高級車を経費化することは、本当に節税対策になるのか?

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。
多くの中小企業経営者にとって、会社名義で高級車を保有することは、ブランドイメージの向上と節税メリットの双方を期待できる魅力的な選択肢です。
しかしその一方で、「本当に経費にできるのか?」「税務署に否認されるリスクはないのか?」という疑問が付きまとい、購入に踏み切れずにいる方も少なくありません。
本記事では、高級車の経費計上を成功させるための実務ポイントと注意点を、数字と具体例を交えながら徹底解説します。
高級車でも経費にできるのか
「1,000万円台のベンツや BMW は通るのに、2,000万円超のフェラーリになると税理士が渋い顔をするのはなぜ?」
経営者からよく受ける質問です。結論から言えば、車両価格そのものが問題なのではなく、税務署が“私的利用の有無”を疑いやすい点が問題視されています。
税理士が首を縦に振りにくい理由
税務署は、趣味・嗜好性の強い資産を「役員の経済的利益の供与(いわゆる役員賞与)」とみなしやすい傾向があります。
否認されると法人に加算税、役員個人に所得税が二重で課されるため、税理士はリスクを極端に嫌うのです。
税務署がチェックする観点
- 使用実態の合理性 … 営業車としての必要性が説明できるか。
- 保管・管理状況 … 車庫証明や保険契約が法人名義か。
- 走行データ … 走行距離やドライブレコーダーの履歴が業務内容と整合するか。
これらはすべて「私的利用か否か」を見極めるための検証ポイントです。
したがって、業務利用が明確であれば高級車でも経費化は可能というのが結論になります。
経費として認められるための3つの条件
税務調査で否認されないためには、次の 3 条件を満たし、客観的な証拠を残しておく必要があります。
- 業務利用の必然性が説明できること
取引先への訪問が多く、公共交通機関より車の方が効率的であるといった合理的理由を提示します。 - 法人名義で保有・保険加入していること
購入契約、リース契約、保険証券すべてを法人名義に統一し、法人が維持費を負担する体制を整えます。 - 業務使用割合を記録で立証できること
日報・カーナビ履歴・ETC 利用明細などを 1 年分保管し、プライベート使用分があれば明確に按分します。
上記のように“事実+記録”で裏づけることで、「高級車=ぜいたく品」という先入観を払拭できます。
否認リスクが高まる2つの典型的ケース
業務利用を装っていても、次のような状況は税務署のチェックが厳しくなります。
複数台所有する場合
経営者が 2 台・3 台と高級車を持つ場合、「移動手段としては過剰では?」という見方が強まります。
どうしても複数台が必要なら、各車両に担当ドライバーや利用目的を紐づけた社内規程を整備し、稼働実績を残しましょう。
走行距離が実態に合わない場合
例えば通勤と近隣訪問が中心なのに 3 年で 5 万 km を超えていれば、プライベート利用を疑われます。
走行ログと業務日報が乖離していないか、日頃からチェックしておくと安心です。
節税効果を最大化する購入パターン
高級車を経費にできるとわかったら、次は「どう買うか」で節税インパクトが変わります。
新車を購入した場合のシミュレーション
車両価格 | 耐用年数 | 年間償却費 | 実効税率30%としての節税額 |
---|---|---|---|
3,000 万円 | 6 年 | 500 万円 | 150 万円 |
新車の場合、節税効果は 6 年間にわたり安定的に続きます。
「利益が毎年出ており、キャッシュも潤沢」という企業に向いた選択肢です。
中古車を購入した場合のシミュレーション
耐用年数を短縮できる 4 年落ち以上の中古車なら、次のようになります。
車両価格 | 耐用年数 | 年間償却費 | 実効税率30%としての節税額 |
---|---|---|---|
3,000 万円 | 1 年 | 3,000 万円 | 900 万円 |
“今年だけ利益が跳ねた”という年度に一気に費用化したい場合には有効ですが、翌期以降は償却費ゼロになります。
そのため、利益が読みにくい会社はキャッシュフローの計画とワンセットで検討する必要があります。
購入時期とキャッシュフロー管理
3 月決算企業が期末ギリギリで中古車を購入すると、初年度に経費化できるのは 月割り分 のみです。
仮に 3,000 万円の 4 年落ち車両を 3 月に取得した場合、今期の償却費は 250 万円(3,000 万円÷12 ヶ月)だけ。残り 2,750 万円は翌期に費用化されます。
期末での購入は「今期の節税」よりも「翌期へのインパクト」の方が大きいことを念頭に置き、銀行への決算予測報告や資金繰り計画を先に済ませてから発注すると安全です。
個人購入時に気をつけたい高級車の売却益課税
個人が自家用車を売却して利益が出ても、通常は所得税がかかりません。
ただし、フェラーリやランボルギーニの一部モデルのように 値上がり益が期待できる車種 は「譲渡所得」として課税対象になるケースがあります。
取得価格を上回る売却額が出た場合、取得から5年超なら長期譲渡所得(課税所得の1/2を総合課税)、5年以内なら短期譲渡所得(総合課税そのまま)となり、思わぬ税負担が発生します。
個人名義で高級車を“投資的”に購入する際は、購入価格・保有期間・売却価格 を記録しておき、確定申告の準備をしておきましょう。
まとめ――高級車購入を経営に活かすために
最後に、実務で押さえるべき要点を整理します。
- 業務利用が説明できるか――移動経路や訪問先を記録し、私的利用は按分する。
- 法人名義で一貫管理できているか――購入契約・保険・車庫証明を統一。
- 車両は原則 1 台に絞る――複数台保有は社内規程と稼働記録で裏づけ。
- 購入形態とタイミングをシミュレーションする――新車か中古車か、期末か期首かでキャッシュフローは激変。
- 個人所有なら売却益課税を念頭に置く――希少車は投資商品とみなされる場合あり。
以上を踏まえれば、高級車の導入は単なるステータス消費ではなく、節税とブランディングを両立させる経営戦略に昇華できます。
「自社の場合はどうか?」と感じたら、ぜひお気軽にご相談ください。貴社の財務とキャッシュフローに合わせた最適な活用プランをご提案いたします。