増大に直結します。
また、修正に必要なリソース(資材、外部委託費など)が追加で発生する可能性もあります。 - モチベーションの低下
指示した側は「なぜ伝わらないのか」と不満を抱き、指示された側も「せっかくやったのに」と徒労感を覚え、双方のモチベーション低下を招きます。
これが繰り返されると、組織全体の士気にも影響します。 - 機会損失
本来であれば次の業務に進めたはずの時間が修正作業に取られることで、新たなビジネスチャンスを逃すことにも繋がります。
このように、指示が的確に伝わらないことは、企業の成長を妨げる深刻な問題なのです。
では、どうすればこの「指示のズレ」を防ぎ、期待通りの成果物をスムーズに得られるようになるのでしょうか。
期待外れの成果物を防ぐ!今すぐ実践できる「早めチェック」の技術
期待通りの成果物が上がってこない最大の原因の一つは、最終的な締め切りまで進捗を確認しないことにあります。
こうした事態を避けるために最も効果的なのが「早めチェック」、つまり「第一次締め切り(プロトタイプ締め切り)」を設定することです。
第一次締め切りとは?
最終的な完成形を求めるのではなく、「仕事のやり方や方向性が正しいか」を確認するための中間的なチェックポイントを設けることです。
例えば、最終納期が10日後の資料作成業務があるとします。その場合、以下のように第一次締め切りを設定します。
- 2日後
資料の骨子、構成案、主要な見出しなどを提出してもらう。 - 5日後
主要部分が記述されたドラフト版を提出してもらう。
このように中間ゴールを設けることで、万が一、指示の意図がズレていたり、作業の方向性が間違っていたりした場合でも、早い段階で軌道修正が可能になります。
早めチェックのメリット
- 手戻りの最小化
初期段階で方向性のズレを発見できれば、修正にかかる時間や労力を大幅に削減できます。 - 認識のすり合わせ
指示する側とされる側の認識のギャップを早期に埋めることができます。 - 安心感の醸成
指示された側も、早い段階でフィードバックを得られることで、安心して作業を進められます。 - 品質の向上
段階的にブラッシュアップしていくことで、最終的な成果物の品質向上が期待できます。
確かに、指示する側にとっては、こまめにチェックする手間が増えるように感じるかもしれません。
しかし、最終段階で大幅な修正が発生するリスクと比べれば、結果的に時間と労力の節約に繋がるのです。
「期待しない」がカギ?指示を出す側の心構えとコミュニケーション術
「早めチェック」と並んで重要なのが、指示を出す側の心構えです。
意外に聞こえるかもしれませんが、その一つが「期待を捨てる」ということです。
「期待を捨てるなんて、クオリティが下がるのでは?」と疑問に思うかもしれません。
しかし、ここでの「期待を捨てる」とは、責任を放棄したり、質の低い成果物を容認したりすることではありません。
むしろ、「相手は自分と違う人間であり、言わなくても分かってくれるだろうという過度な期待を手放す」という意味です。
「期待を捨てる」ことの真意
- 「分かってくれるだろう」という思い込みをなくす
自分の頭の中にあるイメージや背景、ニュアンスが、言葉足らずでも相手に100%伝わると思い込むのは危険です。
この思い込みが、認識のズレを生む最大の原因の一つです。 - 客観的なアウトプットチェックにつながる
過度な期待がないからこそ、出てきたアウトプットを冷静かつ客観的に評価し、具体的な改善点を指摘できます。
期待をせずに、アウトプットだけをきちんと確認することで、結果的に求める品質に近づけるのです。 - 正しいアウトプットを引き出すための工夫が生まれる
「どうすれば、相手が正しいアウトプットを出せるのか?」という視点に立ち、指示の出し方やコミュニケーションの方法を常に改善しようという意識が生まれます。
「期待を捨てる」とは、相手任せにするのではなく、むしろ指示する側がより能動的に関わり、成果物のクオリティを担保するための責任を持つということです。
この心構えが、建設的なフィードバックや、より明確な指示へと繋がっていきます。
指示の精度を上げる!「目的」と「背景」を共有する重要性
具体的な作業内容(How)を伝えるだけでなく、「何のためにこの仕事をするのか(Why)」という目的や背景を共有することも、指示の精度を格段に上げるために不可欠です。
なぜ「目的」と「背景」の共有が重要なのか?
- 作業者の主体性を引き出す
単に言われた作業をこなすだけでなく、目的を理解することで、作業者は「この目的なら、こうした方がより良いのではないか」と自ら考え、工夫する余地が生まれます。 - 判断基準の明確化
予期せぬ問題が発生したり、細かい判断に迷ったりした際に、目的が明確であれば、作業者自身が適切な判断を下しやすくなります。 - 認識のズレを防ぐ
背景情報を含めて伝えることで、指示の意図がより深く伝わり、誤解や解釈の違いを減らすことができます。 - モチベーション向上
自分の仕事が何に貢献するのかを理解することで、作業への意義を感じ、モチベーション向上に繋がることがあります。
例えば、「この資料を明日までに作成してほしい」とだけ伝えるのではなく、
「来週の重要な顧客提案のために、この資料が必要で、特に〇〇という点をアピールしたいと考えている。だから、データに基づいた客観的な情報を盛り込んでほしい」
といった形で目的と背景を伝えるのです。最初は手間だと感じるかもしれません。
しかし、特に新しいメンバーや経験の浅い相手に指示を出す場合、この一手間が、後の大きな手戻りを防ぎ、より質の高い成果物を生み出すことに繋がります。
初めのうちは丁寧に目的や背景を説明し、徐々にお互いの理解が深まれば、シンプルな指示でも意図が伝わる「阿吽の呼吸」に近づいていくことも期待できるでしょう。
それでも改善しない場合の対処法と「人を見極める」という視点
「早めチェック」を導入し、「目的」や「背景」を丁寧に伝え、コミュニケーションを密にしても、どうしても期待する成果が上がってこない、あるいは改善が見られないというケースも残念ながら存在します。
そのような場合には、指示の出し方だけでなく、「その仕事がその人に合っているのか」「そもそもコミュニケーションが円滑に取れる相手なのか」といった、「人を見極める」という視点も重要になってきます。
どうしても合わない相手への対応
すべての人が、すべての仕事に高いパフォーマンスを発揮できるわけではありません。相性の問題も存在します。
そのような場合の具体的な対処法としては、以下のようなものが考えられます。
- 仕事を切る判断
継続的に改善が見られず、事業に支障をきたすようであれば、その相手への仕事の依頼を停止するという判断も必要になる場合があります。
特に外部の協力者の場合は「徐々に徐々に仕事を減らしていく」といった対応も考えられます。 - より簡単な仕事への切り替え・配置転換
社内の人材であれば、その人のスキルや特性に合った、より簡単な業務や別の役割に配置転換することを検討します。
もっと簡単な仕事を任せたりするなど、適材適所を考えることが重要です。
コミュニケーションが取れる人と仕事をする重要性
根本的な話になりますが、「ちゃんとコミュニケーションを取れる人とだけ仕事をする」ということは、業務効率を考える上で非常に重要です。
ここで言う「コミュニケーションが取れる」とは、単に会話ができるということではありません。
- 質問の意図を正確に汲み取れる
「Aっていう質問した時にこっちの意図通りのA’の回答が返ってくる。」ような、的確な理解力を持つ相手。 - 結論ファーストで話せる
冗長な説明ではなく、要点を的確に伝えられる相手。 - 建設的な対話ができる
フィードバックを素直に受け止め、改善に繋げようとする姿勢がある相手。
もちろん、全ての関係者に対して理想的なコミュニケーションを求めるのは難しいかもしれません。
しかし、特に重要な業務を任せる場合や、長期的なパートナーシップを築く上では、こうしたコミュニケーション能力は極めて重要な要素となります。
経営者としては、誰にどの仕事を任せるか、という判断軸の中に、この「コミュニケーションの質」を加えておくべきでしょう。
まとめ:的確な指示出しで、組織全体の生産性を向上させるために
部下に仕事を任せても期待通りの成果が上がってこないという問題は、多くの経営者が直面する悩みです。
しかし、これまで見てきたように、指示の出し方やコミュニケーションのあり方を見直すことで、この問題は大きく改善することができます。
改めて、重要なポイントを振り返ってみましょう。
- 早めチェックの徹底
最終納期だけでなく、中間ゴール(第一次締め切り)を設定し、早い段階で方向性を確認する。 - 「期待を捨てる」心構え
「言わなくても分かるだろう」という思い込みを捨て、客観的にアウトプットを確認し、具体的なフィードバックを行う。 - 「目的」と「背景」の共有
何のためにその仕事をするのかを明確に伝え、作業者の主体性と理解度を高める。 - コミュニケーションの質を重視
意図を正確に汲み取り、的確なやり取りができる相手と仕事をする。どうしても難しい場合は、仕事の割り振りや関わり方を見直す。
これらの取り組みは、一見すると指示する側の手間が増えるように感じるかもしれません。
しかし、手戻りや無駄な修正作業が減ることで、結果的には組織全体の時間とコストを削減し、生産性を大きく向上させることに繋がります。
他人と仕事をする上である程度の認識のズレは避けられないものです。
大切なのは、そのズレをいかに小さくし、いかに早く修正できるか、という点にあります。
的確な指示出しは、経営者や管理職にとって必須のスキルです。
日々の業務の中でこれらのポイントを意識し、試行錯誤を繰り返しながら、ぜひ自社に合った「期待通りの成果を引き出す仕組み」を構築していってください。
それが、社員の成長を促し、ひいては企業の持続的な成長を実現するための確かな一歩となるはずです。