資産形成は「順番」が9割!経営者が最初にやるべき節税対策

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。
日々の業務に追われ、ご自身の資産については、現金や保険、定期預金などで「とりあえず」置いてあるだけ、という状況に陥ってはいないでしょうか。
実は、多くの高所得者層や経営者の方々が、同じような状況にあります。
しかし、その「眠っている資産」の働き方を見直すだけで、資産形成の選択肢が劇的に広がることをご存知でしょうか。
本日は、「何を・どの順番で・どう考えて投資すべきか」という、戦略的な資産形成アプローチについて、具体的なステップを交えて解説します。
なぜ、あなたの資産は増えないのか?「収入を生まない資産」の罠
まず、ご自身の資産ポートフォリオ(資産の組み合わせ)の中に、「収入を生まない資産」がどれだけ含まれているか、見直すことから始めましょう。
収入を生まない資産の例
- 現金
- 普通預金・定期預金
- 利回りの低い貯蓄型保険
日本人は資産における現金比率が非常に高い傾向にあり、資産を「守る」ことには長けている一方、「増やす」ための視点が欠けているケースが少なくありません。
これらの資産は一見すると安全に思えますが、現在の経済環境下では大きなリスクを抱えています。それは、「資産価値の目減り」です。
近年のインフレ率(物価上昇率)は2%〜4%台で推移しています。
これは、モノの値段が年々上がっていることを意味し、相対的にお金の価値が下がっているということです。
仮にこの状況が続けば、現在の1,000万円は、20年後には実質的に700万円以下の価値しか持たなくなる可能性すらあるのです。
大切な資産をただ眠らせておくだけでは、インフレや円安といった経済の荒波の中で、静かにその価値を失っていく。
まずはこの事実を認識することが、資産形成のスタートラインとなります。
資産形成の成否を分けるのは「商品選び」ではなく「順番」
「では、すぐに投資を始めなければ」と焦る必要はありません。
資産形成は「ただやみくもに投資をすればよい」というものではなく、「目的と戦略に合わせた順番を間違えないこと」が何よりも重要です。
どの金融商品を選ぶか、という枝葉の部分に気を取られる前に、どのようなステップで資産を動かしていくか、という幹となる戦略を立てる必要があります。
私が個人のお客様、特に経営者の方へご提案する際に軸としている、再現性の高い資産形成の王道ステップをご紹介します。
【ステップ1】まずは税効果の高い「償却性資産」で守りを固める
資産形成の第一歩として、私は「税効果の高い実物資産」への投資から始めることを推奨しています。
具体的には、「償却性資産」と呼ばれるものです。
減価償却とは?なぜ節税につながるのか
償却性資産とは、時の経過とともに価値が減少していく資産のことで、代表的なものに太陽光発電設備や事業用の不動産(建物部分)、機械設備などがあります。
これらの資産を取得するためにかかった費用は、購入した年に一括で経費にするのではなく、法律で定められた耐用年数にわたって分割して経費計上します。
この会計処理を減価償却と呼びます。
この減価償却の仕組みを活用することで、帳簿上の利益を圧縮し、結果として所得税や法人税を抑える効果が期待できます。
つまり、税金の支払いを繰り延べ、手元に残るキャッシュを最大化することができるのです。
このステップの目的は、積極的な利益追求よりも、まず「キャッシュを守る」ことにあります。
投資初年度から大きな節税効果を得ることで、少ない自己資金でも効率的に資産形成のスタートダッシュを切ることが可能になります。
【ステップ2】次に余剰資金を「金融資産」で攻めに転じる
ステップ1で節税効果を享受し、手元にキャッシュが残る体制を築けたら、次の段階に進みます。
ここで生まれた余剰資金を、分散先として「金融資産」へ投資していくのです。
金融資産の例
- 外貨
- 債券
- 投資信託
このステップのポイントは、ステップ1で生み出した余剰資金の範囲内で投資を行うことです。
生活や事業に必要な資金に手を付けるのではなく、あくまで戦略的に作り出したキャッシュを再投資に回すことで、リスクを管理しながら攻めの資産形成を実現します。
外貨建ての資産を持てば昨今の円安環境で為替差益を狙えたり、債券で安定的な利息収入を目指したり、投資信託で世界経済の成長の恩恵を受けたりと、ご自身の状況や経済情勢に応じて柔軟に資産を動かすことが可能になります。
このように、まず償却資産で「守り」を固めてキャッシュフローを改善し、そのキャッシュを原資に金融資産で「攻め」に転じる。
この順番こそが、私が考える資産形成の王道です。
成長を加速させる「レバレッジを味方につける」投資思考
ここで、資産形成のスピードをさらに加速させるための、もう一つの重要な思考法についてお話しします。
それは「レバレッジを味方につける」という考え方です。
多くの方が「自己資金がないと投資はできない」と誤解されがちですが、必ずしもそうではありません。
特に、社会的信用の高い経営者の方であれば、融資を戦略的に活用することが可能です。
「自己資金ゼロの戦略的投資」とは?
例えば、ご自身の年収の5倍〜10倍程度の借入枠を活用し、ステップ1でご紹介した償却資産に投資するという戦略を設計することも可能です。
金融機関からの融資を活用して投資を行い、
- 減価償却による節税で、税金の還付金を得る
- 投資対象の資産から得られる収入(家賃収入など)を得る
- 上記1と2で得たキャッシュを、繰り上げ返済や次の投資に充てる
この好循環を生み出すことこそ、最も効率的に資産を拡大していく方法の一つなのです。
もちろん、借入にはリスクが伴います。
しかし、事業で常にリスクと向き合っている経営者の皆様であれば、リスクを正しく理解し、コントロールしながらリターンを最大化する「レバレッジ」の有効性をご理解いただけるのではないでしょうか。
あなたに最適なポートフォリオは、オーダーメイドで考える
これまで資産形成の基本的なステップと考え方についてお話ししてきましたが、これはあくまでも一つのモデルケースです。
当然ながら、資産形成の最適解は、その方の年収、年齢、家族構成、そして将来のライフプランによって大きく異なります。
重要なのは、画一的な正解を探すことではありません。
ご自身の現状とゴールを明確にし、そこから逆算して「今ある資産をどう組み替え、どの順番で投資していくか」という戦略を具体的に描くことです。
この戦略の有無で、同じ収入であっても5年後、10年後の資産の姿は全く違ったものになるでしょう。
まとめ:「眠っている資産」を「働く資産」へ変える第一歩
本記事の要点を振り返ってみましょう。
- 現状認識
現金や預金など「収入を生まない資産」は、インフレによって実質的な価値が目減りするリスクを抱えている。 - 重要な視点
資産形成の成果は「何を買うか」ではなく「どの順番で進めるか」で決まる。 - 王道の2ステップ
- 守り
まずは減価償却が可能な「償却性資産」で節税し、手元のキャッシュを最大化する。 - 攻め
生まれた余剰資金で「金融資産」に分散投資し、資産の成長を狙う。
- 守り
- 加速装置
必要に応じて融資(レバレッジ)を活用し、資産形成のスピードを上げることも可能。
もし今、あなたの資産が銀行口座でただ眠っているだけだとしたら、それは非常にもったいない状態です。
まずはその資産が自ら収益を生み出す「働く資産」へと変わる仕組みを作ること。
それが、将来の安心と選択の自由を手に入れるための、確かな第一歩となります。
この記事が、皆様の重要な意思決定のヒントになれば幸いです。
