「法人税は安くならない」は本当か?節税の本質は「利益の平準化」

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

「今期は予想以上に利益が出すぎた。税金を払うくらいなら、何か買って経費にしたい」

決算期が近づくと、多くの経営者様からこのようなご相談をいただきます。

手元に残るキャッシュを少しでも多くしたい、そのお気持ちは痛いほどよく分かります。

しかし、現場で数多くの決算書を見てきた税理士として、あえて正直なことを申し上げます。

法人税対策のほとんどは、「税金を安くする(消滅させる)」ものではありません。

では、我々は一体何をご提案しているのか?それは、「課税の繰り延べ(税金の先送り)」です。

「単に先送りするだけなら、結局払うのだから意味がないのでは?」そう思われるかもしれません。

しかし、中小企業の経営戦略において、この「繰り延べ」こそが、会社を守り、さらに銀行からの評価を高めるための極めて重要な戦略となるのです。

今回は、単なる節税の枠を超えた「利益の平準化」という視点から、会社を強くする戦略的な決算対策についてお話しします。

1. なぜ「税金は安くならない」と言われるのか?

まず、節税対策の基本的なメカニズムについて整理しておきましょう。

世の中には「節税商品」と呼ばれるものが数多く存在します。

生命保険やオペレーティングリース、あるいは設備投資による即時償却などが代表的です。

これらを活用すると、今年の利益を減らし、直近の税金を抑える効果は確かにあります。

しかし、これには「出口」があります。

将来、保険を解約して解約返戻金を受け取ったり、リース期間が終了して資金が戻ってきたりした時、それらは再び「収益(雑収入)」として計上されます。

当然、そこでは再び課税が発生します。

入り口で経費にして税金を減らしても、出口で収益となって税金がかかる。

トータルで見れば、支払う税金の総額は大きく変わらないケースがほとんどです。

これが、専門家が「節税=課税の繰り延べ」と呼ぶ理由です。

では、なぜ多くの企業がコストや手間をかけてまで、この対策を行うのでしょうか?

その最大の目的は、税金を消すことではなく、「利益のコントロール(平準化)」にあるからです。

2. 中小企業にこそ「利益の平準化」が必要な理由

大企業と中小企業の決定的な違いの一つに、「事業ポートフォリオの数」が挙げられます。

多くの事業を持つ大企業とは異なり、中小企業の多くは単一の事業、あるいは少数の事業で成り立っています。

これは、マーケットの変動や景気の影響をダイレクトに受けやすいというリスクを意味します。

私の顧問先でもよく見られる光景ですが、

  • 「今年は特需があり、絶好調で利益が1億円出た」
  • 「翌年は市場環境が変わり、赤字すれすれまで落ち込んだ」

このように、中小企業の業績は波(ボラティリティ)が非常に激しくなりがちです。

ここで何も対策をしないとどうなるでしょうか?

利益が大きく出た年に多額の税金をキャッシュで支払います。

その翌年、業績が悪化した時に手元資金が枯渇していれば、会社は一気に存続の危機に瀕します。

「簿外」に資金をプールする機能

ここで活きてくるのが「課税の繰り延べ」による利益の平準化です。

  1. 好調な時に、利益の一部を「経費」として社外(保険やリースなど)にプールしておく。
  2. 業績が悪い年や、大規模な投資資金が必要なタイミングで取り崩して「益出し」をする。

このコントロールを行うことで、好調時の税負担を抑えつつ、その資金を不調時の補填に回すことができます。

つまり、経営の安定性を高める「ダム」のような機能を自社に持たせることができるのです。

3. 意外と知られていない「銀行評価」への絶大な影響

「利益の平準化」には、もう一つ、経営者にとって実務上非常に大きなメリットがあります。

それは、「銀行からの評価(格付け)が安定する」ということです。

融資を受けようとする際、銀行の担当者は決算書をどのように見ているかご存知でしょうか。

銀行の融資担当者は、一人で膨大な数の企業を担当しています。

そのため、すべての会社のビジネスモデルや社長の情熱、個別の事情までを細部まで分析する時間は、物理的にありません。

結果として、基本的には決算書の数字による「形式基準」で判断せざるを得ないのが実情です。

銀行が嫌うのは「不安定さ」

銀行が最も好むのは、「毎期安定して黒字が出ている会社」です。

逆に、一度でも大きく赤字を出してしまうと、銀行の評価はリセットされてしまいます。

「赤字から立て直した1期目の会社」と見なされ、これまでの信用実績が毀損してしまうのです。

一般的に、一度落ちた信用評価(格付け)が元の水準に戻るまでには、3年程度かかると言われています。

  • 利益が出すぎた年は、そのまま計上すると「異常値」と見られることもある
  • 赤字の年は、融資の引き上げや金利上昇のリスクがある

だからこそ、利益が出すぎた年には繰り延べを行い、苦しい年には益出しをして黒字を維持する。

「利益の平準化」は、決算書の見栄えを整え、銀行との取引を円滑にするための必須テクニックなのです。

4. 節税対策は「コスト」と割り切る視点

ここまでお読みいただくと、法人税対策に対する見方が少し変わってきたのではないでしょうか。

多くの経営者様は「手元のお金を減らしたくない」という一心で節税を検討されます。

しかし、本質的な捉え方は以下のようになります。

法人税対策にかかる費用は、単に税金を払わないための出費ではなく、「毎期の利益をコントロールし、銀行との取引を正常化・有利にするための必要コスト」である。

銀行からの格付けが高ければ、いざという時に低金利で多額の融資を受けることができます。

その「資金調達力」こそが、中小企業が生き残るための生命線です。

目先の税金支払いを回避するためだけでなく、会社の財務体質を強化するための「投資」あるいは「保険料」として、節税商品を戦略的に活用する視点を持っていただきたいと思います。

5. 戦略的な決算対策は「3ヶ月前」が鉄則

最後に、具体的なアクションについてお伝えします。

「税金の支払いを先送りし、会社の緊急時に備える」

「決算書の見栄えを良くし、融資を受けやすい体質を作る」

これが、我々プロが提案する「正しい節税」の本質です。

しかし、この戦略を実行するには「時間」が必要です。

決算月のギリギリになって「何か対策はないか」とご相談いただいても、できることは限られます。

  • 申請や契約に時間がかかる制度がある
  • 自社に最適な商品選定やシミュレーションの時間が必要
  • 駆け込みでの購入は、不要なものを買ってしまうリスクがある

理想は決算の3ヶ月前から

理想は決算の3ヶ月前、遅くとも2ヶ月前には着手すべきです。

第3四半期が終わった段階で着地見込みを作成し、「今期は利益が出そうだ」と感じたら、その時点で動き出す必要があります。

単にモノを買って経費にするのではなく、

「この利益を来期以降の経営にどう活かすか?」

「数年後の資金需要に向けて、どうプールしておくか?」

という視点で対策を練ることが、強い財務体質を作ります。

まとめ

「法人税は安くならない」というのは、ある意味で事実です。

しかし、それを「意味がない」と切り捨てるのは早計です。

中小企業経営において、利益の波をコントロールし、銀行評価を維持することは、税金の多寡以上に会社の生存率に関わる重要事項です。

次回の決算に向けて、単なる「節税」ではなく、企業の存続と成長のための「財務戦略」として、決算対策を見直してみてはいかがでしょうか。

もし、来期の見通しが立ち始めた段階であれば、ぜひ一度当事務所までご相談ください。

単なる課税の繰り延べにとどまらない、銀行評価までを見据えた最適な利益計画と実行プランをご提案いたします。

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