事業再生局面での経営者保証解除の重要ポイント

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
多くの経営者は、事業再生の局面で「経営者保証の解除」を強く望む傾向があります。
しかし、業績不振に陥っている最中では、経営者保証の解除を実現するハードルはかなり高いといえます。
ただし、ハードルは高いですが「不可能」ではなく、ポイントを押さえて再生計画を進めれば、保証解除に近づく道筋を描くことは十分可能です。
そこで本記事では、事業再生局面での経営者保証解除を実現するうえで押さえておきたい重要ポイントについて、具体的な事例とともに解説します。
道は決して平坦ではありませんが、その先にある保証解除というゴールを見すえながら、金融機関との建設的な関係を築くためのヒントになれば幸いです。
再生計画の確実な遂行
事業再生局面で経営者保証の解除を求める場合、まず最初に押さえなければならないのが「再生計画の確実な遂行」です。
通常の事業運営における保証解除交渉では、会社の業績や財務内容の改善を示すだけでも一定の説得力があります。
しかし、すでに経営が悪化している局面では、抜本的な立て直しを図り、再生計画に沿った着実な成果を示すことが不可欠です。
では、具体的にどのような取り組みが求められるでしょうか。
再生計画を遂行するにあたっては、次のようなポイントを意識することが必要です。
- 資金繰りの安定化(借入金の返済繰り延べなど)
まずは手元資金を安定化させ、債務返済のストレスを緩和することが急務です。
返済期限の延長やリスケジュールといった具体策を金融機関と協議し、再生に必要なキャッシュを確保します。 - 不採算事業からの撤退(事業ポートフォリオの見直し)
赤字の原因となる事業やセクションを整理し、本業や将来的に成長が見込める事業に集中する決断が求められます。
ここで思い切った選択と集中ができるかが、再生計画の成否を大きく左右するでしょう。 - 役員報酬の削減(経営責任のシグナル)
経営者自ら率先して負担を示すことは、金融機関や取引先の信頼を回復するうえで欠かせない要素です。
身を切る思いで報酬をカットし、再生への本気度と責任感を打ち出します。 - 新規事業の立ち上げ(将来キャッシュフローの獲得)
再生計画は「リストラ」だけではありません。将来的にプラスとなる事業の開発や新規領域への進出も重要です。
未来のキャッシュフローを獲得できる見通しが示されることで、金融機関からの支持を得やすくなります。
単に「頑張ります」と意気込むだけでは信頼を得られません。
上記のような具体策を積み上げ、PDCAを回しながら再生を進めることで、「この会社は本気で再生を目指している」というメッセージを金融機関や債権者に伝えられるのです。
それこそが経営者保証解除の交渉を進めるための最重要条件といえます。
金融機関との協調体制の構築
事業再生を成功させるには、金融機関の理解と協力が欠かせません。
「単なる債権者」としてではなく、再生をともに進めるパートナーとして協力関係を築いていくことが重要です。
そのためには、再生計画の策定段階から積極的に金融機関と意見交換を行い、合意形成を図っていく姿勢が求められます。
特に、再生計画の遂行状況を定期的に報告して進捗を共有することは、金融機関との信頼関係を醸成するうえで非常に効果的です。
では、どのようなポイントを意識すべきでしょうか。以下の点が協調体制づくりの具体的なステップとなります。
- 定期的な協議の場の設定(3ヶ月に1回程度)
計画段階で終わらず、定期的に金融機関とコミュニケーションを取ることが大事です。
一定のスパンで協議の場を設け、お互いに情報を開示・共有しましょう。 - 金融機関への進捗状況の報告(業績、資金繰りなど)
業績の数値や資金繰り表を提示し、再生計画がどの程度進んでいるかを明確に示すことが不可欠です。
良い報告だけでなく、計画との乖離や厳しい見通しも含めて正直に伝えます。 - 再生計画の修正提案(環境変化に応じて柔軟に)
事業を取り巻く経済環境や市場環境は常に変化します。
再生計画を一度決めたらそれで終わりではなく、変化に対応して柔軟に修正を重ねる姿勢が必要です。 - 追加支援の要請(DDS、DESなど)
必要に応じてDebt D to EquityやDebt Equity Swapなどの手法を活用し、財務体質の改善を図る場合もあります。
金融機関側が応じてくれるかは状況次第ですが、協調路線で話を進めやすくなります。
金融機関との間に「同じ方向を向いて再生に取り組んでいる」という共通認識を育てることが、経営者保証解除へ向けた大きな一歩となるでしょう。
再生が順調に進み、財務状況が安定し始めた段階で、「経営者保証の解除」を具体的な交渉テーマとして挙げるのがセオリーです。
公的支援制度の活用
事業再生にあたっては、経営改善や債務調整など、さまざまな公的支援制度が用意されています。
これらを上手に活用することによって再生計画の実効性が高まり、金融機関からの理解も得やすくなるのです。
たとえば、中小企業再生支援協議会を活用することで、再生計画の策定や金融機関との調整が円滑に進むことが期待できます。
さらに、経営改善計画の策定や実行に対して補助金が支給される仕組みを活用すれば、新規事業開発や業務改善のための費用負担を軽減できるかもしれません。
こうした公的支援制度の中には、経営者保証の解除について専門的な相談ができるケースもあります。
具体的には、以下のような制度・支援を検討してみるとよいでしょう。
- 中小企業再生支援協議会の利用
専門家が再生計画の策定や金融機関との間に立って助言を行い、計画実行をサポートします。 - 経営改善計画策定支援事業の活用
商工会議所や中小企業診断士などと連携し、経営改善計画を策定する際に補助を受けることができます。 - 認定支援機関による経営改善計画の策定
認定支援機関には税理士や公認会計士、中小企業診断士などが含まれており、計画策定から実行まで伴走してくれます。 - 地域経済活性化支援機構(REVIC)の活用
支援対象や要件に該当すれば、出資や資金調達のサポートを受けられる場合があります。
公的支援制度を活用して再生プロセスを加速させることで、金融機関に対して「しっかりとした外部の専門家と連携し、具体的な再生策を進めている」ことをアピールできます。
結果的に、保証解除に向けた信頼関係の醸成にもつながるのです。
保証債務の一部弁済
経営者保証の解除を交渉する際、経営者自らが保証債務の一部でも弁済する姿勢を見せることは、非常に重要なポイントとなります。
少しでも弁済の努力を示すことが、債権者に対して「再生への本気度」と「誠意」を伝える明確なメッセージになるのです。
実際にどのような方法で弁済原資を捻出できるかは、各社の状況によって異なりますが、以下のような選択肢が考えられます。
- 経営者個人の資産売却(不動産、有価証券など)
経営者が所有する不動産や株式などを売却し、返済原資に充当します。
大きな痛手ですが、その分、債権者に真剣さが伝わります。 - 役員退職慰労金の活用(経営者への事前給付)
法人側から支給される退職慰労金をあらかじめ計上し、その一部または全部を弁済に回す方法です。
ただし、税務的な論点や会社法上の手続きもあるため、専門家と相談のうえ進めましょう。 - 私財の投入(経営者の覚悟の表明)
金融機関としては、経営者自身がどこまでリスクを背負ってでも再生を成し遂げたいかを注視しています。
経営者が私財を投入すれば、再生を諦めない強い意志のアピールになります。 - 第三者からの支援(スポンサー、親族など)
外部スポンサーの資本注入や、親族からの借り入れなどで返済原資を確保する場合もあります。
利害関係者間の調整に時間がかかる点には注意が必要です。
「わずかな金額では意味がないのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、少額でも弁済する努力を見せることが大切です。
経営者が自ら痛みを負い、なんとか債務の圧縮に取り組もうとする姿は、金融機関の信頼回復につながりやすいのです。
おわりに
事業再生局面での経営者保証解除は、容易なことではありません。
財務状況が悪化している会社に対して、金融機関が「保証を外しましょう」と積極的に言ってくることはまずないからです。
しかし、再生計画を着実に遂行し、金融機関との協調体制を構築することで、保証解除の可能性は徐々に高まっていきます。
- 抜本的な事業の立て直しと、再生計画に沿った前進を示すこと
- 金融機関との協調体制を築き、定期的な情報共有と修正を続けること
- 中小企業再生支援協議会などの公的支援制度を積極的に活用すること
- 経営者自ら保証債務の一部でも弁済し、再生への本気度と誠意を示すこと
これらのポイントを総合的に実践してこそ、再生と保証解除を同時に達成する道が開けます。
その道は平坦ではありませんが、経営者が強い意志と柔軟性を持って再生プロセスに臨めば、金融機関をはじめ関係者の理解と協力を得ることが可能です。
いつか訪れる保証解除の瞬間を目指して、一歩ずつ地道に再生を進めていきましょう。その努力の先には、きっと新たな事業の未来が広がっているはずです。
今後も皆さんの経営がより良い方向へと進むよう、銀行融資や経営改善に関する情報を発信していきますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
なお、今回紹介したような「経営者保証解除」に関する最新の情報や細かい事例などは、無料メルマガで紹介しています。
こちらも参考にしていただき、もし疑問点や不安な点があれば、お気軽にお問い合わせください。