決算1ヶ月前では手遅れ!?節税商品の審査と申請のリアルな期間

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

「今期の利益が予想以上に出そうだから、決算までに何か対策を打ちたい」

「決算まであと1ヶ月ある。数字が確定してから最後に調整すれば間に合うだろう」

日々、多くの経営者様からご相談をいただきますが、もし今、あなたがこのようにお考えだとしたら、残念ながら今期の節税対策は失敗する可能性が高いと言わざるを得ません。

一昔前であれば、決算の数日前に高級車を購入したり、保険に加入したりして、土壇場で経費を作る「駆け込み節税」が可能でした。

しかし、2025年の現在、税制改正や市場環境の変化により、その常識は通用しなくなっています。

効果の高い節税手法であればあるほど、「お金があっても、時間がなくて買えない(対策できない)」という事態が頻発しているのです。

今回は、現場の最前線に立つ税理士の視点から、なぜ「決算1ヶ月前」では手遅れなのか?

その裏側にある「審査期間」と「在庫」のリアルな事情について、具体的に解説します。

「お金を払えばすぐ経費」という時代の終焉

かつての節税対策は「購入=経費化」というシンプルな図式で成り立っていました。

しかし、近年のトレンドである「即時償却」や「投資型節税」は、単にお金を払うだけでは完結しません。

そこには、以下の2つの大きな壁が存在します。

  1. お役所の審査という「時間の壁」
  2. 人気商品の争奪戦という「在庫の壁」

この2つの壁を理解せずに、決算直前に動こうとすると、結果として「何も対策できないまま高額な納税を迎える」か、「質の悪い商品に手を出して損をする」ことになります。

それぞれの事情を詳しく見ていきましょう。

即時償却の壁:書類が揃うまで「最低1ヶ月」のリードタイム

現在、中小企業の節税対策として主流になっているのが、投資額を一括で経費にする「即時償却」です。

コインランドリー事業や、最新の機械装置、AIサーバーなどへの投資がこれに当たりますが、この多くは「中小企業経営強化税制」などの国の認定制度を利用します。

ここで経営者の皆様が最も見落としがちなのが、「国(お役所)の認定プロセス」にかかる物理的な時間です。

認定を受けるまでの複雑なステップ

例えば、特定の機械装置やAIサーバー等に投資して即時償却を狙う場合、単に契約書にハンコを押すだけでは認められません。

一般的に、以下のようなステップを踏む必要があります。

  1. 証明書の取得: メーカーから「この設備は生産性向上に資する」という証明書を取り寄せる
  2. 工業会の確認: 工業会等の第三者機関による確認を受ける
  3. 計画申請: 経済産業局へ「経営力向上計画」などの申請を出す
  4. 認定書の発行: 審査を経て、ようやく認定書が手元に届く

このプロセスを全て完了させるのに、どんなにスムーズにいっても約1ヶ月はかかります。書類に不備があれば、さらに時間は伸びます。

決算月に動いても「翌期の経費」にしかならない

非常に重要なポイントですが、この認定プロセスが決算日までに完了(あるいは原則として申請受理)していなければ、特例措置を受けられないケースが多々あります。

決算月に入ってから慌てて「これをやりたい!」と手を挙げても、役所の審査やメーカーの手続きが翌期にズレ込んでしまえば、今期の経費にはできません。

「即時償却」という権利を得るためには、お金だけでなく「時間」というコストを支払う必要があるのです。

オペレーティングリースの壁:全国規模での「在庫」争奪戦

もう一つの節税の王道である「オペレーティングリース(航空機や船舶、コンテナなどのリース)」はどうでしょうか。

こちらは国の認定などは不要なため、手続き上の時間は比較的短くて済みます。

しかし、こちらには「在庫切れ(Sold Out)」という、市場原理の壁が立ちはだかります。

銀行・証券会社は「あなたの決算月」を知っている

優良なリース案件は、常に品薄状態です。

なぜなら、全国の銀行や証券会社が、自社の顧客のために血眼になって探しているからです。

彼らは融資先企業の決算時期を正確に把握しています。

「御社、そろそろ今期は利益が出そうですよね?」と、我々税理士やコンサルタントよりも早く営業をかけ、良い商品を早々に押さえてしまいます。

「残り物」には理由がある

その結果、決算1ヶ月前になってから「何かいい案件ない?」と探しても、市場には以下のような案件しか残っていません。

  • 利回りが極端に低い案件: 節税効果はあっても、実質的な投資リターンが薄い。
  • 出資枠が埋まっている案件: そもそも購入できない。
  • スケジュールが合わない案件: 決算日までに契約・送金が間に合わない。

スーパーの閉店間際のセールに良い食材が残っていないのと同様、あるいはそれ以上に、節税商品の市場はシビアです。

良い商品(高利回りで安全性が高いもの)は、決算の数ヶ月前に予約完結しているのが実情です。

「駆け込み」ができる商品は、なぜ危険なのか?

逆に言えば、今の時代に「決算の3日前でも契約できて、即時に大きな損金が作れる」ような商品があったとしたら、一度立ち止まって疑う必要があります。

これまでの税務の歴史を振り返ると、かつて流行した「全額損金の保険」や「足場レンタル」など、手軽に大きな損金を作れるスキームは次々と国税庁によって規制されてきました。

もし、審査も不要で、在庫も豊富で、即座に損金になる商品があるならば、それは以下のいずれかである可能性が高いです。

  • 税務リスクが非常に高い: 後から税務調査で否認されるリスクがある(グレーな手法)。
  • 経済合理性のない投資: 節税にはなるが、最終的にお金が残らない(損をする)商品。

「手軽に、直前に、誰でもできる節税」は、ほぼ封じ込められたと考えるのが、経営のリスク管理として安全です。

まとめ:プロが「3ヶ月前」の着手を推奨する理由

少々厳しい現実をお話ししてしまいましたが、これが2025年における節税対策のリアルです。

  • 手続きの壁: 認定・審査に最低1ヶ月かかる
  • 在庫の壁: 優良商品は早い者勝ちでなくなる

この2つの理由から、我々は「決算の3ヶ月前」の利益予測とご相談を強く推奨しています。

3ヶ月の時間があれば、認定が必要な制度も余裕を持って申請できますし、優良なリース案件が出るのを待つ(あるいは予約する)ことも可能です。

何より、慌てて変な商品をつかまされるリスクを回避し、「会社にキャッシュを残す」という本来の目的を達成することができます。

次のステップ:早期シミュレーションの実施を

「来期こそは、しっかり対策したい」

「今期もまだ間に合う最善の手を知りたい」

そう思われた方は、決算月が来るのを待たず、ぜひ今の段階で一度ご相談ください。

現在の数字を基に、着地予想のシミュレーションを行い、「今から準備すれば間に合う最良のプラン」をご提示させていただきます。

早めの行動こそが、無駄な税金を払わず、会社の財務体質を強化する最短ルートです。

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