税務調査でメール提出を要求されたら、応じる必要はあるのか?

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。

税務調査と聞くと、多くの中小企業経営者は「何をどこまで見せなければならないのか」と不安を抱くものです。

なかでも「メールデータの開示」を求められると、業務上の機密や取引先とのやり取りが外部にさらされるのではないかと、大きなストレスを感じることでしょう。

実際に、税務調査で「営業担当者のメールすべて」と「経理担当者のメールすべて」を一括ダウンロードしたデータで提出するよう要請された事例があります。

守秘義務やプライバシーの問題を抱えつつも、税務調査の手続きには協力しなければならない。このような状況に陥ったら、どのように対応すればよいのでしょうか。

本記事では、税務調査におけるメールデータの提出要否や、必要な範囲をどう限定すべきかについて解説します。

最後までお読みいただくことで、「すべてを開示しなければならないわけではない」という税務調査の本質と、実際の対応手順がわかるようになるはずです。

税務調査でメール提出を求められるケース

まずは、実際に起こった事例を見てみましょう。

調査官から「営業担当者のメールを全部、一括ダウンロードしてデータで提出してほしい」と要請がありました。

さらに調査が進むにつれ、経理担当者のメールまですべてをデータで提出するように求められたのです。

このように調査官が大量のメールを提出させようとした背景には、会社が売上計上時期を不正に操作しているのではないかという疑義がありました。

調査官は「メールを隅々までチェックすれば、計上時期を操作している証拠が出てくるのではないか」と考え、一気に情報を集めようとしたわけです。

しかしながら、会社側には取引先との守秘義務契約やプライベートなやり取りが含まれるなど、多数の問題がありました。

これは決して他人事ではなく、多くの企業で起こり得る問題です。

税務調査の本質的な範囲を理解する

税務調査というと、調査官が「何でも自由に見られる」と思い込んでしまいがちですが、実際には法律によって明確な限度が定められています。

ここでは、その根拠となる国税通則法の条文を確認しながら、税務調査の本質を押さえておきましょう。

国税通則法第74条の8には、次のような趣旨の規定があります。

第74条の2から前条まで(当該職員の質問検査権等)の規定による当該職員の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

つまり、税務調査は犯罪を捜すための捜査権ではなく、「疑義のある特定の取引」に対して事実を確認する権限だということです。

あくまでも納税者の申告内容を適正に評価するためのものであり、「とりあえず全部の情報を確認して、そこから不正を見つけ出す」というスタンスは、税務調査の本来の目的から逸脱していると考えられます。

こうした法律の趣旨を理解しておけば、調査官から無制限に情報開示を求められたとしても、「これは本当に税務調査の適正範囲なのだろうか?」と冷静に見極めることができるでしょう。

全メールデータ提出を求められた場合の具体的な対応方法

税務調査の名目でメールデータの全面開示を求められた場合、どのように対応すべきでしょうか。

以下に挙げるポイントは、あくまで「特定の取引に関する確認が目的である」という税務調査の本質に照らし合わせながら検討するためのものです。

メール提出範囲の絞り込みを要求する

最初に強調したいのは、無制限にメールを提出する必要はないという点です。

調査官から「全部のメールをダウンロードして提出してください」と言われても、「どの取引が問題とされているのか、具体的に特定してください。その取引に関するメールなら提出します」という姿勢を示しましょう。

  • なぜ有効なのか?
    この対応は、国税通則法で定められた「犯罪捜査ではなく、疑義のある取引の確認である」という建前を踏まえたものです。
    単なる「網羅的な捜査」と捉えられるような要請は適切でないため、調査官に「どの取引を疑っているのか」を明らかにしてもらうことで、メール提出の範囲を適正化することができます。
  • 対応するときの注意点
    もちろん、特定の取引に関するメールが明確に示された場合は、それについては協力を惜しんではいけません。
    完全拒否の姿勢をとると「非協力的」と見られ、かえって調査が長引く可能性もあるため、あくまで「法的根拠に基づきつつ協力する」というスタンスが大切です。

データ形式での提出義務はない

次に、提出方法についても理解しておきましょう。

電子帳簿保存法(電帳法)への対応など特別なケースを除いて、基本的には「データでの提出を強制する権限はない」とされています。

調査官から「USBなどでデータを渡してほしい」と要求があっても、法的に義務があるわけではありません。

  • どのように対応すればよいか?
    必要なメールを紙に印刷して提出する方法で問題ありません。
    データ形式を求められた場合には、「法令上、データでの提出義務はないと理解していますが、必要な部分は紙で提出しましょうか?」と丁寧に確認するとよいでしょう。
  • 注意点
    データ提出を拒否する際は、感情的に対立するのではなく、あくまで法的根拠を根拠に「紙で対応することが問題ないのであれば、その方法で提出します」と伝えます。
    調査官の要請をまるごと突っぱねるのではなく、妥協案を出す形で協議するのが望ましいです。

守秘義務契約がある場合の対応

取引先との間に守秘義務契約がある場合、該当取引に関する情報を第三者に開示すること自体が制限されるケースがあります。

しかし、税務調査の権限は守秘義務契約に優先する側面があるため、特定取引にまつわるデータに関しては提出せざるを得ない場合も出てきます。

  • どんな点に注意すべきか?
    守秘義務契約の対象になっているメールの中にも、税務調査で「疑義がある」と指摘される取引情報が含まれる可能性があります。
    その場合、法律上は提出を拒否し続けるのは難しいですが、「無関係なメール」まで開示する必要はありません。
    あくまで問題とされている取引情報に関するメールに限定し、当事者同士のプライバシーや企業秘密が含まれる部分については、必要最小限の範囲で提出するといった配慮が求められます。
  • まとめると…
    守秘義務契約があるからといって一切提出を拒否できるわけではないことに注意しましょう。
    大切なのは「問題とされる取引だけに情報を絞る」という点です。
    取引先との契約を尊重しつつ、どの範囲ならば開示が妥当なのかを調査官と粘り強く話し合い、必要なら税理士や法律の専門家にも相談することが重要です。

実際の対応時に押さえておきたいポイント

上記のように、「全部を提出しなくてもよい」という基本姿勢は理解できても、調査官とのやり取りの中で誤解が生じることもあります。

ここでは、実務レベルでの対応ポイントを改めて整理しておきます。

調査官の要請に丁寧に対応する

  • 前置きの説明
    税務調査は、調査官と納税者が協力して適正な納税を確認するプロセスです。
    相手を敵視してしまうと、話し合いがスムーズに進まず、結果的に時間も労力も余計にかかってしまいます。
  • 具体的な行動例
    たとえば、「メールの範囲を絞って出してもらえませんか?」と言われたら、「法令上はこういう理由で全メールの開示までは必要ないと認識しています。
    どの取引をご覧になりたいのか具体的に教えていただけますか?」と、丁寧に質問しましょう。文書や条文を示すとより説得力が高まります。

特定の取引に絞って協力する姿勢を見せる

  • 前置きの説明
    「取引を特定してもらえれば、必要なメールはきちんと提出します」という姿勢を示すことで、相手に「非協力的だ」という印象を与えずに済みます。
  • 具体的な行動例
    たとえば、調査官が「売上計上時期があいまいな案件があるのでは?」と疑っている場合には、その案件のメールのみを提出する方法が考えられます。
    無関係なメールまで開示する必要がないことを、あらためて強調するとよいでしょう。

専門家のサポートを受ける

  • 前置きの説明
    税務調査は専門知識が求められるうえ、調査官とのコミュニケーションも巧みに行う必要があります。
    法律や条文の解釈、文書対応など、プロの視点があるのとないのとでは大きな差が出ます。
  • 具体的な行動例
    専門家に相談し、どの程度まで情報を開示すべきなのか、どのように交渉すべきなのかといったアドバイスを受けると安心です。
    調査前の段階で相談しておくことで、いざ調査が始まったときに迅速に対応が取れます。

パソコンの直接操作を求められた場合の注意点

メールの提出だけでなく、調査官から「パソコンを直接操作させてほしい」という要望が出されることもあります。

これは、メールソフトや会計ソフトなどの画面を直接確認しようとする意図から来るものですが、実際には税務調査の適正範囲を超えるケースが多いです。

たとえば、パソコン内には企業だけでなく従業員の個人情報や、まったく関係のない取引先の機密情報などが保存されていることもあります。

そうしたデータまで無制限に閲覧されるリスクがあるため、慎重に対応しなければなりません。

調査官には「関連がある部分ならお見せできますが、すべてを操作されるのは困ります」といったスタンスで臨むことが重要です。

まとめ:適切な境界線を設けることが重要

税務調査は、企業の納税申告内容を正しく確認するための手続きです。決して犯罪捜査ではありません。

したがって、調査官からメールの全面開示を求められた場合でも、以下のようなポイントを押さえて冷静に対応しましょう。

  • 取引を特定してもらい、関連メールのみを提出する
    「どの取引を疑っているのか?」を明確にさせ、不必要に広範なメールまで提出しないようにすることが大切です。
  • データでの提出義務がないことを理解する
    電帳法対応など特別な場合を除き、紙で提出する形で十分対応できます。調査官には法的根拠を示しながら、協力的かつ丁寧に交渉しましょう。
  • 専門家のサポートを受ける
    税理士や税務コンサルタントなど、税務対応のプロに相談しておくと、スムーズに解決へ向かう場合が多いです。

これらのポイントを意識することで、調査官との関係が不必要に悪化することを避けつつ、企業側の情報を守るバランスも取りやすくなります。

税務調査はあくまで対立の場ではなく、適正な納税を確認するための場です。

法的な範囲と自社の権利を正しく理解し、誠実かつ冷静に対応することが最終的には企業にとっても調査官にとっても最善の結果につながるでしょう。

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