銀行融資だけだと思っていませんか?中小企業の資金調達を徹底解説

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
「会社の事業を拡大したい」「急な資金需要が発生した」――。
中小企業の経営者であれば、誰もが一度は資金調達について真剣に考えたことがあるのではないでしょうか。
その際、多くの方が真っ先に思い浮かべるのが「銀行融資」かもしれません。
しかし、資金調達の方法は銀行融資だけではありません。
むしろ、多様な選択肢を知り、自社の状況に合わせて最適な手段を選ぶことが、安定した経営と持続的な成長の鍵を握ります。
今回の記事では、そうした経営者様に向けて、中小企業の資金調達方法の「全体像」を分かりやすく解説します。
この記事を読めば、自社が活用できる可能性のある選択肢が広がり、より戦略的な財務判断を下すための第一歩となるはずです。
中小企業の資金調達、選択肢は大きく3つ
まず、資金調達の世界地図を広げてみましょう。
中小企業の資金調達方法は、お金の流れ方の違いから、大きく以下の3つに分類できます。
- 間接金融
金融機関が仲立ちとなって資金を融通する方法 - 直接金融
企業が投資家などから直接資金を集める方法 - その他
上記のどちらにも分類されない、国や自治体からの支援
この3つの選択肢を理解することが、資金調達の全体像を掴むための基本となります。
多くの中小企業にとって最も身近なのは「間接金融」ですが、会社の成長ステージによっては「直接金融」や「その他」の選択肢が極めて有効になるケースもあります。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
最も身近な「間接金融」とは?公的融資と民間融資の違い
間接金融とは、預金者からお金を預かっている銀行などの金融機関が、その資金を必要とする企業に貸し出す(融資する)仕組みです。
つまり、私たち経営者が金融機関を介して資金を調達する方法であり、最も一般的な手段と言えるでしょう。
この間接金融は、融資の担い手によってさらに2種類に分けられます。
- 公的融資
- 民間融資
この違いを正しく理解しておくことは、非常に重要です。
公的融資の担い手:日本政策金融公庫と商工中金
公的融資とは、政府系の金融機関による融資を指します。
代表的なのは日本政策金融公庫と商工組合中央金庫(商工中金)です。
- 日本政策金融公庫
100%政府出資の金融機関であり、民間金融機関では対応が難しい創業期の企業や小規模事業者への支援、災害時の融資など、政策的な目的を持った融資を積極的に行っています。 - 商工中金
こちらも政府系の金融機関ですが、2025年6月を目途に完全民営化される見込みです。
ただし、民営化後も危機対応業務などは継続し、セーフティネットとしての公的な性格は一部残るとされています。
公的融資は、民間の金融機関に比べて金利が低めであったり、創業間もない企業でも利用しやすかったりするメリットがあります。
民間融資の担い手:銀行、信用金庫、信用組合
一方の民間融資は、銀行(メガバンク、地方銀行など)、信用金庫、信用組合といった、皆さんが普段から付き合いのある民間金融機関からの融資です。
企業の成長性や収益性、財務状況などを総合的に判断して融資の可否を決定します。
意外な事実?信用保証協会付き融資は「公的融資」の仲間
ここで、多くの経営者が見落としがちな重要なポイントがあります。
それは、銀行などの民間金融機関から受ける融資であっても、「信用保証協会」の保証が付いた融資は、実質的に公的融資の性質を持つということです。
信用保証協会とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、その債務を公的に保証してくれる機関です。
万が一、企業が返済できなくなった場合には、信用保証協会が代わりに金融機関へ返済を行います(これを代位弁済といいます)。
金融機関側からすれば、この保証があることで貸し倒れリスクを大幅に軽減できるため、実績の少ない創業期の企業や、担保・保証人に乏しい小規模企業にも融資をしやすくなります。
実際に、多くの中小企業、特に創業期や事業規模がまだ小さい会社が銀行から受けている融資は、この信用保証協会付き融資が中心です。
つまり、知らず知らずのうちに「公的融資」の枠組みを主に活用して資金調達を行っているケースが非常に多いのです。
成長を目指すなら知っておきたい「直接金融」の世界
次に、間接金融とは対照的な「直接金融」について見ていきましょう。
これは、金融機関を介さず、企業が株式や社債を発行することで、投資家から直接資金を調達する方法です。
間接金融(融資)が「借入」であるのに対し、直接金融には「出資」と「借入」の2つの側面があります。
出資(エクイティ・ファイナンス)
会社の株式を渡し、その対価として資金を提供してもらう方法です。
返済義務がない自己資本となるため、財務基盤を大きく強化できるのが最大のメリットです。
- 中小企業投資育成株式会社
国が政策的に中小企業の自己資本充実を支援するために設立した、公的な性格を持つ投資機関です。 - ベンチャーキャピタル(VC)
高い成長が見込まれる未上場企業に出資し、将来的に株式上場(IPO)やM&Aによって利益を得ることを目的とした投資会社です。 - 個人投資家
エンジェル投資家とも呼ばれ、特定の事業や経営者に共感した個人が資金を提供します。
借入(デット・ファイナンス)
直接金融の中にも借入という手段があります。その代表例が少人数私募債です。
これは、会社が「社債」という有価証券を発行し、特定の少数の人(役員や取引先など縁故者)に直接引き受けてもらうことで資金を調達する方法です。
金融機関からの借入とは異なる、もう一つの借入の選択肢となります。
最終目標は「プロパー融資」と多様な選択肢を持つこと
ここまで様々な資金調達方法を見てきましたが、「では、自社はどれを目指すべきなのか?」という疑問が湧いてくるかと思います。
一般的な中小企業にとって、まず活用しやすく、かつ基本となるのは、やはり間接金融です。
その中でも日本政策金融公庫からの融資や、信用保証協会の保証を付けた銀行融資といった公的融資になります。
これらは、企業の信用力を補完し、資金調達のハードルを下げてくれる重要なセーフティネットです。
しかし、コンサルタントとして強調したいのは、公的融資だけに頼り続けるべきではないということです。
企業の最終的な目標として目指すべきは、財務体質を強化し、銀行から信用保証協会の保証を付けない、いわゆる「プロパー融資」を受けられる状態になることです。
プロパー融資とは、銀行が100%自らのリスクで企業を信用し、直接融資を行うものです。
これを受けられるということは、金融機関から「お墨付き」をもらった優良企業である証と言えます。
プロパー融資を受けられるようになれば、より機動的で有利な条件での資金調達が可能になります。
さらにその先には、銀行融資だけに依存せず、必要に応じて直接金融(出資や私募債)も活用できるような、柔軟な財務戦略を描ける企業になるというステージがあります。
まとめ:資金調達の全体像を理解し、会社の未来を描こう
今回は、中小企業の資金調達方法の全体像について解説しました。
- 資金調達には大きく「間接金融」「直接金融」「その他(助成金・補助金)」がある
- 最も身近な間接金融は「公的融資」と「民間融資」に分かれる
- 信用保証協会付き融資は、実質的に公的融資の性質を持つ
- 企業の成長のためには、公的融資からプロパー融資へ、さらには直接金融も視野に入れた多様な選択肢を持つことが理想
自社の現在地を把握し、将来どのステージを目指すのか。そのために、今どの資金調達方法を選択すべきなのか。
この全体像を頭に入れておくだけで、金融機関との交渉や事業計画の策定が、より戦略的に行えるようになるはずです。
資金調達は、単なる「お金集め」ではありません。会社の未来を創るための重要な経営戦略そのものです。
ぜひ、今回の内容を参考に、自社の可能性を広げる一歩を踏み出してください。
