うちの会社、あといくら借りられる?銀行が見る分析指標を徹底解説

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。

「うちの会社は、あといくら借りられるのだろう?」

「銀行は、うちの会社を財務的にどう評価しているんだろう?」

中小企業の経営者であれば、一度はこのような疑問を抱いたことがあるのではないでしょうか。

特に、新たな設備投資や事業拡大を考える際、自社の資金調達能力を正確に把握しておくことは、経営戦略の根幹に関わる重要なテーマです。

実は、銀行が融資先を評価する際には、決算書のある指標を見て「まだ貸せるか」「もう貸し過ぎか」という借入金のボリューム感を判断しています。

今回は、その重要な判断基準の一つであり、社長ご自身で“借入余力”を簡易的に把握できる便利な指標『借入月商倍率』について、具体的な計算方法から銀行の評価ポイント、そしてコロナ融資後の今だからこそ知っておくべき注意点まで、分かりやすく解説してまいります。

銀行が使うモノサシ、「借入月商倍率」とは?

銀行が融資の可否を判断する際に見るポイントは、事業の将来性や担保の有無、経営者の資質など多岐にわたります。

しかし、まず簡易的に「その会社の借入金が、事業規模に対して妥当な範囲か」を測るために使われるのが「借入月商倍率(かりいれげっしょうばいりつ)」です。

これは、その名の通り「借入金の総額が、平均月商の何ヶ月分に相当するか?」を示す指標です。

この数値を見ることで、会社の売上規模に対して、現在の借入金が過大ではないか、それともまだ資金調達の余力があるのかを客観的に把握することができます。

なぜこの指標が重要なのでしょうか。それは、銀行が「貸したお金をきちんと返してもらえるか」を最も重視しているからです。

月々の売上は、返済の原資となるキャッシュフローの源泉です。

そのため、「月商の何か月分を借りているか」は、その会社の返済能力を測る上で非常に分かりやすいモノサシとなるのです。

銀行と同じ視点を持つことで、今後の資金調達計画が立てやすくなるだけでなく、いざという時に「こんなはずではなかった」と慌てないための準備にも繋がります。

まずは、この便利なモノサシについて、詳しく見ていきましょう。

3分で完了!借入月商倍率の計算方法と評価の目安

この指標の素晴らしい点は、計算が非常にシンプルであることです。

お手元に決算書(貸借対照表と損益計算書)をご用意いただければ、すぐに計算できます。

計算式はとてもシンプル

借入月商倍率は、以下の式で求められます。

借入月商倍率(倍) = 有利子負債の残高 ÷ 平均月商

少しだけ用語を解説します。

  • 有利子負債
    利息を付けて返済する必要のある負債のことです。
    決算書の貸借対照表に記載されている「短期借入金」「長期借入金」「社債」などが該当します。
    主に銀行からの借入金の合計残高と考えていただいて結構です。
  • 平均月商
    年間の売上高を12ヶ月で割って算出します。
    損益計算書の「売上高」を12で割り算してください。

具体例で計算してみよう

言葉だけでは分かりにくいので、具体例で見てみましょう。

  • 年商
    1億2,000万円
  • 銀行からの借入金残高
    4,000万円

という会社があったとします。

1. まず、平均月商を計算します。

1億2,000万円 ÷ 12ヶ月 = 1,000万円

2. 次に、借入月商倍率を計算します。

4,000万円(有利子負債) ÷ 1,000万円(平均月商) = 4倍

この会社の借入月商倍率は「4倍」となります。非常に簡単ですね。

危険水準は?自社の立ち位置を知る評価の目安

では、算出した「4倍」という数字は、銀行からどのように評価されるのでしょうか。

一般的な目安は以下の通りです。信号機の色でイメージすると分かりやすいでしょう。

  • 【青信号】3倍以内
    健全な水準銀行からの評価も高く、追加融資の相談もスムーズに進めやすい状態です。
    返済能力に十分な余力があると見なされます。
  • 【黄色信号】4~6倍
    やや注意が必要な水準借入が少し重くなってきている状態です。
    この水準での追加融資は、事業計画の妥当性や将来性、担保の有無などをより慎重に審査される傾向があります。
    今回の例である「4倍」は、このゾーンに入り始めた段階と言えます。
  • 【赤信号】6倍超
    借入過多な水準返済能力に懸念を持たれる可能性が高い水準です。
    原則として、追加の新規融資はかなり厳しいと判断されることが多くなります。
    まずは既存の借入金の返済を進めるか、抜本的な経営改善が求められます。

いかがでしょうか。この目安を知っておくだけで、自社の財務状況の立ち位置が、銀行の視点からおおよそ把握できるかと思います。

【プロの視点】倍率だけで判断は危険!評価が変わる重要ポイント

ただし、注意していただきたいのは、この目安はあくまで“一般的”なものであるという点です。

3倍以内だから絶対に安心、6倍を超えたら即座に融資NG、というほど単純な話ではありません。

私が現場で融資のご支援をする際には、必ず「なぜその倍率になっているのか」という背景まで深掘りします。

実際の融資判断では、会社の状況によって銀行の見方が大きく変わるからです。

特に重要なポイントは以下の2つです。

1. 業種や事業の特性

例えば、製造業や旅館業のように、工場や建物といった高額な設備投資が不可欠な業種を考えてみましょう。

こうした業種では、事業を始めるため、また継続するために多額の設備資金が必要となります。

返済も10年、20年といった長期にわたるため、結果として借入月商倍率が10倍近くになることも珍しくありません。

その事業計画に妥当性があれば、銀行もそれを理解した上で融資を実行するケースは十分にあります。

一方で、ITサービス業やコンサルティング業など、大きな設備を必要としない業種では、主な資金需要は人件費や広告宣伝費などの「運転資金」になります。

この場合、借入月商倍率が3倍を超えただけでも「売上規模に対して借入が多すぎるのではないか?」「なぜそんなに運転資金が必要なのか?」と、より慎重な判断をされる可能性があります。

2. 借入の目的(設備資金か、運転資金か)

上記の業種特性とも関連しますが、その借入金が何のために使われたかも極めて重要です。

  • 設備資金
    工場や機械など、将来の収益を生み出すための投資であり、返済期間も長期に設定されることが多いです。
  • 運転資金
    仕入代金の支払いや人件費など、日々の事業活動を回していくための資金です。
    売上が赤字で、その補填のために借りている場合は、銀行の評価は厳しくなります。

同じ借入額であっても、その目的や返済期間、金利といった条件を総合的に加味して、銀行は融資の判断を行っています。

とはいえ、まずはご自身の会社の借入月商倍率を計算し、一般的な目安と比べてどうなのかを把握しておくことが、自社の財務戦略を考える上での重要な第一歩となります。

コロナ融資(ゼロゼロ融資)の返済で悩む経営者様へ

昨今、私へのご相談で特に増えているのが、コロナ禍で受けた実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」に関するお悩みです。

多くの中小企業がこの制度を活用して手元の資金を厚くしましたが、その結果として借入月商倍率が意図せず6倍を大きく超えてしまっているケースが散見されます。

当時は先の見えない不安から、とにかく借りられるだけ借りておこうという判断も致し方ない面がありました。

しかし、据置期間が終了し、本格的な返済が始まっている今、その影響が現実のものとなりつつあります。

「返済が始まってみると、思ったより資金繰りが苦しい…」

「新たな融資を申し込んだが、ゼロゼロ融資の残高がネックで断られてしまった…」

こうした事態に直面する可能性は、決して他人事ではありません。

そうした状況に陥る前に、まずは現状を正確に把握することが何よりも重要です。

ぜひこの機会に、貴社の決算書を確認し、借入月商倍率を計算してみてください。

借入月商倍率が高い場合の2つの打ち手

もし、目安とされる数値を上回っているようであれば、ただ不安になるのではなく、具体的な対策を講じていく必要があります。

主な打ち手は次の2つです。

1. 追加融資に頼らない経営体質への改善

根本的な解決策は、収益性を高め、借入への依存度を下げることです。

「売上向上」「コスト削減」「利益率の改善」といった視点で経営改善計画を策定し、実行していく必要があります。

銀行も、具体的な改善計画があり、その実現可能性が高いと判断できれば、追加支援を検討してくれる可能性があります。

2. 借入の「借り方」を見直す

現在の借入金の「借り方」を見直すことも、非常に有効な手段です。

例えば、複数の金融機関からの借入を一本化したり、より金利の低いものや返済期間の長いものに借り換えたりすることで、月々の返済負担が軽減され、資金繰りが劇的に改善するケースもございます。

自社の状況を客観的に分析し、早めに対策を打つことが、将来の安定経営への一番の近道です。

まとめ:自社の借入余力を把握し、次の戦略へ

今回は、銀行融資における借入余力の目安となる「借入月商倍率」についてお伝えしました。

最後に、本日の重要なポイントを3点にまとめます。

  1. 「借入月商倍率」で自社の借入状況を客観的に把握できる。(計算式:有利子負債 ÷ 平均月商)
  2. 一般的な目安は「3倍以内(健全)」「6倍超(過多)」だが、これは絶対ではない。業種や事業内容、借入の目的によって銀行の評価は変わることを理解しておくことが重要。
  3. コロナ融資等の影響で借入が多い場合は、まず現状を正確に把握すること。その上で、早めに経営改善や借り方の見直しを検討することが、未来の安定経営に繋がる。

この記事が、皆様の今後の資金調達や経営戦略の一助となれば幸いです。

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