銀行格付けの仕組みと経営者保証解除への活用方法

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
「銀行格付け」という言葉を耳にしたことがあっても、どのように企業経営に影響するのかを把握していない経営者の方は少なくありません。
実際には、銀行格付けが低い状態だと融資条件が厳しくなったり、経営者個人の保証を外せなかったりといった問題が起こりやすくなるのです。
逆に、格付けが一定以上であれば、経営者保証を解除できる可能性が高まります。
本記事では、銀行格付けの基本的な考え方から、格付け区分ごとの特徴、そしてどのようなアプローチをすれば格付けの向上が可能になるのかを詳しく解説します。
格付けの仕組みを理解したうえで、経営者保証解除につなげるためのヒントを得ていただければ幸いです。
銀行格付けの基本的な考え方
銀行格付けは、金融機関が企業の信用力を評価するための指標です。
格付けの点数や段階は、各金融機関によって以下のような形式で設定されています。
用いられる基準は多少異なりますが、いずれも企業の財務状況や事業運営を総合的に点数化してランク付けしている点は共通しています。
- 地方銀行・信用金庫:1から6段階評価
- メガバンク:1から10(または11)段階評価
- 評価点数:100点方式または129点方式
これらの評価制度を用いて、企業の安全性・収益性・将来性などが数値化され、一定のスコアが算出されます。
経営者保証解除を目指すのであれば、最低でも「55点以上」、可能であれば「60点以上」を確保するのが目標となります。
評価点数が低いと融資条件が厳しくなるだけでなく、経営者保証の解除は難しくなるため、点数向上が大切です。
正常先区分の重要性
銀行が企業を評価するとき、まずは「債務者区分」という大きな枠組みで信用度を把握します。
ここには「正常先」「要注意先」「破綻懸念先以下」の3つがあり、融資や保証の判断基準として大きく影響を与えます。
経営者保証を解除するためには、原則として「正常先」に位置づけられていることが大前提です。
債務者区分の概要
ここでは、どのような分類が行われるのか、その具体像を箇条書きにして整理します。
その前に背景として、銀行は貸出金の回収リスクを管理するために、企業の経営状態を分けて考えています。
経営が安定しているか、もしくはすぐに破綻する危険があるかなどを明確に区分することで、融資方針や保証要否を判断しやすくするのです。
- 正常先
- 業況が良好で、財務内容に特段の問題がない
- 貸出金の回収に問題がないと判断される
- 要注意先
- 金利減免や貸付条件の変更を行っている
- 業況が低調で、今後の経営に注意を要する
- 破綻懸念先以下
- 経営破綻の可能性が高い
- すでに実質的に破綻している
正常先であってもさらに細かく区分され、その中で格付けが上位か下位かによって、保証解除や追加融資などの金融取引に大きな差が出ます。
特に「正常先5」以上を目指すことが、経営者保証解除のスタートラインといえるでしょう。
正常先の詳細区分
正常先に位置づけられた企業はさらに細分化されて、上位から下位までに振り分けられます。
具体的には次のような区分がありますが、補足として「どの区分に該当するか」で融資条件や保証解除の可否が左右される、という点を押さえてください。
- 上位区分(正常先1-2)
実質的に上場企業レベルの優良企業を指し、自己資本比率も50%以上、収益力も非常に高い水準です。
中小企業がここに該当するケースは稀で、ほぼ経営者保証なしでも問題なく融資が受けられるほどの信用力があります。 - 中位上位区分(正常先3-4)
地域の優良企業として扱われる水準で、年商100億円以上の大きな規模か、営業利益率8%以上などの高い収益性を持つなど、一定の評価を得ています。
自己資本比率が40%程度あれば格付けで65点以上を期待でき、経営者保証解除を具体的に検討できるレベルです。 - 中位下位区分(正常先5)
格付け評価で55〜60点程度となり、無担保融資や保証協会付き融資の分かれ目にもなる重要区分です。
ここを超えれば、経営者保証解除について銀行と交渉がしやすくなります。
逆に、ここを下回る場合は保証解除のハードルが高くなるため、まずは正常先5以上を目指して経営改善に取り組むことが重要です。 - 下位区分(正常先6)
正常先とはいえ、最も低い評価帯にあたります。
多くの場合、保証協会付きの融資が主流となり、経営者保証解除を検討するには相当の経営改善が必要となります。
定量評価と定性評価の関係
銀行格付けを考えるうえで、定量評価(財務評価)と定性評価(非財務評価)の2つの視点を理解することは不可欠です。
私自身もコンサルティングを行うなかで、この「定量+定性」の組み合わせがどれほど重要かを実感しています。
両方の視点で企業の強みと弱みを把握し、改善策を講じることで、格付けを着実に引き上げることが可能になります。
定量評価(財務評価)の重要ポイント
定量評価は全体の約70%を占めるとされ、特に下記の3つが重要視されます。
銀行にとっては「利益を出しているか」「財務基盤が安定しているか」「将来も成長が見込めるか」が融資判断の基礎になるからです。
- 収益性分析
- 売上高営業利益率(目安:3%以上)
- 総資本経常利益率(目安:5%以上)
- キャッシュフローの創出力や利益の安定性
- 安全性分析
- 自己資本比率(目安:35%以上)
- 流動比率(目安:150%以上)
- 固定長期適合率や債務償還年数
- 成長性分析
- 売上高増加率や経常利益増加率
- 営業キャッシュフローの推移
- 業界内でのポジションや市場シェア
定性評価(非財務評価)の重要ポイント
定性評価は全体の約30%を占め、経営者の資質や企業の将来性を判断する要素が大きいです。
定性項目には経営者の考え方や組織体制、業界ポジションなどが含まれます。
これらの項目は数字に表れにくいものの、銀行が長期的なリスクを見極めるうえで重要視することを押さえておきましょう。
- 経営者評価(10%程度)
- 経営への取り組み姿勢
- 後継者の有無と育成状況
- 経営計画策定能力
- 銀行とのコミュニケーション状況
- 事業基盤評価(10%程度)
- 業界での地位・シェア
- 取引先の安定性・分散度
- 人材の確保・育成状況
- 事業モデルの競争力
- 将来性評価(10%程度)
- 市場の成長性
- 新規事業への取り組み
- 設備投資の状況
- 事業承継への対応状況
格付け向上のための実践的アプローチ
ここからは、実際にどのような取り組みをすれば格付けを向上させられるのか、私の経験上、特に効果的と感じるポイントをご紹介します。
これらの取り組みは「地道な努力の積み重ねが重要」であることを強調しておきます。一朝一夕で劇的に改善することは難しいため、計画的に進めていくのが成功の鍵です。
1. 決算書の質的向上への取り組み
決算書は銀行が最も注目する資料であり、ここを正しく整備することが評価アップの第一歩です。
「決算書の質が高いほど財務分析がしやすくなり、銀行が抱く安心感や信頼が増す」と理解しておきましょう。
- 月次決算の確実な実施
- 翌月10日までに確定を目標とし、タイムリーな数値把握を可能にする
- 前年同月比での分析を行い、差異要因を明確化する
- その差異を埋めるためのアクションプランを立案する
- 予実管理の仕組み作り
- 年度予算を部門別に落とし込み、具体的な管理目標を設定する
- 月次で予算と実績を比較し、差異分析を行う
- 経営会議で定期的にレビューし、修正を重ねる
- 会計処理の適正化
- 会計事務所との連携を強化し、経理担当者のスキルを高める
- 内部統制の仕組みを構築して、不正やミスを未然に防ぐ
- 税務リスクへの適切な対応を行い、信頼性の高い決算書を作成する
2. 経営管理体制の整備
次に、経営管理体制が整っているかどうかも、銀行格付けや経営者保証解除に大きな影響を与えます。
「組織体制がしっかり整備されていれば、経営リスクが抑えられる」と銀行が判断しやすくなる、という点を理解しておきましょう。
- 経営計画の充実
- 3~5年の中期経営計画を策定し、数値目標を明確に定める
- 計画に沿ったアクションプランを設定し、定期的に見直して軌道修正する
- 組織体制の強化
- 権限と責任を明確化し、意思決定プロセスを整備する
- 人材育成制度を整え、従業員のモチベーションとスキルを高める
- コンプライアンス体制を確立し、リスク管理を徹底する
- 後継者育成計画の具体化
- 承継時期をある程度明確にし、育成スケジュールを策定する
- 必要なスキルや経験をリストアップし、段階的に権限を委譲する
3. 情報開示の充実化
銀行との信頼関係を強化するには、適切かつ十分な情報開示が欠かせません。
「銀行の立場からすれば、企業の経営状況を常に把握しておきたい」という心理があることを抑えておくとよいでしょう。
- 定期的な銀行訪問の実施
- 最低でも四半期に1回は訪問し、業況報告と課題の共有を行う
- 将来の構想や計画も説明し、信用を高める
- 提出資料の質的向上
- 決算書類は早期に提出し、タイムリーな情報を提供する
- 補足資料として業界動向との関連を示し、データを可視化する
- 経営課題への対応状況報告
- 現在抱えている課題を明確に認識し、どのように対策を進めているかを報告する
- 進捗状況や成果を共有し、問題解決能力があることを示す
4. 個人資産管理の適正化
経営者の個人資産がどう管理されているかも、実は銀行格付けに影響を与えます。
「もし企業が赤字になっても、経営者個人が支えるだけの資力を持っていれば、銀行はリスクを小さくみる」可能性がある点を理解しましょう。
ただし、経営者個人の資産と企業の資産が混同されると、逆にリスク管理が不十分と見なされる場合もあります。
- 資産状況の明確化
- 個人資産を棚卸しし、評価額や含み益を把握しておく
- 負債状況も整理し、全体のバランスを可視化する
- 役員報酬の適正化
- 業績に応じた報酬設計を行い、過大・過小にならないよう配慮する
- 退職金制度を整え、長期的なインセンティブを付与する
- 生命保険の活用検討
- 企業保証に頼らずにリスクヘッジを図る方法として、経営者自身が生命保険を活用するケースもある
- ただし、保険料が企業の負担になる場合は財務への影響に注意する
- 企業保証に依存しない体制づくり
- 個人資産と企業資産を明確に区分し、過度な個人保証を避ける
- 担保や保証の適正化に取り組み、リスクを分散する
まとめ
銀行格付けは、経営者保証解除を実現するうえで欠かせない要素です。
とくに、正常先区分の「5」以上、点数でいえば「55点以上」を確保することが、まずは保証解除を検討するための最低条件となります。
さらに60点以上の評価を得られれば、より具体的な解除交渉が可能になり、融資条件も格段に有利になる可能性があります。
銀行から「経営者保証を外せるだけの信頼」を勝ち取るためには、数字だけでなく、経営姿勢や将来性など多面的なアピールが必要となります。
今回ご紹介したポイントを押さえて行動を起こすことで、より良い融資条件を引き出し、経営の自由度を高めることにつなげていただければと思います。
なお、経営者保証ガイドラインに関する最新の情報や細かい事例などは、無料メルマガで紹介しています。
こちらも参考にしていただき、もし疑問点や不安な点があれば、お気軽にお問い合わせください。