決算書の作り方:決算書を銀行との対話ツールとして考える

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。

今回は「決算書をどのように作り、どのように銀行との対話に活かすか」という視点から、具体的なポイントや改善策をお伝えします。

中小企業の経営者様とお話ししていると、よく聞こえてくるのが「決算書の数字はあまり良くないけれど、実際の会社の実力はもっと高いんです」「将来の伸びしろがあるのに、数字だけで判断されてしまう」といったお悩みです。

確かに、決算書の数字だけを見ても、会社の真の強みや将来性は完全には見えてきません。

しかし、銀行との関係を良好に保ち、必要な資金を必要なタイミングで調達するためには、やはり決算書は避けて通れない重要なツールです。

私は、税理士として10年以上、多くの中小企業の財務に携わった後、コンサルタントとして資金調達を支援してきました。

その経験から言えるのは、「決算書の見方と対策を正しく理解し、銀行との対話に役立つ形へと整えることで、銀行との関係が大きく改善する」ということです。

本記事では年商1億円前後の中小企業の経営者の皆様を中心に、銀行が決算書で注目しているポイントと、そこをどう改善・活用していけばよいかをお伝えします。

なぜ銀行は決算書にこだわるのか

1. 「将来性を理解してくれない」という声の裏側

「うちの会社には将来性があるのに、銀行は決算書の数字だけで判断しようとする」「経営者の熱意や事業計画を理解してくれない」といった不満は、特に中小企業の経営者様からよく耳にするものです。

しかし、銀行が融資判断の8割以上を決算書で下しているのは、決して意地悪をしているわけではありません。そこには明確な理由があります。

銀行員は、残念ながら“予知能力”を持ち合わせていません。

経営者の方が3年後の売上目標や、新規事業での収益倍増プランをどれだけ熱く語っても、それを100%数値化して融資判断に反映させるのは難しいのです。

過去の実績なら客観的な裏付けがあるため、銀行としてはどうしても決算書という「過去の実績」に頼らざるを得ないという背景があります。

2. 決算書は銀行との“対話ツール”

それでは「将来性があるのに数字に表れていない」場合、経営者にとって銀行とのやり取りは不利になるのでしょうか。

実は、そのように捉えるよりも、決算書を“対話ツール”として活用するチャンスと考えるほうが得策です。

なぜなら、銀行員は決算書を読み解くことで、会社の方針や経営者のクセ(強みや特徴)を把握しようとしているからです。

例えば、銀行員は次のようなポイントを通じて、「この会社はどのような経営をしているのか」を感じ取ろうとします。

  • 営業力を接待費で強化している会社なのか
  • 設備投資に積極的な会社なのか
  • キャッシュフローを重視する会社なのか

これらの内容から、会社がどれだけ成長意欲を持っているか、どんな強みに資金を投下しているかなどを推測します。

決算書をただの「数字の羅列」ではなく、「銀行に自社の特徴をアピールするための資料」としてとらえることで、対話がよりスムーズになり、銀行との関係性が深まりやすくなります。

決算書を活用する実践的アプローチ

ここからは、経営者の皆様が具体的に取り組みやすい方法をお伝えします。

特に、会社の規模が年商1億円前後の場合、資金繰りが逼迫しやすかったり、成長投資に踏み切るタイミングで資金不足になりがちだったりすることが多いです。

そのためにも、「決算書をどのように改善し、銀行との対話を有利に進めるか」が重要なテーマとなります。

1. 月商を基準にした指標の確認

まずは自社の「月商」(年間の売上を12で割ったもの)を明確に把握しましょう。

月商は、日々の経営状況や運転資金の水準を考える際の一つの指標です。

月商をベースに、以下の項目を計算してみてください。

  • 現預金 ÷ 月商 = 手元流動性
  • 売上債権(売掛金 + 受取手形)÷ 月商
  • 在庫(商品 + 製品 + 原材料)÷ 月商
  • 借入金合計 ÷ 月商

これらは単に「数字を出すだけ」で終わらせるのではなく、銀行がどのように見るかを意識しておくことが大切です。

それぞれの指標は、会社の資金繰りや運転資金の状況を読み解く上でのヒントになり、銀行員が融資審査の際に注目するポイントでもあります。

2. 特に重要な「手元流動性」

上記の中でも特に重要視されるのが「手元流動性(現預金 ÷ 月商)」です。

一般的に「2ヶ月以上あると好印象を持たれる」と言われていますが、これは売上が一時的に落ち込んでも2ヶ月は持ちこたえられる“経営の忍耐力”を意味するからです。

銀行としても、突然の経営環境の変化や売上減少が起きたときに、すぐに返済が滞りそうな企業はリスクが高いと判断します。

そのため、手元流動性が高いほど「堅実な経営をしている会社だ」と捉えられる傾向があります。

手元流動性の維持・向上は、融資判断や金利条件などで優遇を受けるためにも重要なポイントとなるのです。

3. 売上債権・在庫の管理と借入金のバランス

「売上債権 ÷ 月商」が高い場合は、売掛金の回収期間が長いなど、キャッシュフローに課題がある可能性を示します。

銀行は、回収サイトが長すぎると運転資金が不足しがちになると判断するため、資金繰りの面で警戒することがあります。

取引先との条件交渉や、請求から入金までのプロセスを見直すことで、数値の改善を図るとよいでしょう。

「在庫 ÷ 月商」が高いときには、商品や原材料などが過剰に積み上がっている恐れがあり、資金が効率的に使われていないと見られる場合があります。

過剰在庫は資金繰りを圧迫する原因になりますので、在庫管理の徹底と適切な仕入れ計画が不可欠です。

また「借入金合計 ÷ 月商」が極端に高い場合は、銀行から見ると「返済に苦労しそうな会社」という印象を与えかねません。

借入比率を下げるか、返済計画を明確に示すことで、余裕のある経営を目指すことが重要です。

決算書を銀行とのコミュニケーションに活かすコツ

1. 決算書の“改善”と“説明”をセットで考える

決算書を銀行との対話ツールとして活用する場合、実際の数字を良くする“改善”と、それをわかりやすく伝える“説明”の両方が必要です。

決算書をどう作るか、どのような内訳で経営をしているか、なぜそのような数値になっているのか。

これらをきちんと説明できるようにしておくと、銀行員も「この会社はしっかりと経営の状況を把握している」と判断し、信頼感を高めやすくなります。

2. 短期的な利益調整よりも長期的な戦略を

中には、決算対策として短期的な利益調整だけに注力する経営者の方もいらっしゃいます。

もちろん、税負担を軽減するための工夫などは経営上必要な場合がありますが、それだけでは銀行員に「結局、この会社の長期的な戦略は何か?」という疑問を与えてしまうかもしれません。

むしろ、設備投資や広告宣伝など未来への投資がどのように利益に貢献し、どれくらいの期間で回収できそうかといった“ストーリー”を決算書の裏付けとして示すことが望まれます。

3. 数値だけでなく、補足資料やヒアリングを活かす

決算書の数字が思わしくない場合でも、銀行との面談や補足資料(試算表・事業計画書など)を活用して自社の将来性をアピールすることは可能です。

「なぜ過去の数字が悪いのか」「どのような対策を打ってきたのか」「今後の改善見込みはどうなのか」を丁寧に伝えることで、銀行員の心証を大きく変えられるケースもあります。

まとめ:決算書は“数字の羅列”から“経営力のアピール手段”へ

決算書は単なる数字の集まりではなく、銀行との重要なコミュニケーションツールです。

自社の月商を基準にした指標を把握し、手元流動性や売上債権・在庫管理、借入金の水準などを改善することで、銀行からの評価を着実に高めることができます。

そして、数字を整えるだけでなく、どのような経営方針のもとにその数字になっているか、将来的にどのような展望を持っているのかをきちんと説明することこそが、銀行との信頼関係を育む大きな鍵となります。

次回は、貸借対照表の項目についてより具体的に見ていきたいと思います。特に、銀行が「会社の忍耐力」として注目する指標や、その強化方法を詳しく解説します。

皆様が決算書を“銀行との対話ツール”として活用し、必要な資金を適切なタイミングで調達できるよう、引き続きわかりやすくお伝えしていきますので、ぜひご覧ください。

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