坂本勇人選手の申告漏れに学ぶ!節税対策で検討すべき「経費の境界線」

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

先日、読売ジャイアンツの坂本勇人選手の申告漏れが大きく報道され、多くの経営者様が「自社の経費は大丈夫だろうか?」と一瞬ヒヤリとされたのではないでしょうか。

「同僚との飲食代が経費として認められなかった」というニュースを見て、「スポーツ選手の話だから関係ない」あるいは「うちも交際費には気をつけないと」といった様々な感想を持たれたかもしれません。

しかし、このニュースの本質は、単なる「使いすぎ」の問題ではありません。

実は、この一件から、すべての経営者が学ぶべき「経費の明確な境界線」と「個人事業主と法人における決定的な違い」が見えてきます。

本記事では、税理士として多くの企業の税務に携わってきた経験から、坂本選手の事例を深掘りし、さらに法人の経営者であっても絶対に越えてはならない「一線」について、実際の裁判例を交えながら徹底解説します。

勘違いしていませんか?坂本選手の事例は「個人事業主」の話

まず、このニュースを理解する上で最も重要なポイントは、坂本勇人選手が「法人」ではなく「個人事業主」であるという点です。

報道では約2億4000万円の必要経費が税務署から否認されたとのことですが、重加算税(意図的な隠蔽など、悪質な場合に課される重いペナルティ)が課されていないことから、これは「経費に関する見解の相違」であったと推測されます。

では、なぜ「同僚選手との料亭やクラブでの飲食代」が経費として認められなかったのでしょうか。

それは、個人事業主の経費には、法人よりも厳格なルールがあるためです。

個人事業主の支出が「必要経費」として認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 事業に「直接」必要であること
  • 「客観的に見て」事業に関する支出であること

今回のケースでは、税務署は「年俸6億円を得るという事業のために、同僚との飲食代は“直接”必要ではない」と判断したわけです。

ここに、税務署と坂本選手側で見解の相違が生まれたのです。

このように、日本の税制は個人事業主に対して厳しく、少しでもプライベートな支出と疑われるものは「事業に直接関係ない」として否認されやすい傾向があります。

「法人化すれば安心」は本当?個人事業主と法人の経費範囲の違い

多くの専門家が「事業をするなら法人化すべき」とアドバイスするのは、主に2つの理由があります。

一つは所得税率よりも法人税率の方が有利になるケースが多いこと、そしてもう一つが、この「経費として認められる範囲が広くなる」ことです。

個人事業主では経費にするのが難しい支出も、法人であれば経費として認められやすい項目は確かに存在します。

法人だからこそ経費にできる支出の例

  • 住宅費(社宅扱い)
    役員社宅として、家賃の一部を会社の経費に計上できます。
  • 生命保険
    受取人を法人にすることで、保険料の全部または一部を経費に算入できます(保険の種類や契約形態によります)。
  • 役員退職金
    経営者自身に退職金を支払うことができ、これは会社の経費となると同時に、経営者個人にとっては税制上非常に有利な所得となります。
  • 日当(出張手当)
    出張の際に、実費とは別に支給する日当を経費にできます。受け取った役員・従業員は非課税です。

これらの項目は、個人事業主では経費計上が困難、あるいは不可能です。

このように、法人は個人事業主に比べて節税の選択肢が格段に広いと言えるでしょう。

しかし、「法人だから何でも経費にできる」と考えるのは大きな間違いです。

その油断が、取り返しのつかない事態を招くこともあります。

【判例解説】社長の「1人飲み」は経費になる?6,600万円が否認された衝撃の事件

個人事業主に比べて経費の範囲が広い法人ですが、当然ながら、事業との関連性が全くない支出は経費として認められません。

特に「交際費」は、その境界線が曖昧なため、税務調査で最も厳しくチェックされる項目の一つです。

そして、法人の交際費をめぐる争いの中でも、すべての経営者様に知っておいていただきたい重要な判例があります。

それは、「社長の“1人飲み”は経費にならない」という司法判断が確定した事件です。

【事件の概要】

  • 当事者
    3社を経営する社長
  • 内容
    個人的に通っていた高級クラブでの飲食代を、会社の「交際費」として計上。
    ひいきのホステスが店を移るたびに、その移籍先のクラブに通っていた。
  • 税務調査
    税務署は、これらの支出が社長個人の遊興費であると判断。
    税務署が店の帳簿などを調べる「反面調査」によっても、社長が1人で来店していたことは明らかだった。
    社長側も、同行者の存在や業務との関連性について有効な反論ができなかった。
  • 金額
    1回あたり約20万円、月平均5回。
    税務調査の対象となった5年間で、その総額は6,600万円を超えていた。

最終的に、この6,600万円は経費(交際費)として認められず、会社は修正申告を求められました。

しかし、問題はそれだけでは終わりませんでした。

なぜ「重加算税」が課されたのか?見解の相違では済まない悪質なケース

この事件の最も恐ろしい点は、通常のペナルティ(過少申告加算税:10%)ではなく、「重加算税:35%」という極めて重いペナルティが課されたことです。

重加算税は、納税者が意図的に事実を隠蔽したり、仮装したりした場合に課されるものです。

坂本選手のケースのような「見解の相違」とは、悪質性のレベルが全く異なります。

今回のケースでは、事業関連性のない個人的な支出であることを知りながら、意図的に「交際費」として経費に計上した行為が「仮装・隠蔽」にあたると判断されたのです。

この重加算税によって、経営者が被ったダメージは計り知れません。

簡易的に計算してみましょう(税率は概算です)。

  • 通常の加算税の場合
    6,600万円 × 法人税率30% × 過少申告加算税10% = 約200万円
  • 重加算税が課された場合
    6,600万円 × 法人税率30% × 重加算税35% = 約700万円

その差は実に500万円となり、実際にはこれに延滞税なども加わるため、追徴税額はさらに膨れ上がります。

経営者はこの判断を不服として裁判に訴えましたが、東京地裁(令和2年)、東京高裁(令和3年)ともに訴えは退けられ、重加算税の支払いが確定しました。

この判例が経営者に与える「絶望的な影響」

「一人の社長が起こした極端な例だろう」と思われるかもしれません。

しかし、この事件が裁判で確定したことの持つ意味は、非常に大きいのです。

これは、「経営者の1人飲みは、事業に関連しない個人的な支出であり、それを経費計上することは悪質な仮装・隠蔽にあたる」という司法のお墨付きが出たことを意味します。

今後、あなたの会社に税務調査が入り、もし「社長の1人での飲食費」が経費計上されていることが発覚した場合、どうなるでしょうか。

調査官は、ほぼ間違いなくこの判例を根拠に「これは重加算税の対象ですね」と指摘してくるでしょう。

裁判で確定している事実を前に、もはや反論の余地は残されていませんので、多額の追徴課税を受け入れるしかなくなってしまうのです。

まとめ:経営者が守るべき経費の鉄則とは

今回は、坂本選手の事例から個人事業主の経費の考え方を、そして「社長の1人飲み」判例から法人が守るべき一線を解説しました。

重要なポイントを改めて整理します。

  • 個人事業主の経費は「事業への直接性」が厳しく問われる。
  • 法人は経費の範囲が広いが、事業関連性のない支出は当然NG。
  • 特に「社長の1人飲み」のような個人的遊興費の経費計上は、重加算税という最悪の結果を招く判例が確定している。

節税対策は、経営者にとって重要な経営戦略の一つですが、それはルールを正しく理解した上で行うべきものです。

グレーゾーンを攻めるような安易な経費計上は、たった一度の税務調査で会社の存続を揺るがしかねない大きなリスクを伴います。

本当に会社を守る節税とは、「なぜこの支出が事業に必要なのか」を誰に対しても堂々と説明できる経費計上を積み重ねることに他なりません。

自社の経費処理に少しでも不安を感じたら、当事務所までお気軽にご相談ください。

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