「出張日当」が税務調査で狙われる!領収書ではなく“Googleマップ”を見られる理由

皆さんこんにちは。税理士の中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
「社長、出張旅費規程を作りましょう。日当を出せば、会社は経費で落ちますし、社長個人は所得税がかからずに現金を受け取れますよ」
顧問税理士以外のコンサルタントや、保険の営業マンから、こんな甘い囁きを聞いたことはありませんか?
確かに、「出張旅費日当」は法律で認められた正当な権利であり、正しく運用すれば非常に有効な節税手段となり得ます。
しかし今、この「旅費日当」が税務調査で最も狙われるホットスポットになっていることを、どれだけの経営者がご存知でしょうか。
「規程を作って、領収書さえ残しておけば大丈夫だろう」
もしそう思われているなら、厳しい言い方になりますが、あなたは税務署を舐めています。
彼らが調査で見ているのは、綺麗な領収書ではありません。あなたの「行動履歴」そのものです。
今回は、安易な「出張水増し」が招く最悪のシナリオと、調査官が実際に使用している現代の捜査ツールについて、現場の視点から解説します。
調査官が見ているのは「金額」ではなく「実在性」
出張旅費規程を導入する際、多くの社長は金額の設定を気にされます。
「日当は2万円までなら大丈夫ですか? 3万円だと高いと否認されますか?」
このような質問をよく受けますが、はっきり申し上げます。調査官にとって、金額の相場など二の次です。
彼らが最初に、そして徹底的に疑うのは「実在性」です。
つまり、「社長、あなたは本当にその日、そこに行きましたか?そして本当に仕事をしましたか?」という一点に尽きます。
なぜ「金額」よりも「実在性」なのか
もし、その出張が事実に基づかない嘘(いわゆるカラ出張)であった場合、日当の金額が適正かどうかという議論は無意味になるからです。
実在しない出張に対して支払われたお金は、会社の経費(旅費交通費)としては認められません。
ではどうなるかというと、「役員賞与」として認定されます。
- 法人税の追徴
役員賞与は経費(損金)になりませんので、その分法人税が増えます。 - 源泉所得税の追徴
社長個人へのボーナスとみなされるため、個人の所得税も追徴されます。
これだけでも大ダメージですが、さらに恐ろしいのは、これが「仮装・隠蔽」と判断されることです。
事実を偽って経費を計上したとして、重加算税(本来納めるべき税額の35%〜40%という非常に重いペナルティ)の対象となります。
調査官は、あなたの会社の「旅費精算書」を見ながら、金額の多寡ではなく、虎視眈々とこの「嘘(カラ出張)」を探しているのです。
戦慄の尋問「このガソリン代の日、誰と何を話しましたか?」
私が実際に立ち会った、ある税務調査の現場での一幕をご紹介しましょう。
地方への出張が多い社長に対し、調査官はETCの履歴とガソリンスタンドの領収書を突きつけ、静かに、しかし鋭くこう迫りました。
「社長、この日、〇〇県でガソリンを入れていますが、ここでは誰と会いましたか?」
「打ち合わせをしたとおっしゃいますが、その相手の名刺はありますか?」
「議事録やメモ書きでいいので、商談の内容がわかるものを見せてください」
答えに窮する社長を、調査官は見逃しません。
「以前からのお付き合いで……」としどろもどろになる社長に対し、彼らは逃げ道を塞ぐように証拠を積み上げていきます。
実は、彼らがこの質問をした時点で、勝負はついていました。
調査官は、事前に社長の行動データを完全に洗ってから現場に来ていたのです。
税務署はここまで見ている!現代の「4大捜査ツール」
「領収書さえあれば誤魔化せる」というのは、昭和の時代の話です。
現代の税務調査において、調査官はデジタルツールを駆使して経営者の行動を丸裸にします。
具体的に、彼らは以下のデータを確認し、旅費精算書との整合性をチェックしています。
1. ETCカードの通過履歴
「何時何分に、どこのインターチェンジを通過したか」は、動かぬ証拠です。
例えば、「日帰り出張」として日当を請求しているのに、ETC履歴では深夜まで現地に滞在していない、あるいは逆に全く別の方面へ移動しているといった矛盾があれば、即座に指摘されます。
2. Googleマップのタイムライン(スマホのGPS履歴)
これは多くの経営者が盲点としています。スマートフォンのGoogleマップには、設定によって「タイムライン」という行動履歴が自動保存されています。
調査官は「スマホのGPS履歴を見せていただけますか?」と要求することがあります。
これを拒否することもできますが、拒否すれば心証は最悪になり、他の資料をより徹底的に調べられることになります。
3. Amazon等の注文履歴
意外に思われるかもしれませんが、これも強力な証拠になります。
「出張中で不在」のはずの日に、自宅でAmazonの荷物を受け取った履歴が残っていればどうなるでしょうか?
「誰もいないはずの自宅で、誰が荷物を受け取ったのですか?」という質問に対し、論理的な説明ができなければ、「出張は嘘だった」と認定されます。
4. 社長のSNS(Facebook, Instagram等)
「仕事で出張に行った」と言いながら、その日にゴルフ場の写真や、観光地での楽しげな写真をSNSにアップしていませんか?
調査官は調査前に必ずと言っていいほど、代表者のSNSをチェックしています。
「出張日当」が出ている日にゴルフの投稿があれば、それは業務ではなく「私的な旅行」とみなされ、経費否認はおろか、重加算税への直行便となります。
そしてトドメの一撃として、「手帳を見せてください」と言われます。
精算書にある出張の日が手帳では空白だったり、全く別の予定が書いてあったりすれば、もう言い逃れはできません。
コンサルの「大丈夫」は、税務署の前では無力
このようなリスクがあるにも関わらず、出張旅費規程の導入を勧めるコンサルタントは、決まってこう言います。
「他社さんでも皆さん導入していますし、指摘されたことはありませんよ」
「とりあえず規程を作っておけば大丈夫です」
経営者の皆様、どうか騙されないでください。
そのコンサルタントは、税務調査の現場に立ち会ってくれますか?
調査官から「これは脱税です。重加算税を課します」と言われたとき、そのペナルティを肩代わりしてくれますか?
絶対にしません。
最後に責任を取らされ、高い追徴税額とペナルティを支払うのは、会社であり、社長であるあなた自身です。
コンサルタントは「規程の作り方(形式)」は教えてくれますが、「税務署との戦い方(実務)」は知りません。
彼らの無責任な「大丈夫」という言葉ほど、経営にとって危険なものはないのです。
「ちょっと日数を水増しして、小遣いを増やそう」
その軽い気持ちが、税務署にとっては立派な「脱税行為」と映る事実を直視してください。
まとめ:証拠(ログ)がないなら、今すぐやめる勇気を
誤解しないでいただきたいのですが、私は出張旅費規程そのものを否定しているわけではありません。
実際に業務で飛び回っている社長にとって、日当は正当な権利であり、非常に有効な節税手段です。
しかし、権利を主張するなら、それに見合う「証明責任」を果たさなければなりません。
税務調査を乗り切るためには、以下の「当たり前」を徹底する必要があります。
- 訪問先の記録を必ず残す(誰と会ったか明確にする)
- 打ち合わせのメモや議事録を作成する(業務の実態を残す)
- メールやチャットの履歴を保存する(アポイントの事実を残す)
- ETCや移動履歴と矛盾しない精算書を作る(物理的な整合性を取る)
もし、これら日々の事務作業が「面倒でできない」「管理しきれない」のであれば、悪いことは言いません。今すぐ旅費規程の運用をやめるべきです。
わずかな節税効果のために、税務署に「嘘をつく会社」「隠蔽工作をする経営者」というレッテルを貼られるリスクは見合いません。
一度そのレッテルを貼られれば、数年おきに厳しい調査が入ることになります。
「うちは大丈夫だろうか?規程はあるが運用が杜撰かもしれない」
「過去の精算分について、どのように修正・対応すればいいかわからない」
そう不安になった方は、手遅れになる前に一度ご相談ください。
きれいごとの節税論ではなく、税務調査の現場で調査官に「ぐうの音も出ない」と言わせるための、鉄壁の証拠(ログ)の残し方を、私が叩き込みます。
