国税OB税理士は本当に税務調査に強いのか?口利きは存在する?

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
「税務調査」――この言葉に、少なからず緊張感を覚える経営者の方は多いのではないでしょうか。
税務調査は、企業にとって避けては通れない重要なプロセスですが、その対応次第で結果が大きく変わることもあります。
税務調査対策として、「国税OBの税理士に依頼すれば安心」という話を耳にしたことがあるかもしれません。
確かに、かつては国税OBの税理士が税務署に対して強い影響力を持っていた時代もありました。しかし、その状況は大きく変化しています。
本記事では、国税OB税理士の実態と、本当に頼りになる税理士選びのポイントについて、中小企業の経営者の皆様に分かりやすく解説します。
国税OB税理士への根強い期待とその背景
多くの経営者の方が、国税OBの税理士に対して「税務署の内部事情に精通している」
「元同僚や部下とのコネクションで有利に対応してくれるのでは」といった期待を抱いているのは事実です。
確かに、過去には国税OB税理士がその経験や人脈を活かして、税務調査において有利な交渉を進められた時代があったことは否定できません。
特に、勤続年数が長く、退官時に税務署長などの高い役職に就いていた方であれば、現役の国税職員の中に知人や元部下が多く存在していたことでしょう。
そのような時代背景が、「国税OBは税務調査に強い」というイメージを形作ってきたのかもしれません。
時代とともに変化する国税OBの影響力
しかし、2001年頃からこの状況は急速に変わり始めました。その大きな要因となったのが、「国家公務員倫理法」の施行です。
国家公務員倫理法の影響
国家公務員倫理法は、公務員に対する国民の信頼を確保することを目的として制定された法律です。
この法律の施行により、他の公務員と同様に、国税職員も職場外の利害関係者との交流が厳しく制限されるようになりました。
当然ながら、この「利害関係者」には国税OBの税理士も含まれます。
かつてのような、現役職員とOBとの個人的な関係性に基づいた柔軟な対応は、倫理規定の観点から難しくなったのです。
国税内部の変化
この国家公務員倫理法の施行と軌を一にして、国税の内部でもOBとの不適切な接触や癒着を厳しくチェックする体制が強化されました。
現役職員がOB税理士に対して特別な便宜を図ることは、組織として許容されなくなったのです。
私も、過去にOB税理士の方に協力を頼んだことがありますが、あくまでも調査手続きをスムーズに進めるための協力要請です。
OB税理士が関与する案件だからといって、調査の手が緩められたり、不当な交渉がまかり通ったりするようなことはありません。
むしろ、OBとの不適切な関係性が疑われるようなことがあれば、より厳しい目が向けられる可能性すらあるように感じます。
国税OB税理士の「交渉力」の実態
「国税OBなら税務署との交渉に強いはず」という期待も、今一度冷静に考える必要があります。
「口利き」は通用しない時代
かつては、国税OBがその人脈を背景に、税務調査の現場で現役職員に対して影響力を行使する、いわゆる「口利き」のようなことが行われていたという話も聞きます。
しかし、前述の通り、国家公務員倫理法の施行と国税内部の意識改革により、そのような行為はもはや通用しません。
仮に、ある税理士が税務署に対して強い交渉力を持っているとすれば、それは国税OBとしてのコネクションによるものではなく、
税法や通達、判例といった客観的な根拠に基づき、論理的かつ粘り強く交渉する能力があるからに他なりません。
真の交渉力とは
税務調査における真の交渉力とは、税法の深い知識と豊富な実務経験に裏打ちされたものです。
調査官の指摘に対して、法的根拠を示しながら的確に反論したり、納税者の権利を正当に主張したりする能力が求められます。
このような交渉力は、国税OBであるかどうかに関わらず、日々の研鑽と経験によって培われるものです。
「試験組」の税理士であっても、高度な専門知識と豊富な経験を持つ方であれば、国税OBと同等か、それ以上の交渉力を発揮することは十分に可能です。
この点を踏まえると、「国税OBだから交渉に強い」という神話は、現代においてはその価値の多くを失っていると言っても過言ではないでしょう。
国税OB税理士の知識面における懸念点
もう一つ、私が懸念しているのは、特に高い役職で退官された方ほど、最新の税法や実務から遠ざかっている可能性があるという点です。
管理職経験と税法実務の乖離
国税の組織では、管理職のポジションが上がるにつれて、直接納税者と接したり、個別の税務判断を行ったりする機会は減少していきます。
特に税務署長クラスになると、個別の案件に深く関与するよりも、組織運営や部下の指導・監督といったマネジメント業務が中心となります。
そのため、税法の最前線から離れて十数年という方が、退官後に税理士として活動を始めるケースも少なくありません。
税法は毎年のように改正が行われ、新たな通達や判例も次々と出てくるので、常に最新の情報をキャッチアップし、実務に落とし込んでいく努力が不可欠です。
しかし、長年実務から離れていた方がその変化に対応し続けるのは容易ではないと感じます。
毎期の会計処理の重要性
税務調査は数年に一度のイベントですが、企業経営においては、毎期の正確な会計処理とそれに基づく適切な税務申告こそが最も重要です。
日々の記帳指導や月次決算、節税対策といったきめ細やかなサポートを通じて、そもそも税務調査で指摘を受けるリスクを低減させることが、税理士の重要な役割の一つです。
しかし、一部の国税OB税理士の中には、税務調査への対応にのみ注力し、日常的な会計業務や経営アドバイスを軽視する傾向が見られることもあります。
経営者にとっては、税務調査という「非日常」への備えだけでなく、日々の経営を支える「日常」のパートナーとしての役割も税理士に期待するところでしょう。
まとめ:後悔しない税理士選びのために本当に大切なこと
それでは、中小企業の経営者の皆様は、どのような基準で税理士を選べばよいのでしょうか。
最も重要なのは、「国税OBかどうか」という肩書きに惑わされることなく、
その税理士が持つ真の専門性、実務経験、そして何よりも経営者に寄り添う姿勢を見極めることです。
具体的には、以下の点を考慮すると良いでしょう。
- 最新の税法や会計基準に関する知識は豊富か
- 中小企業の税務・会計実務に関する経験は十分か
- 税務調査の立会い経験が豊富で、論理的な交渉ができるか
- 自社の業界やビジネスモデルを理解しようと努めてくれるか
- 節税対策や経営改善など、積極的に提案してくれるか
- コミュニケーションが円滑で、気軽に相談できるか
これらの要素を総合的に判断し、自社にとって最適なパートナーとなる税理士を選ぶことが、
税務調査への不安を解消し、ひいては企業の健全な発展につながる道であると、私は確信しています。
税理士選びは、企業の将来を左右する重要な決断です。本記事が、皆様の税理士選びの一助となれば幸いです。