税務調査をスムーズに終わらせるために絶対に言ってはいけない言葉

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
税務調査が行われる際、多くの企業にとっては帳簿の管理や書類の準備だけでなく、調査官とのやり取りも大きな負担となります。
税務上の手続きそのものも重要ですが、実は調査官とのコミュニケーション次第で大きく結果が変わることがあります。
調査官は法律の専門家であると同時に、一人の人間でもあるので、相手の感情を逆撫でしないように注意しながら対応する必要があります。
今回は、税務調査で「絶対に言ってはいけない言葉」を取り上げながら、調査官とのやり取りを円滑に進めるコツをお伝えしたいと思います。
税務調査官との良好な関係がもたらす影響
まず大前提として、税務調査は法的な手続きでありながら、その過程では調査官と企業側が直接やり取りを行います。
調査官は人事異動によって担当が変わるケースが多く、毎回同じ担当者とは限りません。
こうした背景を踏まえると、以下のような点に改めて目を向ける必要があります。
- 調査官の視点:
調査官も企業と同じく「時間と手間」をかけて調査を行います。
迅速かつ正確に情報を得ることができれば、調査をスムーズに進められます。
逆に、企業側の発言や態度によって調査が長引くと、調査官の心理的負担も増大します。 - 企業側の視点:
企業としても、不要な摩擦を避けながら調査を終わらせたいというのが本音でしょう。
ここで、コミュニケーションによるトラブルを招かないようにするのが重要です。
調査官との関係が拗れると、当然調査期間が延び、追加の資料提出やヒアリングが増えるリスクがあります。
このように、税務調査は単なる書類確認だけではなく、人間同士のやり取りが結果を左右する場でもあります。
しっかりと準備を整えながら、適切な言葉選びをすることで調査がスムーズに進む可能性が高まるでしょう。
絶対に避けるべき「前回の調査では指摘されませんでした」の一言
税務調査において、企業側が意外にも口にしてしまいがちなフレーズに「前回の調査では指摘されませんでしたよ」という言葉があります。
一見すると「以前は問題なかったのだから、今回も問題ないはずだ」というアピールに感じますが、実際は逆効果になるリスクが高いのです。
ここでは、その理由を具体的に掘り下げてみましょう。
調査官の感情を逆なでするリスク
前任者が問題にしなかった事項が、今回の調査で改めて取り上げられたとき、企業としては「どうして今さら?」という気持ちになるかもしれません。
しかし、税務調査では担当者が変わる可能性が高く、前回の担当者が許容していたからといって、今回も見逃してもらえるわけではありません。
むしろ、
「では今回、きちんと是正しましょう」
という流れになりやすく、調査官に「前回の担当者よりも厳しく調べよう」という意識を与えかねません。
「前回指摘されなかった=合法的だった」ではないため、この一言はかえって相手のプロ意識を刺激し、厳しい追及を招く可能性が高いのです。
過去の問題が蒸し返される恐れ
さらに大きな問題として、「前回の調査では指摘されませんでした」という発言が、過去の処理についても疑念を抱かせてしまう可能性があります。
税務調査は原則として特定の期間に対して行われますが、過去の年度にも同様の問題が継続していると疑われる場合には、調査対象期間が延長されることがあります。
つまり、「前回も同じ処理をしていました」という言葉は、自ら「過去にも同じ誤りがあったかもしれない」という糸口を提供してしまうのです。
これにより、調査官としては「さらにさかのぼって確認するべきではないか」と考える材料を得てしまうでしょう。
結果として、調査の範囲が拡大し、企業にとっては手間や負担が増えるばかりです。
税務調査における税法上の考え方を理解する
税務調査では、時効が成立していない限り、過去にさかのぼって是正される可能性があることを理解しておく必要があります。
「前回指摘がなかったから大丈夫」という認識は、法的には通用しないケースが多々あるのです。
具体例としては、以下のような点が挙げられます。
- 過去の申告が認められていても、新たな事実や証拠が出てくれば修正を求められる
- 修正申告をしても、さらに別の事由で修正申告や更正があり得る
- 納税者に更正の請求権があるのと同様、税務当局にも更正を行う権利がある
このように、税務当局は「不正を見逃さない」というスタンスで動いています。
たとえ企業側が「前は見逃してもらえた」と感じていても、それが正当化の材料になるとは限らないのです。
税務調査を円滑に進めるための心構え
税務調査は企業経営において避けられないプロセスであり、どのように臨むかによってその後の調査結果ややり取りが変わってきます。
以下に挙げるポイントを意識するだけでも、不要なトラブルを回避できる可能性があります。
過去の調査結果には触れない
前回の調査で指摘されなかったことは、「たまたま見逃された」というくらいの認識にとどめておいたほうが無難です。
調査官側から前回調査に関する質問が出ない限り、自発的に持ち出す必要はありません。
自分から過去の調査を持ち出すことで、新たに深いところまで調べられるきっかけを与えてしまうリスクがあるからです。
感情的にならず、冷静な対応を
税務調査は、企業の財務状況や経理処理の細部に踏み込まれるため、ときには経営者や担当者が感情的になってしまう場面もあります。
しかし、調査官も人間である以上、感情を刺激する言動は反発や反感につながり、余計な緊張を生みやすいのです。
あくまでも事実に基づいて冷静にやり取りすることで、円滑に調査を進める下地を作りましょう。
必要に応じて専門家のサポートを受ける
税務調査は専門的な知識が多く関わるため、顧問税理士やコンサルタントなど、専門家の力を借りることも非常に有効です。
特に、初めての税務調査や大規模な調査の場合、経験豊富な専門家が同席してくれると安心感が増します。
企業側だけでは判断が難しいケースも、専門家の意見を交えることで問題解決の糸口が見つかることがあります。
税務調査を「駆け引き」として捉える視点
税務調査は、法律的な手続きと同時に「調査官とのコミュニケーション」を軸とした駆け引きの側面も持ち合わせています。
ここでいう「駆け引き」とは、調査官との関係を良好に保ちながら正しい情報を伝え、必要以上の追及を避けるための工夫を指します。
- 誠実な対応を心がけること
- 必要な資料は迅速に提出すること
- 質問には明確かつ事実ベースで回答すること
- 感情的にならず、落ち着いた態度を貫くこと
これらはごく当たり前のビジネスマナーにも通じるポイントですが、調査というシビアな状況下では、意外とないがしろにされがちです。
調査官とのやり取りがスムーズに進めば、結果として企業側の負担も軽減されやすくなります。
年末における調査の対応ポイント
税務調査は多くの企業にとって年末が一つの山場となります。
年末には事務処理や決算準備など、企業が抱える業務が増えるため、気がつけば税務調査の対応が後回しになってしまいがちです。
そこで、年末における調査において特に注意したいポイントを挙げてみます。以下のような点を意識してみてください。
- 年内解決を急がない
「早く調査を終わらせたい」という焦りから、不用意な発言や妥協をすると却って不利な結果を招くおそれがあります。
自社に非がない内容まで安易に認めてしまわないよう注意が必要です。 - 年越しの調査に備える
やむを得ず年をまたぐ調査になった場合のスケジュールを、事前に調査官とすり合わせておきましょう。
年始早々に慌ただしくなるのを防ぐため、可能な範囲で日程調整をしておくことが望ましいです。 - 繁忙期でも調査対応の時間を確保する
年末は経理や総務部門が非常に忙しくなる時期ですが、その中でも調査対応の時間をあらかじめ見込んでおくことが重要です。
十分な時間をとれないと、必要な資料を準備しきれず調査官とのコミュニケーションも不十分になりがちです。
まとめ:調査官との適切なコミュニケーションが鍵
税務調査は、企業にとって決して気軽なイベントではありません。
しかし、正しい知識と冷静な対応、そして調査官とのコミュニケーションを意識することで、不要なトラブルや負担を減らすことは可能です。
特に「前回の調査では指摘されませんでした」という一言は、過去の処理まで掘り返されるきっかけとなるリスクをはらんでいますので、絶対に避けましょう。
また、税務調査は「適正な納税を確認する場」でもあります。企業としても、正々堂々と書類や帳簿を整備し、疑問点があれば素直に説明する姿勢が求められます。
調査官に対しても、互いに敬意を払いながらやり取りを行うことで、長期的な信頼関係が築きやすくなるでしょう。
経営者や担当者にとってはプレッシャーの大きい時期かもしれませんが、必要に応じて専門家のサポートを受けながら、冷静に問題と向き合うことが大切です。
税務調査は企業の経理体制や税務処理を見直す絶好の機会でもあり、問題点が早期に発見・是正されるならば、それは企業にとっても大きなプラスです。
最終的には「税務調査=敵対関係」ではなく、「税務調査=適正な納税を確認するプロセス」と考えましょう。
この考え方を基盤に据えておけば、税務調査における余計なトラブルを避けながら、スムーズに調査を終わらせる道が開けてきます。
焦らず、誠実で冷静な対応を続けることこそが、企業の将来を守る一番の鍵となるのです。