交際費は「総額」か「差額」か?イベント主催で役立つ節税対策

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

企業経営において、取引先との良好な関係を築くための会食やイベントは欠かせない活動です。

しかし、それに伴う「交際費」の税務処理は、多くの経営者が頭を悩ませるポイントではないでしょうか。

「当社が主催するゴルフコンペや記念パーティー。その費用、全額を交際費として計上していませんか?」

実は、参加者から会費を徴収するかどうかで、課税対象となる交際費の額が大きく変わる可能性があります。

この違いを理解しないままでは、本来払う必要のない税金を納めてしまうかもしれません。

この記事では、税理士の視点から、交際費の計算における「会費・参加料」の重要性に焦点を当てます。

具体的なケーススタディを通じて、賢く節税につなげるための実務的なノウハウを分かりやすく解説します。

交際費の基本:「割り勘」でも交際費になるのか?

まず、基本的な疑問から確認しましょう。

取引先との会食で「割り勘」になった場合、自社が負担した分は交際費になるのでしょうか。

結論から言うと、「割り勘による自己負担額は交際費になる」のが原則です。

しかし、この自己負担額の計上方法について、税務の世界では理論上2つの考え方が存在します。

【前提】

自社の代表1名と取引先1名の計2名で会食。飲食費の合計額が20,000円で、10,000円ずつ割り勘で支払ったケース。

  1. 自己負担額10,000円を交際費として計上する
  2. 総額20,000円を交際費として計上し、相手方から受け取った10,000円を雑収入として計上する

このような少額のケースであれば、ほとんどの企業は面倒な②の処理はせず、①のシンプルな方法で処理しているでしょう。

実務上もそれで問題になることはまずありません。

しかし、この考え方の違いが、ゴルフコンペや記念パーティーといった大規模で高額なイベントになると、納税額に大きな影響を及ぼす重要な論点に発展するのです。

ケーススタディ①:会費・参加料がある場合の交際費計算

それでは、具体的な事例をもとに、会費制のイベントにおける交際費の計算方法を見ていきましょう。

ゴルフコンペの事例で考える

多くの企業が取引先との親睦を深めるために開催するゴルフコンペ。

ここで、以下のようなケースを想定してみましょう。

  • 主催
    A社
  • 参加者
    50名
  • 参加費
    1人あたり20,000円を事前に徴収
  • A社がゴルフ場に支払った総額
    1,200,000円

この場合、A社が計上すべき交際費の額はいくらになるでしょうか。

前述の「割り勘」の考え方を応用すると、以下の2つの計算方法が考えられます。

  • 考え方1(差額説)
    総支出額から参加費総額を差し引いた、A社の実質的な負担額を交際費とする。
  • 考え方2(総額説)
    総支出額を交際費とし、受け取った参加費総額を雑収入とする。

もし「考え方2」で処理すると、交際費は120万円、雑収入は100万円(20,000円 × 50名)となります。

しかし、税務上の正解は「考え方1(差額説)」です。

計算式: 1,200,000円(総支出額) – 1,000,000円(参加費総額) = 200,000円(交際費)

このように、実際にA社が負担した20万円のみを交際費として計上すればよいのです。

なぜ会費を差し引けるのか?その法的根拠

この計算方法が認められる背景には、「会費・参加料を明示して徴収する会は、主催者と参加者が共同で開催し、費用を分担(割り勘)したのと同じ」という考え方があります。

これは、過去の通達(租税特別措置法関係通達61の4(1)-23および61の4(1)-15(5))によっても裏付けられている実務上の重要なルールです。

つまり、参加費を徴収することで、イベントの総支出額そのものを圧縮したかのような税務効果を得られるのです。

ケーススタディ②:会費・参加料がない場合(祝い金を受け取った場合)の注意点

では次に、会費制ではないイベント、例えば会社の記念パーティーなどで、参加者から「祝い金」を受け取った場合はどう処理すればよいのでしょうか。

ここには大きな落とし穴が潜んでいます。

記念パーティーの事例で考える

先ほどのゴルフコンペとは逆のパターンを考えてみましょう。

  • 主催
    B社(設立30周年記念パーティー)
  • 参加者
    顧客・取引先などを無料で招待
  • B社が会場等に支払った総額
    3,000,000円
  • 参加者から受け取った祝い金の合計
    1,000,000円

このケースで、B社が計上すべき交際費の額はいくらになるでしょうか。

会費制のケースと同じように、支出から祝い金を差し引いた200万円(300万円 – 100万円)を交際費として計上できるのでしょうか。

結論から言うと、これは認められません。

この場合の正しい処理は、以下のようになります。

  • 交際費
    3,000,000円
  • 雑収入
    1,000,000円

総支出額300万円の全額が交際費となり、受け取った祝い金100万円は別途、雑収入として計上しなければならないのです。

なぜ祝い金は差し引けないのか?最高裁判決が示す判断基準

この判断の根拠となっているのが、平成3年10月11日の最高裁判決です。

税務上の判断を分ける決定的な基準は、「会費・参加料として、金額が事前に明示されているかどうか」という点にあります。

事前に金額が明示されていない場合に受け取る「祝い金」は、あくまで参加者の善意による任意の贈与であり、パーティー開催費用の負担(=割り勘)とは見なされません。

そのため、パーティーの支出と祝い金の収入は、それぞれ別個のものとして処理(両建て処理)する必要があるのです。

【節税戦略】交際費800万円の壁を超える前に打つべき一手

これら2つのケーススタディから、経営者が取るべき具体的な節税戦略が見えてきます。

ご存知の通り、資本金1億円以下の中小企業の場合、交際費の損金算入(経費として認められる金額)には、年間800万円までという上限が設けられています。

この上限を超えた分は経費として認められず、法人税の課税対象となります。

年間の交際費が800万円を超えそうな企業にとって、イベント費用の計上方法は死活問題です。

  • 記念パーティーの例(祝い金方式)
    交際費が 300万円 計上され、800万円の上限枠を大きく圧迫します。
  • ゴルフコンペの例(会費制)
    交際費の計上は 20万円 に抑えられ、上限枠を温存できます。

つまり、大規模・高額なパーティー等を開催する場合、参加者の善意による「祝い金」に期待するよりも、事前に案内状などで「参加費」として一定の金額を明示し、一律で徴収する方が、結果的に大きな節税につながるのです。

税務調査で否認されないための実務ポイント

ただし、単に参加費を徴収すれば良いというわけではありません。

税務調査の際に、その事実を客観的に証明できなければ、交際費から差し引くことを否認されるリスクがあります。

理論上は正しくても、それを証明する「証拠」がなければ意味がありません。

会費制でイベントを実施した場合は、必ず以下の書類を整理・保管しておきましょう。

  • 開催案内状や告知メール
    会費の金額、支払方法、開催日時・場所などが明記されているもの。
  • 参加者名簿
    誰が参加したかを明確にするリスト。
  • 入金記録
    会費が振り込まれたことがわかる預金通帳のコピーや、現金で受け取った際の領収書の控えなど。

これらの証拠を揃えておくことで、税務調査官に対しても「これは参加者との費用分担であり、交際費の実質負担額は差額分です」と堂々と主張することができます。

まとめ:交際費の最適化は計画的なイベント設計から

今回は、会費・参加料の有無が交際費の計上額に与える影響について解説しました。

  • 会費制の場合
    交際費 = 総支出額 - 会費総額
  • 無料招待(祝い金受領)の場合
    交際費 = 総支出額祝い金 = 雑収入

このシンプルなルールの違いが、時には数十万円、数百万円単位での納税額の差を生み出します。

節税対策というと、日々の経費精算や決算時の対策に目が行きがちです。

しかし、真の節税は、ゴルフコンペや記念パーティーといったイベントの「企画段階」から始まっています。

どのような形式でイベントを開催するかが、最終的な税負担を大きく左右するのです。

自社のケースではどうなるのか、より具体的な節税対策を知りたい、あるいは現状の経理処理に不安があるという経営者様は、ぜひ一度、当事務所までご相談ください。

貴社の状況に合わせた最適なプランをご提案いたします。

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