大家さんのための法人化完全ガイド – 知らないと損する節税対策と経営メリット

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。
不動産を所有されている方は、毎年の確定申告で「もう少し税金を抑えられないかな…」と感じたりしませんか?
実は、そのお悩み、「法人化」という選択肢が、解決への大きな一歩となるかもしれません。
「法人化って、なんだか難しそう…」「うちはまだそんな規模じゃないし…」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
今日は大家さんのための「法人化」について、そのメリットや知っておくべきポイントを、
税理士としての専門的な知見と現場経験を交えながら、分かりやすく解説していきます。
なぜ今、不動産経営に「法人化」という選択肢が注目されるのか?
長引く低金利時代、そして先行き不透明な経済状況の中、不動産経営を取り巻く環境も日々変化しています。
その中で、なぜ今「法人化」を検討すべきなのでしょうか。その基本的な理由と、検討を始めるべきタイミングについて見ていきましょう。
個人と法人の税率の違い – 節税の第一歩
個人の不動産所得には、所得が増えれば増えるほど税率が高くなる「累進課税」が適用されます。
所得税と住民税を合わせると、最大で55%もの税率になる可能性があります。
一方、法人にかかる法人税は、所得金額に応じて段階的に税率が設定されていますが、多くの場合、個人の所得税の最高税率よりも低く抑えられています。
この個人と法人の税率構造の違いこそが、法人化によって節税が期待できる基本的なメカニズムです。
「うちはまだ早い」は本当?法人化検討のタイミング
「法人化は、相当儲かっている大規模なオーナーでないと意味がないのでは?」というご質問をよくいただきます。しかし、必ずしもそうではありません。
実は、年間の課税所得が500万円を超えてくるあたりから、法人化による節税メリットを具体的に享受できるケースが増えてきます。
もちろん、これはあくまで一つの目安であり、資産状況や家族構成、将来の展望によって最適なタイミングは異なります。
一度、ご自身の状況と照らし合わせて、専門家にご相談いただくことをお勧めします。
メリットは節税だけじゃない!法人化がもたらす多角的な効果
法人化の魅力は、単に目先の所得税が安くなることだけにとどまりません。
長期的な視点で見ると、実に多くのメリットが存在します。
所得税・住民税の負担を軽減する仕組み
法人化による節税効果は、主に以下のポイントによってもたらされます。
- 税率差の活用
前述の通り、法人税率と個人の所得税率の差を活用することで、トータルの税負担を軽減できる可能性があります。 - 所得の分散
オーナー様ご自身やご家族を法人の役員とし、役員報酬を支払うことで所得を分散できます。
役員報酬は「給与所得控除」という経費枠の対象となるため、個人の所得税や住民税の負担を大きく軽減できる可能性があります。 - 経費計上の範囲拡大
個人事業の場合と比較して、法人の方が経費として認められる範囲が広がる傾向にあります。
例えば、生命保険料の一部を経費にしたり、役員の退職金を準備したりすることも、法人であれば計画的に行うことが可能です。 - 社会保険料の最適化
法人として社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することになります。
これにより、将来の年金受給額が増えたり、ご家族の保障が手厚くなったりするメリットがあります。
また、状況によっては、個人事業主として支払う国民健康保険料よりも、法人で役員報酬の額を調整しながら
支払う社会保険料の方が、トータルで見て負担が軽くなるケースも検討できます。
相続・事業承継をスムーズに進めるための布石
ここが法人化を検討する上で、非常に大きなポイントとなります。
特に不動産を多く所有されているオーナー様にとって、相続税対策は喫緊の課題と言えるでしょう。
- 財産の評価方法の変更
不動産を個人で所有している場合、相続発生時にはその不動産そのものが相続財産として評価されます。
一方、法人所有にすることで、相続財産は不動産そのものではなく「法人の株式(自社株)」となります。
この法人の株価を計画的に引き下げる対策(例:役員退職金の支給、含み損のある資産の購入など)を講じることで、
将来の相続税負担を大幅に軽減できる可能性があります。 - 財産増加の抑制と計画的な所得移転
法人化により、家賃収入は法人に入ることになります。
これにより、オーナー様個人の財産が加速度的に増えるのを抑制できます。
そして、法人の利益から役員報酬という形で、お子さんやお孫さんといった後継者世代へ計画的に所得を移していくことも可能です。
これは実質的な生前贈与に近い効果が期待でき、相続財産そのものを減らすことにも繋がります。 - スムーズな事業承継と後継者育成
後継者候補となるお子さんなどを法人の役員にすることで、経営への関与を促し、経営ノウハウを早期から学ばせることができます。
これにより、将来の事業承継を円滑に進めるための準備ができます。
「後継者を育てたい」という観点からも、法人化は非常に有効な手段と言えるでしょう。
その他にもある!経営基盤を強化するメリット
上記以外にも、法人化には以下のような見逃せないメリットがあります。
- 社会的信用の向上
「株式会社〇〇」といった法人名義で契約や融資の申し込みを行うことで、金融機関や取引先からの信用度が高まる傾向があります。
これは、融資条件が有利になったり、新たなビジネスチャンスが生まれたりする可能性につながります。 - 認知症対策としての機能
万が一、オーナー様ご自身が認知症などで経営判断が難しくなった場合でも、法人が不動産を所有していれば、
あらかじめ定めておいた他の役員(例えばご家族)が代表者として引き続き安定した経営を継続できます。
ご自身の意思で資産管理ができなくなるリスクに備える「認知症対策」としても、法人化は有効な選択肢の一つです。
不動産オーナーのための法人化 主要3方式を徹底比較
ひとくちに法人化と言っても、そのやり方にはいくつかの方式があります。
ここでは、代表的な3つの方式と、それぞれの知っておきたいポイントについて解説します。
手軽に始めやすい「管理料徴収方式」とその限界
これは、個人が所有する不動産の管理業務(入居者募集、家賃回収、清掃、修繕手配など)を、
設立した法人が行い、その対価として個人オーナーから管理料を受け取る方式です。
- メリット
不動産の所有権を移転する必要がないため、比較的簡単に始めることができます。 - デメリット・注意点
税務署から見て「適正な管理料」の範囲は、一般的な不動産管理会社の相場(家賃収入の5%~8%程度)が目安とされます。
これを大幅に超える管理料を設定すると、税務調査で否認されるリスクが高まります。
そのため、この方式だけで大きな節税効果や所得移転効果を期待するのは難しいのが実情です。
専門家も注目!「サブリース方式」の賢い活用法
私たちが特に注目しており、多くのオーナー様にご提案しているのがこの方式です。
個人が所有する不動産を、設立した法人が一括で借り上げ(マスターリース契約)、その法人から実際の入居者の方へ転貸(又貸し)する方式です。
- メリット
- 安定収入の確保
個人オーナーは、法人から一定の賃料を受け取れるため、空室リスクを法人に転嫁し、安定した収入を確保できます。 - 所得移転効果
法人は、入居者からの賃料と個人オーナーへ支払う賃料の差額(いわゆる「抜き賃」)や、空室保証料、管理料などを収益として得ることができます。
この部分の利益を役員報酬などで計画的に分配することで、管理料徴収方式よりも大きな所得移転効果が期待できます。
- 安定収入の確保
- ポイント
適正な「空室保証料」や「管理料」の設定が鍵となります。
例えば、周辺地域の空室率データや、法人が負うリスクの度合いなどを客観的な根拠として提示することで、
税務署にも認められやすい保証料を設定できる可能性が高まります。ここはまさに、私たち税理士のような
専門家の知識と経験が活きる部分であり、事前の綿密なシミュレーションと戦略立案が不可欠です。
効果大だが注意も必要!「所有方式」の検討ポイント
これは、個人が所有している不動産そのものを、設立した法人へ売却(または現物出資)する方式です。
- メリット
家賃収入のほぼ全てが法人に移転するため、所得税の節税効果という点では最も大きくなる可能性があります。 - デメリット・注意点
- 相続税評価額圧縮メリットの喪失リスク
特に、建築から年数が浅く、借入金も多く残っているような物件は、相続税評価額が
時価よりも大幅に低く評価される「相続税評価額の圧縮効果」が高い状態にあります。
このような物件を法人に売却してしまうと、その節税メリットが失われてしまうことがあります。
まさに「うかつに手を出すと大きな損失につながりかねない」ため、個々の物件の状況を詳細に分析し、慎重な判断が必要です。 - 不動産取得税・登録免許税の負担
不動産の所有権移転に伴い、不動産取得税や登録免許税といったコストが発生します。 - 譲渡所得税の発生
個人から法人へ不動産を売却する際、売却価格が取得費や譲渡費用を上回れば、個人に譲渡所得税が課税されます。
- 相続税評価額圧縮メリットの喪失リスク
- 検討タイミング
逆に、築年数がかなり経過し、相続税評価額の圧縮効果が薄れてきた物件や、
借入金の残債がほとんどない物件などは、この所有方式を検討する良いタイミングと言えるかもしれません。
デメリットも理解しておくべき!法人化の注意点
ここまで法人化のメリットを中心にお伝えしてきましたが、もちろんデメリットや注意しておかなければならない点もあります。
これらを理解した上で、総合的に判断することが重要です。
費用と手間 – 事前に把握しておきたいコスト
- 設立費用
株式会社や合同会社を設立する際には、登録免許税(最低でも株式会社15万円、合同会社6万円)、
定款認証手数料(株式会社の場合約5万円、合同会社は不要)、その他司法書士への依頼費用などが発生します。 - 維持費用
法人の場合は、赤字であっても支払わなければならない法人住民税の均等割(最低でも年間7万円程度)がかかります。
また、税理士への顧問料なども継続的に発生します。 - 事務作業の増加
法人の経理処理や税務申告は、個人事業の確定申告よりも複雑になります。
会計帳簿の作成、決算書の作成、法人税申告書の作成など、専門的な知識が必要となる作業が増えます。
社会保険や消費税 – 新たに発生する義務と論点
- 社会保険への加入義務
役員や従業員がいる法人は、原則として社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられます。
これに伴い、法人と役員・従業員双方で社会保険料の負担が発生します。 - 消費税の論点
不動産を法人へ売却する場合、その売却が建物の場合は消費税の課税対象となります(土地は非課税)。
また、法人の課税売上高(家賃収入など)が年間1,000万円を超えると、原則として消費税の課税事業者となり、
消費税の申告・納税義務が発生します。この消費税の取り扱いは非常に複雑で、専門的な知識が不可欠です。
安易な法人化は、かえってコストが増えたり、予期せぬ税負担が発生したりするリスクもはらんでいます。
メリットとデメリットを十分に比較検討し、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが肝要です。
「我が社の場合は?」専門家である税理士に相談する価値
これだけ多くのメリット・デメリット、そして複雑な方式があると、ご自身だけで
「うちにとって何がベストか?」を判断するのは非常に難しいと感じられるのではないでしょうか。
そこで、不動産に強い税理士の出番です。
オーダーメイドの法人化プランニング
まず、オーナー様の現在の収支状況、お持ちの資産背景、ご家族構成、そして
将来どのような展望(相続、事業承継、リタイアメントプランなど)をお持ちなのかを詳しくお伺いします。
その上で、
- そもそも法人化すべきか、すべきでないか
- 法人化するとしたらどのタイミングが最適か
- どの法人化方式(管理料徴収、サブリース、所有)が最も適しているか
- 法人形態は株式会社か合同会社か
などを、具体的な数字でシミュレーションし、メリット・デメリットを明確に提示しながら、オーダーメイドの最適プランをご提案します。
設立から運営、その先まで続く安心のサポート
法人設立の手続き(定款作成、登記申請など)のサポートはもちろんのこと、
設立後の会計処理、税務申告、社会保険手続き、役員報酬設定のアドバイスなど、
日々の運営を円滑に進めるためのサポートを継続的に行います。
さらに、将来の事業承継や相続まで見据えた長期的な視点でのアドバイスを提供し、
オーナー様とそのご家族の資産を守り、次世代へスムーズに引き継ぐお手伝いをさせていただきます。
また、必要に応じて、不動産鑑定士(適正な賃料評価や不動産評価)、司法書士(登記手続き)、弁護士(契約関係や法務トラブル)といった
他の専門家とも緊密に連携し、ワンストップで皆様のお悩みを解決に導きます。
まとめ:法人化は未来を見据えた賢い選択 – まずは専門家にご相談を
今回は、大家さんのための「法人化」について、その多角的なメリットや注意点、
そして税理士がお手伝いできることについてお話しさせていただきました。
【本日のポイント】
- 法人化は、課税所得500万円あたりから検討の価値が出てくることが多い。
- メリットは所得税の節税だけでなく、相続税対策、事業承継、認知症対策など多岐にわたる。
- サブリース方式など、やり方次第で大きな節税効果や所得移転効果が期待できる。
- ただし、設立・維持コストや事務負担増などのデメリットや注意点もあり、専門家である税理士との慎重な検討が不可欠。
法人化は、皆様の大切な資産を守り、そして次世代へスムーズに引き継いでいくための、非常に強力なツールとなり得ます。
しかし、その効果を最大限に引き出すためには、専門的な知識と経験に基づいた適切なプランニングと実行が不可欠です。
ぜひ一度、不動産オーナー様のサポートを得意とする税理士にご相談いただき、最適な道筋を一緒に見つけていきませんか?
初回のご相談は無料でお受けしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。