「借りられる時に借りる」は正解?潰れない会社が目指す財務のゴール

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
経営者の集まりやセミナーなどで、このような言葉を耳にされたことはありませんか?
「銀行が貸してくれるうちに、借りられるだけ借りておいた方がいい」
「手元資金が潤沢にあれば安心だ」という感覚は、直感的には正しく思えます。
しかし、税理士として長年財務の現場を見てきた私からすると、この言葉を鵜呑みにするのは非常に危険と言わざるを得ません。
なぜなら、銀行は「ただ現金を積んでいるだけ」の会社を決して高く評価しないからです。
今回は、巷で言われる「借りられる時に借りる」という戦略の落とし穴と、潰れない会社が本当に目指すべき「財務のゴール」について解説します。
1. 銀行融資の定説「借りられる時に借りる」の嘘
「今は使う予定がなくても、銀行が貸すと言っているんだから借りておこう」
この判断は、平時(業績が良い時)においてのみ通用する論理です。
多くの経営者様が誤解されていますが、無計画に借金を増やし、それをただ預金通帳に眠らせている状態は、財務分析の観点からはマイナスに働くことがあります。
ここで重要になる指標がROA(総資産利益率)などの「資産効率」を示す指標です。
銀行は決算書を見る際、「持っている資産(現金含む)を使って、どれだけ効率よく利益を生み出しているか」を厳しくチェックしています。
借入をして現金を増やしても、それが利益を生んでいなければ、分母(総資産)だけが膨らみ、資産効率は悪化します。
つまり、銀行から見れば「お金を貸しても、うまく運用できていない会社」というレッテルを貼られかねないのです。
2. 銀行は「雨の日」に傘を取り上げる
銀行という組織の性質を、冷徹に理解しておく必要があります。
彼らは「業績が良い時」には頼まなくてもお金を貸してくれますが、ひとたび「業績が悪化した時」には、手のひらを返したように融資をストップします。
いわゆる「晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」という現実です。
もし、貴社が「借りられる時に借りておく」という戦略で、必要以上の借入を抱えていたとしましょう。
その状態で不況やトラブルにより赤字に転落した場合、何が起きるでしょうか。
銀行はこう言います。
「御社はすでにこれだけの借入がありますよね? 返済原資(利益)が出ていないのに、これ以上の追加融資はできません」
本来、苦しい時こそ資金が必要なはずです。
しかし、平時に積み上げた借入がアダとなり、「借入過多」と判断されて追加融資を断られる。
これが、無計画な借入が招く最悪のシナリオです。
3. 目指すべきベンチマークは「自己資本比率30%」
では、どんな不況が来ても銀行が「貸させてください」と頭を下げてくる会社、あるいは融資を止めない会社とはどのような状態でしょうか。
漠然とした「安心」ではなく、明確な数値目標(ベンチマーク)を持って経営にあたることが重要です。
まず目指すべき一つ目の指標はこれです。
- 自己資本比率:30%以上
自己資本比率とは、総資産のうち「返済する必要のないお金(自分のお金)」がどれくらいあるかを示す割合です。
この数値が30%を超えてくると、財務体質はかなり強固であると判断されます。
借金(他人資本)に依存せず、自社の力で経営が回っている証拠だからです。
4. 内部留保「1億円」が最強の生存ライン
もう一つの、そしてより具体的な目標数値があります。
それは、内部留保(利益剰余金)で「1億円」を持つことです。
「中小企業で現金1億円なんて、夢のような話だ」
そう思われるかもしれません。
しかし、これは決して不可能な数字ではなく、会社を10年、20年と存続させるための「生存ライン」なのです。
企業の生存率は、設立から10年でわずか数%と言われています。
生き残る会社と消えていく会社の決定的な違いはどこにあるのでしょうか。
それは、「赤字が出た時に、何年耐えられる体力(内部留保)があるか」に尽きます。
赤字2,000万円でも5年耐えられるか
具体的なシミュレーションをしてみましょう。
もし内部留保が1億円あれば、仮にリーマンショック級の不況や感染症の流行などで、年間2,000万円の赤字を出したとします。
- 内部留保 1億円 ÷ 年間赤字 2,000万円 = 5年
つまり、5年間はずっと赤字でも会社は潰れません。 銀行はこの「耐久力」を見ています。
「この会社は5年は絶対に潰れない」という財務的な裏付けがあるからこそ、不況時であっても安心して融資ができるのです。
5. 社長個人の「財布」も審査対象になる
銀行融資の現場において、決算書と同じくらい重要視されているポイントがあります。
それは「経営者個人の資産背景」です。
金融庁の指針でも、中小企業の評価においては「法人と個人の一体性」を見ることが推奨されています。
これはどういうことかと言うと、会社のバランスシートだけでなく、社長個人の資産(預金、不動産、保険積立など)も、実質的な担保能力(みなし担保)として評価に加えるということです。
銀行員の視点で、以下の2人の社長を比べてみてください。
- 会社は赤字だが、社長個人は質素倹約に努め、個人の資産形成(預金や自宅など)がしっかりできている。
- 会社は黒字だが、社長は浪費家で、個人の家計は火の車である。
銀行がどちらを信用するかは明白です。当然、1の社長です。
会社に万が一のことがあっても、社長個人の資産でカバーできる余力があるからです。
「会社の内部留保」と「社長個人の資産」。 この2つを合計した「資産余力」を高めていくことが、最強の銀行対策になります。
6. 税金を払ってでも「強固なBS」を作る
多くの経営者様が、決算期になると「いかに税金を安くするか(利益を減らすか)」に腐心されます。
もちろん無駄な税金を払う必要はありませんが、目先の節税で利益を圧縮しすぎると、いつまで経っても内部留保(利益剰余金)は積み上がりません。
銀行から見れば、利益の蓄積がない会社は「いつ潰れてもおかしくない会社」です。
「借りられる時に借りる」というのは、あくまで対症療法に過ぎません。
目指すべきは、税金を払ってでも利益をしっかりと内部留保として積み上げ、「いつでも借りられるだけの信用(自己資本)を作る」という根本治療です。
強固なバランスシート(BS)さえあれば、銀行の方から「借りてください」と寄ってきます。
これこそが、経営者が目指すべき財務のゴールです。
財務体質の強化をお考えの経営者様へ
「内部留保1億円」や「自己資本比率30%」は、一朝一夕で達成できる数字ではありません。
しかし、ロードマップを描き、着実に実行すれば必ず到達できる目標です。
当事務所では、単なる税務処理だけでなく、以下のような財務コンサルティングを行っております。
- 銀行格付けを上げるための具体的な財務戦略の立案
- 自己資本比率を改善し、融資を受けやすくするためのロードマップ策定
- 法人と個人の資産をトータルで最大化するアドバイス
「自社の財務体質を根本から強くしたい」
「10年後も生き残るための、強い数字の作り方を知りたい」
そのようにお考えの経営者様は、ぜひ一度ご相談ください。
貴社の現状を分析し、最適な財務戦略をご提案させていただきます。
