経営者保証ガイドラインの基本的な考え方と活用のポイント

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。

今回は、2014年2月に導入されて注目が高まっている「経営者保証ガイドライン」について、その基本的な考え方と活用のポイントをお伝えします。

このガイドラインが担う大きな役割は、経営者の個人保証依存を見直し、企業の円滑な事業承継と再チャレンジを後押しすることにあります。

特に「後継者が決まらない」「個人保証を後継者に負わせたくない」といった課題を抱えている企業にとって、ガイドラインは非常に有効な施策です。

本記事では、ガイドラインの背景と概要を整理した上で、「保証解除が可能となるための条件」と「実務での活用のポイント」を詳しく解説していきます。

なぜ今、経営者保証ガイドラインが重要なのか

私が中小企業の経営者の方々と接する中で、よく耳にするのが次のようなお悩みです。

  • 「後継者に経営を譲りたいが、個人保証の引継ぎが心配で踏み切れない」
  • 「保証を外してもらえる条件がよくわからない」
  • 「銀行との交渉の仕方がわからない」

このような悩みをお持ちの経営者は、実は決して珍しくありません。日本の企業約420万社のうち130万社が後継者未定であるといわれています。

また、中堅企業の平均引退年齢は67歳、中小企業においては70歳とされており、企業規模を問わず“事業承継は待ったなしの課題”になりつつあるのです。

そうした状況の中で、「経営者保証ガイドライン」 は、経営者個人の保証に依存しない金融慣行への移行や、事業承継の際の旧経営者の個人保証解除、さらには再チャレンジ支援などを通じて、大きな役割を果たすと期待されています。

ガイドラインが目指す3つの方向性

経営者保証ガイドラインは、大きく3つの方向性をもって制度設計がなされています。

ここではそれぞれの概要と、具体的な取り組み内容を解説します。

1. 経営者保証に依存しない融資の促進

これまでの日本の中小企業金融では、融資を受ける際に経営者の個人保証がほぼ当たり前のように求められてきました。

これに対し、ガイドラインでは、以下の取り組みを通じて「個人保証」に過度に依存しない融資姿勢への転換を促しています。

  • 経営と個人の資産・経理の明確な区分
    会社の資産と経営者個人の資産を混同しないようにすることが大切です。
    経理処理や記帳も含め、境界線が曖昧にならないよう、ガイドラインに沿ったルール整備が求められています。
  • 企業の資金と個人の資金の混同を避ける
    経営者が会社資金を私的に流用していると疑われないよう、日頃から適切な帳簿管理・経費精算を心がけましょう。
  • 適切な給与支給と配当政策の実施
    経営者や役員への報酬、株主への配当などを、無理のない範囲で設定し、会社の信用力を維持・向上することが大切です。
  • 個人と会社の取引の適正価格での実施
    経営者個人が会社に不動産や設備を貸す場合など、取引の条件を適正価格に保つこともポイントです。
  • 財務基盤の強化による信用力の向上
    具体的には、自己資本比率の向上(目標35%以上)や計画的な設備投資、十分な運転資金の確保などが挙げられます。
  • 適切な情報開示による信頼関係の構築
    月次決算を行い、資金繰り計画や経営計画の策定・進捗を銀行などに共有することで、透明性の高い経営姿勢を示すことができます。

2. 事業承継時の旧経営者の保証解除

後継者が事業を引き継ぐ際に、先代経営者が残した個人保証がそのまま引き継がれることを不安視するケースは非常に多いです。

ガイドラインは、後継者が安心して事業を継げるよう、旧経営者の保証を解除する仕組みを整えています。

  • 新旧経営者の円滑な交代の実現
    計画的な経営権の移転や、段階的な株式移転を行うことで混乱を防ぎます。
    役割分担を明確にし、新経営者の経営意欲が損なわれないようにすることも大切です。
  • 過度な保証負担の軽減
    新経営者がいきなり多額の債務や連帯保証を引き受けるのではなく、会社の財務状況に応じた段階的な保証負担を検討できるよう支援します。
  • 事業承継の阻害要因の除去
    旧経営者の保証債務整理や、新経営者の保証条件を明確化することで、経営体制の整備もサポートします。

3. 保証債務の整理による再チャレンジ

経営者の個人保証が重荷となり、早期の事業再生や再チャレンジを断念せざるを得ない状況も少なくありません。

ガイドラインは、こうした事態を減らすためにも「保証債務の合理的な整理」を重要視しています。

  • 経営者の早期の事業再生
    早期に経営改善に着手し、実現可能な再生計画を策定した上で、金融機関と建設的に協議することが大切です。
  • 保証債務の合理的な整理
    必要に応じて保証債務の一部免除や返済計画の再設定などを検討し、経営者の生活再建を含めた再スタートを支援します。
  • 地域経済の活性化
    事業が継続可能になることで雇用を維持し、取引先への影響を最小限にとどめることが、結果的に地域経済の活性化にもつながります。

導入から現在までの変化

このガイドラインが導入されたのは2014年2月ですが、特に2017年頃を境にして制度の運用や金融機関の意識が大きく変わりました。

ここでは、その主な要因をご紹介します。

金融行政の変化

金融庁が「事業性評価融資」を推進し、担保や保証に過度に頼らない融資姿勢を明確に打ち出しました。

事業の将来性や経営者の資質を重視した審査を行うことで、金融機関にも「地域経済を支えるコンサルティング機能」が求められています。

銀行の意識と行動の変化

従来のやり方では収益が上がりにくいため、新規取引先の開拓や事業性評価によるリスク管理を進める銀行が増えています。

人材育成の面でも、経営を見通す「目利き力」やコンサルスキルを高める取り組みが活発です。

社会的要請の高まり

経営者の高齢化や後継者不在など、事業承継に対するニーズが急速に拡大しています。

M&Aなど第三者承継への関心も高まっているため、ガイドラインによる保証解除や保証負担の軽減がますます求められる状況です。

保証解除の可能性を判断する基準

ガイドラインを実践するにあたっては、「どんな企業が保証解除を受けられるのか?」という基準が気になるところです。

大きく分けて以下の3つの要素が総合的に判断されます。

1. 銀行の格付け基準

銀行は企業を格付けし、融資の判断や金利設定の参考にしています。

一般的に「格付け4~5以上(メガバンクの10段階評価で上位4~5位、地方銀行の6段階で上位2~3位)」が目安となります。

  • スコアリング基準
    多くの金融機関では100点満点や129点満点などの独自スコアリングを行います。
    最低ラインとしては55点以上、望ましいのは60点以上など、銀行ごとにラインが設定されていることが多いです。
  • 格付け向上のポイント
    決算書の数値改善(売上高や利益、自己資本比率など)を着実に進めることが第一です。
    また、社長や役員の能力・事業の将来性など非財務情報(定性評価)も重要視される傾向にあります。

2. 財務内容の健全性

財務体質が健全であるほど、銀行は「個人保証なしでも返済能力がある」と判断しやすくなります。

目安となる指標は次の通りです。

  • 自己資本比率
    最低35%以上、可能であれば40%以上が望ましいとされます。
    自己資本比率は、企業にどれだけ自己資本が蓄積されているかを示す指標です。
  • 債務償還年数
    製造業であれば7年以内、小売・卸売業は5年以内、設備投資型産業は10年以内などが目安です。
    業種によって違いがあります。
  • 各種収益指標
    売上高経常利益率3%以上、インタレストカバレッジレシオ3倍以上、営業キャッシュフローがプラス維持などが目安です。
    銀行が重視する数値を押さえましょう。

3. 経営の透明性

経営者が自社の情報をどれだけ正直かつ適切に開示しているかも、保証解除の検討材料になります。

日々の月次決算や予算実績管理、さらには定期的な経営計画の策定などが求められます。

  • 月次決算の実施
    翌月10日までに経営数値を確定し、部門別に収益やコストの把握ができる体制があることが理想的です。
  • 経営計画の策定と実行
    3年程度の中期計画を立て、その進捗を毎月チェックします。
    実際の進捗と計画の乖離をどのように埋めるか、金融機関との情報共有を行いながら改善を進めることがポイントです。
  • 定期的な情報開示
    月次レポートや四半期ごとの経営者面談を通じて、会社の状況をこまめに共有しましょう。
    重要事項が発生した場合も、事前相談する習慣をつけると銀行との信頼関係が深まります。

実践的な活用のポイント

それでは、経営者保証ガイドラインを自社でどのように活用すればよいのか、私自身の経験も踏まえた実践的なポイントをご紹介します。

1. 自社の現状把握

まずは、客観的な分析を行い、銀行に開示しても問題ないレベルの情報管理を行いましょう。

  • 決算書の分析
    過去3期分の売上高や利益、借入金の推移、自己資本の増減などをチェックします。
    損益とキャッシュフローが乖離していないかも重要です。
  • 重要指標のチェック
    自己資本比率、損益分岐点比率、キャッシュフローなどを業界平均や同業他社と比較します。
    同業他社と比較することで、自社の立ち位置を把握できます。
  • 銀行取引状況の確認
    メインバンクやサブバンクごとの借入条件、返済予定、保証や担保の状況をまとめます。
    どの銀行との取引が最も深いのか確認することが大切です。

2. 計画的なアプローチ

保証解除を目指す場合、いきなり「保証を外してください」と交渉しても銀行側の理解は得られにくいものです。

短期・中期の目標を設定し、着実に実行していきましょう。

短期的な取り組み(3ヶ月以内)

  • 経営管理体制の整備(月次決算・資金繰り表の作成など)
  • 報告資料の整備(経営計画・業績見通しなど)
  • 遊休資産の処分や不採算部門の見直しなど、早期に取り組める改善を実施

中期的な取り組み(1年以内)

  • 利益の内部留保を高め、自己資本比率を改善
  • 営業面では顧客基盤の拡大や価格戦略の見直しを行い、収益力をアップ
  • 組織体制の整備(権限委譲や人材育成など)により、経営者が詳細業務から離れやすい環境をつくる

3. 銀行とのコミュニケーション

最終的に保証解除を判断するのは銀行です。したがって、定期的かつ前向きな情報開示と対話が欠かせません。

  • 効果的な情報提供
    月次決算資料、資金繰り状況、受注・販売動向などを定期的に報告し、重要事項は事前相談するようにします。
    設備投資計画や新規事業展開を考えている場合も、タイミングを逃さず報告しましょう。
  • コミュニケーションの質の向上
    「資料は揃っているが説明が不十分」というケースも少なくありません。
    経営者自身が銀行担当者と直接面談し、自社の現状や課題を丁寧に説明し、建設的なフィードバックを得ることが大切です。
  • 提案型の対話
    一方的に「保証を外してほしい」と訴えるのはやめましょう。
    「こういう改善策を実行中なので、一定期間後に保証解除をご検討いただけるでしょうか」といった形で具体的に提案しましょう。

まとめ

経営者保証を解除するためには、企業の財務体質やガバナンス体制を着実に強化しなければなりません。

決して容易な道のりではありませんが、しっかりとした準備と段階的な取り組みにより、必ず道は開けます。

なお、経営者保証ガイドラインに関する最新の情報や細かい事例などは、無料メルマガで紹介しています。

こちらも参考にしていただき、もし疑問点や不安な点があれば、お気軽にお問い合わせください。

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