年収1000万超の経営者必見!所得税と法人税の「税率差」活用テクニック

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。
「必死に働いて売上を上げても、半分近く税金で持っていかれる感覚がある」
「来年の住民税の通知書を見るのが、正直怖い」
私の元へご相談にいらっしゃる経営者や個人事業主の方々から、このような悲鳴にも似た声を頻繁に耳にします。
事業が軌道に乗り、年収が1,000万円を超えてくると、多くの経営者が直面するのがこの「税金の壁」です。
日本の税制において、年収1,000万円というのは一つの大きな分岐点と言えます。
ここを超えると、稼ぐ労力に対して手元に残るお金が増えにくくなる、いわば「見えない天井」を感じ始めるからです。
なぜ、このような現象が起きるのでしょうか。
その最大の原因は、個人の財布にかかる「所得税」と、会社の財布にかかる「法人税」の仕組みの決定的な違いにあります。
今回は、税理士として数多くの経営者の資産防衛をサポートしてきた経験から、資産を守るために絶対に知っておくべき「税率差(ギャップ)」を活用した対策について解説します。
1. 日本の所得税は「稼ぐほど罰せられる」仕組みなのか
まず、私たちが個人として受け取るお金にかかる税金(所得税+住民税)の正体を、改めて冷静に見つめ直してみましょう。
日本の所得税には、「超過累進課税」という制度が採用されています。
これはシンプルに言えば、「所得が増えれば増えるほど、税率が段階的に高くなる」という仕組みです。
限界税率55%の衝撃
具体的に、最高税率がどのくらいになるかご存知でしょうか。
- 所得税の最高税率:45%
- 住民税:一律10%
これらを合計すると、最大で約55%もの税金がかかります。稼いだお金の半分以上が、税金として徴収される計算です。
さらに忘れてはならないのが、重くのしかかる「社会保険料」の負担です。これらを合わせると、手取り額へのインパクトは甚大です。
現場で多くの経営者様の決算書や個人の確定申告書を拝見していると、何も対策をしないまま、個人の財布だけで戦おうとしているケースが散見されます。
しかし、必死に頑張って売上を伸ばし、役員報酬や事業所得を増やしても、その半分以上が税金として消えてしまうのが日本の現状です。
「個人の財布」だけで資産を形成しようとすることには、構造的な限界があると言わざるを得ません。
2. 法人税の持つ「一定」という強み
一方で、会社の利益にかかる「法人税」に目を向けてみましょう。
ここに、資産を残すための大きなヒントが隠されています。
個人の所得税が「青天井」で税率が上がっていくのに対し、法人税にはある種の上限が存在します。
実効税率の頭打ちライン
中小企業の場合、所得金額にもよりますが、法人税の実効税率は約30%〜34%程度で、ある一定のラインで頭打ちになります。
いくら利益が出ても、個人の最高税率のように55%まで跳ね上がることはありません。
この「税率の上限が決まっている」という点は、資産形成において非常に強力なアドバンテージとなります。
3. 「税率差(アービトラージ)」が資産防衛の鍵
ここで、個人と法人の税率を並べて比較してみましょう。
ここに大きな「歪み」とも言える差が生じていることがわかります。
- 個人で受け取る場合(最高):約55%
- 法人に残す場合(実効税率):約30%〜34%
単純計算でも、20%以上の税率差(ギャップ)が存在します。
金融の世界では、価格差を利用して利益を得ることを「アービトラージ(裁定取引)」と呼びますが、税金の世界でも同じことが言えます。
何も考えずに個人の役員報酬を増やし続けることは、みすみす高い税率の土俵(個人の財布)で戦い続けるようなものです。
一方で、法人という「別の財布」をうまく活用すれば、税率の低い土俵でお金を守ることができます。
この「税率差」を理解し、活用できるかどうかが、手元に残るキャッシュの量を決定づけると言っても過言ではありません。
4. 戦略的にお金を残す「所得の最適化」
では、この税率差を活かして、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
現場で私が提案する基本戦略は、「個人の所得を最適化し、法人に利益を分散させる」ことです。
そのための具体的なアプローチをいくつかご紹介します。
役員報酬の適正ラインを見極める
最も基本的な対策は、役員報酬の設定額を見直すことです。
生活に必要な分だけを役員報酬として受け取り、所得税率が急激に跳ね上がらないラインに抑えます。
「会社にお金があっても自由に使えないじゃないか」と思われるかもしれません。
しかし、高い税金を払って個人に移すよりも、会社名義で運用したり、会社の経費として活用したりする方が、資産全体の目減りを防ぐことができます。
マイクロ法人の活用
個人事業主の方や、さらに細かく税金をコントロールしたい経営者の方には、個人で行っていた事業の一部を法人化(マイクロ法人設立など)する手法も有効です。
これにより、以下のメリットが得られます。
- 経費の範囲が広がる
- 低い法人税率の適用を受けることができる
- 社会保険料の適正化
「個人のお財布」と「会社のお財布」を用途に合わせて使い分け、トータルで支払う税金をコントロールすることが、年収1,000万円を超えた層には必須のスキルとなります。
5. 将来の切り札「退職金」の活用
法人に利益を残すことのもう一つの大きなメリットは、将来の「退職金」の原資を作れることです。
今回のブログ記事で特に強調しておきたいのが、退職金課税の優遇措置です。
役員報酬として毎月受け取ると高い所得税がかかりますが、将来「退職金」として受け取れば、税負担を大幅に抑えることが可能です。
- 退職所得控除:勤続年数に応じた大きな控除がある
- 2分の1課税:控除後の金額をさらに半分にしてから税率をかける
- 分離課税:他の所得と合算されず、単独で税額計算される
つまり、今すぐ高い税金を払って給与として受け取るのではなく、法人税(約30%)を払った後の利益を内部留保として積み上げ、将来、非常に税率の低い「退職金」として受け取る。
これが、税率差を活用した長期的な資産移転の王道テクニックです。
6. まとめ:その増額、本当に手取りは増えていますか?
業績が好調な時ほど、「売上が上がったから、自分へのご褒美に役員報酬を上げよう」と考えがちです。
そのお気持ちは痛いほどよく分かります。
しかし、その前に一度立ち止まって、電卓を叩いてみてください。
- 額面の給与は増えても、税率区分が上がって手取りの実質増加分はごくわずかではないか?
- 今の役員報酬設定は、税率差の観点から最適か?
- 法人に利益を残して、将来の退職金にした方がトータルで得ではないか?
これらは、「稼ぎ損」にならないために必ず確認すべきポイントです。
ただし、最適な役員報酬の額や、法人に残すべき割合は、経営者それぞれのライフプランや会社の状況によって異なります。
これらを正確にシミュレーションするには、専門的な知識が必要です。
ご自身の年収と会社の利益バランスについて、「今の設定で本当に損をしていないか?」と少しでも不安に思われた方は、ぜひ一度見直しをご相談ください。
貴社の状況に合わせた、最適な「税率差活用」のシミュレーションをご提示いたします。
