売上アップの方程式:顧客のランク分けで、的確なアプローチを実現する
皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週火曜日に、経営者なら知っておきたい「売上増加」についての知識を解説しています。
多くの経営者の方からは、「うちのお客様は、みんな大切なお客様です」という声をしばしば耳にします。
もちろん、そのお気持ちは非常に素晴らしく、すべてのお客様に平等に接することも経営において大切な姿勢の一つといえます。
しかし、経営資源は決して無限ではありません。人手や時間、コストが限られている中で、最大限の効果を出すためには「顧客の分類」を行い、それぞれの層に合ったアプローチを実践する必要があります。
そこで本記事では、私がこれまでの経営支援の中で培ってきた「顧客ランク分けの手法」と、その具体的なメリットや成功事例をご紹介していきます。
なぜ顧客ランク分けが必要なのか
顧客ランク分けが重要になる理由は、限られた経営資源を最適に配分して、売上アップや顧客満足度の向上を狙うためです。
とりわけ「上位20%の顧客が全体の売上の80%を占める」というように言われるパレートの法則は、多くの業態で当てはまる傾向があります。
これを理解し、どの顧客層に重点的なアプローチをするかを明確にすることが、売上向上への第一歩です。
ある美容院での支援
具体例として、ある美容院での事例を見てみましょう。
店長は「すべてのお客様に最高のサービスを」という素晴らしい理念を掲げ、新規のお客様にも常連のお客様にも同じように対応していました。
しかし、客数や来店頻度、売上などのデータを分析すると、売上の60%以上が、来店回数の多い上位20%のお客様によってもたらされていることが判明したのです。
そこで、「特にリピート率の高い常連客」に向けた特別な施策を導入しました。具体的には、優先予約枠の確保や、新商品の優先案内などです。
こうした取り組みを行った結果、美容院の売上は約35%もの向上を実現しました。この成功例からもわかるように、顧客を適切に分類し、それぞれに合ったアプローチを行うことで高い効果が得られるのです。
実践的な顧客ランク分けの方法
それでは実際に、どのような基準で顧客をランク分けすればよいのでしょうか。
ここでは、美容院や小売店、飲食店など幅広い業種で活用しやすいシンプルな手法として、以下の4段階に分類する方法をご紹介します。
4つの顧客ランク
まずは、次に示す4つのランクで顧客を振り分けてみてください。それぞれのランクごとにアプローチの方向性が変わります。
- 新規客
ランク分けの初期段階にあたる層です。- 定義:1ヶ月以内に初めて来店したお客様(業態によって期間は調整可能。美容室なら2~3ヶ月に設定する例もあり)
- 新規客は、これからリピートにつなげるための最も重要なターゲットとなります。最初の印象を良くすることで、既存客へと育てやすくなるのが特長です。
- 既存客
定期的に来店する顧客層です。- 定義:3ヶ月以内に3回以上来店されたお客様
- いわゆる安定的な売上を支える基盤となる層です。リピートしてもらうことで継続的に売上に貢献してくれます。
- 優良客
店舗や企業にとって特に大きな売上貢献をしている層です。- 定義:売上貢献度の上位20%に該当するお客様
- 具体的には来店頻度や客単価、購入金額など、多角的に見ても結果として大きな貢献をしている顧客です。
- VIP顧客
優良客の中でもさらに特別な存在です。- 定義:優良客の中でもトップ5%程度を目安に設定
- 店舗や企業のファンとして、高いロイヤルティを持っている顧客が多く、優先的な特典や特別対応が求められる場合もあります。
顧客ピラミッドの重要性
上記の4段階を総合的に捉えるためには、顧客層をピラミッド型で表すとわかりやすくなります。
最も多い層がピラミッドの下部、最も少ないが売上貢献度が高い層が上部に位置します。
VIP顧客 (5%)
優良客 (15%)
既存客 (30%)
新規客 (50%)
このピラミッドを眺めると、売上増加のポイントは「下の層の顧客をいかに上の層へと育て上げるか」という点にあることがわかります。
具体的には以下のようなステップアップを実現することが重要です。
- 新規客 → 既存客へ昇格(リピート促進)
- 既存客 → 優良客へ育成(客単価アップ)
- 優良客 → VIP顧客へ育成(特別サービスの提供)
各ランクに対する具体的なアプローチ
次に、各ランクの顧客に対して、どのような施策を打てばよいかを整理してみましょう。
ここでは、実際によく行われている施策の例を挙げます。
新規客へのアプローチ
最初に、新規客にどうアプローチすればよいのかを考えます。
新規客は、今後のリピーターとなってくれる可能性を秘めた大切な存在です。
- 次回来店の動機付けを明確に
「次回●●円引き」「次回来店時に特典サービス」といったわかりやすいメリットを提示し、再来店を促します。 - 初回特典の設定
店舗や業態によりますが、初回来店時の割引やオリジナルグッズのプレゼントなど、気軽に利用したくなる特典が効果的です。 - フォローアップの連絡
来店後のお礼メールやSNS経由のフォローなどを行い、顧客との接点を失わないようにします。
既存客へのアプローチ
既存客は、すでに一定の信頼関係ができている貴重な顧客層です。
ここから優良客へステップアップしてもらうには、継続的な接触と価値提供が鍵となります。
- ポイントカードの活用
来店や購入回数に応じてメリットを感じられるしくみを用意して、リピート率を高めます。 - 定期的な情報提供
新メニューや季節限定商品の案内などをタイムリーに行い、「また行ってみよう」と思ってもらう工夫をします。 - 季節のおすすめ商品の案内
季節ごとに売れる商品や、時期限定のメニュー・サービスを積極的に提案し、購入単価アップを狙います。
優良客へのアプローチ
優良客は売上貢献度が高いだけでなく、口コミなどを通じて新規客獲得にも寄与する、いわば「ファン予備軍」ともいえる層です。
- 優先予約枠の確保
特に混雑が予想される時期にも、優先的に予約が取れるようにすると特別感を感じてもらえます。 - 特別イベントへの招待
一般公開前の新商品試食会や限定イベントなど、優良客だけが体験できる企画を用意します。 - 新商品の先行案内
新作をいち早く知りたい、試してみたいという需要が高い層です。先行案内や先行販売などで特別感を演出します。
VIP顧客へのアプローチ
最上位のVIP顧客は、企業や店舗を強く支えてくれる存在です。
ここではさらに上質なサービスを提供し、絶対的なファンとして維持していく施策が大切になります。
- 専用のサービスメニュー
他の顧客にはない特別メニューを用意し、プレミアムな体験を提供します。 - 誕生日月の特別特典
誕生日や記念日など、個別のニーズやタイミングに寄り添う特典が喜ばれます。 - 個別のニーズ対応
顧客それぞれの趣味や好みを把握し、要望に合わせたきめ細かいサービスを行うことで満足度がさらに高まります。
顧客ランク分けのよくある課題と解決策
実際に顧客ランク分けを進めていくと、さまざまな壁や課題に直面することがあります。ここでは代表的な例と、その解決策をまとめます。
- 「顧客情報の収集が難しい」
- 解決策:まずはポイントカードやアンケート、SNS登録など、無理なく始められる方法で顧客情報を集めます。
- 「ランク分けが難しい」
- 解決策:いきなり複数指標を取り入れるのではなく、来店回数や購入頻度など、シンプルな基準から始めます。徐々に客単価や購入金額などの要素を加えていきます。
- 「特別対応の負担が大きい」
- 解決策:最初からフルスケールで特別対応を始めるのではなく、段階的に導入します。スタッフ全員が対応の意義を共有し、協力体制を整えることが大切です。
- 「ランクによる差別化に抵抗がある」
- 解決策:あくまで「差別」ではなく「追加」という形で考えます。基本サービスは全顧客に平等に提供し、VIPや優良客には追加の特典を付与するイメージにすると導入しやすいです。
成功事例:飲食店での実践例
ここで、先ほどの美容院とは別の事例として、ラーメン店での成功例をご紹介します。
月商600万円程度だった店舗が、顧客ランク分けをきっかけに月商800万円へと伸びた事例です。
どのような取り組みを行ったのか、主なポイントを整理します。
- 来店回数による簡易的なランク分け開始
- 新規客と既存客を大まかに区分し、優良客に該当する層には特典を用意します。最初から複雑にせず、実装しやすい形を選んだことが成功の要因です。
- LINE公式アカウントでの情報発信
- 新メニューの告知や限定情報の配信を行い、既存客の来店頻度を維持しながら、新規客のフォローアップも図りました。
- ランク別の特典設定
- 既存客:トッピング1品サービス
- 優良客:特別メニューの提供
- VIP:店主特製の限定メニュー
それぞれの層が「次は上のランクに行きたい」「特別メニューを食べてみたい」と思うような工夫が施されていました。
特に、優良客への特別メニュー提供がSNSで拡散され、「ここでしか食べられない一品がある」という評判が新規客の獲得にもつながったといいます。
結果として、この取り組みによって月商が600万円から800万円へと大幅に伸び、特にリピート率と客単価の上昇が顕著でした。
おわりに
顧客ランク分けは、お客様を「差別」するためではなく、一人ひとりに合った最適なサービスを提供するための重要な手段です。
すべてのお客様を大切にする気持ちはそのままにしつつ、限られた資源を効果的に使うことで、売上向上と顧客満足度の両立が実現します。
まずはシンプルな基準で構いません。新規客・既存客・優良客・VIP顧客といった4段階で顧客を分類してみて、どの層が売上全体の大半を支えているのか、どの層を強化すべきかを見極めましょう。
すると、そこから顧客の声や行動パターン、購買履歴などが見えてきて、より精緻なランク分けや施策の立案が可能になります。
次回は、これらの顧客ランク分けを現場で具体的に活用するための「顧客データベースの作り方」についてお伝えします。
特に小規模企業でも無理なく実践できる情報収集の方法や、デジタルツールの活用術を解説しますので、ぜひお楽しみにお待ちください。