税務調査は会社で受けるな!税理士事務所を指定するメリットと交渉術

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。

中小企業経営者の皆様にとって、ある日突然の連絡から始まる「税務調査」は、日常の業務を止め、大きな心理的プレッシャーをもたらす悩ましい出来事ではないでしょうか。

「会社に来られて、従業員の前でいろいろ聞かれるのは避けたい」

「お客様がいる手前、店内で帳簿を広げられるのは困る」

このようにお考えの方も多いはずです。

しかし、多くの方が「税務調査は会社(事業所)で受けなければならない」と思い込んでいます。

今回は、数多くの税務調査に立ち会ってきた税理士としての視点から、「税務調査を受ける場所の選び方」と、そこから生まれるメリット、そして具体的な交渉術について解説します。

1. そもそも「調査場所」に法的決まりはあるのか

まず、大前提となる法律のお話から始めましょう。

税務署の調査官が会社に来て調査を行う根拠は、法律上の「質問検査権」に基づいています。

しかし、実はこの法律には「税務調査を受ける場所」についての明確な規定は存在しません。

「帳簿」がある場所が調査場所になり得る

法律が求めているのは、適切な税務申告が行われているかを確認するために、帳簿書類やその根拠となる資料(請求書、領収書など)を確認することです。

つまり、「調査に必要な帳簿や原資資料が用意されている場所」であれば、そこがどこであっても調査を行うことは法的に可能なのです。

  • 会社(本社・事業所)
  • 経営者の自宅
  • 税理士事務所

これらのどこであっても、資料さえ整っていれば問題ありません。

例えば、飲食店などのように、現場にお客様が常にいらっしゃるような業種では、あえて「自宅」で調査を受けるケースもあります。

しかし、私がコンサルタントとして最も推奨するのは、自宅でも事業所でもなく「税理士事務所」で調査を受けることです。

2. 税理士事務所で調査を受ける「3つのメリット」

なぜ、わざわざ帳簿を移動させてまで税理士事務所で受けるべきなのでしょうか。

そこには、実務上極めて大きなメリットが存在します。

① 経営者の心理的負担が大幅に軽減される

これが最大のメリットと言っても過言ではありません。

「自分の城(会社)」に調査官が入り込み、あれこれと調べられること自体、経営者にとっては大きなストレスです。

一方、税理士事務所という「守られた場所」で、味方である税理士と同席して調査を受けることは、それだけで安心感につながります。

ホームグラウンドではなく、信頼できるパートナーのオフィスで対応することで、冷静さを保ちやすくなります。

② 従業員への影響を遮断できる

小さなオフィスや店舗の場合、調査官とのやり取りが従業員に丸聞こえになってしまうことがあります。

「社長が厳しい口調で詰められている」

「売上の話をしている」

といった内容が聞こえてしまうのは、社内の士気に関わりますし、無用な不安を煽りかねません。

場所を変えることで、こうした情報を物理的に遮断できます。

③ 調査官による「勝手なヒアリング」を防ぐ

事業所で調査を行うと、調査官がトイレ休憩や移動の合間に、ふらっと従業員に話しかけることがあります。

「社長は普段何時頃に来ますか?」

「最近、忙しいですか?」

何気ない世間話に見えても、調査官はそこから調査の端緒(きっかけ)を探っています。

税理士事務所で行えば、従業員が不用意に接触する機会を完全に無くすことができます。

3. 調査官が「会社でやりたい」と言う理由とその対策

もちろん、税務署側は税理士事務所での調査を歓迎しないことが多いです。むしろ嫌がることの方が多いでしょう。

なぜなら、調査官には「事業所の現場を見ることで、何か不正の『とっかかり』を見つけたい」という思惑があるからです。

  • 在庫の管理状況はどうなっているか
  • 金庫の中身はどうなっているか
  • 従業員の雰囲気はどうか
  • 豪華な調度品などがないか

彼らは現場の空気感や視覚情報から、帳簿だけでは見えない情報を得ようとします。

そのため、「できれば会社で」と打診してくるのです。

調査官への具体的な断り方

もし、調査官が「事業所で調査をしたい」と言ってきた場合、あるいは「税理士事務所では困る」と難色を示した場合は、毅然とした対応が必要です。

交渉のポイントは以下の通りです。

1. 法的根拠の欠如を主張する

「質問検査権を規定する法律等には、調査を受ける場所についての規定はないはずです」と伝えましょう。これは正当な主張です。

2. 合理的な理由を提示する

単に「嫌だ」と言うのではなく、物理的・状況的な理由を伝えます。

  • 「事業所のスペースが狭く、調査官に座っていただく席や資料を広げる場所が確保できない」
  • 「常にお客様が出入りしているため、守秘義務の観点や営業妨害の恐れがあり対応できない」

3. 資料の準備を約束する

「帳簿や必要資料は、すべて税理士事務所にきちんと用意します」と明言してください。

調査官が恐れるのは「資料が見られないこと」です。

税理士事務所に資料を移送し、何一つ隠さず提示する姿勢を見せれば、場所がどこであれ調査の目的は達成できるはずです。

(※普段から税理士事務所に資料を保管している必要はありません。調査当日までに準備できていれば大丈夫です)

4. 柔軟な対応も必要~「調査拒否」と誤解されないために~

ここまで「税理士事務所で受けるべき」と強くお伝えしてきましたが、現場対応としては柔軟性も必要です。

いくら交渉しても、調査官が「どうしても事業所の現況を一度確認したい」と譲らないケースもあります。

また、業種によっては現場確認が必須となる場合もあるでしょう。

その際、頑なに「絶対に会社には入れない」と拒絶し続けるのは得策ではありません。

あまりに頑なな態度は、「調査官に見せたくないやましいものがあるのではないか?」「調査拒否ではないか?」という疑念を抱かせ、かえって心証を悪くする可能性があります。

「現況確認」だけなら受け入れる

もし調査官が現場確認を強く希望する場合の妥協案として、以下のような対応が考えられます。

「メインの帳簿調査は税理士事務所で行い、事業所の確認が必要なら、短時間だけ立ち寄る形にする」

これであれば、従業員への接触や長時間居座られるリスクを最小限にしつつ、調査官の顔も立てることができます。

大切なのは、「調査に協力する姿勢」は見せつつ、「こちらの守るべきライン(従業員や業務への影響)」は確保するというバランスです。

5. まとめ:事前の準備と交渉が結果を左右する

税務調査は、調査当日だけが勝負ではありません。

日程調整や場所の選定といった「事前準備」の段階から、すでに駆け引きは始まっています。

【本記事のポイント】

  • 場所の自由: 税務調査を受ける場所に法的縛りはない。
  • 推奨場所: 精神的安定と防衛のため「税理士事務所」での実施を推奨。
  • 交渉術: 「スペースの問題」「顧客対応」を理由に、資料を税理士事務所に集める旨を伝える。
  • 注意点: 完全拒否ではなく、必要に応じた柔軟な現場確認は受け入れる余裕を持つ。

すべての調査を税理士事務所で行えるわけではありませんが、この知識があるだけで、調査に対する恐怖心や、当日の負担は大きく変わります。

もしこれから税務調査を受ける可能性がある、あるいは不安がある場合は、顧問税理士に「調査は先生の事務所で受けたい」と相談してみてください。

経験豊富な税理士であれば、調査官との事前のやり取りも含めて、貴社にとって最適な環境を整えてくれるはずです。

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