交際費に含まれる交通費の範囲は、どこまで税務調査で指摘されるのか?

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
「得意先との会食後、担当者をタクシーで送った」
「取引先主催のゴルフコンペに参加するための交通費を支払った」
中小企業の経営者様であれば、日々の事業活動の中でこのような費用を支出する機会は少なくないでしょう。
しかし、これらの「交通費」が税務上「交際費」と判断されるか、それとも「旅費交通費」として全額損金(経費)になるのか、その線引きに悩んだ経験はありませんか?
この判断を誤ると、税務調査で思わぬ指摘を受け、追徴課税につながる可能性があります。
交際費の範囲、特に交通費の扱いは、税務調査で特に論点となりやすい項目のひとつです。
そこで今回は、税理士の視点から、交際費に含まれる交通費の範囲について、具体的な事例や裁決例を交えながら徹底的に解説します。
この記事を読めば、自信を持って経理処理ができるようになり、税務調査への不安を解消できます。
交際費の基本をおさらい:判断の3つの要件
まず、交通費の話に入る前に、そもそも何が「交際費」にあたるのか、その定義を再確認しておきましょう。
租税特別措置法では、交際費を「法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」と定義しています。
少し難しい言葉が並んでいますが、実務上の判断基準として、過去の裁決では以下の3つの要件を満たすものが交際費に該当するとされています。
- 支出の相手方が事業関係者(得意先・仕入先など)であること
- 支出の目的が事業関係者との親睦を深め、取引関係を円滑にすることであること
- 行為の形態が「接待」「供応」「慰安」「贈答」などであること
この3つの要件に照らし合わせて、個別の費用が交際費に該当するかを判断していくのが基本となります。
交通費の判断も、この基本原則の延長線上にあります。
原則的な考え方:「主催者」は誰か?が最初の分かれ道
交通費が交際費になるかどうかの最初の判断基準は、その接待の「主催者」が自社なのか、他社なのかという点です。
これは、国税庁の見解でも明確に示されています。
他社主催の懇親会に参加するための交通費は「旅費交通費」
有名な質疑応答事例を見てみましょう。
国税庁質疑応答事例「交際費等の範囲(接待を受けるためのタクシー代)」
【照会要旨】
他社が主催する懇親会に当社の従業員又は役員を出席させるために要するハイヤー・タクシー代(当社~懇親会会場、懇親会会場~自宅)は、会社の業務遂行上の経費であり、接待、供応等のために支出するものではありませんから、交際費等以外の単純損金(旅費交通費)と解して差し支えありませんか。
【回答要旨】
照会意見のとおりで差し支えありません。
(参考)
照会に係る費用は、他社が行う接待を受けるために支出するものであり、得意先等に対して自社が行う接待のために支出するものではありませんから、交際費等に該当しません。
要するに、他社が主催する懇親会に、自社の役員や従業員が参加するためにかかる会場までのタクシー代は、自社が接待行為を行っているわけではないため、交際費には該当せず、「旅費交通費」として処理して問題ないということです。
これは、あくまで業務の一環として参加するための移動コストと考えられるためです。
自社主催の接待で、得意先を送迎する交通費は「交際費」
一方で、上記の国税庁の見解には続きがあります。
(参考)
なお、自社が懇親会を主催する場合において、得意先を会場まで案内するために支出するハイヤー・タクシー代は、得意先に対して自社が行う接待のために支出するものですから、照会の場合と異なり、交際費等に該当することとなりますのでご注意ください。
こちらは逆のパターンです。自社が接待を主催し、得意先の方を会場まで送迎するためのタクシー代は、自社が行う接待行為そのものに付随する費用と見なされ、明確に「交際費」に該当します。
このように、「主催者が誰か」という点は、交通費の経理処理を判断する上で非常に重要な基準となります。
【要注意】「主催者」だけでは判断できないケース①:ゴルフ接待
「なるほど、主催者が誰かで判断すればいいのか」と、ここで安心してはいけません。
実は、この原則が通用しないケースが存在します。その代表例が「ゴルフ接待」です。
取引先が主催するゴルフコンペに参加するための交通費は、先の原則に従えば「旅費交通費」になりそうですが、税務上は「交際費」と判断される可能性が高いのです。
専門書籍にも、以下のような見解が示されています。
「交際費の税務 令和3年版」P512
この点について、一般論としては、パーティー等は、主催者の一方的な接待行為であるのに対し、ゴルフは、双方でプレーすることの楽しさを享受することに意義があることから、(中略)招待を受ける者が参加するための旅費交通費は、基本的には、交際費等に該当するものとして取り扱われるものと考えます。
これは非常に重要なポイントです。一般的な懇親会やパーティーは、主催者が参加者をもてなすという一方的な行為です。
しかしゴルフは、主催者と参加者が一緒にプレーを楽しみ、コミュニケーションを深めるという、双方向の性質を持っています。
そのため、たとえ他社主催であっても、「ゴルフに参加する行為そのものが、取引先との親睦を深めるための接待行為の一環である」と見なされるのです。
実際に、過去の裁決でも、他社主催のゴルフコンペへの参加について、以下のように判断されています。
平成10年2月18日裁決
本件コンペの参加に当たっては、(中略)主催企業や他の参加企業の歓心を買うためであると推認される。そうすると、参加することにこそ意義があり、そのことによって、他の者とは区別された特別な友好関係が形成されることとなるのであるから、本件参加行為は接待等の交際行為に当たると認められる。
つまり、ゴルフコンペへの参加は、単に招待に応じるだけでなく、それ自体が「得意先の歓心を買うための接待行為」であると認定されているのです。
したがって、その参加にかかる交通費も、接待行為に付随する費用として交際費に該当すると考えるべきでしょう。
【要注意】「主催者」だけでは判断できないケース②:温泉旅行
ゴルフ接待と同様の考え方が適用されるもう一つの例が「温泉旅行」です。
取引先が主催する温泉旅行に招待され、自社の役員や従業員が参加する場合の交通費も、交際費として処理する必要があります。
TAINS 法人事例002483
相手方から温泉旅行招待を受けて、これに参加するための役員又は使用人の旅費を負担した場合は、その負担した旅費は、相手方等との交際のために支出したものであるから、交際費等に該当する。
これもゴルフと同じロジックです。
取引先と一緒に温泉旅行に行くという行為自体が、親睦を深めるための慰安・接待行為にあたります。
したがって、他社主催であっても、その参加にかかる交通費は交際費となるのです。
ポイントは、その行為自体が「共同で行う接待」と見なされるかどうかです。
単に招待された飲食の席に出向くのとは性質が異なると理解してください。
実務で頻出!接待後の従業員のタクシー代はどうなる?
よくご質問いただくのが、「深夜に及んだ接待の後、自社の従業員を帰宅させるためのタクシー代」の扱いです。
これは判断が難しいところですが、過去の裁判例では、交際費に該当すると判断されたケースがあります。
東京地裁昭和55年4月21日判決
仮に(役員・従業員の飲食が接待である)とすれば(帰宅費用は)交際費等の支出に伴う費用として交際費等に該当するというべきである(後略)
この判決のロジックは、「自社が主催した接待が深夜に及んだために、従業員の帰宅費用が必然的に発生した」というものです。
つまり、接待という原因があったからこそ生じた費用であり、その接待に付随するものとして交際費に含めるべき、という考え方です。
接待がなければ発生しなかった費用、と考えると分かりやすいかもしれません。
実務上は、接待に参加した従業員の帰宅タクシー代は、交際費として処理しておくのが最も安全な方法と言えるでしょう。
もう一つの論点:「贈答」に付随する送料の扱いは?
最後に、交通費と少し似た論点として、「贈答」にかかる送料の扱いについても触れておきます。
例えば、お中元やお歳暮、あるいは株主優待品などを得意先に送る際の送料は交際費になるのでしょうか。
これも裁決例があり、送料も「交際費」に含まれると判断されています。
平成23年1月24日裁決
本件送料は、株主優待品の株主への送付すなわち贈答のために支出された費用であり、(中略)本件送料は、支出の相手方、支出の目的及び支出に係る行為の形態に照らし、(中略)交際費等に該当すると認めることができる。
品物そのものだけでなく、それを相手に届けるための送料も、贈答という行為を完結させるために直接必要な費用です。
送料を負担することで、相手は品物を受け取るという利益を完全に享受できるわけですから、その費用も一体のものとして「相手の歓心を買う」という交際費の本質に含まれる、というわけです。
まとめ:形式ではなく「行為の実態」で判断することが重要
今回は、交際費の中でも特に判断に迷いやすい「交通費」の範囲について解説しました。
ポイントを改めて整理しましょう。
- 原則
接待の「主催者」が誰かで判断する。- 他社主催の懇親会への参加交通費 → 旅費交通費
- 自社主催で得意先を送迎する交通費 → 交際費
- 例外
「参加行為そのもの」が接待と見なされるケースでは、他社主催でも交際費になる。- ゴルフ接待への参加交通費 → 交際費
- 温泉旅行への参加交通費 → 交際費
- 付随費用
接待や贈答に「必然的に伴う」費用も交際費に含まれる。- 接待後の従業員の帰宅タクシー代 → 交際費
- 贈答品を送る際の送料 → 交際費
税務調査で最も重視されるのは、勘定科目などの形式ではなく、「その支出がどのような目的で、どのような行為のために行われたのか」という実態です。
今回ご紹介した基準を参考に、一つひとつのケースを慎重に判断することが、税務リスクを回避する上で不可欠です。
もし判断に迷うケースがあれば、安易に自己判断せず、専門家にご相談ください。適切なアドバイスで、貴社の健全な経営をサポートいたします。