税理士が経営者からの節税提案を嫌がる本当の理由とは?

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

今回は、多くの経営者が抱える「顧問税理士と節税」に関する悩みに切り込みます。

資金繰りや採用、人材育成など、経営者の悩みは尽きませんが、その中でも節税は常に上位に挙がるテーマではないでしょうか。

会社の成長に伴い税負担が増えていくことは避けられませんが、合法的に税金を抑制するための選択肢は決して少なくありません。

過去にも「今の税理士が節税策を示してくれない」「こちらから提案しても歯切れの悪い返答しか返ってこない」と不満を漏らす経営者からの相談がたくさんありました。

では、なぜこのような状況が生まれるのでしょうか?

本記事では、税理士が経営者からの節税提案を嫌がる本当の理由を明らかにし、それを乗り越えるための交渉術と”キラーワード”の使い方を、実務経験を踏まえて解説します。

税理士が節税に消極的な三つの理由

まずは税理士サイドの事情を正しく理解することが重要です。背景がわかれば、対策も立てやすくなります。

経費判断における保守主義

税法は条文と通達だけで白黒が決まる世界ではありません。

税法における多くの論点は “グレーゾーン” に置かれており、そこでの判断は 「どこまでを安全とみなすか」 に左右されます。

例えば「社長が着用する高級スーツは経費になるか」という問いは典型例です。

「営業用だから」という主張はありうるものの、同時に「私的な衣料品ではないか」という見方もできます。

税理士が「経費にならない」と答える背景には、必ずしも明確な禁止規定があるわけではなく、リスク回避の姿勢が強く影響しています。

税理士にとって最も避けたいのは税務調査で経費を否認され、追徴課税が発生する事態です。

否認されれば顧問先との信頼関係も壊れるため、税理士は もっとも安全な解釈 を選びがちであり、結果として節税提案が抑え気味になるのです。

節税は”非定型”で手間がかかる

税理士事務所の仕事の多くは、会計データの入力・試算表作成・決算・申告書作成など、いわゆる「定型業務」です。

これらの業務は工程が標準化されており、一定の訓練を受けたスタッフが担当できます。

一方、節税対策は 案件ごとに要件確認・根拠調査・効果シミュレーション を要する「非定型業務」です。

例えば、役員報酬を見直す場合でも、社会保険への影響、法人・個人双方の税負担、将来の退職金への影響など、多角的な検討が必要になります。

特に1〜3月の確定申告繁忙期には、税理士事務所は日々の業務に追われるため、優先度が下がる「節税提案」はどうしても後回しになってしまいます。

こうした時間的制約が、節税提案を阻む大きな要因となっています。

報酬とリスクのバランスが取れていない

税理士サービスの多くは月額顧問料という形で提供されています。

この顧問料の範囲内で節税コンサルを提供しても 追加報酬は得られない ケースが大半です。

顧問料は主に「記帳代行・決算・申告」などの基本サービスの対価として設定されており、節税提案は「おまけ」の位置づけです。

一方で、節税策が税務調査で否認された場合のリスクは甚大です。

否認された場合、本税・延滞税・過少申告加算税などが課され、顧問先には多大な追徴税額が発生します。

つまり「手間の割に実入りが少なく、むしろリスクは高い」というアンバランスを抱えていることが、節税提案にブレーキをかける最後のハードルです。

このジレンマを理解せずに「なぜもっと積極的に節税提案をしてくれないのか」と不満を募らせても、状況は改善しません。

節税提案が前に進まない袋小路

経営者が節税アイデアを持ち込んでも、税理士からは「前例がなく難しい」「税務署の見解が厳しいかもしれません」といった 曖昧な否定 が返ってくることがあります。

この時点で議論を終わらせてしまうと、いつまでも袋小路から抜け出せません。そこで必要になるのが 質問力と交渉術 です。

税理士が節税提案に難色を示す場合、単に諦めるのではなく、建設的な対話を通じて打開策を探る必要があります。

税理士と建設的に交渉する五つのステップ

ステップ1 経営者自身が節税知識を磨く

税務の素人として丸腰で税理士に相談しても、専門家の言葉に反論できません。

まずは書籍やセミナー、専門サイトなどを通じて 基本的なスキームとリスク を学びましょう。

例えば「決算賞与」と「未払賞与」の違い、「役員報酬」と「役員賞与」の税務上の扱いの違いなど、基礎知識を押さえておくだけでも、税理士との対話の質は格段に向上します。

ステップ2 否定されたら根拠を問いただす

「難しい」の一言で終わらせず、該当条文・通達・裁決事例 を具体的に示してもらいましょう。

例えば、飲食店の社長が「店舗改装費用を一括経費にしたい」と提案した際に、税理士から「それは難しい」と言われたとします。

このとき、「なぜ一括経費にできないのですか?法人税法上のどの規定に抵触するのでしょうか?」と質問することで、具体的な障壁が明確になります。

根拠が曖昧な場合は「要件を満たせば問題ない可能性が高い」ことが見えてきます。

多くの場合、税理士は「安全策」を選んでいるだけであり、明確な禁止規定があるわけではないのです。

ステップ3 代替案を示してもらう

もし提示した方法がリスク過多なら、「では実行可能な選択肢は何でしょうか」と切り返します。

節税効果は小さくても、リスクの少ない代替案を示してもらうことで議論が前進します。

代替案を出す過程で要件整理が進み、実現可能なライン が浮かび上がります。

大切なのは、単なる「ノー」では終わらせないことです。

ステップ4 報酬設計を見直す

先述の通り、税理士が節税提案に消極的な理由の一つは「追加報酬がない」ことです。

そこで、節税分の一定割合を成功報酬とする、あるいはスポットでコンサルフィーを支払うなどの提案も有効です。

例えば「もし10万円以上の節税効果があった場合、節税額の10%を追加報酬としてお支払いします」といった提案は、税理士のモチベーションを高めるでしょう。

税理士のインセンティブを明確化 することで、検討優先度が一段上がります。

ただし、あまりに高額な成功報酬は「無理な節税提案」を誘発する恐れもあるため、バランスの取れた設計が必要です。

ステップ5 リスクを経営者が引き受ける覚悟を示す

最終局面では「否認時の責任は経営者が負う」と書面で表明すれば、税理士の心理的ブレーキは大幅に軽減されます。

多くの税理士が節税提案に慎重になるのは、将来のトラブルを恐れているからです。

「税務調査で否認されても責任追及なんてしない」「税務調査で問題になれば全て私の責任」という言葉は、税理士の態度を大きく変えるキラーワードです。

これにより、税理士は「安全策」から「クライアントの希望」へと優先順位をシフトさせることができます。

覚書でリスク移転を明確にする

責任範囲をあいまいにしたままでは、後のトラブルを招きます。

「言った・言わない」の水掛け論を避けるためにも、書面化は重要です。

そこで 覚書 を交わし、「当該節税策の実行責任は経営者に帰属する」旨を明記しましょう。

電子署名で構いませんが、以下の項目を具体的に記載し、双方で保管することが肝要です。

  1. 作成日付
  2. 関係者名(会社代表者名・税理士名)
  3. 対象となる節税策の具体的内容
  4. 想定されるリスク(否認された場合の追徴税額など)
  5. 責任の所在(経営者が全責任を負う旨)
  6. 双方の署名

このような覚書があれば、後日「税理士が勧めたから」という責任転嫁が発生せず、税理士も安心して経営者の意向に沿った提案ができるようになります。

ケーススタディ:高級車を社用車にしたい場合

それでは、具体的な事例として、経営者が「高級車を会社の経費として購入したい」場合のアプローチを見ていきましょう。

現状と課題

多くの経営者は業績向上の結果として、高級車の購入を検討します。

しかし、税理士からは「1,000万円を超える高級車は経費として認められない可能性が高い」などと言われ、断念するケースが少なくありません。

このような反応の背景には、税務調査で「事業に必要な範囲を超えた過大な支出」と判断されるリスクがあります。

特に高額な外車は税務署のチェックポイントになりがちです。では、このような状況をどう打開すればよいでしょうか?

打開策:段階的アプローチ

  1. 業務使用目的を明確化 ―― 役員送迎や得意先訪問など、事業遂行に不可欠であることを説明できるようにします。特に「取引先が超高級車に乗っている」「業界内でのステータスが必要」など、具体的な業務上の必要性を整理します。
  2. 客観資料を整備 ―― 走行距離記録簿、取引先リスト、駐車場所の写真などを保存し、私的利用の割合を数値で示します。例えば、月間走行距離のうち90%以上が業務使用であることを証明できれば、税務調査での説得力が高まります。
  3. 税理士と条件交渉 ―― 上記資料がそろい業務使用率が十分なら、減価償却費として経費計上できる余地が大きいと判断できます。「では、どのような条件なら経費計上に同意いただけますか?」と具体的に尋ねることで、実行可能な条件を引き出しましょう。例えば「週末の私的利用を記録上、明確に区分すること」などの条件が示されるかもしれません。
  4. 覚書で責任範囲を固定 ―― 否認時の追徴税額は会社が負担する旨を明記し、税理士の法的リスクを遮断します。「この高級車の経費計上が税務調査で否認された場合、追徴税額及び関連する責任は全て当社が負うものとし、顧問税理士に一切の責任追及をしないことをここに確約します」といった文言を覚書に盛り込みます。

こうした工程を段階的に踏むことで、税理士は「安全策」と「実行可否」の判断材料を得られ、結果として 「YES」と言いやすくなる のです。

まとめ

  • 税理士が節税に消極的な背景には 保守主義・手間・報酬リスク の三要素がある。
  • 経営者は 知識武装→根拠要求→代替案探索→報酬設計→リスク引受 の順で交渉を進める。
  • 覚書で責任範囲を明確にすれば、税理士の心理的ハードルは大きく下がる。

節税は”魔法の裏ワザ”ではなく、合法的かつ合理的な選択肢を組み合わせる技術 です。

税理士が消極的でも、その心理的背景を理解し、適切な交渉術を駆使すれば、多くの節税機会を活かすことができます。

顧問税理士とWin‑Winの関係を築き、キャッシュフローを最大化して、安心して事業拡大に集中しましょう。

「税理士VS経営者」の対立構造ではなく、共に会社の発展を目指すパートナーシップが理想的です。

節税スキームの設計から税理士との橋渡しまでまるっとサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。

税務の専門家としての知見を活かし、あなたの会社に最適な節税戦略を一緒に考えていきましょう。

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