自社のオフィスや事務所以外でも税務調査は受けられるのか?

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
税務調査の通知が届いたとき、多くの経営者様が「自社のオフィスや事業所で受けるもの」と当然のようにお考えになるかもしれません。
しかし、その「場所の選択」が、税務調査の行方を大きく左右する重要な戦略の一つであることは、あまり知られていません。
これまで数多くの税務調査の現場に立ち会ってきた経験から断言できるのは、調査を受ける「場所」を戦略的に選ぶことで、経営者の皆様の心理的・物理的負担を大幅に軽減し、調査を有利に進めることができるということです。
この記事では、なぜ専門家が「税理士事務所」での調査を強く推奨するのか、その具体的な理由と、実現のための交渉術について、現場の実践的なノウハウを交えながら詳しく解説します。
そもそも税務調査の場所に「決まり」はあるのか?
まず、大前提として知っておいていただきたいことがあります。
それは、税務調査を受ける場所について、法律上の明確な規定は存在しないということです。
国税通則法などの法律では、調査官が持つ「質問検査権」について定められていますが、「必ず事業所で調査を受けなければならない」とは書かれていません。
つまり、帳簿や請求書、領収書といった原始資料がきちんと準備されている場所であれば、原則としてどこで調査を受けても構わないのです。
例えば、お客様が常に来店される飲食店や小売店のような業種の場合、店舗で調査を行うと業務に大きな支障が出ます。
このようなケースでは、事業所ではなく経営者様のご自宅で調査を受ける、といった選択も実際に可能です。
この「場所の柔軟性」こそが、税務調査を乗り切るための最初の戦略的ポイントとなります。
なぜ専門家は「税理士事務所での調査」を推奨するのか?
選択肢がいくつかある中で、専門家が推奨しているのが「税理士事務所」で税務調査を受けるという方法です。
もちろん、帳簿や資料をすべて税理士事務所へ移動させるという手間は発生します。
しかし、その手間を補って余りあるほどの大きなメリットが存在するのです。
ここからは、その具体的なメリットについて解説します。
メリット1:経営者の心理的負担を劇的に軽減する
税務調査と聞いて、平常心でいられる経営者様はほとんどいらっしゃらないでしょう。
「何か指摘されるのではないか」「売上をごまかしていると疑われるのではないか」といった不安や恐怖を感じるのは、至極当然のことです。
自社のオフィスという慣れた場所であっても、調査官と対峙する時間は非常に長く、緊張を強いられるものです。
しかし、調査場所を税理士事務所、つまり税務の専門家である税理士の「ホームグラウンド」に移すことで、この心理的負担は劇的に軽減されます。
- 常に顧問税理士が隣にいるという安心感
- 不測の事態にも専門家がすぐに対応できるという信頼感
- 自社から物理的に離れることによる、程よい距離感
これらが組み合わさることで、経営者様は余計なプレッシャーから解放され、冷静な状態で調査に臨むことができます。
精神的な余裕は、的確な応答や判断に繋がり、結果として調査全体を有利に進めるための土台となるのです。
メリット2:事業への影響を最小限に食い止める
自社で調査を受ける場合、精神的な負担だけでなく、事業運営そのものへの影響も無視できません。
従業員への配慮と情報漏洩リスクの回避
調査が始まると、会議室などで経営者様と調査官が長時間にわたってやり取りをすることになります。
その会話が従業員に聞こえてしまうと、「会社は何か問題を抱えているのだろうか」と不必要な憶測や不安を招きかねません。
また、悪気はなくても、調査官がオフィス内を歩き回り、従業員に直接話しかけてヒアリングを始める、というケースも考えられます。
従業員からの断片的な情報が、調査官に誤った先入観を与えてしまうリスクもゼロではありません。
税理士事務所での調査であれば、こうした従業員への心理的影響や、意図しない情報漏洩のリスクを完全に遮断できます。
重要な業務の中断を回避
税務調査は通常1日〜数日にわたって行われます。
その間、会議室が使えなくなったり、経理担当者が調査対応に付きっきりになったりするなど、通常の業務が滞ってしまうことは避けられません。
税理士事務所で調査を行えば、経営者様や経理担当者が必要な時間だけ事務所に出向けばよく、自社では他の従業員が通常通り業務を続けられます。
事業への影響を最小限に抑えるという観点からも、非常に合理的な選択と言えるでしょう。
調査官との場所の調整も、税理士の重要な役割です
ここまでお読みいただき、「ぜひ税理士事務所で調査を受けたい」と思われたかもしれません。
しかし、調査官によっては事業所での調査を望み、難色を示すケースがあるのも事実です。
彼らには、帳簿だけではわからない「現場」を見て、調査の糸口を探したいという思惑があるためです。
ですが、こうした調査官との折衝こそ、我々顧問税理士がお客様を守るために果たすべき、重要な役割の一つです。
お客様が直接、調査官と法律論や難しい交渉を行う必要は一切ありません。
私たちは、お客様の代理人として、
- 法律上の根拠
- お客様の事業が滞りなく進められることの重要性
- 事業所のスペースや来客対応といった物理的な問題
などを総合的に勘案し、調査官に対して論理的かつ丁寧に説明を行います。
お客様にとって最も有利で、安心して調査に臨める環境を確保するための調整は、すべて専門家である私たちにお任せください。
【重要】「事業所を少し見たい」と言われた際の柔軟な対応
交渉の結果、税理士事務所での調査が実現したとしても、調査官から「承知しました。では、事業所の様子だけ少し拝見させていただけますか?」といった応対をされることがあります。
このとき、頑なに拒否するのは最悪の選択です。
「何か見せたくないものがあるから、あれほど税理士事務所での調査にこだわったのか」と調査官に疑念を抱かせ、調査拒否と受け取られかねません。
そうなれば、かえって調査が厳しく、長引く原因となってしまいます。
あくまで税理士事務所での調査を依頼した理由は、「調査に協力したくない」からではなく、「円滑な調査と事業継続を両立させるため」です。
その姿勢を示すためにも、こうした応対には「承知いたしました。では、〇日の〇時でしたら対応可能です」と、柔軟に対応する姿勢を見せることが肝心です。
協力的な姿勢を見せつつも、言うべきことは主張する。このバランスを取ることも、我々税理士がサポートする重要なポイントです。
まとめ:最適な調査場所を選び、有利な立場で税務調査に臨む
今回は、税務調査を乗り切るための「場所選び」という戦略について解説しました。
- 税務調査の場所に法律上の決まりはない
- 「税理士事務所での調査」は、心理的・物理的な負担を大きく減らす有効な手段
- 調査場所の調整など、調査官との面倒な折衝はすべて税理士に任せられる
- 不測の事態にも、税理士が間に入ることで冷静かつ柔軟に対応できる
税務調査の通知は、誰にとっても心穏やかでいられるものではありません。
しかし、信頼できる専門家が側にいることで、その不安は大きく和らぎます。
調査の通知が届いた際は、一人で抱え込まず、まずは当事務所にご一報ください。
どこで調査を受けるかという最初のステップから、最後まで責任を持ってお客様をお守りします。