担当者交代はピンチじゃない!関係を深化させ銀行融資を有利にする「4つの備え」

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
中小企業の経営者の皆様にとって、金融機関は事業の成長に欠かせない重要なパートナーです。
日々の資金繰りの相談から、未来を拓く設備投資の計画まで、担当者の方と密に連携を取られていることでしょう。
しかし、多くの経営者が頭を悩ませる問題があります。それは、金融機関の「担当者の異動」です。
数年ごとに訪れるこの変化のたびに、「また一から関係構築か…」「新しい担当者はうちの事業を理解してくれるだろうか」といった不安や手間を感じたご経験はございませんか?
せっかく時間をかけて築いた信頼関係が、異動一つでリセットされてしまうのは、経営にとって大きな損失です。
ですが、ご安心ください。実は、いくつかのポイントを事前に押さえておくだけで、担当者の交代を乗り越え、むしろ金融機関との関係をより強固なものへと深化させることが可能です。
今回は、担当者が代わっても安定した関係を維持し、それを好機として捉えるための「4つの備え」について、具体的な方法を交えながら詳しく解説いたします。
備えその1:担当者一人に依存しない!「支店全体」を味方につける関係構築術
なぜ「担当者個人」との関係だけでは危険なのか?
まず最も避けたいのは、金融機関との関係を特定の担当者一人だけに依存してしまうことです。
どんなに優秀で、自社に親身になってくれる担当者であったとしても、彼らも組織の一員である以上、異動は避けられません。
その担当者が異動してしまえば、これまで積み上げた信頼も、自社の事業への深い理解も、すべてがリセットされかねません。
これでは、安定した資金調達は「個人の力量」という不確定な要素に左右されてしまいます。
重要なのは、特定の担当者とではなく「支店そのもの」と良好な関係を築くという意識です。
支店全体があなたの会社の「応援団」になってくれれば、たとえ担当者が代わっても、引き継ぎはスムーズに進み、関係が途切れることはありません。
支店長・役席と繋がるための具体的な3つのアクション
では、どうすれば支店全体を味方につけることができるのでしょうか。
鍵となるのは、担当者だけでなく、「支店長」や融資の決裁権を持つ「貸付担当役席(融資課長など)」といった方々とも顔の見える関係を作っておくことです。
とはいえ、いきなり役席者にアポイントを取るのは難しいかもしれません。
まずは、日々のやり取りの中で、以下のような小さなアクションを積み重ねていくことが有効です。
- 月次試算表の報告
担当者に渡すだけでなく、「支店長にもご一読いただければ幸いです」と一言添えて、コピーをお渡ししましょう。
これは単なる儀礼的な挨拶ではありません。経営状況を自らオープンにする誠実な姿勢を示す、重要なコミュニケーションなのです。 - 担当者との面談時の紹介依頼
担当者との面談の際に、「〇〇様(貸付担当役席)にも、一度ご挨拶させていただけないでしょうか」と担当者にお願いし、紹介してもらうのも良い方法です。
担当者を立てつつ、自然な形で接点を作ることができます。 - 決算や年末の挨拶
節目となるタイミングで、担当者だけでなく、支店長や役席の方にも、日頃の感謝や会社の近況を簡単にお伝えしましょう。
短い時間でも、直接顔を合わせて話すことで、あなたの会社と経営者の存在を強く印象付けられます。
こうした地道な活動が、「あそこの会社は、経営状況をきちんと報告してくれる誠実な会社だ」という共通認識を支店内に育んでいくのです。
備えその2:初対面で信頼を勝ち取る!最強の武器「事業計画書」の活用法
新任担当者はあなたの会社をほとんど知らない
新しく着任した担当者や支店長は、残念ながら前任者から十分な引き継ぎを受けていないケースがほとんどです。
特に中小企業の場合、引き継ぎ資料はA4一枚程度の簡単なメモ、ということも珍しくありません。
彼らは手探りで情報を集めなければならない、いわば白紙の状態なのです。
この「はじめまして」のタイミングで、その他大勢の取引先から一歩抜け出し、絶大な効果を発揮するのが、自社の「事業計画書」です。
事業計画書に盛り込むべき必須項目
初対面の場で、「弊社のことをご理解いただく一助になればと思い、事業計画書を準備してまいりました」と言って、A4数枚にまとめた資料をお渡しするのです。
この事業計画書は、会社の過去・現在・未来を一枚の絵で見せることで、新任担当者が短時間で「この会社を応援すべき理由」を理解するための羅針盤となります。
具体的には、以下のような内容を簡潔に盛り込みましょう。
- 会社の沿革や事業内容
- 自社の強み、商品・サービスの特徴
- 今後の事業展開や目標
- それに伴う将来の資金需要 など
新任担当者の立場からすれば、このように整理された資料を提示されると、「この経営者はしっかりしている」「自分のためにわざわざ準備してくれた」と、非常に良い第一印象を持ちます。
単なる名刺交換で終わらせず、事業計画書という「会社の未来が詰まった名刺」を渡すことで、相手の関心を引きつけ、信頼関係を早期に構築する大きな一歩となるのです。
備えその3:融資の可能性は情報量に比例する!「待ち」から「攻め」の情報提供へ
金融機関の実務には、「顧客に関する情報量と融資の可能性は比例する」という鉄則があります。
彼らは融資を判断する際、決算書などの財務データはもちろんのこと、事業の将来性や経営者の人柄といった「定性的な情報」を極めて重視します。
しかし、多くの担当者は数十社から百社以上の企業を担当しており、多忙を極めています。
一社一社の情報を深く収集する時間は、残念ながらありません。
そこで重要になるのが、経営者の側から「積極的に情報提供を行う」という攻めの姿勢です。
担当者からの連絡を待つのではなく、こちらから会社の状況をこまめに伝えていきましょう。
忙しい担当者に響く効果的な情報提供とは
彼らは常に「融資先の良い情報」を探しています。
こちらから提供する情報は、担当者が融資の稟議書を書く際の強力な武器になるのです。
- 定期的な訪問と資料共有
毎月の試算表や簡単な事業報告書を持参し、担当者だけでなく、貸付担当役席や支店長にも直接手渡して説明しましょう。
数字の背景にあるストーリーを伝えることが重要です。 - 事業内容の見える化
会社のパンフレットや製品カタログを渡したり、ウェブサイトを一緒に見ながら事業内容を説明したりすることで、自社のビジネスモデルを深く理解してもらえます。 - 現場を見せる
「ぜひ一度、弊社の工場(店舗)の様子をご覧ください」と招待し、現場の活気や従業員の働く姿を直接見てもらうことは、どんな資料よりも雄弁に事業の魅力を伝えます。
オープンな相談が支援を引き出す
さらに、今後の設備投資計画やそれに伴う資金需要、現在抱えている経営課題などもオープンに相談してみてください。
金融機関を単なる「お金を借りる場所」ではなく、「経営課題を共に解決するパートナー」として捉える視点が、彼らの支援姿勢を具体化させます。
このような積極的な情報提供は、単に融資審査を有利にするだけでなく、「この会社は信頼できるパートナーだ」という評価を支店内で確立させ、長期的な関係強化に繋がります。
備えその4:担当者交代はピンチではない!関係をリセットし、深化させる絶好の機会
多くの経営者が、担当者の交代を「関係がリセットされるピンチ」と捉えがちです。
しかし、私はむしろ「関係をさらに深める絶好のチャンス」だと考えています。
前述の通り、新任者はあなたの会社の情報をほとんど持っていません。
これは裏を返せば、白紙の状態である新任者に、あなたの口から直接、会社の魅力やこれまでの経緯、そして未来のビジョンを情熱をもってインプットできるということです。
新任者だからこそ響く「伝えるべきこと」
新任者との面談では、受け身で質問に答えるのではなく、こちらから主体的に情報を整理して伝えてみましょう。
これは、新任担当者にとっての「業務の道標」を示す行為であり、彼らは安心して業務を引き継ぐことができます。
- これまでの融資の履歴と、その資金使途や成果
- 前任者とどのような相談をしてきたか(経営課題や今後の展望など)
- 金融機関に対して今後期待していること
これらの情報を伝えることで、新任者は「この経営者は、金融機関との付き合い方をよく理解している」と、あなたへの関心と敬意を一層高めるはずです。
支店全体との関係を再構築するチャンス
そして最も重要なのが、このタイミングで改めて支店長や貸付担当役席にも挨拶に伺い、新任担当者と共有した内容を報告することです。
担当者交代を一過性のイベントで終わらせず、組織的な関係強化に繋げることで、「新任の〇〇さんだけでなく、支店全体で貴社をサポートします」という無言のメッセージを金融機関側から引き出すことができるのです。
まとめ:変化を乗りこなし、安定した資金調達を実現するために
今回は、金融機関の担当者変更という変化を乗り越え、安定した関係を築くための4つの備えについてお伝えしました。
最後にポイントを振り返ります。
- 関係は「個人」ではなく「支店」と築く
担当者一人に依存せず、支店長や役席など複数のパイプを持ち、支店全体を味方につけましょう。 - 情報提供は積極的に
事業計画書や月次試算表などを活用し、自社の情報をこまめに開示することで、金融機関からの信頼と理解を深めましょう。 - 担当者交代は関係深化のチャンス
交代のタイミングを好機と捉え、こちらから主体的に働きかけることで、より強固なパートナーシップを再構築しましょう。
金融機関との関係は、一朝一夕に築けるものではありません。
しかし、今日ご紹介した「4つの備え」を日頃から意識し、一つでも実践することで、企業の根幹を支える資金調達は間違いなく安定します。
今回の内容が、皆様の今後の資金調達の一助となれば幸いです。
ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
