なぜ資産運用が節税対策になるのか?これからの時代を生き抜く思考法

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

「相続対策といえば、まず不動産」——。

これは、多くの中小企業経営者様が抱く共通認識かもしれません。

もちろん、不動産を活用した節税は有効な手段の一つですが、長年クライアントの資産と向き合ってきた専門家として、私はあえてもう一つの選択肢を強く推奨したいと思います。

それが「資産運用」です。

「運用で増やした利益には税金がかかるのに、なぜ節税になるのか?」

そう思われるかもしれませんが、これからの時代、税金を支払ってでも、手元に残る財産を最大化するという発想こそが、会社とご自身の資産を本質的に守り、次世代へつなぐ鍵となります。

本記事では、なぜ今、経営者にこそ資産運用が必要なのか、そして多くの人が陥る罠を回避し、賢く資産を形成していくための具体的な考え方について、長年の経験から得た知見を余すことなくお伝えします。

時代は変わった!「現金最強」が終わった2つの理由

これまで40年近く続いたデフレの時代、日本円は「持っているだけで価値が上がる」資産でした。

しかし、その常識はもはや通用しません。

私たちは、会社の資産、そして個人の資産を守るために、考え方を根本から切り替える必要があります。

1. 忍び寄る「インフレ」の足音

世界的な潮流として、そして日本の政策転換の兆しとして、「インフレ」の時代が到来しつつあります。

インフレとは、モノの値段が上がり、相対的にお金の価値が下がる現象です。

デフレ時代は、現金を持っていればモノを安く買えるようになるため、無理に運用する必要はありませんでした。

しかしインフレ時代では、銀行に預けているだけのお金は、実質的に価値が目減りしていくことになります。

1,000万円の現金の価値が、数年後には900万円、800万円分しかなくなってしまう可能性があるのです。

2. 止まらない「円安」の流れ

2022年以降、急激な円安が進行し、多くの経営者様がその影響を肌で感じていることでしょう。

円安は、輸入品の価格を押し上げるだけでなく、「日本円」という資産そのものの価値を、世界基準で引き下げます。

つまり、インフレと円安という二つの大きな波によって、私たちは「何もしない」だけで資産が減っていく時代に突入したのです。

この状況下で資産を守り、増やしていくためには、攻めの姿勢、すなわち「資産運用」が不可欠となります。

あなたの目的は?資産運用の「増やす」と「守る」

資産運用と一言で言っても、その目的によって取るべき戦略は全く異なります。

ご自身の状況を正しく把握することが、成功への第一歩です。

資産を「増やす」ための積極的運用

これは、将来の事業展開やリタイアメント後の生活資金など、明確な目標のために資産を積極的に増やしていくアプローチです。

個別株投資や、成長が期待できる分野への投資信託などがこれにあたります。リスクを取ってでも、大きなリターンを目指すフェーズです。

資産を「守る」ための消極的運用

すでにある程度の資産を築かれた富裕層や、事業承継を控えた経営者様が考えるべきアプローチです。

目的は「増やす」ことではなく、インフレや特定の国に資産が集中するリスクから「守る」ことです。

例えば、資産の一部を日本円だけでなく米ドルなどの外貨で保有したり、価値が下がりにくい「金(ゴールド)」で保有したりします。

これは、万が一日本経済に大きな変動があった際に、資産価値の目減りを最小限に抑えるための「保険」のような考え方です。

クライアントへのアドバイスの際も、この「増やす」と「守る」のどちらのフェーズにいるのかを明確にしなければ、的外れな提案になってしまいます。

資産運用の二大潮流:「コツコツ積立」と「一点集中」

では、具体的に資産を「増やす」にはどのような方法があるのでしょうか。

ここでは代表的な2つの手法のメリット・デメリットと、それぞれに向いている経営者のタイプを解説します。

① 投資信託などによる「長期・分散・積立投資」

「世界経済は長期的には成長し続ける」という前提に立ち、毎月決まった金額を幅広い商品(インデックスファンドなど)に投資し続け、時間をかけて資産を育てていく手法です。

  • メリット
    • 一度設定すれば「ほったらかし」にできるため、本業が多忙な方でも実践しやすい。
    • 専門的な知識が少なくても始めやすい。
  • デメリット
    • 資産が増えるまでに最低でも5年以上の長い時間が必要。
    • 大きな利益は狙いにくく、良くも悪くも「平均的な」リターンに落ち着きやすい。
    • 正直なところ、面白みには欠ける。

こんな経営者に向いている

✅ 年率数パーセントの安定したリターンで十分と考える方

✅ 多忙で投資に時間をかけられない、かけたくない方

✅ 銘柄選定などを面倒だと感じる方

② 個別銘柄による「集中投資」

企業の業績や将来性を自ら分析し、「これだ」と信じる会社の株式などに集中的に投資する手法です。

安く買って、高く売るという商売の原則に近い考え方です。

  • メリット
    • 成功すれば、短期間で大きな利益(億り人など)を狙える可能性がある。
    • 投資を通じて経済や世の中の動きに詳しくなり、本業にも活かせる知見が得られる。
  • デメリット
    • 銘柄選定や売買タイミングの判断を誤ると、大きな損失を被るリスクがある。
    • 情報収集や分析に相応の時間と労力がかかる。

こんな経営者に向いている

✅ 大きなリターンを目指したい方

✅ 『会社四季報』などを読むのが苦にならない、探求心旺盛な方

✅ 経済や企業分析そのものを楽しめる方

【実例から学ぶ】経営者がハマる資産運用の罠

資産運用は、甘く見ると非常に危険です。

特に金融機関から提案される「おいしい話」には、必ず裏があります。

ここでは、私が実際に見てきた顧問先の失敗事例から、経営者が特に注意すべき金融商品を2つご紹介します。

罠①:仕組み債(EB債、日経平均リンク債など)

「普通預金よりずっと高い利回りですよ」と勧められる代表的な商品です。

一見すると魅力的ですが、その構造は非常に複雑で、「リターンは限定的なのに、リスクは青天井」という、投資家にとって著しく不利な条件が組み込まれています。

例えば、「〇〇社の株価が40%下落しない限り、年利5%を保証します」といった商品があります。

経営者の方は「あの有名企業の株価がそんなに下がるはずないだろう」と考えがちです。

しかし、個別企業の株価が3年で40%下落することなど、市場では日常茶飯事です。

この「まさか」が起こると、高い利回りを得るどころか、元本が大幅に毀損された状態で、価値の下がった株式を押し付けられることになります。

罠②:為替デリバティブ

「今後の円安に備えましょう」というセールストークで、輸入業などを営む経営者に提案されることが多い商品です。

これも、「一定の範囲内なら有利なレートで両替できるが、その範囲を外れると、市場価格より遥かに不利なレートで、しかも通常の倍の金額を両替しなければならない」といった、巧妙な罠が仕掛けられています。

リーマンショック時には、多くの企業がこの為替デリバティブによって、「本業は黒字なのに、デリバティブの損失で倒産する」という悲劇に見舞われました。

失敗しないための鉄則

  • 「〜なはずはない」という思い込みを捨てる。市場では常に「まさか」が起こります。
  • メリットだけでなく、最悪のシナリオを必ず確認する。
  • 構造が理解できない複雑な商品には、絶対に手を出さない。
  • 金融機関の担当者に勧められても、その場で即決しない。

これらの商品で失敗する最大の原因は、マーケットに対する「思い込み」と「希望的観測」です。

顧問先がこのような危険な投資に踏み出す前に、私たち専門家がそのリスクを客観的に指摘し、守ることこそが重要な役割だと考えています。

プロが実践する、相場の「まさか」に備える思考法

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があります。

わずか数年の経験則で「株価は長期的には上がる」と信じ込むのは非常に危険です。

歴史を振り返れば、日経平均株価が60%も暴落したことは、バブル崩壊後だけでも3回ありました。

100年前に遡れば、ニューヨークダウが89%(ほぼ10分の1)下落した世界恐慌もあります。

「日経平均が今の半分になるはずがない」

「世界恐慌のような事態はもう起こらない」

そうでしょうか?その「思い込み」こそが、資産を失う最大の原因です。

ではどうすればいいのか。それは、「相場がどちらに動いても対応できる、客観的なルールを持つこと」です。

例えば、「株価が上昇トレンドにある時だけ保有し、トレンドが崩れたら機械的に売却する」というシンプルなルールを決めておくだけでも、大暴落に巻き込まれるリスクを大幅に減らすことができます。

大切なのは、将来を予測することではありません。予測できない事態が起きても生き残れるよう、リスクをコントロールする術を身につけることです。

まとめ:社長の資産を守り、育てる。税理士と描く未来の財務戦略

インフレと円安が常態化するこれからの時代、会社の資産、そして社長個人の資産を守り、育てていくために「資産運用」は避けて通れないテーマです。

近年、新NISAiDeCo(個人型確定拠出年金)といった、税制優遇を受けられる制度も拡充されています。

これらの制度を最大限に活用するには、投資の知識だけでなく、当然ながら税金の知識が不可欠です。

まさに、私たち税理士が「お金の専門家」として最も価値を発揮できる領域と言えるでしょう。

しかし、多くの専門家が語る「長期・分散・積立投資をしていれば安心」というアドバイスを鵜呑みにするのは危険です。

その裏には、大きな下落局面で耐えきれずに売却してしまう精神的なリスクや、過去の経験則が未来も通用するとは限らないという不確実性が潜んでいます。

重要なのは、ご自身の会社の状況、そして個人の価値観やリスク許容度を正しく理解し、最適な戦略を立てることです。

そして、金融機関の言いなりになるのではなく、客観的な視点からアドバイスをくれる、信頼できるパートナーを持つことです。

私たちは、単なる税務申告の代行者ではありません。

財務・税務のプロフェッショナルとして、そして経営者の皆様に最も近い相談相手として、皆様の大切な資産を守り、育てるお手伝いをしたいと考えています。

「自社の場合、どんな資産運用が考えられるのか?」

「金融機関からこんな商品を提案されているが、大丈夫だろうか?」

少しでも疑問や不安を感じたら、ぜひ一度ご相談ください。

思い込みや感覚で判断するのではなく、客観的なデータと専門家の知見に基づき、共に未来のための財務戦略を描いていきましょう。

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