経営者保証解除のための重要財務指標の見方と改善方法

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
経営者保証の解除を目指すうえで大切なのは、金融機関からの信用力を高めることです。
金融機関が信用力を判断する材料の一つに、企業の財務指標があります。
そのため、財務指標の改善は、経営者保証解除への近道の一つといえるでしょう。
そこで今回は、特に重要な8つの財務指標について分かりやすく解説し、実践的な改善方法を詳しくお伝えします。
経営者保証解除と財務指標の関係
まず前提として、なぜ「経営者保証解除」を検討する際に財務指標が重要なのかを押さえておきましょう。
経営者保証解除を銀行と交渉しようとする際、「自社は十分に返済能力があり、経営も安定している」という客観的な根拠を提示する必要があります。
ここで大きな説得力を持つのが、企業の財務面を示す指標です。
たとえば自己資本比率が高い、債務償還年数が短いなど、複数の指標が良好な状態であれば、それだけ金融機関に対して「保証がなくてもリスクが低い」と示せるわけです。
しかし、財務指標は多岐にわたります。どこから手をつければいいのか分からない方も多いでしょう。
そこで、次に挙げる8つの指標は特に重要度が高く、経営者保証解除の検討時に金融機関が注目するポイントとなります。ぜひ自社の数値を確認しながら読み進めてみてください。
自己資本比率(純資産額 ÷ 総資産額 × 100)
自己資本比率は、経営者保証解除を検討する際に最も重視される指標の一つです。
ここでは、自己資本比率が注目される理由や、どのように改善を図ればよいかを解説します。
なぜ自己資本比率が重要なのか
自己資本比率が高いほど、企業の財務基盤が安定し、外部からの借入に頼らずとも事業継続が可能であると評価されます。
特に以下のような点が金融機関にとって重要です。
- 財務安定性の証明
赤字や不測の事態に対して耐性があることを示すほか、事業を継続する余力があると見なされやすい。 - 経営の自主性確保
借入依存度が低いため、金融機関からの制約を受けにくく、機動的な経営判断が可能になる。 - リスク対応力の高さ
取引先からの信用力向上につながり、不況期の緩衝材として機能しやすい。
目標値と評価基準の詳細
- 最低限の水準:35%以上
経営者保証解除の検討において、まずは業界平均並みを目指すライン。 - 望ましい水準:40%以上
実際に保証解除の交渉を進めるうえで、信用力を強くアピールできる水準。 - 理想的な水準:50%以上
経営者保証解除の有力な根拠となり、新規融資や追加融資の際にも優位性を確保できる。
改善のポイント
- 増資の検討や利益剰余金の積み増しにより、純資産を増加させる。
- 過度な借入を控え、借入依存度を下げていく。
- 損益計画を見直し、利益の確保と内部留保に注力する。
債務償還年数(有利子負債 ÷ 営業キャッシュフロー)
債務償還年数は、「営業キャッシュフローでどのくらいの期間で借入金を返済できるか」を示す重要指標です。
金融機関は「この会社はちゃんとお金を返せるのか」を特に気にします。ここが長すぎると、返済能力が低いと判断される可能性が高くなります。
基本的な考え方
- 算出方法
債務償還年数 = 有利子負債 ÷ 営業キャッシュフロー
営業キャッシュフロー = 経常利益 + 減価償却費 – 法人税等 - 指標の意味するもの
数値が小さいほど返済能力は高いとされる。
もっとも、業種により投資サイクルやキャッシュフロー構造が異なるため、一概に何年なら絶対大丈夫というわけではない。
ただし、一般的に「7年以内」「5年以内」などの基準が示されることが多い。
業種別の目標値と評価基準
下記に挙げる年数はあくまで目安であり、実際には企業のビジネスモデルや景気動向によっても変化します。
それでも、経営者保証解除を具体的に検討するなら、以下の年数を大きく超えないように意識しておきましょう。
- 製造業・建設業・運送業
- 理想的:5年以内
返済能力が非常に高いと評価され、経営者保証解除や追加融資でも有利な条件を引き出せる。 - 許容範囲:7年以内
一般的な融資審査のライン。保証解除の可能性も十分にある。
- 理想的:5年以内
- 小売業・卸売業・サービス業
- 理想的:3年以内
業界トップクラスの収益力をもつ優良企業と見なされやすい。無担保融資も検討されやすい。 - 許容範囲:5年以内
一般的な水準。保証解除を交渉するうえで最低限押さえておきたいライン。
- 理想的:3年以内
- 設備投資型産業(病院・ホテル等)
- 理想的:10年以内
大きな設備投資を伴う業態でも返済能力が高いとされる。銀行の信用力評価が高まり、保証解除も視野に入る。 - 許容範囲:15年以内
設備投資負担はあるものの、改善の余地が大きい。
- 理想的:10年以内
手元流動性((現金預金 + 有価証券) ÷ 月商 × 100)
手元流動性は、緊急時や突発的な支出への対応能力を示す指標として注目されます。
経営者保証解除を視野に入れる際は、「現金がどれだけ潤沢にあるか」「すぐに資金化できる有価証券があるか」などが見られます。
手元流動性の基本的な考え方
- 定義と計算方法
手元流動性比率 = (現金預金 + 有価証券) ÷ 月商 × 100 - 指標の重要性
- 緊急時の支払能力を示す。
- 事業継続の安定性、突発的な資金需要への耐性を判断する材料となる。
- 設備投資などの拡大策を考える際にも、余裕資金の額が重要視される。
目標値の詳細と評価基準
- 最低限の水準:月商2ヶ月分
短期的な資金繰りに耐えうるラインであり、保証解除の検討が始まる基準。 - 望ましい水準:月商3ヶ月分
季節変動などにも十分対応できる安定感がある。 - 業界トップクラス:月商4ヶ月分以上
新規投資や設備投資を素早く実行しやすく、経営者保証解除の強い根拠となる。
改善のポイント
- 不要な在庫の削減や仕入れ条件の見直しで、キャッシュを手元に残しやすくする。
- 税金や保険料などの支払いタイミングを管理し、一時的な資金不足を防ぐ。
その他の重要財務指標
ここからは、前述した3つ以外にも金融機関が注目し、経営者保証解除の検討時に影響を及ぼす指標を確認していきます。
企業の安全性や収益性を示すうえで重要なのは「流動比率」「売上高経常利益率」「インタレストカバレッジレシオ」「借入月商倍率」「遅延比率」です。
- 流動比率(流動資産 ÷ 流動負債 × 100)
短期的な支払能力を示す基本的な指標です。
目標値は150%以上とされることが多く、売掛金の早期回収や在庫の適正化、短期借入金の長期借入金への借換といった改善策が重要になります。 - 売上高経常利益率(経常利益 ÷ 売上高 × 100)
本業での収益力を示す指標で、目標値は3%以上が一般的です。
粗利率の改善、固定費の見直し、不採算事業の整理などが効果的な改善方法となります。 - インタレストカバレッジレシオ(営業利益 ÷ 支払利息)
金利支払能力を示す指標で、3倍以上が目標値とされます。
営業利益を増やしつつ、支払利息の削減(借入金の金利引下げや借換)を検討することで改善が見込めます。 - 借入月商倍率(借入金残高 ÷ 月平均売上高)
借入金の適正規模を示す指標です。運転資金が月商3ヶ月以内に収まるようにするのが理想とされます。
借入金を計画的に返済すると同時に、売上高の拡大や業務効率化を図ることが大切です。 - 遅延比率(当座資産 ÷ 流動負債 × 100)
流動資産のうち、すぐに現金化しやすい資産(当座資産)を使ってどの程度負債をまかなえるかを示す指標です。
110%以上が目標値とされ、現預金の適正水準維持や売掛金の早期回収、支払サイトの調整などが有効な改善策です。
実践のためのアドバイス
ここまで述べた指標を改善するには、やみくもに手をつけるのではなく、以下のポイントを意識して実務に落とし込むことが大切です。
優先順位の設定
- すべての指標を一度に完璧に改善することは難しいので、自社の弱点となっている指標を特定し、優先的に取り組むと効果的です。
モニタリング体制の構築
- 月次で財務指標を確認し、目標値との差異分析や改善策の効果測定を行うことで、早期に修正が可能になります。
銀行への報告
- 改善計画を金融機関に説明し、定期的に進捗を報告すると、経営者保証解除に向けた姿勢が伝わりやすくなります。
- 課題に対する具体的な対策を共有し、銀行担当者からのアドバイスももらうことで、より現実的な改善策を取れるようになります。
まとめ:経営者保証解除を目指すための8つの重要指標
最後に、経営者保証解除を実現するうえで、特に注目したい8つの指標をおさらいします。
まずは自社の現状を客観的に把握し、計画的に改善を進めていきましょう。
- 自己資本比率(純資産額 ÷ 総資産額 × 100)
- 目標値:35%以上(理想は40%以上)
- 企業の財務基盤の安定性を示す重要指標
- 債務償還年数(有利子負債 ÷ 営業キャッシュフロー)
- 目標値:業種により5〜15年以内
- 借入金の返済能力を測る重要指標
- 手元流動性((現金預金 + 有価証券) ÷ 月商 × 100)
- 目標値:月商2ヶ月分以上
- 事業継続性と支払能力を示す安全性指標
- 流動比率(流動資産 ÷ 流動負債 × 100)
- 目標値:150%以上
- 短期的な支払能力を判断する基礎指標
- 売上高経常利益率(経常利益 ÷ 売上高 × 100)
- 目標値:3%以上
- 本業での収益力を示す指標
- インタレストカバレッジレシオ(営業利益 ÷ 支払利息)
- 目標値:3倍以上
- 金利支払能力の高さを示す指標
- 借入月商倍率(借入金残高 ÷ 月平均売上高)
- 目標値:運転資金は月商3ヶ月以内
- 借入金の適正規模を把握するための指標
- 遅延比率(当座資産 ÷ 流動負債 × 100)
- 目標値:110%以上
- 支払能力の安全性を測る指標
金融機関からの信用力向上は、経営者として大きな利点をもたらすだけでなく、会社の永続的な発展にも寄与します。
地道な取り組みにはなりますが、一つひとつクリアしていくことで、経営者保証解除がより現実的な選択肢となるはずです。
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