税務調査で取引先との金銭関係を追及されたらどうする?

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。

多くの企業が直面する税務調査。特に取引先への販売協力金や報奨金の支払いに関する調査では、

取引先との関係性を考慮すると、支払先を明かすことができないケースが少なくありません。

本記事では、相手方を明かせない場合の税務調査における具体的な対応策と、調査官からの指摘に対する実務的な反論のポイントを解説します。

私の税理士としての経験を踏まえ、取引先との関係性を守りながら、いかに税務リスクを最小限に抑えるかについて、段階的なアプローチをご提案させていただきます。

取引先への支払いに関する税務調査で直面する課題

税務調査において販売奨励金等の支払先を明かせない場合、以下のような複数の否認論点に直面する可能性があります。

  • 損金不算入(費途不明の交際費として)
  • 役員賞与としての否認
  • 重加算税の賦課
  • 使途秘匿金課税
  • 消費税の仕入税額控除の否認

さらに、取引先法人への反面調査のリスクも考慮する必要があります。

単純な損金不算入では済まない複雑な問題に発展する可能性が高いため、慎重な対応が求められます。

税務調査の論点にしないための事前対策

最も重要なのは、「税務調査で指摘されたらどう反論するか」ではなく、「税務調査の論点にならないようにする」という予防的アプローチです。

具体的な対策として、法人での処理・支払いを避け、役員報酬の増額分から支払うことを推奨します。例えば、

  1. 年間の販売協力金支払いが100万円の場合
  2. 役員報酬を年間150万円程度増額
  3. 税引後の手取り増額分(約100万円)で支払いを実施

などがあります。そして、この方法には以下のメリットがあります。

  • 法人の帳簿に載らないため、法人税務調査の論点にならない
  • 役員個人から取引先個人への贈与という形になり、法人・個人への追及リスクが低減
  • 交際費が800万円を超えている法人では、全体としての実効税率が下がる可能性がある

ただし、この方法にもいくつかの留意点があります。

役員報酬の増額に伴い、社会保険料の負担が増加することや、役員個人の所得税負担が増えることなども考慮に入れる必要があります。

これらのコストと、税務調査でのリスクを比較検討することが重要です。

費途不明の交際費としての対応

事前対策ができていない場合、最もわかりやすい対応は「費途不明の交際費」として損金不算入を主張することです。

法人税基本通達9-7-20に基づくこの対応は、以下の理由で有効です。

  • 役員賞与として処理される場合と比べて、追加の源泉徴収課税を避けられる
  • 調査官側も反論が難しい論点である
  • 消費税の否認は避けられないものの、役員賞与と同等の扱い

ただし、この対応にも注意点があります。費途不明の交際費として申告したとしても、税務署は反面調査等により支払先の追求を行うことができます。

これは、費途不明の交際費規定が支払先を保護するための代替課税ではないためです。そのため、取引先への影響も考慮した上で判断する必要があります。

使途秘匿金課税への対応

調査官から使途秘匿金(40%の別段課税)を指摘された場合でも、以下の理由から適切な反論が可能です。

  • 使途秘匿金は、主にヤミ献金や賄賂などの違法行為を抑制する目的で導入された制度
  • 一般的な商取引の範疇での販売奨励金は、通常、使途秘匿金の対象外と判断される
  • 調査官が使途秘匿金を持ち出す真の意図は、重加算税の受入れを促すことにある場合が多い

使途秘匿金課税は平成6年に導入された制度で、国会での議論においても

その対象は「賄賂や談合金、秘密政治献金、総会屋対策費のような、違法または不当な支出」とされています。

通常の営業活動における販売奨励金等は、この趣旨から外れるものと考えられます。

また、実務上、調査官が使途秘匿金課税を行う場合には国税局の決裁が必要となり、一般的な調査ではそこまでの対応を取ることは少ないとされています。

重加算税に関する実務的な対応

重加算税の賦課については、以下の点を押さえた対応が重要です。

  • 純粋に支払先を忘れている場合は、重加算税の対象とならない
  • 事務運営指針によれば、積極的な「仮装・隠ぺい」行為がない限り、重加算税は課されない
  • 単に相手方を明かさないという行為だけでは、取引全体の仮装・隠ぺいとはみなされない

事務運営指針では、使途不明金に関する重加算税の取り扱いについて、「帳簿書類の破棄、隠匿、改ざん等」や

「取引の慣行、取引の形態等から勘案して通常その支出金の属する勘定科目として計上すべき勘定科目に計上されていないこと」などが

不正の事実として例示されています。つまり、単に支払先を明かさないというだけでは、重加算税の対象とはならないのです。

これは、事業上の支出という事実自体は明確である以上、支払先を明かさないことは取引全体の仮装・隠ぺいには当たらないという考え方に基づいています。

調査官との具体的な折衝方法

実際の税務調査では、段階的な対応が効果的です。以下のような順序での対応を推奨します。

  1. 最初の段階では、支払先が不明であることを理由に、費途不明の交際費として損金不算入を受け入れる姿勢を示す。
  2. 調査官が相手方の開示を求めてきた場合は、それが困難である理由を説明し、役員賞与での処理を提案する。
  3. 重加算税については、積極的な仮装・隠ぺい行為がないことを理由に、強く反論する。

この際、重要なのは優先順位の明確化です。

相手方を守ることを最優先とするのか、追徴税額を最小限に抑えることを重視するのか、事前に方針を決めておく必要があります。

まとめ、優先順位を明確にした段階的対応

税務調査への対応では、以下の優先順位に従って段階的に対応することを推奨します。

  1. 第一段階、法人税基本通達9-7-20の「費途不明の交際費」として損金不算入を主張
  2. 第二段階、調査官が相手方追求を主張する場合は、「役員賞与」での処理を提案
  3. 最終段階、重加算税の回避に注力(将来の調査頻度上昇などのリスクを考慮)

ただし、最も効果的な対策は事前の予防策です。

可能な限り、税引後の役員報酬からの支払いを検討することをお勧めします。これにより、税務調査のリスクを大幅に低減させることができます。

取引先との関係維持と税務リスクの軽減、この両方を実現するための方策として、事前の対策を十分に検討することが重要です。

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