節税対策で会社の価値は上がらない?最高の出口戦略を考える

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

多くの中小企業経営者の皆様が、日々の経営において「いかに税負担を抑えるか」という節税対策に頭を悩ませていることでしょう。

役員報酬の調整や経費の活用など、法人税を圧縮するための努力は、キャッシュフローを最大化する上で確かに重要です。

しかし、もしその節税が、将来の重要な選択肢である「会社の売却(M&A)」において、数百万円、数千万円、あるいはそれ以上の機会損失に繋がるとしたら、どう思われますか?

現場で多くの経営者様とお会いする中で、目先の節税に注力するあまり、会社の将来的な価値を大きく毀損してしまっているケースを残念ながら何度も目にしてきました。

今回の記事では、普段の経営で何を意識すべきか、特に「業績面」と「体制面」の2つの観点から、会社の価値を最大化するための秘訣を、具体的な話も交えながら徹底的に解説します。

M&Aにおける企業価値評価の基本原則:「利益」こそが全ての土台

まず大前提として、M&Aにおける会社の売却価額がどのように決まるのかを理解しておく必要があります。

様々な評価手法がありますが、中小企業のM&Aで最も一般的に用いられるのは「将来、その会社がどれくらいの利益を生み出す力があるか」を基準にする考え方です。

具体的には、「会社が経常的に生み出す利益 × 将来数年分(3年~7年程度が目安)」という計算式がベースになります。

つまり、買い手は「利益を生み出す装置」としてあなたの会社を評価し、その装置が将来にわたって生み出すであろう利益の数年分を対価として支払うのです。

この原則を理解すれば、なぜ「会社に利益を残すこと」がM&Aにおいて絶対的に重要なのか、お分かりいただけるかと思います。

節税の罠:「役員報酬の最適化」が会社の価値を左右する

このM&Aの基本原則を踏まえた上で、よくある節税手法である「役員報酬の最適化」について考えてみましょう。

これが、M&Aの観点から見ると大きな「罠」になることがあります。

例えば、ここにA社とB社という、2つの会社があるとします。

  • A社
    売上5億円。
    経営者の役員報酬を差し引く前の営業利益は1億円。
    節税のため、役員報酬を1億円に設定し、会社の利益はゼロ
  • B社
    売上5億円。
    経営者の役員報酬を差し引く前の営業利益は1億円。
    あえて役員報酬を2,000万円に抑え、会社の利益は8,000万円

経営者個人の手取りだけを考えれば、法人税と所得税のバランスを見てA社のような選択をする方もいらっしゃるでしょう。

しかし、M&Aの市場において、この2社の評価は天と地ほどの差が開きます。

言うまでもなく、圧倒的に高く評価されるのはB社です。

A社は会計上、利益がゼロのため、「利益を生み出す力がない会社」と見なされてしまい、買い手を見つけることすら困難かもしれません。

一方で、B社は毎年8,000万円の利益を生み出す力があると証明しているため、仮に利益の5年分で評価されれば、8,000万円×5年=4億円 という売却価額がつく可能性があります。

目先の税負担を軽減するために会社の利益を圧縮する行為は、将来のM&Aによるキャピタルゲイン(譲渡所得)という、より大きなリターンを得る機会を自ら手放していることと同義なのです。

会社の価値を飛躍させる「右肩上がりの成長ストーリー」

会社に利益を残すことの重要性をご理解いただけたかと思いますが、もう一つ、利益の「額」と同じくらい重要な要素があります。

それは「成長性」、つまり右肩上がりの業績です。

買い手は、会社の「過去の実績」と同時に、それ以上に「未来の可能性」に投資します。

再び、2つの会社を比較してみましょう。

  • 横ばい企業
    売上5億円・利益1億円という状態が10年間続いている。
  • 成長企業
    業績が急拡大しており、直近の決算が「売上5億円・利益1億円」に着地した。
    • 3年前:売上3億円・利益1,000万円
    • 2年前:売上4億円・利益5,000万円
    • 前期:売上5億円・利益1億円

この2社の売却価額は、直近の利益額が同じでも、全く異なります。

横ばい企業の場合、今後の大きな成長は見込みにくいと判断され、評価額は利益の5年分である5億円程度になる可能性が高いでしょう。

一方で、成長企業は「来期は利益が1.5億円、再来期は2億円になるかもしれない」という将来への強い期待感を買い手に与えます。

この成長ストーリーが評価され、売却価額は10億円~20億円、あるいはそれ以上になることも十分にあり得ます。

極端な例を挙げれば、将来の成長を見越して広告宣伝費のような戦略的投資を積極的に行い、売上が急成長している一方で、利益がまだ少額というケースもあります。

このような場合でも、「広告宣伝費は将来的にコントロール可能であり、売上規模が拡大した後に利益を出すことができる」という明確なロジックがあれば、その成長性が高く評価されることも少なくありません。

重要なのは、買い手に対して「この会社は今後も伸び続ける」という説得力のあるストーリーを、実績をもって提示できるかなのです。

M&Aで最も嫌われる「属人性」という経営リスク

さて、ここまでは業績面、つまりPL(損益計算書)に関わる話をしてきました。

しかし、いくら素晴らしい業績を上げていても、あるたった一つの要因によって、会社の価値がゼロと評価されてしまうことすらあります。

それが「属人性」のリスクです。

属人性とは、会社の売上や利益が、経営者や特定の役員・社員といった「個人」の能力やスキル、人脈に大きく依存している状態を指します。

最近は「1人起業」のようなビジネスモデルも増えていますが、これはM&Aの観点から見ると最も評価されにくいモデルです。

例えば、一人のカリスマ経営者が高額なコンサルティングやセミナーを展開し、年商1億円を稼いでいたとしましょう。

この会社を買収したとして、買い手はその経営者と同じ成果を出すことができるでしょうか?答えは、ほぼ間違いなく「No」です。

買い手が欲しいのは「その人がいなくなっても儲かり続ける事業」です。

経営者が交代した途端に売上・利益が激減するような事業には、誰もお金を払いません。

そしてこれは経営者に限らず、特定のスーパー営業マンの個人売上に会社全体の利益が依存している、といったケースも同様のリスクを抱えています。

あなたの会社は、「社長がいなくても回る」組織になっていますか?

この問いに自信を持って「Yes」と答えられない場合、M&Aを成功させることは難しいでしょう。

企業価値を高める鍵は「稼ぐ源泉の仕組み化」

この「属人性」という根深い問題を解決し、誰が経営しても事業が継続・成長する盤石な体制を築くためのキーワードが「仕組み化」です。

「仕組み化」と聞くと、社内の業務マニュアル整備やオペレーションの標準化をイメージされる方が多いかもしれません。

もちろんそれも重要ですが、M&Aで高く評価されるためには、より本質的な「稼ぐ源泉の仕組み化」が不可欠です。

これは、個人のスキルに依存せず、会社として半自動的に顧客を獲得し、売上を上げ続けることができるシステムを構築することを意味します。

例えば、以下のようなものが「稼ぐ源泉の仕組み化」の好例です。

  • 強力なWebサイト
    ある特定のキーワードで常に検索エンジンの上位に表示され、毎月数百万人以上が訪れるWebサイトを保有している。
    このサイト自体が集客装置として機能しており、担当者が変わっても集客力が落ちることはありません。
  • 確立されたブランド
    特定の業界で圧倒的な知名度と信頼を誇るブランドを確立しており、顧客がそのブランドを指名して商品やサービスを購入してくれる。
  • 再現性のあるマーケティング手法
    誰が担当しても一定の成果が見込める広告運用モデルや、販売代理店ネットワークが構築されている。

このように、属人性が低く、かつ「再現性」のある稼ぐ仕組みを持っている会社は、買い手にとって非常に魅力的です。

なぜなら、自分たちの資本やリソースを投下することで、その仕組みをさらに拡大し、より大きな利益を生み出せると確信できるからです。

まとめ:将来の選択肢を広げるための経営戦略

今回は、将来のM&Aを見据えた際に、会社の価値を最大化するためのポイントを「業績面」と「体制面」から解説しました。

目先の節税に囚われるのではなく、少し視座を上げて、会社の未来価値を創造するという観点を持つことが、経営者の皆様の選択肢を大きく広げることに繋がります。

最後に、本日の重要なポイントをまとめます。

  • 会社に利益を残す
    節税目的で役員報酬を過度に高く設定せず、会計上の営業利益・経常利益をしっかりと確保する。
  • 成長ストーリーを描く
    停滞ではなく、売上・利益ともに右肩上がりの成長を実現し、将来性をアピールする。
  • 属人性を排除する
    経営者や特定の人材に依存した経営から脱却し、組織として利益を生み出す体制を構築する。
  • 「稼ぐ仕組み」を構築する
    個人の能力に頼らず、再現性のあるマーケティングや集客の仕組みを作り上げる。

これらの取り組みは、決してM&Aのためだけのものではありません。

結果として、外部環境の変化に強く、収益性の高い、安定した優良企業を創り上げることそのものなのです。

ぜひ本日の内容を、ご自身の会社の経営に照らし合わせ、将来に向けた次の一手を考えるきっかけとしていただければ幸いです。

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