なぜ不動産投資が節税対策になるのか?贈与税の観点から税理士が解説

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。
事業承継や相続対策を考える上で、「贈与税」の知識は避けて通れません。特に、不動産を所有されている場合、
その評価方法や特例制度を理解し活用することで、大きな節税効果が期待できる場合があります。
しかし、贈与税の制度は複雑で、毎年のように税制改正も行われるため、最新の情報を正確に把握するのは容易ではありません。
本記事では、税理士として私がこれまで培ってきた知見と現場での経験に基づき、不動産を活用した具体的な贈与税節税ノウハウを徹底解説します。
まずは押さえておきたい!贈与税の基本ルール
贈与税とは、個人から財産をもらった場合に、もらった人(受贈者)にかかる税金です。
まずは、贈与税の基本的な仕組みを理解しましょう。
贈与税とは何か?
贈与税は、生きている個人から財産を無償で譲り受けた場合に課税される税金です。
相続税を補完する役割も持っており、無計画な財産移転による税負担の回避を防ぐために設けられています。
重要なポイント:贈与契約の成立
贈与は、単に「あげる」という一方的な行為だけでは成立しません。
民法上、「あげる側(贈与者)」と「もらう側(受贈者)」の双方の合意があって初めて効力を生じます。
この「あげます」「もらいます」という意思表示の合致が、贈与契約の基本となります。
贈与税の課税方式:暦年課税と相続時精算課税
贈与税の課税方式には、主に以下の2種類があります。
原則として「暦年課税方式」が適用され、一定の要件を満たす場合に「相続時精算課税方式」を選択できます。
- 暦年課税方式
1年間(1月1日~12月31日)に贈与された財産の合計額に対して課税される方式です。
年間110万円の基礎控除があります。 - 相続時精算課税方式
特定の贈与者・受贈者の間で選択できる制度で、贈与時には特別控除額まで非課税となり、
相続発生時にその贈与財産を相続財産に加えて相続税を計算する方式です。
令和6年1月1日から制度が改正され、使い勝手が向上しています。
どちらの方式を選択するかは、贈与する財産の種類や金額、贈与者・受贈者の年齢や状況によって慎重に検討する必要があります。
暦年課税制度を徹底解説!賢い活用法と注意点
暦年課税制度は、最も一般的な贈与税の課税方式です。
暦年課税の計算方法
暦年課税では、1年間にもらった財産の合計額から
基礎控除額110万円を差し引いた金額(課税価格)に、所定の税率を乗じて贈与税額を計算します。
- 計算式
(贈与額合計 − 基礎控除110万円) × 税率 − 控除額 = 贈与税額
税率は2種類
暦年課税の税率は、誰から誰への贈与かによって「一般贈与財産用」と「特例贈与財産用」の2つの税率表が用意されています。
- 特例贈与財産用
直系尊属(父母や祖父母など)から、その年の1月1日において18歳以上の子や孫などへの贈与に適用されます。
一般贈与財産用よりも税率が低く設定されています。 - 一般贈与財産用
特例贈与財産に該当しない贈与(兄弟姉妹間、夫婦間、他人からの贈与など)に適用されます。
具体例:父から18歳以上の子へ500万円を贈与した場合(特例贈与)
(500万円 − 110万円) = 390万円(課税価格)
390万円 × 15%(税率※) − 10万円(控除額※) = 48万5千円(贈与税額)
※税率・控除額は特例贈与財産用の速算表に基づきます。
注意点:もらった人ごとに判定
基礎控除の110万円は、もらった人1人あたりの金額です。
例えば、父親から110万円、母親から100万円をもらった場合、合計210万円の贈与を受けたことになり、210万円から110万円を引いた100万円に対して課税されます。
暦年課税のメリット・デメリット
- メリット
年間110万円までなら非課税で、申告も不要です。
計画的に長期間にわたって贈与を行うことで、相続財産を圧縮し、相続税の節税効果を高めることが期待できます。
相続権のない子や孫、子の配偶者など、幅広い相手への贈与に活用できます。 - デメリット
一度に多額の財産を移転しようとすると、税率が高くなる可能性があります。
非課税枠が年間110万円と小さいため、相続対策としての即効性に欠ける場合があります。
【重要】令和6年改正点:生前贈与加算の期間変更
従来、相続開始前3年以内に行われた暦年贈与は、相続財産に持ち戻して相続税を計算するルールでした。
しかし、令和6年1月1日以降の贈与については、この持ち戻し期間が段階的に7年間に延長されます。
- 令和5年12月31日以前の贈与:3年間加算
- 令和6年1月1日以降の贈与:段階的に延長され、最終的に7年間加算
- ただし、延長された4年間(相続開始前3年超~7年以内)の贈与については、合計100万円までは加算対象から控除される経過措置があります。
この改正により、暦年贈与による相続税対策は、より長期的視点での計画が重要になります。
相続時精算課税制度を深掘り!メリット・デメリットと改正ポイント
相続時精算課税制度は、一定の条件を満たした場合に選択できる贈与税の特例制度です。
令和6年の税制改正で、より活用しやすくなりました。
制度の概要
- 対象者
贈与年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫などへの贈与が対象です。 - 選択方法
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出する必要があります。 - 注意点
贈与者(あげる人)ごとに選択します。例えば、父からの贈与は相続時精算課税、母からの贈与は暦年課税という選択も可能です。
一度選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税に戻すことはできません。非常に重要なポイントですので、慎重な判断が必要です。
計算方法と令和6年改正のポイント
相続時精算課税制度の大きな特徴は、累計2,500万円までの特別控除枠があることです。
これを超えた部分については、一律20%の贈与税が課税されます。
令和6年1月1日からの改正で、この2,500万円の特別控除とは別に、年間110万円の基礎控除が創設されました。
- 新制度での計算イメージ:
- その年の贈与額から、まず年間110万円の基礎控除を差し引きます。
- 基礎控除を引いた後の金額が、累計2,500万円の特別控除の対象となります。
- 累計2,500万円を超えた部分に対して、一律20%の贈与税が課されます。
支払った贈与税額は、将来、その贈与者が亡くなった際に相続税額から控除されます(贈与税額控除)。
相続時の精算方法と【重要】改正ポイント
「相続時精算課税」という名前の通り、この制度を利用して贈与された財産は、贈与者が亡くなった際に、その贈与時の価額で相続財産に加算して相続税を計算します。
令和6年改正のもう一つの重要なポイントは、年間110万円の基礎控除以下の部分については、相続財産への加算が不要になった点です。
つまり、毎年110万円以下の贈与であれば、相続時精算課税制度を選択しても贈与税がかからず、かつ相続財産に持ち戻されることもないため、非常に有利になりました。
相続時精算課税のメリット・デメリット
- メリット
将来値上がりが期待できる財産を、贈与時の低い評価額で相続財産に固定できる可能性があります。
一度にまとまった財産を子や孫に移転したい場合に活用できます(例:収益物件の贈与による早期の所得移転)。
年間110万円以下の贈与であれば、非課税かつ相続財産への加算も不要です。 - デメリット
一度選択すると暦年課税に戻れません。
贈与した財産が将来値下がりした場合でも、贈与時の価額で相続税が計算されるため、不利になることがあります。
贈与された財産については、相続税の小規模宅地等の特例など、一部の有利な特例が適用できなくなる場合があります。
不動産を活用した贈与税対策の具体的手法
不動産は評価額が大きくなることが多く、贈与税対策においても重要なポイントとなります。
特に、その評価方法の特性を理解することで、効果的な節税が可能です。
不動産の評価方法:時価ではなく「相続税評価額」
贈与税の計算において、不動産の価額は原則として「相続税評価額」に基づいて評価されます。
これは一般的に、実際の取引価格(時価)よりも低い価額になる傾向があります。
- 土地
- 路線価方式
市街地的な形態を形成する地域にある土地について、道路(路線)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額(路線価)を基に計算します。
路線価は、おおむね実勢価格の80%程度が目安とされています。 - 倍率方式
路線価が定められていない地域について、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。
- 路線価方式
- 家屋(建物)
- 固定資産税評価額
市町村が決定する固定資産税の基準となる評価額を用います。
これは通常、建築費の6割程度とされ、建築年数が経過するほど評価額は低くなっていきます。
- 固定資産税評価額
貸家やアパートの場合の評価減
さらに、他人に貸している不動産(アパートや貸店舗など)は、自己使用の不動産よりも評価額が低くなります。
- 土地(貸家建付地)
自己使用の場合の評価額から、借地権割合と借家権割合を考慮して一定割合が控除されます。- 例:自己使用地評価額 × (1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
- 家屋(貸家)
固定資産税評価額から、借家権割合(全国共通で概ね30%)を考慮して評価されます。- 例:固定資産税評価額 × (1 − 借家権割合 × 賃貸割合)
これにより、例えば実勢価格1億円の土地に1億円でアパートを建築した場合、土地・建物の相続税評価額の合計が、建築費用の合計額よりも大幅に低くなるケースがあります。
この評価差を活用することが、不動産を使った贈与・相続対策の基本となります。
収益物件の贈与:家賃収入の移転と相続財産増加抑制
アパートやマンションなどの収益物件をお持ちの場合、その物件(特に建物のみ)を子や孫に贈与することで、以下のような効果が期待できます。
- 家賃収入の移転
贈与後は、その収益物件から生じる家賃収入が受贈者(子や孫)のものとなります。
これにより、贈与者(親)の所得が増加するのを抑え、結果として相続財産の増加を抑制できます。 - 低い評価額での贈与
特に築年数の古いアパートなどは、建物の固定資産税評価額が非常に低くなっている場合があります。
これを「貸家」として評価すれば、さらに低い価額で贈与できる可能性があります。
例えば、建物の評価額が110万円以下であれば、暦年課税の基礎控除の範囲内で贈与税を負担することなく贈与することも可能です。
注意点
- 負担付贈与のリスク
ローンが残っている物件や敷金を預かっている物件を贈与する場合(負担付贈与)、そのローンの残額や
敷金の額によっては、不動産の評価が時価で行われる可能性があるため注意が必要です。 - 各種税金
贈与時には、不動産取得税(評価額の4% ※軽減措置あり)や登録免許税(評価額の2%)といった流通税がかかります。 - 土地評価への影響
建物を子に贈与し、土地は親が所有し続ける場合、土地の評価が「貸家建付地」から
「自用地(更地と同様の評価)」扱いとなり、評価額が上がってしまう可能性があります。
ただし、不動産管理法人を活用するなどの対策も考えられます。 - 小規模宅地等の特例への影響
相続時に非常に有利な「小規模宅地等の特例」が使えなくなる可能性があるため、慎重な検討が必要です。
収益物件の贈与は有効な手法ですが、上記のような注意点も多く、専門家である税理士と十分に相談しながら進めることが不可欠です。
おしどり贈与(夫婦間の居住用不動産贈与の特例)
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産(自宅)またはその取得資金の贈与が行われた場合、
暦年課税の基礎控除110万円のほかに、最高2,000万円まで配偶者控除が受けられる制度です。
つまり、最大2,110万円まで贈与税がかからずに自宅を配偶者に贈与できます。
- 適用要件
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後の贈与であること。
- 贈与された財産が、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭であること。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その居住用不動産に実際に居住し、その後も引き続き住む見込みであること。
- メリット
贈与後すぐに相続が発生したとしても、相続財産に持ち戻される心配がありません。
この特例を使って贈与された財産は、暦年課税の7年以内加算(生前贈与加算)の対象外となります。 - デメリット・注意点
贈与された居住用不動産については、将来の相続時に「小規模宅地等の特例」が適用できなくなる可能性があります。
相続時には、配偶者に対して「配偶者の税額軽減」という制度があり、1億6千万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税がかかりません。
そのため、そもそもおしどり贈与をしなくても相続税がかからないケースも多く、不動産取得税や登録免許税といった流通税を負担してまで贈与するメリットがあるか検討が必要です。 - 活用法の一つ
将来、自宅の売却を考えており、売却益が出ることが予想される場合、売却前におしどり贈与で
夫婦共有名義にしておくことで、売却時に受けられる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」を夫婦それぞれで適用し、
合計で最大6,000万円の控除を受けられる可能性があります。(ただし、当初から売却目的が明確な場合は税務上のリスクを伴うことがあります。)
住宅取得等資金の贈与の特例
父母や祖父母などの直系尊属から、自己の居住用家屋の新築、取得または増改築等のための資金の贈与を受けた場合、
一定の要件を満たせば、最大1,000万円(省エネ等住宅の場合。それ以外の住宅は500万円)まで贈与税が非課税となる制度です(令和8年12月31日まで)。
- 主な要件:
- 受贈者(もらう人)のその年の合計所得金額が2,000万円以下であること。
- 贈与者は直系尊属であること。
- 相続時精算課税との組み合わせ
この特例と相続時精算課税制度を併用することも可能です。
また、住宅取得等資金の贈与の場合に限り、贈与者である父母・祖父母が60歳未満であっても相続時精算課税制度を選択できる特例があります。 - 注意点
この特例の適用を受けて取得した住宅の敷地等については、将来の相続時に「小規模宅地等の特例」が適用できない場合があります。- 親名義での建築・購入との比較検討が重要
例えば、子に2,500万円を贈与して家を建てさせる(相続時精算課税利用)と、贈与時は非課税でも、親の相続時には2,500万円が相続財産に加算されます(基礎控除分を除く)。
しかし、親が2,500万円で家を建てて子に住まわせた場合、その家の相続税評価額は建築価額よりも低くなる(例:1,500万円程度)可能性があります。
つまり、現金を贈与するよりも、親が不動産を取得してそれを子に使わせる方が、相続財産の評価額を圧縮できるケースがあるのです。
この点も踏まえて、最適な方法を検討する必要があります。
- 親名義での建築・購入との比較検討が重要
贈与税対策で失敗しないための重要ポイント
贈与税対策は、専門的な知識と長期的な視点が必要です。以下の点に留意し、慎重に進めましょう。
- 専門家(税理士)への相談は必須
贈与税の制度は非常に複雑で、個別の状況によって最適な対策は異なります。
また、税制は毎年のように改正されます。
自己判断せず、必ず経験豊富な税理士に相談し、シミュレーションを行った上で実行しましょう。 - 出口戦略の考慮
特に不動産が絡む贈与では、贈与時だけでなく、将来の相続や売却まで見据えた「出口戦略」を考えることが重要です。
節税効果だけに目を向けると、かえって損をしてしまうこともあります。 - 最新の税制改正へのキャッチアップ
本記事でも触れたように、税制は頻繁に改正されます。
常に最新の情報を把握し、対策に活かす姿勢が求められます。
まとめ
今回は、中小企業経営者の皆様に向けて、贈与税の基礎知識と不動産を活用した節税対策について解説しました。
暦年課税や相続時精算課税といった基本的な制度の理解はもちろん、不動産の評価方法や各種特例制度をうまく活用することで、効果的な財産移転と節税が期待できます。
しかし、これらの対策は専門的な判断を伴うものが多く、安易な実行は思わぬリスクを招く可能性もあります。
大切な資産を守り、円滑な事業承継や相続を実現するためにも、信頼できる専門家と共に、計画的に贈与税対策を進めていくことを強くお勧めします。
本記事が、皆様の節税対策の一助となれば幸いです。ご不明な点や具体的なご相談がございましたら、お気軽にお声がけください。