会社を売るなら含み損の不動産は切り出す!M&Aにおける節税対策の鉄則

皆さんこんにちは。税理士の中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

中小企業の経営者の皆様、自社の事業承継や売却(M&A)をご検討される中で、自社が保有している不動産の扱いに悩まれたことはないでしょうか。

とくに、その不動産に「含み損(買った時より価値が下がっている状態)」があるまま、会社ごとM&Aで売却しようとしている経営者の方がいらっしゃれば、今すぐその計画を一旦ストップしてください。

「会社を丸ごと売った方が、煩雑な手続きがなくて楽だから」

「M&A仲介会社から、一般的な株式譲渡で進めましょうと提案されたから」

もし、そんな理由だけで売却のスキーム(手法)を決定しようとしているなら、非常に危険です。

財務・節税のプロフェッショナルとして、長年多くの中小企業の現場を見てきた私から、あえて断言させていただきます。

含み損のある不動産を抱えたまま会社を丸ごと売却するのは、経営者にとって「大損」以外の何物でもありません。

今回は、不動産を保有する企業のM&Aにおいて、経営者が絶対に知っておくべき「切り出し」のセオリーについて、実務的な観点から詳しくお話しします。

会社ごと売却するのは「税の恩恵」をドブに捨てる行為

会社の売却(M&A)において、現在最も一般的な手法となっているのが「株式譲渡」です。

これは、オーナー(経営者)が所有している自社の株式を、そのまま買い手企業に買い取ってもらうという非常にシンプルな手法です。

手続きが比較的容易であることに加え、売却益にかかる税金(申告分離課税)も約20%で済むため、多くの中小企業のM&Aで真っ先に採用されます。

しかし、この「株式譲渡が一番良い」というM&Aの常識は、会社が「含み損を抱えた不動産」を保有している場合、完全に一変します。

含み損を抱えた不動産を持ったまま、株式譲渡で会社を丸ごと売却してしまったらどうなるでしょうか。

答えは残酷なほど明白です。その不動産の含み損は、会社の内部に眠ったまま、ただ買い手企業の手に渡るだけなのです。

売り手であるあなた(オーナー)や、あなたの会社には、含み損による税務上の恩恵は一切還元されません。

ただ資産価値が目減りした状態の会社を、その低い評価額のまま手放すことになってしまいます。

含み損の不動産は「事業譲渡」で切り出すのが絶対的セオリー

では、含み損を抱えた不動産がある場合、経営者の「手残り(最終的に手元に残る現金)」を最大化するには一体どうすればよいのでしょうか。

現場で数々の財務戦略を構築してきた私の答えは、極めてシンプルです。

含み損のある不動産事業部門だけを切り出して(「事業譲渡」などの手法を用いて)売却してください。

これが、不動産M&Aにおける絶対的なセオリーです。具体的な数字を用いて、その絶大な効果をご説明しましょう。

  • 帳簿上の価値(簿価): 5億円
  • 現在の価値(時価): 3億円
  • 含み損: 2億円(5億円 - 3億円)

このような不動産があったとします。

これを、株式譲渡で会社ごと売るのではなく、「事業譲渡」という手法を用いて、時価である3億円で不動産だけを切り出して売却します。

すると、会社の決算上において、差額の2億円が「売却損(不動産売却損)」として計上されます。

実は、この「多額の売却損を出せる」ということこそが、財務戦略における最大の武器となるのです。

法人の実効税率(法人が実質的に負担する税率)を約30%とした場合、2億円の売却損が出ることで、利益と相殺され、約6,000万円もの法人税等の負担を合法的に減らす(圧縮する)ことが可能になります。

会社ごと売っていればゼロだったはずの恩恵が、事業譲渡で切り出すだけで6,000万円のキャッシュアウトを防ぐ力に変わるのです。

複雑なシミュレーションは不要。選択肢は「一択」です

税理士やM&Aコンサルタントの中には、含み損があるケースに直面した際、「株式譲渡でそのまま売った場合と、事業譲渡で切り出した場合、どちらが最終的に有利になるか、精緻にシミュレーションしてみましょう」と、もっともらしく、難しく語る人がいます。

もちろん、あらゆる可能性を検証することは重要に思えるかもしれません。

しかし、長年実務の最前線に立ち、経営者の利益に直結する判断を下してきた私の視点から言わせてもらえば、シミュレーションするまでもなく、含み損があるなら不動産だけを切り出して売却した方が圧倒的に安く済みます。

  • 時価と簿価の乖離(ギャップ)が激しければ激しいほど、売却損は大きくなる
  • 売却損が大きければ大きいほど、そこから捻出される税額の減少(節税)効果は絶大になる

このシンプルな事実を知らずに、あるいは「手続きが面倒だから」という理由で株式譲渡を進めるのは、目の前にある数千万円の現金を文字通りドブに捨てるのと同じ行為です。

専門家としての知見から申し上げれば、含み損がある時点でのスキームは「切り出し一択」と言っても過言ではありません。

(補足)「含み益」がある場合は強烈な罠に注意

ここまで「含み損」がある場合のセオリーをお話ししてきましたが、逆に不動産に「含み益(買った時より価値が上がっている状態)」がある場合は、話が全く変わってきます。ここには、多くの経営者が陥りがちな強烈な罠が潜んでいます。

含み益がある会社を、一般的な株式譲渡でそのまま売却しようとする際、もし会社の総資産の70%以上が「所有期間が5年以下の土地等」で占められていると、税務上「土地譲渡類似株式」とみなされてしまいます。

これが何を意味するのか。通常の株式譲渡であれば約20%で済むはずの税金が、短期譲渡所得として扱われ、約40%もの重い税金が課せられることになります。

良かれと思って選んだシンプルな株式譲渡が、最悪の税負担を生み出す罠になり得るのです。

ここで、含み益がある場合と含み損がある場合のアプローチの違いを明確にしておきましょう。

  • 【含み益がある場合】
    「土地譲渡類似株式」という重税の罠を確実に避けつつ、会社分割などの高度な手法を用いた、緻密な有利不利判定(A/Bテスト)が絶対に必須となります。
  • 【含み損がある場合】
    迷わず「切り出し(事業譲渡等)」を選択し、売却損による税金圧縮効果をフルに享受します。

これが、我々財務のプロフェッショナルが用いる、不動産M&Aにおける明確な判断基準です。

仲介会社任せにせず、まずは「正しい財務診断」を

最後に、経営者の皆様に強くお伝えしたいことがあります。

M&A仲介会社は、あなたの会社を「高く売る」「早く売る」ための、マッチングや交渉のプロフェッショナルです。

しかし、必ずしも「あなたの最終的な手残りを1円単位で最大化するための、税務や財務のプロフェッショナル」ではありません。

会社の売却は、経営者にとって人生の一大イベントです。

そのプロセスにおいて、「そんな税金の仕組みは知らなかった」「もっと手元にお金を残す方法があったのに」では済まされない、巨額のキャッシュが動きます。

  • 「自社の不動産は、現状の時価でどう評価されるのか?」
  • 「含み損を活用した場合、具体的にどこまで手残りを増やせるのか?」

もし、会社や事業のM&Aを少しでもご検討中であれば、決して性急に契約書にサインをしないでください。

その前に、我々のような税務・財務の専門家に一度ご相談いただくことを強くお勧めします。

財務諸表(決算書)を拝見させていただければ、プロの視点から現状を分析し、あなたの利益を最大化する最適な売却スキームの方向性を診断いたします。

まずは直近の決算書をもとに、自社不動産の「時価と簿価のギャップ」がどうなっているのか、現状の正しい立ち位置を確認するところから始めてみませんか?

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