令和8年改正で不動産節税が終了?「5年ルール」と「小口化」の落とし穴

皆さんこんにちは。税理士の中川祐輔です。
毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。
「手元のキャッシュを、とりあえず不動産に変えておけば相続税は下がる」
「医者に余命宣告されたら、すぐにアパートを買えばいい」
長年、資産家や経営者の間で“定石”とされてきたこの相続税対策ですが、はっきり申し上げます。その手法は、もはや通用しません。
令和8年度の税制改正により、これまでのような「駆け込み購入」による節税スキームは完全に封じ込められる形となりました。
これからの時代、税務署は「亡くなる直前の資産移動」に対して、これまで以上に厳しい目を向けてきます。
本記事では、多くの経営者がまだ気づいていない「5年ルール」の恐怖と、これからの資産防衛に求められる「時間の考え方」について、専門家の視点から解説します。
誰もが信じていた「不動産節税」のカラクリと終焉
なぜ、これまで「現金を不動産に変える」だけで節税になったのでしょうか。
まずはその基本的な仕組みと、今回メスが入った背景を整理しておきましょう。
従来の「錬金術」の仕組み
相続税は、原則として遺産の「評価額」に対して課税されます。
現金の評価額は額面通り(1億円=1億円)ですが、不動産の場合、これまでは「路線価」や「固定資産税評価額」を基準に計算されていました。
- 現金:時価の100%評価
- 不動産(土地・建物):時価の約30〜40%評価(賃貸物件の場合)
つまり、1億円の現金を1億円のアパートに変えるだけで、相続税上の評価額は3,000万円〜4,000万円程度まで圧縮できました。
差額の6,000万円〜7,000万円分が、そのまま課税対象から消えるという、まさに「錬金術」のような効果があったのです。
国税庁が下した「NO」の判断
しかし、このあまりに大きな乖離(かいり)に対し、国税庁は明確な規制に乗り出しました。
「相続直前に、節税目的のみで行われる不動産購入は租税回避である」という判断です。
これまでは「購入直後」であっても低い評価額(路線価等)が適用できましたが、今回の改正によって、その「抜け道」は塞がれました。
衝撃の改正内容「5年ルール」とは何か
今回の改正の核となるのが、不動産の取得時期に応じた評価方法の厳格化、いわゆる「5年ルール」です。
「死ぬ前5年以内」の購入は認めない
新しいルールでは、賃貸用不動産の評価について、以下の基準が適用されます。
- これまで:いつ購入しても、路線価等に基づく低い評価額
- これから:相続発生前「5年以内」に購入した物件は、「購入価格(時価)の約80%」で評価される
これまでは、亡くなる半年前に購入しても大幅な減額効果が得られましたが、今後は「亡くなる前5年以内」に駆け込みで購入した物件については、時価に近い価格で評価されることになります。
【シミュレーション】1億円のアパートを購入した場合
具体的な数字で比較してみましょう。
例えば、時価1億円の賃貸アパートを購入した場合の相続税評価額は以下のようになります。
| 比較項目 | 従来の評価額 | 改正後(5年以内に相続発生) |
| 評価額 | 約3,000万円 | 約8,000万円 |
| 評価減の効果 | ▲約7,000万円 | ▲約2,000万円 |
| 結果 | 大幅な節税効果 | 効果の大半が消滅 |
従来であれば7,000万円もの資産圧縮効果があったものが、改正後は2,000万円程度に激減します。
購入にかかる手数料や、不動産特有の流動性リスク(すぐに現金化できないリスク)を考慮すれば、「節税のために無理をして買う意味はほとんどない」と言わざるを得ません。
富裕層に人気の「小口化不動産」はさらに危険な状態に
また、多くの中小企業経営者や富裕層の方が活用されている「不動産小口化商品」についても、極めて厳しい改正内容となっています。
「期間に関係なく」時価評価の可能性
都心の一等地のオフィスビルなどを一口数百万円から購入できる小口化商品は、管理の手間がなく、かつ高い評価減効果が得られるため人気を博してきました。
しかし、今回の改正のターゲットは、まさにこうした商品です。
小口化不動産に関しては、「5年」という期間の縛りに関係なく、原則として常に時価相応(購入額の約80%等)の評価になる可能性が極めて高くなっています。
「1,000万円で買った持分が、相続時には200万円の評価になる」
こうした営業トークは、事実上終了したとお考えください。
これを知らずに古い情報のまま購入してしまうと、想定していた節税プランが根底から崩れることになります。
コンサルタントが見る「本質的なリスク」
今回の改正を受けて、私が現場のコンサルティングを通じて強く感じていることがあります。
それは、単に「税金が高くなる」という話だけではなく、「経営者の認識と税制のスピードにズレが生じている」というリスクです。
「まだ大丈夫」が命取りになる
多くの経営者は、本業でお忙しいため、税制の細かな変化まではキャッチアップできていません。
「先輩経営者がやっていたから」「昔、税理士が良いと言っていたから」という過去の成功体験に基づいて判断をしてしまいがちです。
しかし、今回の「5年ルール」のように、税制は「過去の抜け道」を確実に塞ぐ方向に進化しています。「駆け込みでもなんとかなる」という甘い見通しは、ご家族に多額の納税負担を残す結果になりかねません。
租税回避への視線は厳格化している
国税庁のメッセージは非常に明確です。
「経済的合理性のない、租税回避のためだけの不動産購入は認めない」
これからの税務調査においては、「なぜその時期に、その物件を買ったのか?」という事業上の理由や経緯が、より厳しく問われることになるでしょう。
税理士からの提言:これからの相続対策は「時間」が鍵
では、これからの相続対策・事業承継対策はどうあるべきでしょうか。
答えはシンプルです。「時間を味方につける」ことです。
5年以上の長期スパンで考える
「亡くなる直前の対策」が無効化された今、有効なのは「元気なうちからの長期的な対策」だけです。
- 早期の資産移転
5年、10年というスパンで計画的に資産を次世代へ移転する。 - 法人の活用
個人所有にこだわらず、資産管理会社などを活用して所得と資産を分散させる。 - 収益性の重視
「節税」だけを目的にせず、きちんと収益を生む(キャッシュフローが回る)優良な不動産を選定し、事業として運用する。
これらは即効性のある魔法ではありませんが、時間をかけることで、確実かつ安全に資産を守ることができます。
不安な方は、手遅れになる前にご相談を
もし、現在お持ちの不動産や、検討中の対策について「自分の場合はどうなるのか?」「5年ルールの適用を受けるのか?」とご不安であれば、今のうちにご相談ください。
今回の改正は影響範囲が広く、個別の事情(購入時期や物件の種類)によって判断が分かれるケースもあります。
「あの時相談しておけばよかった」と後悔する前に。
小手先のテクニックではなく、10年先を見据えた盤石な財務戦略を、一緒に構築していきましょう。
