銀行融資は「月商」で見られる!決算書でチェックされる3つの重要指標

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。

「融資の申し込みに行くと、銀行員は決算書のどこを見ているのだろう?」

銀行の担当者と面談をする際、手元の決算書を見つめる彼らの視線が気になったことはありませんか。

多くの経営者様は、「自己資本比率などの難しい財務指標を計算しているのではないか」「赤字か黒字か、最終利益だけを見ているのではないか」と推測されています。

もちろん、それらも重要な要素です。しかし、実は銀行員が決算書を受け取って一番最初に行う動作は、もっとシンプルで原始的なものです。

それは、「売上高を12で割って、月商を出すこと」

これこそが、銀行員が企業の安全性や規模感を測るための「最初の定規」なのです。

今回は、数多くの融資案件に携わってきた経験から、銀行員が電卓を叩いてチェックしている「月商(げっしょう)」を使った3つの判断基準について、その裏側にある考え方をシェアします。

1. すべての基準は「月商」から始まる

銀行員は、決算書の貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)を見ると、まず頭の中で(あるいは実際にその場で電卓を叩いて)、年間の売上高を12ヶ月で割ります。

年間売上高 ÷ 12 = 平均月商

なぜ、真っ先にこれを行うのでしょうか?

それは、会社の規模感や資金の動きを「ひと月あたりのお金の動き」という単位に直して把握するためです。

決算書に記載されている「現預金 3,000万円」や「借入金 1億円」という数字は、単体で見てもその良し悪しは判断できません。

年商10億円の企業にとっての3,000万円と、年商5,000万円の企業にとっての3,000万円では、意味合いが全く異なるからです。

そこで銀行員は、「その数字は月商の何ヶ月分あるか(月商倍率)」という共通の物差し(定規)を当てはめることで、会社の安全性やバランスを瞬時に判断しているのです。

2. 銀行がチェックする「3つの信号」とは

月商という物差しを手に入れた銀行員は、次に貸借対照表(BS)の主要項目をチェックし、頭の中で「信号(安全・注意・危険)」を点灯させていきます。

特に重視されるのが、以下の3つのポイントです。

  1. 現預金(手元流動性)
  2. 借入金(借入金月商倍率)
  3. 売掛金・在庫(回転期間)

それぞれ、どのような基準で見られているのか、具体的に解説していきましょう。

3. ① 現預金:「あと何ヶ月生き残れるか?」

最初に見るのは「現預金」です。専門用語では「手元流動性(てもとりゅうどうせい)」とも呼ばれます。

銀行員はここで、「もし今日、売上がゼロになったとして、この会社は何ヶ月間生き残れるか?」という耐久力を測っています。

一般的な目安は以下の通りです。

  • 1ヶ月分未満:【赤信号】
    資金繰りが非常に厳しく、「カツカツの状態」と見なされます。
    突発的な出費や入金の遅れが命取りになるリスクがあると判断されます。
  • 1〜2ヶ月分:【黄色信号】
    標準的な水準ですが、安心はできません。
    業種によっては心許ない水準です。
  • 2ヶ月分以上:【青信号】
    ある程度の余裕があると見なされ、融資の検討をする土台に乗りやすくなります。

「現預金は多ければ多いほど良い」と思われがちですが、銀行が見ているのは絶対額ではなく、あくまで「月商に対して何ヶ月分持っているか」という比率です。

月商規模が大きくなればなるほど、必要とされる現預金の水準も上がっていくことを意識しておく必要があります。

4. ② 借入金:「身の丈に合った借金か?」

次に見るのは、会社を回すための運転資金として、どれくらいお金を借りているかです。

これを「借入金月商倍率」と言います。

ここで重要なのは、工場建設や機械購入などの「設備資金」は除いて考えるということです。

あくまで、日々の営業活動に必要な「運転資金」としての借入がどの程度あるかをチェックします。

  • 3ヶ月分以内:【健全】
    売上規模に対して適正な範囲内と見なされます。
  • 6ヶ月分以上:【懸念あり】
    「借りすぎではないか?」と警戒レベルが上がります。
    返済負担がキャッシュフローを圧迫している可能性を疑われます。

借入金が多いこと自体が「悪」ではありません。

しかし、銀行は「月商(=返済原資を生み出す力)」に対して、借入額が大きすぎないかを見ています。

月商の6倍を超える借入がある場合、それを返済していくだけの十分な利益が出ているかどうかが、より厳しく審査されることになります。

5. ③ 売掛金・在庫:「中身は腐っていないか?」

3つ目のポイントは、売掛金や在庫(棚卸資産)です。

これらは将来、現金化されるはずの資産ですが、月商に対してここが大きすぎると(回転期間が長すぎると)、銀行員は次のような疑念を抱きます。

  • 「回収できていない不良債権(焦げ付き)が含まれているのではないか?」
  • 「売れ残って価値のない不良在庫が溜まっているのではないか?」

特に、同業他社の平均や、自社の過去の推移と比べて明らかに長い場合は要注意です。

最悪の場合、「利益を出すために架空の売上を計上しているのではないか(粉飾決算)」という疑いを持たれることもあります。

銀行員は、これらの数字のバランスをパッと見て、「この会社は月商に対してバランスがおかしいぞ」と直感的に違和感を察知するのです。

6. 数字が悪くても諦めない!重要なのは「理由」の説明

ここまで読んで、「うちは現預金が月商の1ヶ月分もない…」「借入が月商の7ヶ月分ある…」と不安になられた経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、指標が基準より悪いからといって、すぐに融資を諦めなければならないわけではありません。

銀行審査において最も大切なのは、その数字になっている「理由」を銀行にきちんと説明できるかどうかです。

  • 「なぜ現預金が一時的に少ないのか?(例:大型仕入れの直後だから)」
  • 「なぜ借入金が多いのか?(例:季節変動に対応するための資金だから)」
  • 「なぜ在庫が増えているのか?(例:来月の大型案件に備えた先行発注だから)」

銀行員が不安に思うのは「実態が見えないこと」です。

経営者自身が自社の状況を正しく把握し、論理的に理由を説明した上で、今後の改善計画(どうやって正常なバランスに戻すか)を示すことができれば、銀行の見方は大きく変わります。

「数字が悪い=融資不可」ではなく、「数字が悪い=納得できる説明が必要」と捉えてください。

7. まずは自社の電卓を叩いてみましょう

今回の話のポイントは、「銀行は難しい分析をする前に、シンプルな『月商倍率』で足切りをしている可能性がある」ということです。

銀行員は意外とシンプルな見方をしています。だからこそ、決算書が出来上がったら税理士任せにするのではなく、経営者ご自身でも電卓を叩いてみてください。

  1. 自社の「平均月商」を出す
  2. 現預金が月商の何ヶ月分あるか確認する
  3. 借入金(運転資金)が月商の何ヶ月分あるか確認する

まずは現状(現在地)を知ることが、資金調達を成功させる第一歩です。

「銀行目線」での決算書診断をご希望の方へ

「自社の決算書が銀行からどう見られているのか、客観的に知りたい」

「数字のバランスが悪いが、どう説明すれば融資が通りやすくなるか相談したい」

そのようにお考えの経営者様は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。

当事務所では単に数字を作るだけでなく、「銀行員が納得するロジックの構築」を含めた、実践的な資金調達サポートを行っています。

御社の「強み」を正しく銀行に伝え、成長のための資金を確保するために、まずは「銀行の視点」を共有することから始めましょう。

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