その仮払金が命取り!銀行融資を閉ざす「危険な勘定科目」の正体

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。

中小企業経営者の皆様は、決算が近づくと、領収書の整理や経費の計上に頭を悩ませることも多いのではないでしょうか。

その際、どうしても中身がはっきりしない出金や、一時的な立て替え払いが発生することがあります。

「出張の精算がまだだから、とりあえず『仮払金』にしておこう」

「個人的な支払いが混ざっていたけど、経費にはできないから『役員貸付金』で処理しよう」

「何に使ったか忘れてしまったから、ひとまず『使途不明金』で……」

税金の計算上、これらの処理は決して珍しいことではありません。

税務署に対して「経費ではない」と申告していれば、税務上の問題は回避できることもあります。

しかし、銀行融資の審査という土俵に乗った瞬間、これらの勘定科目は会社の首を絞める「猛毒」へと変わります。

これまで数多くの決算書を見てきましたが、実は「赤字であること」よりも、こうした「不透明な勘定科目があること」の方が、銀行員の心証を致命的に悪くするケースが多々あるのです。

今回は、銀行が決して見逃さない「危険な勘定科目」とそのリスクについて、現場の視点から詳しく解説します。

1. 銀行は決算書の数字を鵜呑みにせず「実態」を見る

まず、融資審査における大前提をお話しします。

銀行員は、提出された決算書の数字をそのまま信じているわけではありません。

彼らが行っているのは、決算書の表面上の資産から「換金価値のないもの」や「実態のないもの」をマイナスし、その会社の本当の実力(純資産)を計算し直す作業です。

これを専門用語で「実態バランスシート(実態BS)」と呼びます。

例えば、表面上は黒字が出ていて、純資産がプラスになっている会社があったとします。

しかし、この「実態BS」で計算し直した結果、マイナス(実質債務超過)と判定されれば、融資の審査は一気に厳しくなります。

「見た目は健康そうだが、検査してみると深刻な病気が隠れていた」という状態と見なされるからです。

そして、このマイナス査定の「主犯格」となりやすいのが、経営者が安易に残してしまいがちな特定の勘定科目なのです。

2. 銀行が最も警戒する勘定科目①「役員貸付金・仮払金」

銀行員が「この会社、お金の管理が杜撰(ずさん)だな」「公私混同があるのではないか」と警戒レベルを最大にする勘定科目の一つが、「役員貸付金(社長への貸付)」や「仮払金」です。

これらは、会社が社長個人にお金を貸している、あるいは一時的に現金を渡している状態を示します。

なぜこれが問題なのか、銀行員の心理を代弁するとこうなります。

  • 「会社のお金を社長が個人的に使っているのではないか?」
  • 「銀行から事業のために貸したお金が、社長の懐(生活費や遊び金)に消えているのではないか?」

銀行はあくまで「事業を成長させるため」にお金を貸しています。

それが社長個人の生活費や遊興費、あるいは事業に関係のない個人的な投資に流用されていると判断されれば、それは「資金使途違反」という重大なルール違反になります。

さらに、実態BSの評価において、これらの勘定科目は非常に厳しく扱われます。

役員貸付金や、回収見込みの立たない長期間残っている仮払金は、「資産価値ゼロ」とみなされます。

つまり、決算書にこれらが載っているだけで、その金額分だけ純資産が減額評価され、会社の格付け(信用ランク)を自ら下げてしまっているのです。

3. 銀行が最も警戒する勘定科目②「使途不明金」

もう一つ、絶対に避けるべきなのが「使途不明金」です。

これは文字通り、「何に使ったかわからないお金」です。

税務調査においても厳しく追及される項目ですが、銀行審査でも同様、あるいはそれ以上に嫌われます。

お金を扱うプロである銀行員は、「お金の色(使い道)」に対して非常にシビアだからです。

使途不明金が計上されていると、銀行は以下のように解釈します。

「使途不明金 = 社長が口に出して言えないような使い方をしたお金」

具体的には、私的流用、裏金、あるいは度を超えた遊興費などです。こう解釈されても、経営者は反論できません。

数万円程度ならまだしも、これが高額になっている場合、銀行は「この経営者は信用できない」と判断します。

「何に使ったかわからない」ということは、「貸したお金がきちんと返ってくるかわからない」ということと同義だからです。

4. 「資金使途違反」は一発アウトもあり得る

私が最も危惧するのは、先ほど触れた「資金使途違反」と認定されることです。

これは、今後の融資取引を停止させるほどの破壊力を持っています。

例えば、「運転資金」という名目で銀行から融資を受けたお金が、巡り巡って以下のような用途に使われていたらどうなるでしょうか。

  • 社長個人の住宅ローンの頭金
  • 社長個人の株式投資やFX
  • 愛人への手当や個人的な贅沢

これが発覚した場合、銀行に対する明らかな背信行為となります。

「事業に使うと言って借りたのに、嘘をついた」ことになるからです。

5. 最悪のシナリオ:「期限の利益の喪失」

資金使途違反や悪質な公私混同が発覚した場合、最悪のケースでは「期限の利益の喪失」を主張される可能性があります。

通常、融資には「毎月〇〇円ずつ、〇年かけて返済すればよい」という約束(期限の利益)があります。

しかし、契約違反があった場合、銀行はこの権利を取り上げることができます。

つまり、「信用できないので、貸している残高を今すぐ全額一括で返済してください」と求められるのです。

もし一括返済ができなければ、担保に入れていた不動産を失ったり、最悪の場合は倒産に追い込まれたりするリスクがあります。

一度失った銀行からの信用を取り戻すのは、至難の業です。

安易な会計処理が、会社の存続すら脅かす事態になり得ることを、どうか心に留めておいてください。

6. 決算書は「会社の履歴書」である

「税金を払いたくないから経費に入れたい、でも入らないから貸付金にする」

「とりあえず仮払金にしておいて、来期考えよう」

こうした目先の都合による処理が、将来の融資の道を自ら閉ざしています。

税理士の視点も踏まえてアドバイスさせていただくなら、以下の2点を徹底することを強くお勧めします。

  1. 役員貸付金・仮払金の解消
    役員報酬を増やしてでも、個人から会社へ返済を行い、早急に勘定科目を消し込んでください。
  2. 使途不明金を作らない
    領収書のない出金は絶対にしない、というルールを社内で徹底してください。

決算書は、単なる税務署への申告書ではありません。

銀行などの外部関係者に対して「うちはこれだけ信用できる、しっかりした会社です」と証明するための「会社の履歴書」です。

7. 手遅れになる前に、早期の対策を

ここまでお読みいただき、「うちは大丈夫だろうか?」「すでに貸付金が多額に残ってしまっているが、どうすればいいか?」と不安に思われた経営者様もいらっしゃるかもしれません。

これらが決算書にあるからといって、即座に融資が止まるわけではありませんが、放置すればするほど傷は深くなります。

重要なのは、銀行が納得する「解消計画」を立て、誠実に実行することです。

手遅れになる前に、一度専門家へご相談ください。

貴社の決算書を「銀行から評価される決算書」に変えるためのステップを、一緒に考えていきましょう。

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