なぜ「社会保険料削減」で税務調査?利益操作を疑われる本当の理由

皆さんこんにちは。税理士の中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
「社会保険料の負担が重すぎる。なんとか安くできないか?」
経営者であれば、誰もが一度は頭を抱える悩みではないでしょうか。
実際、利益を出せば出すほど重くのしかかる社会保険料は、キャッシュフローを圧迫する大きな要因です。
巷には、「マイクロ法人スキーム」や「事前確定届出給与の活用」など、合法的に社会保険料を削減するテクニックが溢れています。「これを使えば、年間〇〇万円も削減できる!」という甘い言葉に惹かれ、導入を検討している方も多いかもしれません。
しかし、現場を知る税理士として、私はあなたにはっきりと警告しなければなりません。
その「社会保険料削減スキーム」、実は税務署を呼び寄せる「狼煙(のろし)」になっていることをご存知でしょうか?
「社会保険料は年金事務所の管轄だから、税務署は関係ないだろう」
そう高を括っている経営者が多いですが、それは大きな間違いであり、非常に危険な誤解です。
今回は、なぜ税務署が「社会保険料削減」に熱心な会社をあえてマークするのか。
一般にはあまり語られない調査官の視点(プロファイリング)と、現場の裏側について、実務的な観点から深く掘り下げてお話しします。
誤解だらけの税務調査!調査官は「社会保険料」自体には1ミリも興味がない
まず、多くの経営者が陥りがちな誤解を解いておきましょう。
税務調査官があなたの会社に来るのは、「社会保険料が適正に払われているか」をチェックするためではありません。
そもそも、税務署と年金事務所では管轄が異なります。財布が違うのです。
あなたが社会保険料をいくら減らそうが、あるいは払いすぎていようが、税務調査官の人事評価(ノルマ)には一切直結しません。
極端な話をすれば、調査官は社会保険料の計算ルールなど詳しく知りませんし、興味さえ持っていないことがほとんどです。
彼らの目的はあくまで「税金の追徴(法人税や所得税などの確保)」ただ一つです。
では、なぜ「社会保険料削減」をしている会社が狙われるのでしょうか?
それには、調査官特有の「嗅覚」と「論理」が関係しています。
調査官のプロファイリング:「歪み」のある場所に「脱税」あり
調査官が社会保険料削減に熱心な会社をマークする理由。
それは、「社会保険料をテクニカルに減らそうとする会社」=「利益も意図的に操作したがる会社である」という、経験則に基づいたプロファイリングを持っているからです。
税務調査官は「お金の動き」を見るプロフェッショナルです。
彼らは、決算書や申告書に表れるわずかな「違和感」を見逃しません。
- 不自然な給与設定の変更
- 実態が見えない関連法人の設立
- 複雑怪奇な資金移動
社会保険料を削減するために構築されたこれらのスキームは、決算書上に必ず「歪み」を生じさせます。
調査官はその歪みから、敏感に「利益操作(租税回避)」の臭いを嗅ぎつけるのです。
「社会保険料を減らすためにこれだけ凝ったことをする経営者だ。法人税や所得税においても、同じようにテクニカルな、あるいはグレーな処理で誤魔化しているに違いない」
彼らはそう直感し、あなたの会社を調査対象として「選定(マーク)」します。
つまり、節約のためのスキームが、皮肉にも「ここを突けばボロが出る」という招待状を送っているのと同じ状態になっているのです。
「マイクロ法人」の落とし穴!税務署が見るのは“スキーム”ではなく“実態”
特に近年、流行しているのが「マイクロ法人」を活用したスキームです。
社会保険料削減のために、本業とは別に小さな会社(マイクロ法人)を作り、そこから最低限の役員報酬を受け取ることで社会保険料を抑える手法です。
これに対し、現在の税務署は非常に冷ややかな、そして厳しい視線を送っています。
調査官が現場で徹底的に確認するのは、スキームの綺麗さや法的な形式ではありません。
「そこに実態があるか」、ただその一点です。
「売上の付け替え」と判断されるリスク
例えば、個人事業主が別にマイクロ法人を作り、売上の一部をそちらに分散させているケースを考えてみましょう。
あなたは「これは法人の事業による売上、これは個人の売上」と綺麗に分けているつもりでも、調査官は現場の実態を見てこう突っ込んできます。
「社長、この法人の売上、実質的には社長個人の稼ぎ(個人事業の売上)ですよね?」
もし、そのマイクロ法人に明確な事業実態(専用のオフィス、従業員、独自の商流、契約書など)がなく、単なる「社保逃れのためのペーパーカンパニー」だと判断された場合、どうなるでしょうか。
法人の売上はすべて否認され、「個人事業主の売上」として認定(売上除外の指摘)されます。
これは単なる見解の相違では済みません。
待っているのは「重加算税」という最悪のシナリオ
実態がない法人を使って売上を分散させていたとなれば、それは「仮装・隠蔽」行為とみなされます。
その結果、最も重いペナルティである「重加算税(本来の税額+35%〜40%)」の対象となります。
- 過去に遡っての莫大な追徴課税
- 延滞税
- 削減できたはずの社会保険料が吹き飛ぶほどの金銭的ダメージ
これらに加え、税務署内での評価はいわゆる「ブラックリスト入り」となり、以後の税務調査の頻度や厳しさが格段に上がることになります。
「みんなやっているから大丈夫」という甘い考えは、プロである調査官の前では一切通用しません。
目先の「月数万円」のために「会社の信用」を殺してはいけない
社会保険料削減スキームの弊害は、税務調査のリスクだけにとどまりません。
無理な削減策は、「銀行融資」という会社の生命線をも断ち切る可能性があります。
よくある失敗例として、「役員報酬を極端に下げて社会保険料を減らし、足りない生活費は会社から借りる(役員貸付金)」という処理があります。
これを実行すると、あなたの会社の決算書はボロボロになります。
KSKシステムと銀行評価の連動
税務署には、KSKシステム(国税総合管理システム)という巨大なデータベースがあり、決算書の異常値を自動的にピックアップしています。
- 利益が出ているのに、役員報酬が異常に低い
- 資産の部に「役員への貸付金」が多額に計上されている
- 売上規模に対して、経費のバランスがおかしい
こうしたデータは、税務署のアラートを鳴らすだけでなく、銀行からも「汚い決算書」として扱われます。
特に「役員貸付金」は、銀行が最も嫌う勘定科目の一つです。
「公私混同が激しい会社」「資金管理ができていない会社」とみなされ、融資の審査で決定的なマイナス要因となります。
つまり、目先の社会保険料を月数万円減らした代償として、「いざという時の資金調達能力」という経営上の安全装置を、自らの手で破壊していることになるのです。
まとめ:小手先のテクニックより「王道」で守れ
税務調査官は、あなたが思っている以上に「不自然なお金の動き」に敏感です。
ネットで拾った断片的な知識や、無責任なコンサルの「絶対にバレない」という言葉を信じて、リスクの高いスキームに手を出すのは、経営ではなくギャンブルでしかありません。
私が税理士として推奨するのは、そのような小手先のテクニックではありません。
「法人税・所得税・社会保険料」のトータル負担が最小になり、かつ税務署にも銀行にも堂々と説明できる「最適な役員報酬設定」こそが王道です。
調査官がいつ来ても「どうぞ、すべて見てください」と胸を張って言える状態を作ること。
それこそが、経営者であるあなたの精神衛生を守り、結果的に会社に最も多くのお金を残す最短ルートです。
「うちは大丈夫だろうか?」
「今のスキーム、実はリスクがあるのではないか?」
少しでも不安を感じた方は、手遅れになる前に一度ご相談ください。
税務署と対等に渡り合えるロジックと、実務に基づいた適正な戦略で、あなたの会社と資産を守ります。

