税務調査官はすべてお見通し?「ネタ」を持っていない調査の真実

皆さんこんにちは。税理士の中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
「税務調査が入ることになりました」
顧問税理士からその連絡を受けた瞬間、あるいは税務署から突然の電話を受けた瞬間、心臓が早鐘を打った経験のある経営者様は少なくないはずです。
「税務署は、うちの会社の金の動きをすべて知っているのではないか」
「何かとんでもない隠し玉(証拠)を持って乗り込んでくるのではないか」
「過去のあの処理を指摘されるために来るのではないか」
経営者という立場にある以上、こうした不安が頭をよぎるのは当然のことです。
しかし、数多くの税務調査の現場に立ち会い、調査官と対峙してきた私の経験から申し上げますと、その恐れは「半分正解で、半分間違い」です。
ドラマや映画の世界では、調査官はすべての証拠を揃えてから現れますが、現実は必ずしもそうではありません。
今回は、意外と知られていない「税務調査官の本当の懐事情」と、そこから見えてくる「正しい対応策」について、現場の視点からお話しします。
税務調査官は「確証」を持っていないことも多い
まず、多くの経営者様が抱いている誤解を解きましょう。
それは、「税務調査官は不正の証拠をすべて掴んでから、最後に自白させるためにやってくる」というイメージです。
もちろん、何年もかけて内偵調査を行うような大規模な脱税事案(査察事案)や、内部告発などの特別な「タレコミ」情報がある場合は別です。
しかし、一般的な中小企業に対して行われる定期的な任意調査においては、調査官はそこまで決定的な「ネタ(証拠)」を持っていないことがほとんどです。
では、彼らは何を持ってやってくるのでしょうか?
彼らが手元に持っているのは、あくまで「データから導き出された推測」に過ぎません。
- 過去数年間の決算書の数字の推移
- 同業他社の平均値との比較データ
- 取引先から収集した資料(反面調査の結果など)
これらを分析し、「ここがおかしい」「ここには何かあるかもしれない」という「仮説」を立てて訪問しているのです。
調査官が抱く「仮説」の正体
具体的には、以下のようなポイントを見て仮説を立てます。
- 「利益率が急激に下がっている」
- → 売上を一部抜いているのではないか?
- → 在庫の計上漏れがあるのではないか?
- 「特定の経費の額が、事業規模に対して大きすぎる」
- → 個人的な支出が混ざっているのではないか?
- → 架空の経費を計上しているのではないか?
つまり、彼らは「怪しいとは思っているが、確証はない」という状態で、その答え合わせをするために御社へやって来ているケースが非常に多いのです。
この前提を知っているかいないかで、当日の精神的な余裕は大きく変わります。
現場で行われているのは「心理戦」である
「確証はないが、怪しい」
この状態でやってくる調査官が、現場で何をするかご存知でしょうか。
証拠がない以上、彼らは経営者の口から事実を引き出す必要があります。
そこで行われるのが、高度な「心理的な駆け引き」です。
調査官は、帳簿を見ているようでいて、実は社長の表情や目の動き、回答の間の取り方をじっと観察しています。
よくある「カマかけ」の手口
例えば、調査官がわざと少し強い口調で、次のように質問してくることがあります。
「社長、この売上の数字、本当はもっとありますよね?」
ドキッとする質問ですが、これは必ずしも裏付けとなる証拠があるから言っているわけではありません。
いわゆる「カマをかけている」状態です。
彼らの狙いは、そう言われた時の社長の動揺を誘うことにあります。
もしここで、社長が「えっ」と言葉に詰まったり、視線が泳いだり、急に早口になったりすると、調査官はどう思うでしょうか。
「あ、やっぱり何かあるな」と確信を深めます。そして、その反応があった箇所を徹底的に掘り下げにかかるのです。
逆に言えば、やましいことがなければ、相手のブラフ(はったり)に怯える必要は全くありません。
堂々としていれば、調査官は「この仮説は外れだったか」と引き下がらざるを得ないのです。
税務調査で痛い目を見る「最大の敗因」とは
調査官が確たる証拠を持たずに来ているにもかかわらず、なぜ追徴課税を受けたり、重加算税を課されたりするケースが後を絶たないのでしょうか。
実は、税務調査で痛い目を見る一番のパターンは、「社長自身が余計なことを話してしまい、自ら墓穴を掘ってしまう」ことです。
調査官は「聞くプロ」です。張り詰めた空気の中だけでなく、何気ない雑談の中からも、調査のヒントを常に探しています。
- 「最近、業界の景気はどうですか?」
- 「社長の趣味は何ですか?ゴルフはされますか?」
- 「ご家族は会社手伝われているんですか?」
一見、場の空気を和ませるための世間話に見えます。しかし、これらはすべて情報収集の一環です。
「景気が悪い」と言っているのに、高額な個人的な買い物の話をしてしまったり、会社の経費で落ちている交際費の話と辻褄が合わなくなったり……。
調査官が何も知らない状態で調査に来ているのに、社長自身がペラペラと喋ってしまい、調査の端緒(きっかけ)を与えてしまう。これが最も避けるべき事態です。
調査当日の鉄則:「余計なことを話さない」
では、具体的にどのように対応すればよいのでしょうか。
私たち専門家がアドバイスする鉄則はシンプルです。
「聞かれたことに対して、事実だけを淡々と答える」
これに尽きます。沈黙が怖くて、聞かれてもいない補足説明をしたり、言い訳をしたりする必要はありません。
また、記憶が曖昧なことや分からないことを、その場で無理に答える必要もありません。
迷ったときの魔法の言葉
もし、即答できない質問をされたり、答えに窮したりした場合は、こう答えてください。
「確認します」
あるいは、
「顧問税理士と確認してから回答します」
これで十分です。
不確かな記憶で「たぶん〜だと思います」と答えてしまい、後でそれが事実と異なっていた場合、「虚偽の答弁をした」と疑われるリスクがあります。
分からないことは持ち帰る。これは調査における正当な権利であり、防御策です。
信頼できる「防波堤」を持つことの重要性
ここまでお話しした通り、税務調査は「事実の確認」であると同時に、「心理戦」の側面を強く持っています。
本業で多忙な経営者様が、プロの調査官を相手に一人で対峙し、冷静さを保ち続けることは容易ではありません。
私たち税理士が調査に立ち会う最大のメリットの一つは、この「調査官との防波堤」になれることです。
- 調査官の質問の意図(裏の意味)を瞬時に汲み取る
- 社長が答えにくい質問を代弁する
- 行き過ぎた指摘に対して、法的な根拠を持って反論する
- 社長が余計なことを言いそうになったら制止する
私たちが間に入ることで、調査の流れは大きく変わります。
経営者様は、不必要なプレッシャーから解放され、冷静な判断ができるようになります。
まとめ
税務調査官は「すべてお見通しの神様」ではありません。
彼らも人間であり、手探りで仮説を検証するために調査を進めていることが多々あります。
日頃から適正な会計処理を心がけていれば、過度に恐れる必要はありません。
「何か隠しているのではないか?」という疑いの目に対して、堂々と「何もありません」という態度で臨むことが、結果として最短で調査を終わらせる近道です。
それでも、「もしもの時が不安だ」「過去の処理に自信がない」という場合は、調査官の手口と心理を知り尽くした私たちにお任せください。
社長が安心して本業に集中できるよう、私たちが全力でサポートし、会社を守る盾となります。
税務調査についてのご不安があれば、まずは一度ご相談ください。

