経営者保証解除のための保証人の範囲と対象債権者の理解

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
今回は、「経営者保証の解除」を見据えたときに検討すべき保証人の範囲と、対象債権者の捉え方について取り上げます。
経営者保証を解除する際は、単に「代表取締役が保証人になっているから、それを解除するかどうか」というだけでは終わりません。
銀行融資の実務的には「誰の保証が実際に必要とされているのか」を正確に把握することが求められます。
なぜなら、中小企業では経営に関与する立場が多様で、肩書きだけでは把握しきれないケースが多々あるからです。
本記事では、この「保証人の範囲」に焦点を当て、特に次の4つの立場ごとに整理して解説していきます。
- 実質的な経営者
- 経営参画している配偶者
- 営業許認可の名義人
- 事業承継予定者
それぞれのケースで「なぜ保証人になりうるのか」「どのような点に留意が必要なのか」を具体的に見ていきましょう。
実質的な経営者とは何か
まずは「実質的な経営者」という概念についてです。
中小企業の場合、法人の登記簿上は別の人物が代表取締役として記載されているものの、実質的に経営をコントロールしている人物が別にいる場合が少なくありません。
これが、金融機関が「肩書き」よりも「経営への関与度」を重視する理由です。
例えば、代表取締役は名目上のポジションで、実際には創業者が会長として実質的な権限を持っているケースがあります。
他にも、専務取締役が実質的に売上や取引先との交渉を掌握しているケースなどもよくみられます。
大株主である取締役が経営の実権を握っている場合もあるでしょう。
こうした立場の方は、銀行やその他の金融機関から見れば「経営の中枢にいる人物」とみなされます。
そのため、社外からの資金調達を行う際、代表取締役ではなくても保証人として責任を負う立場に取り込まれてしまうことがあるのです。
以下では、金融機関が実質的な経営者を判断する際に注目するポイントを整理します。
実質的な経営者と判断される典型例
実質的な経営者を見極める上で、金融機関がチェックする視点は多岐にわたります。
主なものを以下に挙げます。
- 営業面での影響力
- 売上高の50%以上に影響力を持つ
- 主要取引先との関係を独占的に築いている
- 個人の信用力で取引が成立している
- 社内での影響力
- 実質的な意思決定権限を持つ
- 従業員からの信頼や影響力が特に大きい
- 業務執行の中心的役割を担っている
- 資本面での影響力
- 会社の大株主である
- 個人資産で会社を支援している
- 会社の主要設備や事業に不可欠な資産を貸している
これらは単に「取締役として登記されているかどうか」だけで判断されるわけではなく、事実上どのような権限や影響力を持っているかが重視されます。
以上の観点を金融機関が確認するのは、万が一倒産や事業危機が起きた場合に、誰が主体となって再建や支援を進めていくのかを知るためです。
もしあなたの会社にも、表向きの肩書き以上に会社のかじ取りをしている人物がいる場合は、その方も経営者保証の対象として検討される可能性があることを認識しておきましょう。
経営参画している配偶者の扱い
次に挙げるのは「経営者の配偶者」です。
中小企業や同族企業の場合、配偶者が取締役に就任している、あるいは経理や営業活動などの重要業務を担っていることがよくあります。
実務的には「家族経営」と呼ばれる形態ですが、金融機関からすれば、配偶者もまた“会社の経営に深く関わるキーパーソン”と見なすケースがあります。
表面的には「役員」として登録されていない場合でも、実際に決裁プロセスや取引先の管理などに関与しているならば、その権限や責任の度合い次第では保証人として求められることがあるのです。
そこで、配偶者がどの程度会社に関わっているかを明確に把握しておく必要があります。
配偶者が保証人となる典型的なケース
配偶者の立場や役割を検討する際、金融機関が特に注目するポイントを以下にまとめました。
- 役員としての関与
- 登記簿上の取締役として名を連ねている
- 経理責任者として実質的な資金管理を担う
- 人事権や給与査定などを事実上コントロールしている
- 業務面での関与
- 重要な営業活動に直接携わっている
- 経営計画の立案に関わっている
- 従業員の労務管理やシフト管理などを任されている
- 資産面での関与
- 会社資産の共有者として法的立場を持っている
- 役員報酬を高額で受給しており、実質的に経営利益を享受している
- 個人資産を会社の連帯保証や担保として提供している
これらに該当する項目が多いほど、配偶者が「経営を支えるもう一人の経営者」として認識される可能性が高まります。
仮に配偶者が保証人になっている状態で経営者保証を解除したい場合、配偶者の経営参画度を下げたり、経営体制を明確化したりするなどの見直しが必要になってくるかもしれません。
営業許認可の名義人の扱い
続いて「営業許認可の名義人」についてです。
建設業であれば経営業務管理責任者、運送業であれば運行管理者、飲食業であれば食品衛生責任者など、特定の許認可が事業継続の生命線となるケースがあります。
これらの免許や資格は、通常「個人」に付与されるものが多く、もしその人物がいなければ会社として事業を維持できなくなる可能性が高いのです。
金融機関が着目するのは、その事業を続ける上で「その人が不可欠かどうか」という点です。
たとえ登記上の代表ではなくとも、主要な許認可の名義を持っている人が会社にいないと事業が成り立たない場合、金融機関としては「その人も経営に準ずる責任を負っている」とみなすことがあります。
名義人が保証人となるケース
では、具体的にどのようなケースで営業許認可の名義人が保証人となり得るのかを見てみましょう。
- 事業存続への影響
- 許認可が事業そのものの根幹であり、代替が困難
- 名義人が離脱すると、事業を継続できないリスクが高い
- 個人の資格に強く依存する事業モデル
- 業界特性による判断
- 建設業での経営業務管理責任者が経営実態を把握している
- 運送業での運行管理者が安全運行や法令遵守を実質的に統括している
- 飲食業での食品衛生責任者が許認可要件の中心となっている
- 実務上の注意点
- 名義変更の可能性や後継者への引継ぎ計画があるか
- 資格保持者以外が業務を遂行するリスク分散策を検討しているか
- 契約書や定款などで権限や責任範囲がどう定義されているか
このように、許認可の名義人は企業の“要”として位置づけられることが多く、金融機関も「この人がいなければ成り立たない」という視点で慎重に判断を下します。
経営者保証を解除するにあたって、名義人の立場が大きい場合は、別のメンバーへ許認可を移すか、あるいは共同管理の仕組みを整えるなど、長期的な視点で体制づくりを考えることが大切です。
事業承継予定者の扱い
最後に、将来的に事業を引き継ぐと見込まれる「事業承継予定者」について取り上げます。
事業承継は企業の存続そのものに直結する極めて重要なテーマですから、金融機関としても承継予定者がどの程度の能力・権限を持ち、どのように育成され、いつ経営を引き継ぐのかを注視します。
つまり、「保証人として責任を負わせるだけの立場にあるかどうか」を慎重に見極めるわけです。
承継者が既に経営の中核で実務を担っている場合や、株式の一部を保有しているようなケースでは、金融機関から「保証人として関わってほしい」という要請が出ることもあります。
ただし、あまりに早い段階で後継者を保証人として巻き込むと、後継者本人の負担が大きくなり、スムーズな事業承継の妨げになる可能性もあるでしょう。
後継者の保証人判断のポイント
では、金融機関が後継者を保証人とすべきかどうかを判断する際、どのような基準を設けているのでしょうか。
主なポイントを以下に示します。
- 現在の関与度
- 実際に経営に参画している度合い
- 重要な決裁権限を与えられているか
- 株式保有や出資比率などの所有権状況
- 承継計画の具体性
- 承継時期がいつ頃か明確になっているか
- 段階的な権限移譲プランが存在するか
- 株式を順次移転する予定があるか
- 実務能力
- 業界経験や専門知識の習得状況
- 主要取引先との関係構築がどの程度進んでいるか
- リーダーシップや意思決定力の評価
これらの条件がある程度整っていれば、金融機関は「将来的に経営を担う人物」として後継者にも保証人の責任を求める可能性が出てきます。
一方で、後継者がまだ若かったり、実務能力や権限が十分でなかったりする場合は、保留されることもあります。
どちらにせよ、事業承継の計画と併せて保証人の在り方を再検討することが大切です。
まとめ:保証人範囲の実務的な判断基準
経営者保証を解除する際には、「誰が保証人に該当し得るのか」を多角的に見て判断することが欠かせません。
実質的経営者や配偶者、営業許認可の名義人、事業承継予定者など、多様な立場の人が保証人として考慮される可能性があるからです。
とりわけ、中小企業では肩書きだけでは把握しきれない実態が存在するため、金融機関も実質的な影響力や権限、経営参加度を細かく確認する傾向にあります。
以下では、ここまでに紹介した4つの立場を、再度整理しておきます。保証人の範囲を検討する際の参考にしてください。
- 実質的な経営者
- 形式的な役職の有無にとらわれない視点が必要
- 営業面や社内での影響力が大きいかどうか
- 実質的な意思決定権を持っているか
- 経営参画している配偶者
- 取締役としての名義、あるいは経理・営業など重要業務への関与度
- 資産面の連携(個人資産を会社に提供しているなど)
- 社内の意思決定プロセスにどの程度深く関わっているか
- 営業許認可の名義人
- 許認可が事業継続に欠かせないか
- 名義人が離脱すれば事業が大きく揺らぐリスクがあるか
- 代替措置や引継ぎ計画が整っているか
- 事業承継予定者
- 現在の経営関与度と実務能力の成熟度
- 承継計画の具体性(時期、株式移転、権限委譲)
- 後継者として責任を負わせるタイミングの適切さ
こうした視点を総合的に踏まえたうえで、自社における「本当に必要な保証人」の範囲を検討することが重要です。
たとえ形式上の肩書きがなくとも、実質的に経営をコントロールする立場の方や、企業の存続に直接関わる役割を担う方は、金融機関から保証人として求められる場合があります。
経営者保証の解除を進めたい場合は、まず自社における経営体制や権限分配を棚卸しし、「どの立場の人物が何を担っているのか」を明確にすることから始めるとよいでしょう。
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