実勢価格の半分?銀行融資で不動産評価が驚くほど低い理由

皆さんこんにちは。税理士の中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
「追加融資のために、会社で持っている土地を担保に入れたい。今の相場なら4,000万円では売れる土地だから、十分な枠が取れるはずだ」
意気揚々と銀行に相談に行った社長が、後日、真っ青な顔で事務所に駆け込んでくることがあります。
「先生、銀行が『この土地だと2,000万円までしか貸せません』って言ってくるんです。あいつら、不動産の相場を知らないんじゃないですか?不当な評価ではないでしょうか?」
社長の怒りはごもっともです。
市場価格と倍近い開きがあれば、銀行の目利きを疑いたくなるのも無理はありません。
しかし、専門家の立場から申し上げますと、残念ながら銀行の評価は(彼らのルール上は)間違っていません。
なぜなら、銀行が見ているのは「市場で高く売れる価格(実勢価格)」ではなく、「万が一の時に確実に回収できる価格(処分価格)」だからです。
このギャップを知らないまま融資交渉に臨むと、資金調達計画が大きく狂い、最悪の場合、資金ショートの原因にもなりかねません。
今回は、銀行員が融資審査の現場で電卓を叩くときに使う「担保掛目(かけめ)」という冷徹な計算式の正体と、その評価を覆すための交渉術について解説します。
銀行が見ているのは「売値」ではなく「路線価」
まず理解しておかなければならないのは、不動産業者が見る価格と、銀行が見る価格は、そもそも「参照しているデータ」が根本的に違うという点です。
- 不動産業者(実勢価格)
「今、市場に出せば買い手がつく価格」です。
人気エリアや開発が進む地域であれば、相場は跳ね上がります。 - 銀行(路線価)
国税庁が定める「相続税路線価」を評価のベースにします。
銀行は保守的な組織です。
変動の激しい市場価格よりも、国が定めた公的な価格を信頼します。
一般的に、この「路線価」は、実勢価格(市場価格)の7割〜8割程度に設定されています。
つまり、銀行のまな板に乗った時点で、あなたの土地の価値は自動的に実勢価格の2〜3割引きで評価されているのです。これが出発点です。
さらに追い打ちをかける「掛目(かけめ)70%」の壁
路線価で評価が下がったところに、さらに銀行独自の安全率が適用されます。
これが融資の現場でよく耳にする「担保掛目(かけめ)」です。
銀行がお金を貸す際、最も恐れているのは「貸したお金が返ってこないこと」です。
もし社長の会社が返済不能になり、銀行が担保の土地を競売にかけることになったとしましょう。
競売では、通常の市場価格よりも安く買い叩かれるのが一般的ですし、買い手がつくまでに時間もかかります。
銀行は、そうした「叩き売ってでも回収しなければならないリスク(流動性リスク)」をあらかじめ計算に入れ、評価額をさらに割り引きます。
一般的な掛目の相場は以下の通りです。
- 掛目の目安:60%〜80%(平均70%)
具体的な計算シミュレーション
では、冒頭の「実勢価格4,000万円の土地」が、銀行の計算式でどう変化するか見てみましょう。
- 実勢価格
4,000万円 - 路線価評価(実勢価格の約7割と仮定)
4,000万円 × 0.7 = 2,800万円 - 担保評価額(掛目70%を適用)
2,800万円 × 0.7 = 1,960万円
いかがでしょうか。
これが、社長が「4,000万の価値がある」と信じていた土地が、銀行内部では「約2,000万(1,960万)の価値」と判定されるカラクリです。
銀行は決して意地悪をしているわけではありません。
「何かあった時に、確実に現金化できるライン(処分価格)」までしかリスクを取れないのです。
この厳しい現実を、まずは経営者として受け止める必要があります。
リノベーションしても建物の評価は「ゼロ」?
土地以上にシビアな評価を下されるのが「建物」です。
土地は古くなっても腐りませんが、建物は経年劣化するためです。
銀行は建物を「原価法」という計算式で評価します。
建物の評価 = 再調達価格(今同じものを建てたらかかる費用) ー 減価償却(経年劣化分)
非常に事務的な計算ですが、ポイントは「法定耐用年数」です。
例えば、木造住宅の法定耐用年数は22年です。
銀行のルール上、築22年を過ぎた木造の建物は、どんなに立派で雨漏り一つしていなくても、担保価値は原則「ゼロ」となります。
「1,000万かけてリノベーションした」は通用するか
よくあるのが、次のような主張です。
「いやいや、昨年1,000万円かけて内装をフルリノベーションしたばかりだ!キッチンも最新だし、新築同様だぞ!」
お気持ちは痛いほど分かりますが、銀行審査においてこの主張はほとんど通りません。
銀行が見ているのは「内装の美しさ」ではなく、「柱や基礎といった構造体の寿命」だからです。
表面をきれいにしても、構造体の法的寿命が切れていれば、担保価値としてのプラス査定にはなりにくいのです。
むしろ「マイナス評価」になるケースも
それどころか、古すぎる建物は土地の評価にとって「邪魔もの」扱いされることすらあります。
土地を売却する際、古い建物があると買い手がつきにくいため、解体して更地にする必要があります。
そのため、土地の評価額から「解体費用」を差し引いて評価するケースもあるのです。
「建物価値ゼロ」ならまだしも、「解体費用の分だけマイナス」というのは、経営者にとっては泣きっ面に蜂ですが、これが実務の現場です。
評価額は絶対ではない。「鑑定評価」でひっくり返す
ここまで厳しい現実ばかりお伝えしましたが、諦めるのはまだ早いです。
銀行の提示額は、あくまで「机上の計算」にすぎません。条件次第では、交渉の余地が残されています。
特に、都市銀行(メガバンク)よりも、地域密着型の信用金庫・信用組合の方が、実情に即した柔軟な対応をしてくれる傾向にあります。
もし、路線価評価と実勢価格の乖離があまりに大きく(例えば、急速に発展している商業地など)、事業の収益性が高い不動産であれば、「不動産鑑定士による鑑定評価書」を活用する手があります。
不動産鑑定士という「切り札」
銀行員は不動産のプロではありません。
あくまで「マニュアル(路線価×掛目)」に沿って計算しているだけです。
そこで、不動産の本当のプロである「不動産鑑定士」に依頼し、正式な鑑定評価書を作成してもらいます。
「この土地は路線価こそ低いが、商業地としての収益性は非常に高く、実勢価格に近い評価が妥当である」
といった専門家の「お墨付き」を提出することで、評価額の上積みを検討してもらえるケースがあるのです。
ただし、鑑定には数十万円の費用がかかります。
「費用対効果」が見合うかどうか、慎重な判断が必要です。
まとめ:正しい「モノサシ」を持って銀行と対話する
銀行の不動産評価は、私たちが思う以上に保守的でシビアです。
「土地があるから融資は余裕だろう」と高を括っていると、いざという時に資金調達ができず、経営危機に陥るリスクがあります。
経営者が持つべき正しいモノサシは以下の通りです。
- 自分の不動産の「路線価」を知っておくこと
- そこから「掛目7割」を引いた金額が、現実的な借入可能額だと認識すること
- 建物の評価は、法定耐用年数を基準に考えること
この「銀行の目線」を理解した上で、「それでも評価が低すぎる」と感じる場合や、正確な担保余力を把握して追加融資を狙いたい場合は、ぜひ一度ご相談ください。
あなたの会社の不動産について、鑑定評価を入れるべきか、それとも別の金融機関にアプローチすべきか。
税理士としての経験と、金融機関との交渉実績に基づいた最適な戦略をアドバイスいたします。

