銀行融資の浮気は報告で解決!メインバンクとの関係を守る会話術

皆さんこんにちは。税理士の中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
「メインバンクに融資を断られたので、別の銀行から借りました」
資金繰りに奔走する社長にとって、これは会社を守り抜くための当然の経営判断であり、生き残るための正当な行動です。背に腹は代えられません。
しかし、無事に資金調達が成功してホッとしたのも束の間、次にこんな不安が頭をよぎることはないでしょうか。
「もし、別の銀行から借りたことがメインバンクにバレたら、ヘソを曲げられるんじゃないか?」
「『うちを裏切って他所に行ったのか』と、今後の付き合いにヒビが入るのでは?」
現場で多くの経営者様と接してきましたが、この「浮気(他行借入)への罪悪感」に悩む方は非常に多いです。
結論から申し上げます。その不安は、高い確率で的中します。
ただし、それはあなたが「ある行動」を怠った場合だけです。
逆に言えば、たった一つの手順を踏むだけで、このピンチを「社長は義理堅い人だ」「信頼できる経営者だ」という評価に変えることができます。
今回は、銀行員心理を熟知した立場から、関係をこじらせないための正しい「仁義の切り方」と、明日から使える具体的な会話術を解説します。
銀行員が最も嫌うのは「浮気」ではなく「隠し事」
まず、対等な交渉をするために、銀行員の本音と心理を正しく理解しましょう。
彼らは、あなたが他の金融機関と取引すること自体を全否定しているわけではありません。
ビジネスですから、より良い条件や、貸してくれるところから借りるのは当然の権利です。
銀行員もサラリーマンですから、その理屈は理解しています。
では、彼らは何に対して怒るのでしょうか。
彼らが最も嫌悪するのは、他行利用そのものではなく、「自分たちに内緒でコソコソ動かれた」という不信感です。
銀行業務において「情報の透明性」は命です。融資先が今どういう状況にあり、どういう資金調達をしているのかを把握できていない状態を、彼らは極端に恐れ、そして嫌います。
「隠れてコソコソ動く」=「何かやましいことがあるのではないか」
この図式が彼らの頭の中で成立してしまった瞬間、あなたへの信頼は地に落ちてしまいます。
最悪のシナリオは「決算書」でバレること
やってはいけない最悪のパターンをご紹介します。
それは、「何も言わずに決算を迎え、数ヶ月後に提出された決算書で発覚する」というケースです。
銀行員は、融資先から提出された決算書を隅々までチェックします。
特に「借入金明細」は注視しています。そこで彼らは気づくのです。
「あれ?うちが断った案件、〇〇信用組合から3,000万借りてるぞ。聞いてないぞ」
この瞬間、銀行員のプライドは大きく傷つきます。
「メインバンクである自分たちに一言もなく、他で調達したのか」という面目の問題だけではありません。
実務的なリスク管理の観点から、疑心暗鬼が生まれます。
- 「この社長は、都合の悪い情報を隠す人だ」
- 「我々に情報を開示しないということは、他にも隠し借入があるかもしれない」
- 「次は事前の相談もなく、うちの融資も他行に借り換えられるかもしれない」
こうなると、要注意先としてのレッテルを貼られ、次の融資審査は間違いなく厳しくなります。
「他で借りたから」厳しくなるのではなく、「信用できないから」厳しくなるのです。
バレる前に「自分から」言いに行くのが鉄則
では、関係悪化を防ぐためにはどうすればいいのか。答えは極めてシンプルです。
「融資が実行されたら、すぐにメインバンクへ挨拶に行くこと」
これに尽きます。
決算書でバレるのを待ってはいけません。
また、次の決算報告のついでに言えばいいや、と後回しにしてもいけません。
後ろめたいことほど、自分から先に開示する。
これが銀行取引における「誠意」の正体です。
わざわざ支店長や担当者を訪ね、「実は、他行から借りました」と報告する。
このアクションだけで、相手の受ける印象は「隠し事をする社長」から「律儀に報告してくれる信頼できる社長」へと180度変わります。
「断ったのは自分たちなのに、わざわざ報告に来てくれた」という事実は、銀行員の中に「申し訳なさ」と「感謝」の入り混じったポジティブな感情を生み出します。
銀行員のプライドをくすぐる「魔法のトークスクリプト」
ただ「借りました」と事実だけを伝えるのでは不十分です。
言い方ひとつで、相手の反応は変わります。
相手の顔を立てつつ、やむを得ない事情だったことを伝え、かつメインバンクとしての地位を尊重する。そんな「高度な言い訳の作法」があります。
挨拶に行く際は、ぜひ以下の流れで伝えてください。
具体的な会話例
「今回の設備投資資金ですが、本当は一番信頼している御行(おんこう)にお願いしたかったんです」
「ただ、先日はタイミングが合わず難しいというお話でしたので…どうしても事業に必要な資金だったため、やむを得ず〇〇銀行さんにお願いすることになりました」
「結果として他行からの調達にはなりましたが、私の中でのメインバンクは変わらず御行ですので、今後とも変わらぬご支援をお願いします」
このトークの重要ポイント
このトークスクリプトには、3つの重要な心理テクニックが含まれています。
- 「最初に相談したのはあなたたちだ」と強調する(仁義)
「あなたたちを無視したわけではない、一番頼りにしていたんだ」と伝えることで、相手のプライドを守ります。 - 「やむを得ず他へ行った」と伝える(不可抗力)
「浮気したくてしたわけではない、会社を守るために仕方なかったのだ」という正当性を主張します。
これにより、他行への乗り換え意図がないことを示せます。 - 「あなたが本命だ」と念押しする(関係維持)
これが最も重要です。
「今回の件があっても、私のメインバンクはあなたたちです」と明言することで、銀行員は安心し、今後の支援継続へのモチベーションを維持できます。
ここまで言われて、悪い気を起こす銀行員はいません。
むしろ、「断ったのはうちの方だし、それでも気を使って報告に来てくれた」と、あなたの誠実さを高く評価するはずです。
コンサルや税理士に「代弁」させてはいけない
最後に一つ、絶対に守っていただきたい注意点があります。
この報告に行く際、「気まずいから」「怒られそうだから」といって、顧問税理士や我々のようなコンサルタントに説明させようとする社長がいらっしゃいます。
これは絶対にNGです。逆効果にしかなりません。
銀行員は「社長自身の言葉」を聞きたがっています。
経営の根幹に関わる資金調達の話を人任せにする姿勢は、「頼りない経営者」あるいは「やましいことがあるから逃げている」と映ります。
私たち専門家が同行するのは構いませんが、あくまで「補佐」です。
「御行がメインです」「今回はやむを得ず借りました」という言葉だけは、必ず社長自身の口から伝えてください。
その一言の重みが、今後の融資環境を守り、雨降って地固まる結果をもたらします。
まとめ:借りた事実は変えられないが、伝え方は変えられる
他行から借りること自体は、決して裏切りでも何でもありません。
会社を存続・成長させるための、経営者としての立派な決断です。
しかし、銀行取引の根幹は、数字以前に「人間関係」です。
「借りた事実は変えられないが、伝え方は変えられる」ということを忘れないでください。
隠せば「不信」になりますが、話せば「信頼」になります。
もし、すでに他行から借りてしまって言い出しにくい状況にある、あるいはこれからどう銀行に切り出せばいいか悩んでいる方は、決算が来る前に一度ご相談ください。
社長の状況に合わせた、最善の関係修復プランを一緒に考えましょう。
