決算直前は危険!経営強化税制で即時償却を勝ち取る「3ヶ月前ルール」

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

「今期は予想以上に利益が出そうだから、来月の決算までに何か大きな買い物をしたい」

決算月のカレンダーをめくりながら、慌てた様子でこのようなご連絡をいただくことがよくあります。

経営者様のお気持ちは痛いほどよく分かります。一生懸命事業を行い、せっかく出た利益です。

可能な限り税金として流出させるのではなく、次の事業投資に回したいと考えるのは経営者として当然の判断です。

しかし、大変心苦しいのですが、このタイミング(決算1ヶ月前)でのご相談だと、私たちが提案できる「最も効果的でインパクトのある節税策」のいくつかは、残念ながら「手遅れ」とお伝えしなければなりません。

なぜなら、国が用意している強力な節税制度を使うためには、単にお金を払うだけではなく、「申請と認定」という決して省略できない時間の壁があるからです。

今回は、中小企業にとって最強の武器の一つである「中小企業経営強化税制」と、それを使いこなすための鉄則である「3ヶ月前ルール」について、現場の視点から詳しく解説します。

1. そもそもなぜ「決算直前」では手遅れなのか

多くの経営者様が、「節税=経費を使うこと」とシンプルに捉えていらっしゃいます。

消耗品や少額の備品であれば、決算末日に購入しても経費として認められるため、その認識は間違いではありません。

しかし、利益を大きく圧縮するような数百万円、数千万円単位の設備投資となると話は別です。

通常、こうした高額な投資を行う場合、税務上のルールが大きく立ちはだかります。

そして、そのルールを飛び越えて特例を受けるためには、「事前に国からのお墨付き(認定)」をもらう必要があるのです。

この「お墨付き」をもらうための審査期間を考慮せず、「買えばなんとかなる」と考えて動いてしまうと、結果として大きな節税チャンスを逃すことになります。

まずは、この制度のメリットと仕組みを正しく理解しましょう。

2. 中小企業経営者の特権!「即時償却」の威力とは

通常、機械やシステムなどの高額な設備投資を行うと、その購入代金を一度に全額経費にすることはできません。

例えば、1,000万円の機械を購入した場合、税法で定められた耐用年数(例えば10年)に応じて、毎年100万円ずつ、数年かけて少しずつ経費化(減価償却)していくのが原則です。

これでは、「今期出た利益」を圧縮する効果は非常に限定的です。

お金は1,000万円出ていくのに、経費は100万円しか計上できないため、資金繰りと税金の支払いのダブルパンチに見舞われることさえあります。

最大のメリット「即時償却」

しかし、中小企業に限っては例外があります。それが今回ご紹介する「中小企業経営強化税制」です。

一定の要件(生産性が向上するなど)を満たした設備投資であれば、「購入した金額の100%を、その年の経費にして良い(即時償却)」という非常に強力な特例が認められています。

  • 通常の減価償却:今期の経費は購入額の一部のみ
  • 即時償却:1,000万円の設備なら、1,000万円全額を今期の損金に算入

これにより、突発的に発生した大きな利益を圧縮し、法人税等の支払いを抑えながら、将来の収益を生む設備を手に入れることができます。

まさに、資金繰りと攻めの投資を両立させる上で、これほど有効な手段は他にないと言っても過言ではありません。

3. 「買って終わり」ではない!立ちはだかる「手続きの壁」

「なるほど、100%経費になるなら、決算末日に急いで契約して設備を買えばいいんだね?」

ここが、多くの経営者様が陥りやすい最大の落とし穴です。

この税制を適用するためには、単にモノを買って設置するだけでは不十分です。

税務申告書に数字を書く前に、以下のような厳格な手続きをクリアしなければなりません。

① 工業会等からの証明書取得

まず、導入しようとしている設備が「最新モデル」であり、かつ「旧モデルと比較して生産性が向上するもの」であるという証明が必要です。

これはメーカーを通じて工業会等から発行してもらう必要があります。

メーカーの担当者がこの制度に詳しくない場合、依頼から発行までに数週間かかることも珍しくありません。

② 経済産業局への計画申請と認定

次に、「この設備を使って、自社の経営をどのように強化(向上)させるか」という具体的な計画書(経営力向上計画)を作成し、国(経済産業局)に提出して認定を受ける必要があります。

これが最も時間を要するプロセスです。

申請書を作成する時間に加え、役所の審査期間も含めると、最低でも1ヶ月〜2ヶ月程度の時間がかかります。

つまり、決算ギリギリになって「買います!」と手を挙げても、書類の認定が間に合わず、「設備は買ったけれど、即時償却の特例は受けられない(通常の減価償却になってしまう)」という最悪の事態になりかねないのです。

4. 成功の鍵は「見込み」管理!実践的スケジュール

では、確実にこの制度の恩恵を受けるためにはどうすればよいのでしょうか。

答えはシンプルです。確定した数字が出てから動くのではなく、「着地見込み」の段階で動き出すことです。

私たちが推奨しているのは、以下の「決算3ヶ月前スケジュール」です。

【決算3ヶ月前】利益予測と決断

まずは今期の着地見込み(利益予測)を行います。

「黒字になりそうだ」ではなく、「およそ◯◯万円の利益が出そうだ」というレベルまで精度を高めます。

その上で、節税対策が必要かどうかを判断し、必要な場合は商品の選定を始めます。

メーカーへの問い合わせもこの時期に行います。

【決算2ヶ月前】設備決定と申請開始

導入する設備を決定し、すぐに申請手続きに入ります。

  • メーカーへ証明書の発行依頼
  • 経営力向上計画の策定と申請これらを並行して進めます。この時点で動き出していれば、不備があった場合の修正対応にも余裕が持てます。

【決算1ヶ月前】認定取得・納品・支払い

経済産業局からの認定を受け、正式に発注・納品・支払いを完了させます。

また、税制適用の要件として「事業の用に供する(実際に使い始める)」ことが求められるため、納品後の稼働確認までをこの時期に済ませておくのが理想的です。

このスケジュール感を持っておくことが、経営者の実務として非常に重要です。

泥縄式の対応では、高度な節税スキームは使いこなせません。

5. なぜ国はここまで優遇するのか?制度の背景を理解する

少し視点を変えて、なぜ国はこれほど有利な制度を用意しているのでしょうか。

それは、中小企業に「内部留保を貯め込むのではなく、投資をして強くなってほしい」と願っているからです。

「経営強化税制」という名前の通り、この制度の本質は「節税」ではなく「経営力の強化」にあります。

最新の機械を入れて生産性を上げる、新しいシステムを入れて業務効率化を図る。

そうして企業体質を強くするための投資であれば、国は税金を安くしてでも応援しようというメッセージなのです。

税理士としての私の経験上、単に「税金を減らしたいから」という理由だけで不要なものを買うと、後々キャッシュフローが悪化し、失敗することが多いです。

しかし、「事業を伸ばすために必要な投資」であり、かつ「この制度が使えるもの」を選定できた場合、その企業は翌期以降、さらに大きく成長していきます。

この制度は、前向きな経営者に対する国からのエールです。これを使わない手はありません。

6. まとめ:利益予測は経営者の義務

節税対策において、どの商品・どの設備を選ぶかという「商品選び」はもちろん大切です。

しかし、それ以上に「時間の確保」が成否を分けるということを、今回の記事で強調させていただきました。

「中小企業経営強化税制」は、国が中小企業を応援するために用意した、非常に有利で普遍的な制度です。

しかし、その扉を開く鍵は「時間」です。

「あと1ヶ月早ければ間に合ったのに……」

「証明書が間に合わず、通常の減価償却になってしまった……」

決算後にこのような言葉を交わすのは、私たちにとっても非常に辛いことです。

悔やむことがないよう、決算の3ヶ月前になりましたら、ぜひ一度試算表をご用意の上、ご相談ください。

「まだ数字が確定していないから」と遠慮する必要はありません。

見込みの段階で相談していただくことこそが、選択肢を最大化し、会社のお金を守るための賢い経営判断なのです。

余裕を持って準備すれば、打てる手は大きく広がります。次の決算に向け、早めの一手を一緒に考えましょう。

もし決算まで3ヶ月前を切っていたとしても、状況によっては間に合う方策や、別の角度からのご提案ができる場合もございます。

まずは現状の試算表をお手元に、お早めにお問い合わせください。

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