経営者保証に依存しない融資を実現するための重要ポイント

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
今回は、経営者保証に依存しない融資を実現するための5つの重要ポイントを、より実践的な観点を交えながらお話ししたいと思います。
日本の中小企業は、所有と経営が一体化したオーナー経営の形態が多いため、経営者保証が慣例的に付されやすい現状があります。
しかし、これは家族や後継者にも大きな負担を与えるリスクがあり、「経営者保証に依存しない融資」を実現することの重要性は高まっています。
本記事では、実際に私が中小企業に携わる中で見えてきた「保証解除の障壁となるポイント」と、その解決策を分かりやすく整理してお伝えします。
特に、今回挙げる5つの重要ポイントをしっかりと理解し、具体的に取り組んでいただくことで、保証に依存しない融資の可能性が大きく広がるはずです。
なぜ経営者保証に依存しない融資が重要なのか
まずは、多くの経営者の方々からよく聞く本音をご紹介します。
「会社の借入なのに、なぜ私個人の全財産を担保に取られるのか」
「保証を付けると、家族の将来まで心配になる」
「事業承継の際、後継者に負担をかけたくない」
これらの声は、日本で9割を占めるオーナー経営型の中小企業に特有の悩みを反映しています。
欧米では所有(株主)と経営(経営者)が明確に分離されているケースが多く、経営者個人が負うリスクは限定されやすいです。
しかし、日本では経営者が筆頭株主となり、自分の資産を会社経営と一体化させている場合が大半を占めます。
そのため、経営者保証に依存しない融資を実現しようとすると、まずは「会社と個人を切り分けて考える」という意識改革と、それを裏付ける実務対応が求められるのです。
経営者保証に依存しない融資の5つの重要ポイント
ここでは、保証解除へ向けた具体的な5つの重要ポイントを解説します。
どれも基本的な事項ですが、いざ実践するとなると多くの中小企業でつまずきがちな点です。
だからこそ、一つひとつ着実にクリアしていくことで、金融機関からの評価が大きく変わります。
社長と会社の資産・経理の明確な区分
最初に着目すべきは「社長と会社の資産・経理の明確な区分」です。
中小企業では「会社のお金は社長のお金」という意識から、経費処理が曖昧になりがちです。
例えば、社長個人の自家用車を会社名義で購入したり、ご家族の飲食代を会社の交際費として処理したり、といったケースがあります。
これらは税務リスクを高めるだけでなく、会社の実態を把握しにくくして金融機関からの信頼を損ねる原因にもなります。
そのため、まずは以下のような対応策を順序立てて進めてください。
実務上の具体的な対応策
- 会計処理の厳格化
会社経費と個人経費をしっかりと分け、経費精算ルールを明文化します。
さらに、経費承認フローを確立し、証憑類(レシートや請求書など)も電子化して管理することで、不正や混同を防ぎやすくなります。 - 私的経費の完全排除
ご家族の娯楽費や個人的な交際費などは一切会社で負担しないことを徹底する必要があります。
こうした出費が常態化すると、税務リスクだけでなく金融機関の不信も招きます。 - 資産利用の適正化
会社における個人資産(不動産など)の利用状況を見直し、賃貸借契約書などの書面を整備し、適正な賃料設定を行います。
名義や使用目的が曖昧なままだと、実態が不透明とみなされる可能性が高いです。 - 管理体制の整備
社内規程の見直しや権限規程の導入など、内部統制を強化し、モニタリングを行う仕組みを導入します。
さらに、税理士やコンサルタントといった外部専門家に定期的にチェックしてもらうと、より効果的です。
法人と経営者の資金のやり取り
次に重要なのが「法人と経営者個人との資金のやり取りの健全化」です。
特に厄介なのが役員貸付金で、会社のお金が経営者個人へ無秩序に流出している状態を指します。
これは金融機関から見ると「会社の資金が経営者の私的目的に使われ、返済の見込みが立ちにくい」リスクと捉えられ、保証解除の障壁となりがちです。
例えば、「今月は会社の資金に余裕があるから」と一時的に個人の出費に流用し、そのまま返済が滞るケースがあります。
これを防ぐには、まず役員報酬を適正に設定し、個人が必要な資金を会社経由で借りる状況をなくす努力が必要です。
実務上の重要ポイント
- 役員報酬の適正化
報酬額は業界水準や会社の業績に見合った設定が必要です。
報酬制度を整備し、定額部分と業績連動部分のバランスをとるなど、合理的な根拠を示すことが大切です。 - 役員貸付金の解消
既に発生している役員貸付金は、明確な返済スケジュールを策定して段階的に返していきます。
返済原資の確保や進捗管理をきちんと行うことで、金融機関に「改善意欲」を示せます。 - 新規発生の防止
不意の個人資金需要を見越して、会社が立て替えることを常態化させない仕組みづくりが必要です。
役員貸付金が再び増えるようでは、金融機関の不信感が拭えません。 - 配当政策の確立
適切な配当を行って株主(多くの場合は経営者自身)に利益を還元しつつ、内部留保とのバランスも検討します。
配当を適正に設定することで、個人資金の必要性を健全な形で賄える場合があります。
法人の収益力による返済能力
3つ目は「法人の収益力」です。
金融機関が最も重視するのは、あくまでも「会社の稼ぐ力」であり、経営者個人の資産の多寡ではありません。
短期的な利益や本業以外の収益が一時的に高くても、保証解除の根拠としては十分とはいえません。
重要なのは、本業(コアビジネス)における持続的な収益力です。銀行はそこを見極め、返済が無理なく行えるかどうかを判断します。
実務的な強化策
- 本業の収益力強化
売上増加策としては既存顧客の深耕や新規顧客開拓、商品・サービスの質の向上などが挙げられます。
コスト管理も欠かせず、原価の適正化や業務効率化を計画的に進める必要があります。 - キャッシュフロー管理
キャッシュフローは企業活動の生命線です。
運転資金の効率化、在庫や売掛金管理の徹底、仕入先との交渉による支払条件の改善など、細かな取り組みが収益力と安定性に直結します。 - 設備投資の管理
設備投資をする際は、その投資がどの程度の収益を生む見込みなのか、いつ回収できるのかを明確に示すことが大切です。
金融機関は「投資と資金計画の整合性」を厳しくチェックします。
財務情報の適切な開示
4つ目は「財務情報の適切な開示」です。
経営者保証の解除は、金融機関との信頼関係が前提となります。その土台を支えるのが「情報開示の姿勢」です。
特に業績が悪い時ほど数字を隠そうとする経営者は少なくありませんが、これは逆効果です。
悪い時こそ早期に開示し、対策を金融機関と協議するほうが、条件緩和や追加融資を引き出しやすいケースも多いのです。
情報開示の充実
- 定期的な報告体制
月次決算を可能な限り早期に確定し、金融機関に共有します。
また、資金繰り表を定期的に提出することで、日々のキャッシュフロー状況を明確に示すことができます。 - 経営計画の策定と報告
3年程度の中期計画を作り、具体的な数値目標とその達成プロセスを示します。
金融機関は「将来の見通し」を重視するため、説得力のある経営計画は信頼関係構築に大きく寄与します。 - 重要事項の事前相談
大きな設備投資や新事業への参入、組織再編などは、事前に金融機関に相談しておきましょう。
情報不開示による不信を避けるだけでなく、場合によっては有利な条件を得られることもあります。
十分な物的担保の提供
最後に「十分な物的担保の提供」について考えましょう。
経営者保証に代わる信用補完として、担保提供は有力な手段の一つです。
しかし、やみくもにあらゆる資産を担保に差し出すのは得策ではありません。
既に余剰な担保を提供している場合には、資金繰りの柔軟性を失うことにもつながります。
担保価値の充実と適正評価
- 不動産担保
会社が所有する遊休不動産がある場合は、そこに担保余力がないかを見直します。
正確な評価額を把握し、必要以上に押さえられないよう金融機関と交渉することも大切です。 - 動産・債権担保
ABL(動産・売掛金担保融資)などを活用し、在庫や売掛金を活用して資金を調達できる仕組みを構築する方法もあります。
在庫や売掛金の管理体制がしっかりしていれば、有効な担保となり得ます。 - その他の担保
有価証券や保険積立金、預金担保など、企業や経営者が持つ多様な資産を活用できるかどうか検討します。
必要十分な範囲で担保を提供し、過剰な縛りを避けることで、将来の事業拡大にも柔軟に対応できるようにします。
実務における成功のポイント
上記の5つのポイントを踏まえても、「一度に全てをやり切るのは難しい」という声はよく耳にします。
そこで、より着実な成果を目指すための3つの成功のポイントを紹介します。
段階的なアプローチ
大きく状況を変えたいと思うと、一気にあれもこれも取り組んでしまいがちです。
しかし、私の経験上、段階的なアプローチこそが成功の近道です。
まずは、現在の財務諸表や資金繰り状況を分析し、銀行取引の全体像を整理することから始めてください。
そこから優先順位の高いもの(たとえば役員貸付金の解消や月次決算の早期化など)に着手すると、早期に成功体験を得やすくなります。
短期的な取り組み(3ヶ月以内)
- 現状分析の徹底
- 緊急度の高い課題の対処
- 役員貸付金の一部返済や経費精算ルールの簡易導入など
中期的な取り組み(半年〜1年)
- 内部統制や権限規程の整備
- 月次決算の早期化・精度向上
- 具体的な経営計画の策定
長期的な取り組み(1年以上)
- 本業の収益力強化(新規事業開拓など)
- 設備投資の見直しと資金計画の整合性検証
- 役員貸付金ゼロ化や財務体質の抜本改善
具体的な数値目標
金融機関に対する説得力を高めるには、口頭の説明だけではなく、定量化された目標設定が欠かせません。
「改善します」という曖昧な表現ではなく、期日を区切った具体的なKPI(重要業績評価指標)の設定が好まれます。
財務指標の目標値
- 自己資本比率:3年以内に35%以上
- 経常利益率:毎年0.5%ずつ改善
- 有利子負債月商倍率:2倍以下
業務プロセスの指標
- 月次決算:翌月10日までに確定
- 債権回収:平均回収日数を10日短縮
- 在庫回転率:20%改善
このように数値を掲げることで、社内でもモチベーションが高まり、金融機関への説明もしやすくなります。
金融機関との関係強化
保証解除を目指す過程で見落とされがちなのが、金融機関とのコミュニケーションです。
特に「困ったときだけ銀行に行く」「新規融資を頼みたいときだけ担当者に連絡する」という状態だと、信用を勝ち取るのは難しくなります。
コミュニケーションの充実
- 定期的な面談を設け、月次決算を報告するとともに経営課題や業界動向を情報交換する。
- 業績悪化の兆候があれば早期に相談し、対策案を議論する。
- 重要な投資や新規事業、リスク要因などは、都度事前に共有する。
こうしたコミュニケーションの積み重ねが信頼を醸成し、「経営者保証なしでも融資しても大丈夫だ」と銀行に判断させる大きな要因となります。
まとめ
経営者保証に依存しない融資を実現するためには、社長と会社の資産・経理を明確に分けることから始めます。
そこから会社としての収益力を高めつつ、金融機関に財務情報をオープンにして信頼を勝ち取ることが大切です。
さらに、必要に応じた物的担保の提供を検討し、適正評価してもらうことで、経営者保証の必要性を薄めることができます。
とはいえ、一度にすべてを変えようとするとハードルが高く、失敗や中途挫折のリスクも高まります。
段階的に進めながら、具体的な数値目標を設定して少しずつ成果を重ねるアプローチが、保証解除への確実な道のりです。
その過程を金融機関にオープンに伝えていくことが、最終的に「保証なしでも融資してもらえる企業」への近道になります。
なお、経営者保証に依存しない融資に関する最新の情報や細かい事例などは、無料メルマガで紹介しています。
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