税務調査を「社長抜き」で完結させる!調査終了時の同意の実務

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
税務調査と聞くと、多くの経営者様が「怖い」「何を聞かれるか不安だ」という心持ちになることとお察しします。
私のコンサルティング現場では、税務調査において「可能な限り経営者様(納税者)を調査の場に立ち会わせない」という方針を推奨しています。
しかし、これには法律上の「原則」と、実務上の「例外(手続き上の壁)」が存在することをご存知でしょうか?
今回は、税務調査の現場における「税理士の代理権限」の範囲と、調査官との駆け引き、そして非常に重要となる「調査終了時の手続き」について、専門家の視点から詳しく解説します。
経営者は税務調査に立ち会うべきではない?私の基本スタンス
私はこれまで、ブログやメルマガ、セミナー等を通じて一貫して以下のようにお伝えしてきました。
「税務調査は、できるだけ納税者(社長)に立ち会わせることなく、税務代理権限を持つ税理士だけで終わらせるべきである」
なぜでしょうか?
それは、経営者様が不用意に発言することで、本来であれば問題にならなかった事項まで調査対象になったり、調査官の誘導に乗って不利な事実を認めてしまったりするリスクを避けるためです。
税理士法第2条において、税理士は納税者に代わって「税務代理」を行う権限が認められています。
ですから、法律の原則論で言えば、税理士だけで調査対応をすることは十分に可能なのです。
調査官が「社長に会いたい」と言う本当の理由
しかし、実際の現場ではそう簡単にはいきません。
税理士が「私が代理人として答えます」と主張しても、調査官はしばしばこのように食い下がります。
「納税者に会って直接話が聞きたい」
「納税者本人でなければ、当時の事情や事実関係がわからないはずだ。直接会わなければ調査にならない」
これは一見、正論のように聞こえます。事実確認のために当事者の話を聞きたいというのは調査の基本だからです。
しかし、我々専門家は、その言葉の裏にある「調査官の本音(思惑)」を読み取る必要があります。
調査官の内心にある2つの狙い
- うっかり発言の誘発
税務のプロである税理士相手では隙がなくても、経営者本人であれば緊張や知識不足から「うっかり発言(言質)」を取れるかもしれない、という期待があります。 - 修正への心理的圧力
税理士が法的な理屈で「修正には応じられない」と突っぱねたとしても、経営者本人を説得すれば「面倒だからもう払います」と納得させられるかもしれない、と考えています。
このように、調査官の「社長に会いたい」という要求には、高度な心理戦が含まれていることを理解しておく必要があります。
法律上の原則:税理士には強力な「代理権限」がある
ここで改めて、法的な根拠を確認しましょう。
税務調査において、税理士は納税者の「分身」のような役割を果たします。
税理士法に基づき「税務代理権限証書」を提出している税理士は、調査の対応を代理で行う権利を持っています。
したがって、冒頭で述べた通り、調査の大部分は「原則として」税理士だけで対応することが可能です。
しかし、この「原則」には、実務上決して見落としてはいけない「たった1つの重要な例外(注意点)」が存在します。
それが、「調査終了時の手続き」です。
【重要】「調査終了の手続き」だけは別ルールが存在する
税務調査が終盤に差し掛かると、調査官から以下のような通知や説明が行われます。
- 申告是認の通知(問題なかったという通知)
- 更正の説明(税務署側が金額を修正することの説明)
- 修正申告の勧奨(自主的に修正するよう勧める行為)
これらは「調査の終了の際の手続き」と呼ばれます。
実は、この「終わりの手続き」に関しては、一般的な税務代理権限だけではカバーしきれない規定が、国税通則法に定められているのです。
国税通則法第74条の11第5項(要約解説)
少し難しい法律の条文ですが、重要部分を抜粋・解説します。
『実地の調査により質問検査等を行つた納税義務者について(中略)税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合には、当該納税義務者への第一項から第三項までに規定する通知等に代えて、当該税務代理人への通知等を行うことができる。』
この条文が何を言っているかというと、「調査結果の説明(是認通知や修正の勧奨など)を税理士に行うには、納税者本人の『同意』が必要である」ということです。
裏を返せば、「同意がなければ、いくら代理権限を持っている税理士であっても、調査終了の際だけは納税者の代わりに説明を受けることができない」ということになります。
税務代理権限証書だけでは「同意」にならない?
ここで疑問を持たれる経営者様も多いでしょう。
「最初に『税務代理権限証書』という委任状を出しているのだから、それで同意していることになるのではないか?」と。
しかし、国税庁の解釈はより厳格です。
国税庁が公表している「税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)」の問14において、明確な見解が示されています。
国税庁FAQの見解
『調査担当者は、税務代理権限証書が提出されている場合であっても、調査結果の内容説明等を行う前に、納税者の方に直接同意の事実を確認する方法(中略)により、納税者の方の同意があることを確認することとしています。』
つまり、「最初の委任状(税務代理権限証書)だけでは、最後の手続きの同意とはみなさない」というのが税務署のスタンスなのです。
たとえ税務代理権限証書に「調査結果の説明についても同意する」と書き込んでいたとしても、調査官は改めて「説明を行う時点」で同意の有無を確認するよう指導されています。
実務上の対策:どのように「同意」を示せばよいか
では、調査の最後にまた社長が呼び出されなければならないのでしょうか?
ここに関しては、必ずしも対面である必要はありません。
事務運営指針やFAQには、以下の2つの確認方法が提示されています。
- 電話または臨場による直接確認
調査官が納税者(社長)に電話をかけたり、直接会ったりして「税理士先生に説明しても良いですか?」と確認する方法。 - 書面の提出による確認
税理士を通じて「同意しています」という事実を証明する書面を提出する方法。
現場での現実的な対応策
現実の税務調査において、すべての調査官がここまで厳格に「同意確認」を求めてくるかはケースバイケースです。
しかし、法的な規定や国税庁の内規(事務運営指針)では、「税務代理権限とは別個に、終了時の意思確認が必要」とされています。
下記は事務運営指針からの抜粋です。
『税務代理人から納税義務者の同意を得ている旨の申出があった場合には、同意の事実が確認できる書面の提出を求める方法のいずれかにより行う。』
(出典:調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について)
つまり、我々税理士が「同意を証する書面」を用意し、調査官に提出することで、経営者様がわざわざ呼び出されたり、電話対応したりする手間を省き、税理士だけで最終手続きを完了させることが可能になります。
まとめ:信頼できる専門家と共に調査を乗り切る
今回の内容をまとめます。
- 税務調査は原則として、税理士だけで対応が可能である。
- しかし、調査官は心理的な揺さぶりを含め、経営者に会いたがる傾向がある。
- 法的には「調査終了時の結果説明」だけは、通常の代理権限とは別に「本人の同意」が必要となる。
- この「同意」は、最初の委任状だけでは不十分であり、終了時に改めて確認(電話または書面)が必要である。
調査の現場では、こうした細かい手続きや法律の条文を知っているかどうかが、スムーズな対応の可否を分けます。
「すべて税理士に任せているから大丈夫」と思っていても、土壇場で「社長、最後だけ来てください」と言われ、そこで不用意な発言をしてしまっては元も子もありません。
このような細部の手続き規定まで熟知し、先回りして「同意書面」を準備できるような税理士であれば、経営者様は安心して本業に専念できるはずです。
税務調査は、単なる数字のチェックではなく、法律と心理が交錯する交渉の場でもあります。
だからこそ、貴社の盾となり、適切なロジックで守ってくれるパートナーを選ぶことが何より重要です。
もし、今後の税務調査対応や、現在の税務・会計の体制に不安をお持ちの経営者様がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、専門家の視点によるセカンドオピニオンをご検討ください。
貴社の状況に合わせた最適な「守り方」をご提案させていただきます。
