税務調査官が見ている「機械装置」と「器具備品」の危険な境界線

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。

「うちの会社が新しく導入したこの機械、減価償却の資産区分は『機械装置』でいいのだろうか?それとも『器具備品』だろうか?」

中小企業の経営者の方であれば、このような疑問を持った経験が一度はあるのではないでしょうか。

一見些細なことに思えるこの資産区分ですが、実は税務調査において非常に重要な論点となります。

なぜなら、どちらに区分されるかによって耐用年数が変わり、結果として毎年の減価償却費、ひいては納税額に直接的な影響を与えるからです。

税務調査官は、この点を厳しくチェックします。もし区分を誤っていれば、過去に遡って修正を求められ、過少申告加算税や延滞税といったペナルティが発生する可能性も否定できません。

そこで本記事では、実務上よく問題となる「機械装置」と「器具備品」の区分について、裁決例や判例を交えながら、経営者の皆様が知っておくべき判断のポイントを具体的に解説していきます。

まずは基本原則を理解する:「設備」か「単体」か

税法における「機械装置」と「器具備品」の区分には、まず押さえておくべき基本的な考え方があります。

非常にシンプルに言えば、複数のものが組み合わさって一つの「設備」として機能するものが「機械装置」、それ自体が独立して機能する「単体」のものが「器具備品」と考えます。

この点について、国税不服審判所の裁決(平成27年10月21日)では、以下のように示されています。

機械及び装置とは、複数の機器により設備を形成し、かつ、設備の一部としてそれぞれのものがその機能を果たすもので、工程の最初から最後に至るまで有機的に牽連結合して一体として用いられる性質を有するものをいうものと解するのが相当である。

器具及び備品とは、それ自体で固有の機能を果たし、独立して使用される機器をいうものと解するのが相当である。

つまり、ベルトコンベアで繋がれた一連の製造ラインのように、複数の機器が連携して初めて一つの目的を達成するようなものは「機械装置」に該当します。

一方で、事務所で単独で使うコピー機やパソコンのように、それ一つで機能が完結するものは「器具備品」となるのが原則です。

まずはこの「設備か、単体か」という大原則を頭に入れておくことが、理解の第一歩となります。

実務では原則通りにいかない!「使用状況」が判断を左右するケース

「なるほど、設備なら機械装置、単体なら器具備品か。簡単だな」と思われたかもしれません。しかし、税務の実務はそれほど単純ではありません。

本来は「器具備品」に分類されそうな資産であっても、その使われ方によっては「機械装置」と判断されるケースがあるのです。

このことを示す象徴的な判例が、パンの製造工場に関する大阪地裁の判決(平成30年3月14日)です。

この事例では、パンを製造するために使われるミキサーやオーブンといった個別の機器が争点となりました。

一つひとつを見れば、それぞれが独立した機能を持つ「器具備品」とも考えられます。

しかし、裁判所は以下のような事実認定に基づき、これらをまとめて「機械装置」に該当すると判断しました。

  • 事実認定のポイント
    • 各機器は、パンを大量に、反復的・継続的に製造する工程において使用されている。
    • ある機器での作業を前提に、次の工程の機器が作業を行うという、一連の製造工程の一部を分担している。
    • 各機器は互いに近接して、製造工程に沿って効率的に作業ができるように配置されている。

これらの事実から、裁判所は「各機器は、有機的に結合し一体となって大量のパン等を反復的継続的に製造しているものということができるから、『機械及び装置』に該当する」と結論付けました。

この判例が示す重要な教訓は、資産の区分は、そのモノ自体の性質だけで決まるのではなく、事業の中でどのように設置され、どのように使用されているかという「実態」に基づいて判断されるということです。

自社の資産が、製造やサービス提供のプロセス全体の中で、他の機器と連携して不可分一体の役割を果たしていないか、という視点を持つことが極めて重要になります。

何でもかんでも「設備」ではない。常識的な判断の重要性

「使用状況によっては、器具備品も機械装置になるのか。それなら、工場にあるものは全部まとめて機械装置として扱ってもいいのでは?」という考えは、残念ながら通用しません。

ここでもう一つ、バランス感覚を示す裁決例をご紹介します。

給油所の設備に関する裁決(平成27年9月8日)では、納税者が給油所全体を一つの「機械及び装置」として主張しましたが、審判所はその主張を退けました。

本件給油所は、それぞれ独立の機能、効用を有する(1)構築物、(2)工具、器具及び備品、(3)機械及び装置から構成されていることが認められるから、本件給油所全体を一の機械及び装置とみることはできない。

この裁決が示しているのは、一つの事業用施設であっても、その中身は合理的に区分して考えるべきだということです。

例えば、給油所を構成する要素を考えてみると、

  • 構築物
    キャノピー(屋根)や建屋
  • 機械及び装置
    ガソリンを計量・給油する計量機、地下タンク
  • 器具及び備品
    防犯カメラ、事務所の備品

といったように、明らかに機能や性質が異なるものが混在しています。

これらをすべて一緒くたに「機械装置」として処理するのは、常識的に考えても無理がある、という判断です。

先のパン工場の事例と合わせて考えると、「有機的な結合」があるかどうかを実態に即して判断しつつも、明らかに独立した機能を持つものまで無理やり一体と捉えるべきではない、というバランス感覚が求められるのです。

もう一つの重要な判断軸:「規模」による影響

ここまで「設備か単体か」「使用状況」という切り口で解説してきましたが、実務ではもう一つ、「資産や事業の規模」という要素が判断に影響を与えることがあります。

同じ資産であっても、会社の事業内容や、その資産の大きさによって区分が変わる可能性があるのです。

TAINS(税務情報データベース)に掲載されている事例を見てみましょう。

事例1:ガス湯沸器のケース

一般的なオフィスで従業員が手洗いなどに使うガス湯沸器は、「器具及び備品」の「ガス機器」として耐用年数6年が適用されます。

しかし、これが料理飲食店業で使われる「相当規模のもの」である場合は、事業に不可欠な設備と見なされ、「機械及び装置」の「飲食店業用設備」として耐用年数8年が適用される、とされています。

事例2:工業用レントゲンのケース

工業用レントゲンは、その規模や使われ方によって、以下のように3つの区分が考えられます。

  1. 機械及び装置
    工場で材料探傷などに使う大型のもの
    工場設備の一部として扱われます。
  2. 工具
    製造ラインで製品検査に使う、人力で移動できる小型のもの
    「測定工具及び検査工具」に該当します。
  3. 器具及び備品
    試験所などで材料研究に専門的に使われるもの。
    「試験又は測定機器」に該当します。

これらの事例から分かるように、「設備か単体か」という原則だけでは判断できず、その資産が事業においてどれほどの重要性や規模を持つかという点も、税務上の区分を決定づける重要な要素となるのです。

判断に迷ったら?「業務用」か「家庭用」かを考えてみる

「規模」という判断軸は少し曖昧に感じるかもしれません。

その際、一つの分かりやすいヒントとなるのが、その資産が「業務用」か「家庭用」かという視点です。

例えば、冷蔵庫を例に考えてみましょう。

  • 家庭用冷蔵庫
    たとえ事務所の給湯室で使っていても、そのもの自体は事業の主たる設備とは言えません。
    この場合は「器具及び備品」(電気冷蔵庫など)として扱われます。
  • 業務用冷蔵庫
    レストランの厨房で使われる大型の冷蔵庫は、レストラン業を営む上で不可欠な設備そのものです。
    このため、「機械及び装置」(飲食店業用設備)に区分されます。

もちろん、すべての資産がこの切り口で明確に分けられるわけではありません。

しかし、「一般家庭でも使われるようなものか、それとも明らかに事業目的で作られたプロ仕様のものか」を自問してみることは、その資産の「規模感」や事業への貢献度を測る上で、有効な判断材料となるでしょう。

まとめ:総合的な判断で税務調査に備える

今回は、税務調査で論点となりやすい「機械装置」と「器具備品」の区分について解説しました。

最後に、判断のための重要なポイントをまとめておきましょう。

  • 原則
    複数の機器が連携する「設備」か、独立して機能する「単体」か。
  • 実態
    資産の性質だけでなく、実際の「使用状況」が重要。
    製造工程などで有機的に結合し、一体として機能しているか。
  • 常識
    一つの施設でも、構築物や機能が全く異なる備品などを無理に一体として扱わない。
  • 規模
    事業内容や資産の大きさ、重要性も判断要素となる。
    「業務用」か「家庭用」かという視点もヒントになる。

ご覧いただいたように、資産の区分は一つのルールで単純に決まるものではなく、これらの要素を個別のケースごとに当てはめ、総合的に判断する必要があります。

安易な判断は、将来の税務調査で思わぬ指摘を受けるリスクに繋がりかねません。

自社の資産区分に少しでも不安を感じた場合は、必ず顧問税理士などの専門家に相談し、適切な会計処理を行うことを強くお勧めします。

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