税務調査の「お土産」はもう卒業!令和の新常識を税理士が解説

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
「税務調査」――この言葉を聞いて、胸がざわつく経営者の方も少なくないのではないでしょうか。
特に中小企業の経営者様にとっては、日々の経営に追われる中で、税務調査は大きな負担となり得ます。
そんな税務調査に関して「お土産」という慣習がありますが、果たしてこれは、現代においても本当に必要なのでしょうか?
本記事では、この「お土産」問題に焦点を当て、税務調査を乗り切るための実践的なノウハウと、経営者様が持つべき心構えについて解説します。
税務調査における「お土産」とは何か?その正体と背景
まず、税務調査における「お土産」とは一体何を指すのでしょうか。
これは、税務調査において調査官から指摘事項(否認項目)が一切見つからなかった場合に、あえて何らかの小さな誤りを「作り出し」、修正申告を行うことを指します。
いわば、調査官に手ぶらで帰らせないための「配慮」のようなものです。
では、なぜこのような慣習が生まれたのでしょうか。
背景には、調査官側と経営者側の双方にとって、ある種の「メリット」があったと考えられていた時代背景があります。
- 調査官側の事情
税務調査で何らかの修正申告を引き出すことが、調査官自身の成果や評価に繋がるという側面がありました。
そのため、たとえ些細な点であっても指摘し、修正を促したいという動機が働きやすかったのです。 - 経営者・税理士側の事情
「お土産」を渡すことで、調査官の心証を良くし、調査が長引くのを避けたい。
あるいは、より大きな問題点を指摘されるリスクを回避したいという心理が働いたのかもしれません。
早期に調査を終わらせたいという思いは、多くの経営者様に共通するものでしょう。
このように、双方の思惑が一致する形で「お土産」という慣習が一部で存在していたことは否定できません。
しかし、時代は変わり、この考え方はもはや通用しないものとなっています。
なぜ「お土産」は過去の遺物となったのか?時代の変化と納税者の権利
かつては、国税当局の力が相対的に強く、納税者側がやや受け身にならざるを得ない状況も散見されました。
そのような状況下では、「お土産」が調査を円滑に進めるための一種の「潤滑油」として機能した側面もあったのかもしれません。
しかし、近年では以下のような大きな変化があり、「お土産」の有効性は完全に失われています。
- 納税者の権利意識の高まり
最も大きな変化は、納税者の権利意識が格段に向上したことです。
法律で保障された納税者の権利を正しく理解し、不当な指摘に対しては毅然と反論することが当然の時代となっています。
税務調査はあくまで法律に基づいて行われるものであり、感情的な配慮や不透明な慣習が入り込む余地はありません。 - 国税当局のコンプライアンス重視
国税当局内部においても、コンプライアンス(法令遵守)の意識が高まっています。
調査官は法律や通達に基づいて適正な調査を行うことが求められており、無理な指摘や不当な要求は許されません。 - 調査日数の短期化
以前は1件の税務調査に多くの日数が割かれることもありましたが、近年は調査効率化の流れから、多くの調査が2~3日程度で終了する傾向にあります。
これは、調査官も限られた時間の中で的確に問題点を発見する必要があることを意味し、「お土産」作りのために時間を割く余裕も、その必要性もなくなってきているのです。
つまり、無理に「お土産」を作らなくても、調査が不必要に長引くことはほとんどないと言えるでしょう。
このような変化を背景に、現代の税務調査において「お土産」という考え方は全く意味をなさないどころか、むしろ経営にとってマイナスに作用する可能性すらあります。
「お土産」を渡すことのデメリットとリスク
「波風を立てずに調査を早く終わらせたい」という気持ちから、つい「お土産」に応じてしまいたくなるかもしれません。
しかし、この行為には以下のようなデメリットやリスクが潜んでいます。
- 本来支払う必要のない税負担
最も直接的なデメリットは、間違ってもいないのに修正申告を行うことで、本来支払う必要のない税金を納めることになる点です。
これは経営資源の無駄遣いに他なりません。 - 将来の調査への悪影響
安易に「お土産」に応じてしまうと、「この会社は指摘すれば何か出てくる」という誤った印象を調査官に与えかねません。
それが将来の税務調査において、より厳しい目が向けられる原因となる可能性も否定できません。 - 企業のコンプライアンス意識の低下
「税務調査だから仕方ない」と、事実と異なる申告を容認する姿勢は、企業全体のコンプライアンス意識の低下に繋がります。
経営者が率先して法令遵守の精神を示すことが重要です。 - 税理士との信頼関係の毀損
顧問税理士が「お土産は不要」と進言しているにも関わらず、経営者が独断で応じてしまうようなことがあれば、税理士との信頼関係にも影響が出かねません。
税理士は専門家として、納税者の権利を守るために最善を尽くそうとしています。
「お土産」という行為は、短期的に見れば調査が早く終わるという「メリット」があるように錯覚しがちですが、長期的な視点で見れば、企業にとって百害あって一利なしと言えるでしょう。
否認事項がない場合の正しい対応とは?毅然とした態度の重要性
では、税務調査において、実際に調査官から指摘すべき事項が見当たらなかった場合、あるいは
「お土産」を暗に求められるようなことがあった場合、経営者はどのように対応すべきでしょうか。
答えは明確です。「間違っていないのであれば、その旨を堂々と主張する」ことです。
- 事実に基づいた説明
調査官からの質問や疑問点に対しては、誠実に、そして事実に基づいて丁寧に説明することが基本です。
日頃から経理処理を適切に行い、その根拠資料をしっかりと保管しておくことが、何よりの防御となります。 - 税理士との連携
税務調査の対応は、税務の専門家である税理士に任せるのが最善です。
調査には税理士に立ち会ってもらい、専門的な見地から適切な対応をしてもらいましょう。
万が一、調査官から不当と思われる指摘や「お土産」の打診があった場合でも、税理士が間に入ることで冷静かつ論理的に対応できます。 - 権利の主張
納税者には、国税通則法などの法律によって様々な権利が保障されています。
例えば、不利益な処分に対して不服を申し立てる権利などです。
これらの権利を正しく理解し、必要な場面では適切に主張することが重要です。 - 感情的にならない
たとえ調査官の態度に納得がいかない部分があったとしても、感情的になるのは避けるべきです。
あくまで冷静に、論点を整理しながら対話を進めることが、建設的な解決に繋がります。
今でも、経験の長い調査官の中には、過去の慣習から「お土産」を期待するような言動を見せるケースが皆無とは言えません。
しかし、経営者としては、そのような時代錯誤な要求に応じる必要は一切ありません。
自社の正当性を信じ、毅然とした態度で臨むことこそが、現代の税務調査における正しい対応なのです。
税務調査を乗り切るために経営者が押さえておくべきポイント
「お土産」問題に限らず、税務調査全般を円滑に、そして有利に進めるためには、経営者として日頃から以下の点を意識しておくことが重要です。
- 適正な経理処理と証拠書類の保管の徹底
税務調査で最も重視されるのは、会計帳簿の正確性と、それを裏付ける証拠書類(領収書、請求書、契約書など)の保存です。
日頃からこれらの管理を徹底することが、最大の防御策となります。 - 税法・会計基準の理解と遵守
経営者自身もある程度、自社に関わる税法や会計のルールを理解しておくことが望ましいでしょう。
もちろん、詳細な部分は税理士に任せるとしても、基本的な知識は判断の助けになります。 - 信頼できる税理士との強固な連携
税務調査は、いわば企業と税理士の「二人三脚」で臨むものです。
日頃からコミュニケーションを密にし、何でも相談できる信頼関係を築いておくことが非常に重要です。
税理士は、経営者の最も強力な味方です。 - 調査当日の誠実かつ毅然とした対応
調査官に対しては、隠し立てすることなく誠実に対応する姿勢が基本です。
しかし、同時に、不当な指摘や要求に対しては、税理士と連携し、根拠をもって毅然と反論する強さも必要です。 - 税務調査を「経営改善の機会」と捉える前向きな姿勢
税務調査は、とかくネガティブなイメージで捉えられがちですが、見方を変えれば、自社の経理体制や内部管理体制を見直す良い機会とも言えます。
指摘事項があれば真摯に受け止め、改善に繋げることで、より強固な経営基盤を築くことができます。
これらのポイントを押さえておくことで、「お土産」のような不毛な議論に惑わされることなく、税務調査に自信を持って臨むことができるはずです。
まとめ:令和時代の税務調査は「お土産」不要!正しい知識と毅然とした対応で乗り切ろう
かつて税務調査の現場で囁かれた「お土産」という慣習は、納税者の権利意識の高まりや調査手法の近代化に伴い、もはや完全に過去のものです。
中小企業の経営者の皆様におかれましては、この事実を明確にご認識いただきたいと思います。
「間違いや不正があれば速やかに認め、修正申告を行う。しかし、間違っていないものに対して、ただ税務調査だからという理由で安易に譲歩する必要は一切ない。」
日頃から誠実な経営と適正な経理処理を心がけ、信頼できる税理士としっかりと連携していれば、何も心配することはありません。
むしろ、自社の健全性を公に示す良い機会と捉え、堂々と臨んでいただきたいと思います。
本記事が、税務調査に臨む中小企業経営者の皆様の不安を少しでも和らげ、適切な対応の一助となれば幸いです。
税務調査に関してご不明な点やご不安な点がございましたら、どうぞお気軽に専門家にご相談ください。正しい知識と準備こそが、最良の備えとなるのです。